新しい生活様式はもはや日常へと移行し、それに伴い企業の舵取りも大きく変化している。ビジネスの拡大を見据えつつも、サステナブルな社会に向けた経営戦略も必須だ。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。今年から加わるビューティは、若い世代が関心を寄せる「サステナビリティ」をテーマに、トップ及びキーマンにインタビュー。第8回は、英国のオーガニックコスメブランド「ニールズヤード レメディーズ(NEAL'S YARD REMEDIES)」の日本市場を担う梶原建二社長。36年間、業績は確実に右肩上がりで伸ばしながら、「出合った時から、サステナビリティが根底にあるブランドだった」とビジネスの本質がサステナビリティと語る梶原社長が今、伝えたいこととはーー。
■梶原建二
1956年生まれ。大学卒業後、上場企業、輸入家具メーカーを経て24歳で生活雑貨を輸入する会社を起業。1985年にニールズヤード レメディーズを日本で販売開始。2014年からバンフォードの日本販売を開始。2003年、ニールズヤード レメディーズの本店として東京・表参道にショップ、カフェ、スクール、サロンからなるビューティの発信地「ニールズヤード グリーンスクエア」を自らデザインし、当時としては斬新なエコビルとして完成させる。ここでは現在、すべての電力に再生可能エネルギーを採用、一部屋上のBlue Sky Garden Terraceで野菜も栽培している。
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ーニールズヤード レメディーズ(以下、ニールズヤード)は、1981年にナチュラルアポセカリー(自然薬局店)として誕生しました。サステナビリティがベースにあるブランドだと思いますが、その考え方とは?
まず、ブランドロゴを見てもらうと分かると思いますが、木の土から出ている枝と葉、土の下に生える根が描かれています。植物は、上に出てる部分と根の部分の大きさ(長さ)が同じ。土壌が豊かで健全で強ければ、根も張るし、水も吸うし、微生物も増えて健康になる。それで初めて土の上に出てくるところが健康に成長します。それを表したロゴです。
これは人間にも言えることで、例えば目に見えない部分というのは「心」ですよね。心や精神が健康でない限りは、肉体も表情も健康にはならない。そのためにはどう生活するか。日々の生活の中で健康的な食事をする、少しの運動を取り入れる、さらには質の良い睡眠を取るなどで、自分の体に負担を与えないようなモノを選ぶことが大切だと思います。子どもは別ですが、大人は全て自分の選択の結果です。このロゴには、自分の選択を大切にすることで、見えるモノ(体)、見えないモノ(心)のバランスが整う、そんな意味が込められいる。
ロゴの絵は、土から出ている部分と下にある部分の大きさは同じ。その意味は心と体が健康であることが大事ということ。
ー梶原社長がニールズヤードに出合ったのはいつですか?
40年近く前にイギリスに行ったときです。最初はそこまで深くは理解していなかったと思います。ただ植物性にこだわっているブランドだという認識でした。創業者のロミー・フレーザーから、「可能な限り植物を使うことはもちろん、人と地球に優しいモノを提供している」と説明されました。その説明を聞いて、これは今ではないけれど、いつかは日本でも求められるだろうと。でも道のりは長く、ゴールは遠いなと感じましたが、まあやってみればいいかなと思って日本での展開を始めました。
ー日本展開が1985年。ちょうどバブルが始まるころで、なんでも便利にすればいいって時代ですね。
僕は30歳かな。バブル経済で全てが勢いがあり、強気だったというか。僕もそういうモノを扱ってきたんですよね、ブランド品とか。それでなんの疑問も持っていなかった。もともと日本の経済は欧米と比較すると、大量生産・大量消費で支えられてきている。消費を促進して短いサイクルでモノを売って、それでGDPを上げるという経済だったんです。もちろん江戸時代まで遡ると、着物文化ですし“もったいない”文化でしたが…。80年代以降は大量生産、大量消費の経済だから、今急にサステナビリティと言われても、方向転換が難しいですね。他の国よりもチャレンジングだと思います。
ー確かに、大量生産のビジネスとサステナビリティ経営をイコールで考えるのは大変そうですね。
ブランドのスタートから、サステナビリティの価値観が根底にないとそれは大変だと思います。短期サイクルのビジネスモデルに完全に組み込まれている場合ですね。そういう製品を作る会社には消費者は常に新製品を求めているし、新しい服を着てないと不安だとか。今の時代に合っているか?とかを気にしていて。結果個性を尊重すると思いながら実はよりマジョリティだったんですよね…。消費者と会社はお互い共鳴するので今までは変われなかったのだと思います。でも今の若者は少し変わってきていると思います。
2003年、ニールズヤード レメディーズの本店として東京・表参道にショップ、カフェ、スクール、サロンを併設した「ニールズヤード グリーンスクエア」を開設
経営トップがサステナビリティの重要性を会社の損益と同等に考えるべき
ーサステナビリティは学校の授業でも教えられるようになっていますから。
最近の若者は、ジェンダーフリーやダイバーシティの考えが生まれて自然に受け入れていると思います。周りは周り、自分は自分でいいんだって。これがもっと普及して受け入れられる社会になったら変わるのではないでしょうか。先ほどの質問で、「ビジネスとサステナビリティをイコールで考えるのが難しい」というご質問がありましたが、ひとつ問題だと思うのが、多くの企業がサステナビリティの部門をわざわざ作って、しかもその長はそれまでの仕事に加えての“片手間”になっていることです。経営のトップが、サステナビリティを会社の損益と同じぐらい大事だということを理解することだと思います。今起きている地球温暖化が、われわれにどう影響するのか、10年、20年でどれだけドラスティックに変わるかを理解して自らの言葉で語るべきなんです。
ーそれが理解できると、サステナビリティを進めないといけないと思うわけですよね。
サステナブルなことをしなければいけない最大の理由は、今の時代の流れだから、買ってもらうためにもやらなければいけないというのもありますが、それは非常に短期的なこと。それはマテリアルサステナビリティと呼んでいて、モノだけのサステナビリティなんです。私はウェルビーイングサステナビリティであるべきだと。つまり、健やかに健全に人が生きていくためのサステナビリティが大事なんです。地球は何十億年も前から存在する生産者です。植物が育ち、それを動物が食べる、またその動物を人間が食べる。人間は、地球における消費者です、ずっと。サステナビリティの最終的なゴールはやはり、人が健康に生きるということなんだと思います。
ー人が健康的に生きるためには、心と体のバランスが重要だとおっしゃいましたが、ニールズヤードの製品には外見的な美しさを整えるのはもちろんですが、内面的なアプローチもありますか?
はい、香りの効果ですね。香りは五感の中でも直接脳に刺激を与えるモノです。たとえば、われわれの製品でよく使っているラベンダーは気持ちを落ち着かせてくれますし、カモミールも寝る前に嗅ぐとリラックスできます。取り扱っている化粧品は厳選した植物から作った製品で、香りも含め、それを使うことで単純に皮膚の細胞がどうこう以上に、(その香りの効果が)これからは求められていくことだと思います。われわれは内面へのアプローチとしてハーブティや酵素ドリンク、マヌカなども取り揃えています。
化粧品の焼却はほとんどしません
ー地球環境で考えると、化粧品業界も廃棄の問題は大きいです。
ニールズヤードは化粧品の焼却はほとんどしていません。まず大量に生産して、日本においては無理矢理仕入れてたくさん売るといったプロモーションはしません。それは失敗すればリスクが大きいと思うからです。エネルギーもコストも、着実に安定的にできることを積み上げて販売する。だから今年は売れるけど、来年は売れるか分からない、という製品ではなく、来年もちゃんと売れるもの。要は、短期のベストセラーよりも、ロングセラーの方が、経済的にも環境的にも、そして社員のメンタル的にもいいと思っています。
それでもどうしても残ってしまうモノはありますよね。消費期限が近づいたモノは、弊社で行っているアロマスクールなどで使用したり、生徒に提供したり、社員に無償で提供したりすることもあります。段階的に価格を決めて低価格で販売したりします。
ーロングセラー製品は、販売員にとっても深く製品を知っていますしオススメしやすいですね。
そう、深堀りができるでしょ。新製品ももちろん大事だけど、既存製品をきちんと説明できるかが大事です。まだまだニールズヤードを知らない人はたくさんいて、製品を売るときにちゃんと説明できているか、そしてメッセージが伝わっているかどうかを見直すだけでも私は違うと思っています。
ー新しい製品が次々出てくると、製品説明に終始することになります。ブランドの本質的なところを伝えていくことも大事ということですか?
一番良い例が、ニールズヤードは設立当時からブルーボトルを採用していますが、それはずっと変わっていない。バスアイテムでも、スキンケアでもヘアケアでも全部同じブルーボトルを使っています。同じパッケージ(外装)を使用する、それってすごくサスティナブルですよね。加えてボトルも包装も全てリサイクルアイテムを使っていますし。
そして箱もない。最初から無駄なパッケージはないんです。30年前に初めて見たときに、「なんで箱がないの?」って聞いたら、ロミーが「なぜ必要なの?自分で使うのになぜ必要なんだ?」という答えが返ってきたんですよ。だから、「日本ではギフトにするときに箱がないとダメなんだ。綺麗なラッピングが良いんだよ」と。そしたら「そういうお客さまに、ちゃんと伝えれば良いじゃない。環境のためにそれが重要で、大事なんだと。そういう製品を買っているんだと伝えれば良い」。さらに、「そういう考え方を広めるのが私たちのブランドの役目でしょ」と言われました。40年前からニールズヤードはこの統一シンプルパッケージポリシーを貫いています。今では多くのブランドがこのデザイン方式を採用していますが、私が知る限りではこれを世界で初めて取り入れたのがニールズヤードなんです。
ーそれが30年前の話なんですよね。すごいですね。
このブランドはそういうブランドなんです。他の例を出すとするなら、一時期、ローズウッドとかサンダルウッドが世の中で売れた時があったんですが、われわれはその時、販売を中止しました。
ー中止とはどういうことですか?普通はどんどん売ろう!ってなりませんか?
いや、逆にもう販売しない。その理由は、サステナブルじゃないから。オーガニック製品というのは製造に時間がかかります。世界中で需要が高まると必然として植物は足りなくなる。非常に貴重な品種になり、レッドデータに載った時点で、絶滅危惧種になる恐れがあるなら、もうそれは使わない、使った製品は作らないという選択をとりました。最近になってやっとレッドデータから外れたサンダルウッドは再使用を始めましたが。だから、ニールズヤードとして植林にも力を入れています。
ちなみに、ニールズヤードですが、2013年にethical company organizationといった機関の、「環境報告書」「オーガニック」「動物福祉」「無責任なマーケティング」など12項目からなる、エシカル調査で、化粧品企業として初めて満点を取った実績があり、その後も続いている、そんな着実なブランドなんです。
日本独自で20年以上前からニールズヤードの製品情報だけでなく、その背景にあるサステナブルな考え方や健康観について考えをまとめたウェルビーイングテイストを作成、“辞書”のような存在
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