新しい生活様式はもはや日常へと移行し、それに伴い企業の舵取りも大きく変化している。ビジネスの拡大を見据えつつも、サステナブルな社会に向けた経営戦略も必須だ。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。第4回はビューティから、“パーソナライズ”にフォーカスしたD2Cブランド「メデュラ(MEDULLA)」などを展開する、Spartyの深山陽介・代表。2017年の創業から右肩上がりで成長する事業戦略とサステナビリティの“関係性”について聞いた。
■深山陽介 1988年千葉県生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、博報堂に新卒入社。大手通信会社や多数のクライアントのデジタルマーケティング戦略策定に従事。2017年5月に退職し、7月にSparty(スパーティー)を創業 。“色気のある時代を創ろう”をミッションに掲げ、「パーソナライズ×D2C」を基軸とした事業を展開している。プライベートでは1児の父。
ーメデュラの他、パーソナライズスキンケア「ホタル パーソナライズド(HOTARU PERSONALIZED)」、パーソナライズボディメイク「ウェイトレス(Waitless)」を展開し、3ブランドの累計総会員数は2021年9月時点で40万人以上と拡大しています。2021年の業績はいかがでしたか?
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コロナ禍においても右肩上がりの成長が続いています。毎年、前年売上20%増の予算目標をクリアしてきました。デロイト トーマツ グループが2021年12月に発表したテクノロジー・メディア・通信業界の収益(売上高)に基づく成長率ランキング「2021年 日本テクノロジー Fast 50」では、過去3決算期の収益(売上高)に基づく成長率2327.6%で2位を受賞しました。ただ、EC売り上げは少しずつ落ち着いてきており、リアルに回帰しつつあると感じています。
―企業としてのサステナビリティの考えを教えてください。
わたしたちのミッションは「色気のある時代を創ろう」です。今、世界中にたくさん物があふれていますが、人と人が惹かれあうように、人と物がなぜか惹きつけあう。それが僕らの考える“色気”だと思っています。その色気がどこから生まれているかというと、誰しもが持っているコンプレックスや悩みが実は、誰かにとっての価値になって、それが連鎖していく。物や情報があふれる時代にそういった価値の連鎖を生み出していきたい、それが僕らが達成したいミッションです。極端に言うと、これまで化粧品は大手メーカーが提供する同じ商品をみんな使ってきました。しかし、自分の悩みに合った商品を自分で1個から作り販売までできる世の中にできたら、温もりが感じられるというか…。それがサステナビリティ視点だと、大量生産大量消費から多品種小ロット、必要なものを必要なだけ届ける仕組みにすることで、在庫を減らし環境に配慮する。一方で、誰もが自分の個性を価値化できる事業を展開する。それが僕らの発信する"パーソナライズ×D2C"です。
―なぜ“色気”で、それが化粧品だったのでしょうか?
大学時代に建築について学んでいたとき、「引き寄せられる建築物には“色気”がある」と学びました。惹きつけられる建築物に共通するのは、木の手触りだったり木目が切れていたりなど素材そのものを引き出しているかどうかでした。日本は物にあふれていて、食べものに困るという人もほとんどいません。そんな時代において今後“色気”は、とても重要になるんじゃないかと考えたんです。なぜ化粧品かというと、妻がヘアケアに悩んでいたことがきっかけです。そこで“色気”を起点にD2Cパーソナライズヘアケアのメデュラが誕生しました。
「メデュラ」とは
オンライン上のカウンセリングから、それぞれの髪の状態や好みにあったパーソナライズ提案を行うヘアケアブランド。これまで集めた30万件以上のデータを基に、5万通りの組み合わせからピッタリのシャンプーやリペアなどのヘアケアアイテムを提案。定期購入システムで、使用後に専任スタイリストに感想などを送ることで、進化したアイテムを翌月に配送。香りは7種類から選べる。2017年5月誕生。累計販売本数280万本超(2021年12月現在)。
「ホタル パーソナライズド」とは
オンラインで行う質問と顔写真の分析結果から、約14万通りの診断結果の中から肌状態に最適なローションとモイスチャライザー、セラム、アイクリームを揃える。分析からビューティライフ改善プログラムも提案する。2020年5月誕生。
「ウェイトレス」とは
チャット形式で生活習慣やダイエットの目標など約20の質問に回答することで、栄養士・料理家・プロトレーナーなどの専門家と共同開発した食事レシピ&運動動画コンテンツからなるパーソナライズダイエットプログラムと、パーソナライズサプリメントを9万通りの組み合わせから用意。進捗状況のフィードバックで翌月の処方を最適化する。2021年4月誕生。
―環境において、多品種小ロット、必要なものを必要なだけ届ける仕組みとは?
これは3つあります。まず1つ目は、今の使っているモノにおいて環境への負荷を減らすこと。これは美容業界全般がマストで取り組まなければいけないですね。弊社では環境に配慮した天然植物由来成分や原料にこだわったモノ作りも行なっています。例えばメデュラでは、本来廃棄にされる栗の渋皮などの植物成分を活用し、化粧箱には原料にサトウキビの残渣を使用、ボトルにはリサイクル原料も採用しています。そしてメデュラ、ホタル パーソナライズドでは2021年11月に、 テラサイクルジャパン合同会社と協働展開するリサイクルプログラムの導入を開始しました。シャンプーやローションなど使用済みプラスチック容器を回収し、新たな資源や製品として生まれ変わらせています。
2つ目は、廃棄するものが増えると負荷が増えてしまうため、不必要なものを作らずにパウチなどで対応すること。3つ目は、お客さまの教育です。
小ロット生産の可能性も視野に自社工場を設立へ
―2つ目はすでに取り組んでいますが、今後さらに発展させる予定はありますか?
大ロットはこれまで通り既存のOEMに発注して作りますが、小ロットは自社で工場を作り生産することも選択肢としてありえると考えています。小ロットを自社で対応することで、できる限り廃棄在庫を減らす。最終的にはお客さまが自分に合った商品を1個から作ることが可能な状態にしていきたいと構想しています。
―3つ目のお客さまへの教育は難しい問題です。
これが一番重要です。お客さまのサステナビリティに対する考えは、海外に比べると日本は遅れていると思います。持論ですが、恵まれた環境にいるからこそ国民性として斜に構えている節もあると思います。これまでサステナビリティの観点で商品を選ぶ教育ができていなかったこともあるかもしれないですね。当社ではマーケットプレイス(ECプラットフォーム)戦略として、まだβ版ではありますがパーソナライズドサービスを提供するポータルサイト「SPARTY made to order STORE」があります。そこに掲載する商品はサステナビリティ観点のものを集めたいと考えていて、例えばただ商品が並んでいるだけではなく、どういった成分で作られているかなどを設問形式で教えることで商品を選べるように、お客さまの”体験“を作りながらパーソナライズに落とし込んでいます。
「メデュラ」はシャンプー&リペアセットで税込8330円(毎月お届け定期コース)
1月に新テレビCM放映 大事にするのは“黒船感”
―教育というと真面目に捉えられがちです。どう伝えていきますか?
今は大学教授に講演されるよりも、例えばですが芸人のオリエンタルラジオの中田敦彦やフワちゃん、ユーチューバーが発信する方にみんな耳を傾けますよね、そこが教育の難しさです。僕たちが新しいことをするにあたって大事にしているのは“黒船感”です。世の中は、既存のすごい人より弱者を応援したくなる傾向があります。例え大手企業が新しいことを言っても、正しいことを正しく言っているだけ。当社のようなまだまだ小さい企業が新しいことをやっていくには、「これが当社のサステナビリティだ」という黒船感のある見せ方が、世の中的にもエンターテイメントとして受け入れられるのではないでしょうか。1月に打ち出す新テレビCMも黒船感を重視した演出をしています。
ー新テレビCMでの“黒船感”とは?
新CMには、女優の波瑠さん、成海璃子さん、山本舞香さんを起用しました。最近美容メーカーさんのCMで派手で元気があるものがあまりないように思っていて…。そんな状態だからこそ、新しいブランドの登場感を全面に出したいと思いました。小さいブランドながらもインパクトを出せるよう、勢いのある3人を同時起用し、誰もが聞いたことのあるゴジラの音源を使用することでそれを叶えました。また、メデュラとホタルという2ブランドのCMを、同一タレント・同一フレームで展開するのは珍しいのではないでしょうか。われわれの挑戦していく姿勢を表現できたと考えております。
―今、サステナビリティはブームでもあります。ブームで終わらせないために行うことは?
それは2つの視点があると思います。会社視点では、サステナブルに関わらずAIやDXなど、ブームを斜に構えても良いことは何もない。むしろ最初はブームに乗り、みんなで頑張って取り組み、ブームが過ぎ去って世間が忘れたタイミングでそれが真実になっていればいい。一方でお客さま視点では、ビジネスブームと消費者ブームでは異なる時間軸が発生します。ビジネスとして話題がなくなってきた幻滅期のころ、消費者ブームが起こります。サステナビリティも期待先行型で一定の幻滅期は訪れるはずです。だからこそ継続して真摯に取り組んでいかなければいけません。浸透には5〜10年は掛かるでしょう。余談ですが今、2歳の子どもがいるのですが、その子が20歳になった2044年に地球環境などにおいてもいい未来を残したい、そう考えています。
―御社のようなD2Cブランドを主軸とするビジネスモデルでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)は普通のことだと思いますが、それはサステナビリティでもありますか?
DXのために今ある構造を組み替えるより、DXはゼロから作った方が楽だと思います。それができるのはスタートアップのいいところですね。極論を言うと、DX推進の難しさはデジタル化によって現在のアセットや人や組織がいらなくなること。不要な人材を切ることができるのかという人の感情に関わるため、大手企業ほどDXは難しいと思います。だからこそスタートアップにもチャンスがあります。当社はパーソナライズのためSKUがブラックボックス状態。そのため販路が完全に自社で完結しています。商品が横流れしないからこそ、価格統制と顧客情報が全て取れていますね。理論的には、メールや店舗、サロンなど提携のところ全てに連絡すれば顧客全員に情報が届くことになります。そうなると、店頭のPOPなど紙の販促物が削減できますよね。企業としてデジタル化することでサステナビリティにもつながっています。ただ、最終的にはやはり人と人との繋がりだと思いますので、そこを真摯に取り組めるかどうかがサステナビリティや世の中を良くすることに繋がってくると思います。そこで、お客さまの体験の場を作り、ロイヤリティを高めるということでもリアル店舗は増やしていきたいと考えています。
ーこういった時代に、欲しい人材とは?
かなり高度な人材になりますが、理想はビジネスのことを分かっていながら、中長期の倫理観を持って、言語化してお客様やステイクフォルダーに伝えられる人ですね。欲しいと思った人には直接電話して口説くこともあります(笑)。
2022年は“パーソナライズ元年”に
―2022年の戦略を教えてください。
2022年は“パーソナライズ元年”にしていきたいですね。美容業界ではパーソナライズという言葉は使われ慣れていますが、お客さまにとってはパーソナライズブランドがどういったもので、自身にとってどんなメリットがあるのかがまだまだ浸透していません。先ほど話した「メデュラ」の新テレビCMを放映する理由のひとつも、パーソナライズという手段を身近に、そして誰もが個性を価値化できる時代を創造したいという思いがあります。メデュラ、ホタル パーソナライズド、ウェイトレスの3ブランドを中心に、モノ視点のパーソナライズがいかにお客さまにとって、世の中にとって、そして中長期的に見た地球環境にとって良いものかいうことを、しっかりと伝えていきます。
―Spartyは21年8月に総額約41億円の資金調達も、2022年に実行に移ります。その使い道は?
まずは国内外の事業を伸ばすために使います。そしてサステナビリティについては先述の原材料やパッケージ、マーケットプレイス戦略についてさらにアクセルを踏む予定です。海外の機関投資家にとっては、企業が中長期的に成長するためにはサステナビリティへの対応や対処ができて当然。サステナビリティへの取り組みはもはや“条件”として厳しい目で見られていますから。
―最後に、深山代表が取り組んでいるSDGsを教えてください。
小さいことではありますが、これまでペットボトルの水をたくさん買っていたのをタンブラーに変えました。そこで感じた事ですが、コンビニにウォーターサーバーを置いて水を販売すれば、めちゃくちゃ売れると思うんですよね。コーヒーサーバーが成り立っているくらいなので、“水のバー”として売れば、水が売れるだけじゃなく、そこがタッチポイントとなり当社のマーケットプレイスにつながる仕組みを作れば面白いと思いますね。
(文:エディター・ライター中出若菜、聞き手:福崎明子)
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