左から「アナ スイ」「ロダルテ」「アリス アンド オリビア」「アディアム」が発表した2021年春夏コレクション
2021年春夏シーズンの先陣を切ったニューヨークコレクション(2020年9月13~16日)は「withコロナ」時代にファッションパワーで立ち向かうかのように、ノスタルジーと楽観に包まれました。この現象は2001年の9.11後に開催されたNYコレに通じるところがあります。あの時と同じく、花柄プリントが打ち出され、カラフルな装いが勢いづきました。
トレンドワードは「居心地のよさ、くつろぎ」を意味する「cozy」。気負わないエフォートレスなムードが濃くなりました。でも、適度な華やぎは忘れず、自宅や近所で纏う「ホームドレス(ワンピース)」が新たなキーピースに。服とおそろいのマスクを組み込んだコーディネートも相次ぎ、NYらしく機能的でリアルなおしゃれが盛り上がりました。
(文・ファッションジャーナリスト 宮田理江)
華やかなのに動きやすい「究極のホームドレス」が続々
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◆ANNA SUI
ヴィンテージテイストが持ち味の「アナ スイ(ANNA SUI)」はノスタルジックなムードでコレクションを包み込みました。家や近所で着る「ホームドレス」を軸に、クロシェ(かぎ針)編みのバッグやバケットハット(バケツ形帽子)を添えて、ハートウォーミングな装いを提案。アットホームなおしゃれに誘うかのよう。刺繍やパッチワークなどのニードルワークにも、ヒューマンな温かみが宿っています。ダスティーピンクをはじめとする「くすませ色」に、今の時代を覆うメランコリックな気分を写し込みました。おそろい柄のマスクには、こんな状況でもおしゃれを忘れないというメッセージが感じ取れました。
Image by: ANNA SUI
Image by: ANNA SUI
Image by: ANNA SUI
Image by: ANNA SUI
【全ルック】「アナ スイ」2021年春夏コレクション
◆alice + olivia
ポジティブなムードを打ち出したのは、これまでややダークロマンティックなテイストで知られていた「アリス アンド オリビア(alice + olivia)」。ダンサーをモデルに迎えて、ボディーにフィットする装いを躍らせました。全身をヴィヴィッドなイエローやピンクでまとめた、コンパクトな装いはアクティブで楽観的。大統領選挙を間近に控え、左右に黒と白を配したり、レインボーで彩ったりした「主張あり」のルックを発表。モデルも大半は非白人を起用しています。エキゾチックモチーフを使った「柄on柄」コーデにはマスクも組み込みました。
Image by: alice + olivia
Image by: alice + olivia
Image by: alice + olivia
Image by: alice + olivia
【全ルック】「アリス アンド オリビア」2021年春夏コレクション
◆Rodarte
ドレスを得意とする「ロダルテ(Rodarte)」は、全身に花柄をあしらって、レトロでガーリーな装いを用意しました。全体のムードは「大人ロマンティック」です。ピンクやブルーのパステルカラーがチアフル。シルク仕立てのパジャマライクなセットアップは家ごもりにリュクス気分をもたらしてくれそう。顔周りをぐるっとフラワーモチーフで囲むヘッドアクセサリーはファンタジックな奇想。足元は白ソックスでコケティッシュな雰囲気に。ウエディングドレスを究極の「ホームドレス」に生かすのは、結婚式さえ難しくなった現実を逆手に取る提案と映りました。
Image by: Daria Kobayashi Ritch
Image by: Daria Kobayashi Ritch
Image by: Daria Kobayashi Ritch
Image by: Daria Kobayashi Ritch
【全ルック】「ロダルテ」2021年春夏コレクション
日本人デザイナーは「エフォートレスな着回し力」を提案
◆TADASHI SHOJI
NYコレクションでは日本人デザイナーも実力を発揮しています。ベテランの「タダシ ショージ(TADASHI SHOJI)」はレッドカーペットで女優が纏うドレスで有名。パーティー向きのイブニングドレスは出番を見込みにくい状況ですが、今回のコレクションでも高揚感を帯びたドレスが主役。ドレッシーでありながら、着心地に優れ、「ズーム映え」しそうな華やぎウェアをそろえました。目を引いたのはマルチカラーの花柄。全身をあでやかに彩り、ナチュラル感を押し出しました。ボリューミーな袖や模様レース、ラッフルなどのディテールを配して、動きを添えています。これまでよりも短めの丈感、軽やかなシルエットはドレスの普段使いに誘うようでした。
Image by: TADASHI SHOJI
Image by: TADASHI SHOJI
Image by: TADASHI SHOJI
Image by: TADASHI SHOJI
【全ルック】「タダシ ショージ」2021年春夏コレクション
◆ADEAM
プロテニスプレーヤーの大坂なおみ選手とコラボレーションしたカプセルコレクションで話題を集めた前田華子氏のブランド「アディアム(ADEAM)」。東京でコレクションを準備したクリエイティブディレクターは、日本の夏の着物を思わせるエフォートレスな装いを披露しました。ファーストルックからフーディードレスを投入。アウトドア風の機能性を盛り込み、軽やかな着映えに導いています。明治記念館の庭で撮影したルックは、エアリーなフォルムで、見るからに着心地よさげ。ゆったり幅のワイドパンツを組み込んだセットアップは、気品とアクティブ感を兼ね備えています。
Image by: ADEAM
Image by: ADEAM
Image by: ADEAM
Image by: ADEAM
【全ルック】「アディアム」2021年春夏コレクション
◆OVERCOAT
「オーバーコート(OVERCOAT)」は「大丸製作所2」の大丸隆平氏が手掛けるブランドで、サイズや性別にとらわれない、新発想の装いを提案しています。新コレクションでコラボレートしたのは、著名なアートディレクターのピーター・マイルズ(Peter Miles)氏。イエロー系のネオンカラーをあしらって、着姿に彩りを添えています。鮮やかなグラフィックのコート、パーカ、シャツ、トラウザーズなどをラインナップ。ショートパンツのセットアップはリラクシングなスーチングを実現。出番を選ばない自在の装いを組み上げました。全身をくるむ「プロテクションアウター」は不安の時代に応えるウェアでもあります。
Image by: OVERCOAT
Image by: OVERCOAT
Image by: OVERCOAT
Image by: OVERCOAT
【全ルック】「オーバーコート」2021年春夏コレクション
ビジネス都市 ニューヨークならではのたくましさ
今回のNYコレでは、主立ったブランドで本格的なランウェイショーを開いたのは、「ジェイソン ウー(Jason Wu)」ぐらいというほどのデジタルシフトが進みました。その分、動画の撮影や演出に関しては表現力が高まり、画面を左右に分割したり、撮影場所にメッセージ性を込めたりといった、様々な工夫が盛り込まれました。こうした動画配信を支えたのが、今回から採用された、デジタルファッションショーのプラットフォームである「RUNWAY360」。リアルのランウェイショーを大半の有力ブランドが見合わせ、オンライン配信に切り替えたのを受けて主催団体が新設したサービスで、ルックブックから動画、コレクションテーマ、そして一部のブランドではバーチャルショールームまで、コレクションに関する情報が全て集約されています。
NYコレの顔的存在だった「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」や「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」が参加を見合わせ、期間もほぼ半分に短縮されるなど、コロナ禍のあおりを強く受けた、今回のNYファッションウィーク。しかし、創り手たちは未来や夢にファンタジーを託すかのようなクリエイションを披露。「前向きな現実逃避」と「リアルな現実直視」をねじり合わせました。9.11さえ乗り越えた「ファッションビジネスの首都」ならではの、たくましさと自負がうかがえるようでした。
宮田理江
ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター。多彩なメディアでコレクショントレンド情報、着こなし解説、映画×ファッションなどを幅広く発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かし、自らのTV通版ブランドもプロデュース。著書に「おしゃれの近道」(学研パブリッシング)ほかがある。
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