サラ・フェレロ氏
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Fashion インタビュー・対談

最上級レザーグッズ「ヴァレクストラ」に今何が起こっているのか?急成長の理由

サラ・フェレロ氏
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 1937年にミラノで創業したレザーグッズブランド「ヴァレクストラ(Valextra)」。タイムレスでモダンなデザインのハンドバッグや革小物で知られているが、80年以上の歴史と伝統を引き継ぎながら、新たな展開を広げている。2015年にサラ・フェレロ(Sara Ferrero)氏がCEOに就任してから、ブランドの持つアイデンティティがより強固になり、業績は約4倍に。ヴァレクストラに今何が起こっているのか、新作バッグ「セリエ エス(SerieS)」のイベントのために来日した同氏にインタビュー。

【サラ・フェレロ】
イタリア生まれ。大学で経済・ビジネスを学んだ後、MBAを取得。投資銀行、コンサルティング企業マッキンゼー勤務を経て、ファッション業界へ。2002年〜2007年に「フルラ」でマネージング・ディレクター、2008年〜2013年に「ジョセフ」で要職を務めた後、2015年に「ヴァレクストラ」のCEOに就任した。

― ブランドの展開を広げているようですが、実際の売上はどのように推移していますか?

 ありがたいことに、常に右肩上がりですね。「ヴァレクストラ」のCEOに就任した2015年からは、売り上げが4倍に伸びているんです。

― 約4年で4倍は急成長ですね。その要因は。

 3つあると考えています。まず1つはウィメンズビジネスに集中したこと。メンズが主力だった「ヴァレクストラ」にとって、規模の大きいウィメンズのマーケットに注力した影響はとても大きかったんです。女性の方がバッグを買いますから。2つ目が、革小物からハンドバッグ中心のビジネスに転換させたこと。最後の3つ目は、卸から小売ビジネスへの転換です。顧客について私達がしっかり把握して、「ヴァレクストラ」のマーケットを自らコントロールできる環境を整えることができました。

― 購入客の男女比は?

 売上では7:3ほどで女性が多いのですが、顧客層ではほぼ5:5なんです。男性は革小物を買う方が多いので、売り上げとしてはより価格帯の高いハンドバッグを買う女性の方が多く占める形。しかし日本は例外で、顧客層も売り上げも男女比が5:5ほどなんです。

― 日本のマーケットは他国と異なる特徴があるのでしょうか。

 日本ではバッグを持つ男性が多かったり、メンズファッション市場において非常に成熟した存在ですね。例えば他の国だと、バックパックは使いますがいわゆるバッグを持つ男性はまだ限られているんです。グローバルでは商品の提案が男性向けと女性向けでハッキリと分かれているんですが、日本ではジェンダーレスなアイテムを多く展開しています。

 大胆な色選びも特徴で、小物に限らずハンドバッグでもカラフルなものが男女ともに売れる傾向にあります。これはグローバルで見ても珍しいですね。また日本には、名刺用のカードケースやブックカバー、パスポートカバーなど独自の文化があります。例えばブックカバーは、日本以外で目にしたことがないくらいですから。そのため、日本だけで販売するアイテムも用意しているんです。

「ヴァレクストラ」の革小物。充実したカラーラインナップで知られている。

― 日本のマーケットは全体の何%を占めますか?

 およそ35%。今はヨーロッパとアジアがメインマーケットですが、中東も勢いがありますね。現状あまり手を付けていないのが米国。あまりにも大きい市場でリソースも必要になってくるので。米国市場は次のステップだと考えています。

 

創業80年超の老舗に今起きている変化

― 2015年にCEOに就任した際のミッションは?

 就任当時は「ヴァレクストラ」の知名度はまだ低く、ブランドのアウェアネスを上げることが重要でした。素晴らしいレザーグッズを作っていますし、誇れる伝統や歴史があるので、もっと広く知られ、愛されるべきブランドだと思ったのです。

― 80年以上の歴史の中で、今はどういった時期なのでしょうか。

 プロダクトカンパニーから、ブランドへと変貌を遂げているフェーズだと捉えています。以前は「ヴァレクストラ」と聞くと、何か特定のアイテムを思い浮かべる人が多かったと思いますが、今はデザイナーや建築家、ミラノという街、ミラノのスタイル、モダンさ、クリーンさなど、「ヴァレクストラ」が持つイメージを連想するようになってきたかと思うんです。以前は卸中心だったので商品の周りにあるライフスタイルまで体感していただくことは難しかった。でも今は世界中に直営店があるので、よりブランドとしての世界観を伝えやすくなっています。

― 「イタリアのエルメス」と称されることもありますね。

 ブランドだけではなく企業としても素晴らしい「エルメス」と同等に称されるのはとても名誉なことですね。プロダクト自体から、ウィンドウディスプレイやインスタレーション、コミュニケーションまで、全てが美しいですから。多くの共通点がありますし、同時に多くの違いもあると思います。まず、「エルメス」はとてもフランス的で、「ヴァレクストラ」はイタリア的ですよね(笑)。食事と一緒で、優劣ではなくアティチュードが異なるということだと思います。レザーの質感だと、「エルメス」はパウダリーでソフトな触り心地ですが、「ヴァレクストラ」はもう少しハードで艶がある。クリーンな設計や軽さ、シャープなデザインも「ヴァレクストラ」ならではです。

 

変わる「ラグジュアリー」の意味

― ファッション界に17年ほど携わっていますが、現代のラグジュアリーの定義とは?

 多くの人にとってアクセシブルなものになっていますよね。ラグジュアリーとは価格だけではなく価値であり、より品質や技、耐久性、そして希少性に重きが置かれるようになったと感じています。「ラグジュアリーの民主化」は、個人的にとても良いことだと思っていて、「ヴァレクストラ」にとっても素晴らしいチャンスになるはずです。

― ブランドロゴが表にデザインされていないのは、他の多くのラグジュアリーブランドと異なります。

 「ヴァレクストラ」は"ノーロゴ"がフィロソフィーです。でも昨今はロゴやグラフィックがブームですよね。この現象にどのように参加して、対話の一部になれるかを考えてスタートしたのが、昨年の「NO LOGO MY LOGO *1」。ブランドではなくカスタマーを主人公にするアイデアです。自分のロゴを作り、持ち歩く事ができる。自由に選んだサイズや色、グラフィックで出来上がった、あなたのためのビスポークのような1ピース。それこそがラグジュアリーではないでしょうか。どの国でも非常に良い反響がありましたね。

*1 NO LOGO MY LOGO=自分のイニシャルでオリジナルのモノグラムを作り、バッグにデザインできるサービス。イニシャル1〜3文字、カラー、文字サイズなどを選ぶと、グラフィックデザイナーが複数のモノグラムデザインを提案。オリジナルモノグラム制作費は2万円ほどで、好みのバッグにデザインできる。

― 初登場したスニーカーも、ブランドにとって新たな展開になりますね。

 着飾り方は昔からずいぶんと変わりましたし、よりカジュアルな装いを好むようになりました。カジュアルでいることが許容される社会になったとも言えますよね。「ヴァレクストラ」はアクセサリーではなく、着る人のルックを完成させるピースを作っているという意識があります。現状は服を作る予定はありませんが、スニーカーは身に着ける人を特徴づけるピースだと考えています。

 でも正直な話をすると、スニーカーは当初、販売するために作ったものではなかったんです。3年ほど前から、アーティストや建築家など「ヴァレクストラ」のコミュニティの方々に御礼のギフトとして贈っていたものだったんですね。それが好評で、「どこで買えるのか?」と問い合わせをいただくようになって。バッグはまだ買えない層にもリーチできて、1人でも多くの人にブランドの世界観の一部になってもらえるよう販売することを決めました。

レザースニーカー(8万6,000円)

― フットウェアの展開は今後も広げていきますか?

 スニーカーは好調で、2週間前にミラノ、ロンドン、北京、東京と4都市限定で発売したのですが、すでに半分ほど売り切れたと聞いています。ですが、スニーカー以外のフットウェアは現状では考えていません。スニーカーが連想させる活発な男女像は「ヴァレクストラ」のイメージと合っていますが、それ以外となるとアティチュードも変わってくるので。新作としては、9月に著名なデザイナーとコラボレーションした新しいスニーカーを発売する予定です。

 

エキゾチックレザーやファー廃止の動きに、革の老舗として思うことは?

― 昨年末に「シャネル」がエキゾチックレザーの使用廃止を発表し注目を集めました。「ヴァレクストラ」でも様々なレザー素材を扱っていますが、こういった動きをどのように捉えていますか?

 エキゾチックレザーを使うか否かよりも、まず動物がどのような扱いを受けているかを重要視すべきです。もしラグジュアリー業界がエキゾチックレザーの使用を完全に廃止した場合、現状の整えられたシステムが無くなるので、これらの動物の絶滅につながる可能性が高いとも言われています。どこで調達し、どういった信念を持って使っているかが重要だと思います。

― 「ステラ マッカートニー」など、リアルレザーを使わずサステナビリティをベースにラグジュアリーの地位を確立しているブランドもあります。

 サステナビリティは「ヴァレクストラ」にとっても重要な価値観ですね。使っているタナリーはすべて、EUが設けているサステナビリティのチェックを通っています。近年ではレザーのリサイクルなどもありますが、実際はコストが高くなったり、必ずしも環境に優しいわけではありません。リサイクルのために必要なプロセスが、実は環境にダメージを与えていることもあるのです。食肉の副産物でもありますし、究極的にはレザーの使用はロジカルだと私は思います。私たちにできる最善のことは、長く使うアイテムを作ることに尽きると考えています。

― 魅力的な素材はレザー以外にもありますか?

 選択肢はたくさん存在していると思います。特に日本には多くの素晴らしい素材がありますね。日本では販売していないのですが、今シーズンはキャンバスバッグを作り、ポジティブな反応を得ています。10年前だったら考えられなかったことですが、キャンバス素材はラグジュアリー分野でも重宝されていますよね。新たにトートバッグを発売した「ケーヴァル(K-Val)」は、NASAの月探索で用いられた軽量で強靭な素材を使いました。

日本限定で発売された「ケーヴァル トート(K-Val Tote)」(14万9,000円)

 

「イジィデ」に続くアイコンバッグが復刻

― 「ヴァレクストラ」の魅力を知り尽くしているサラ氏が最も好きなアイテムは?

 1つに絞るのは難しいので、3つでも良いでしょうか。今回のような出張の時は、大きなバックパックが欠かせません。何でも入れられて、4年間ずっと使っているんです。2つ目はアイコンバッグの「イジィデ(ISIDE)」で、「ヴァレクストラ」の魅力を体現する美しいバッグ。ミニサイズが好きで、昼夜問わず様々なシーンで活躍しています。3つ目が「パスパトート(PASSEPARTOUT)」。PCが入るサイズ感ですが、ちょっとしたお出かけにはサイドのポケットを外してクラッチとしても使えるのが便利なんです。

 ただ、今シーズンの「セリエ エス(SerieS)」の復刻によって3つのラインナップが変わってしまいそう(笑)。他のバッグにはないセンシュアルな魅力を持ったデザインなので。

(左から)「イジィデ」「パスパトート」

― 「セリエ エス」は伊勢丹新宿店でポップアップを行いましたが、ブランドとしてバッグの復刻を大きく打ち出すのは珍しい印象です。

 そうですね。ブランドにとって今がどんな時期なのかという話に戻ってくると思います。CEOに就任してからの3年間は「ヴァレクストラ」の唯一無二の魅力をいかに明確にするかということで、デザイナーや建築家との協業にも繋がりました。今は、ブランドの伝統や歴史に立ち返って、それらを改めて見つめ直す時期に入っていると思います。

「セリエ エス」

 「セリエ エス」は、「ヴァレクストラ」のルーツとアイデンティティが融合したハンドバッグです。元々は1961年にビジネスや旅行用のメンズバッグとして生まれ、1969年にデザインをアップデートしてウィメンズバッグとして生まれ変わり、人気を博しました。今となっては男女で使えるバッグという概念は普通ですが、60年代ではとても珍しいことでした。今復刻することで、「ヴァレクストラ」の歴史について改めて発信するきっかけになればと思っています。

― 投資会社やマッキンゼーで経験を積んだサラ氏のユニークな経歴は、「ヴァレクストラ」にどのような影響を与えていますか?

 数字とアクションが常にイコールになっていることでしょうか。コインのように表裏一体なんです。ビジネス的な視点での深い理解は、素早い決断を行う上で助けになっていると思います。競争が激しく移り変わりが早いマーケットの中でも、クイックなプレイヤーでいられますから。

― 今後の展望についてお聞かせ下さい。

 業界で最もリスペクトされている美しいブランドの一つになること。いつの日か、私たちのようなブランドを形容する言葉として「フランスのヴァレクストラ」なんて聞くことがあれば嬉しいですね。私たちが正しいことをしてきたということになりますから。そういったポジションを築けることを切に願っています。スピーディーに育て過ぎると命取りになるので、一歩ずつ着実に、慎重に進めていきたいと思っています。

伊勢丹新宿店のポップアップはメトロポリス(大都市)をイメージ。高層ビルのウィンドウの写真がプリントされた什器や、足元を霧が囲う演出でブランドの世界観を伝えた。

  

(聞き手:谷桃子)

■ヴァレクストラ:公式サイト

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