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上海のアークテリクス“ミュージアム”で見た、D2Cバブルが残したブランド戦略

文&写真五十君花実

「ミュージアム」と呼ばれている上海のアークテリクス旗艦店

「ミュージアム」と呼ばれている上海のアークテリクス旗艦店

Image by: FASHIONSNAP

「ミュージアム」と呼ばれている上海のアークテリクス旗艦店

「ミュージアム」と呼ばれている上海のアークテリクス旗艦店

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「ミュージアム」と呼ばれている上海のアークテリクス旗艦店

「ミュージアム」と呼ばれている上海のアークテリクス旗艦店

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 上海出張中に、ショッピングストリート・南京西路にあるアウトドアブランド「アークテリクス(ARC’TERYX)」の旗艦店を訪ねた。“ミュージアム”と呼ばれる同店は、4階建てのガラス張りの建物を一棟丸ごと使っており、アークテリクスの中で売上高が世界一と言われる店舗。名前の通り、博物館のように作り込まれた店内には製品が整然と並び、ブランドの歴史紹介コーナーやリペアのサービスデスク、コミュニティスペースも備えている。「モノを売る場所」ではなく「ブランドを体験する場所」になっていた。

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Arc'teryx Museum

📍1F-4F, North Annex Building, No. 1717 Nanjing West Road, Jing'an District, Shanghai City Shanghai, China

客1組に、必ず販売員1人がつく体制

 そうした思想は接客サービスにも表れている。入店は基本的に予約制で、来店客1組に対して担当販売員が1人つく仕組み。予約なしでも入店は可能だが、そのとき空いている販売員がいなければ、入り口で列を作って順番を待つことになる。店内では販売員が客と話をしながら、各フロアをまわって製品を次々に提案。一般的なスポーツブランドの接客というより、高級時計やラグジュアリーブランドのアポイントメントサービスに近いが、仰々しさや堅苦しさはなく、販売員と客が自然な雰囲気で話していたのが印象的だ。

上海のアークテリクス旗艦店の内観
上海のアークテリクス旗艦店の内観
上海のアークテリクス旗艦店の内観
上海のアークテリクス旗艦店の内観
上海のアークテリクス旗艦店の内観
上海のアークテリクス旗艦店の内観
上海のアークテリクス旗艦店の内観

3階に設けられていた、アカデミーと呼ぶコミュニティスペース

 スポーツやアウトドアブランドの多くは今、ブランド価値を高めることで販売価格も引き上げ、高い利益率を確保する「プレミアム化」を競っている。例えば、「オン(On)」は2025年12月期で、ラグジュアリーブランドにも匹敵する売上総利益率(62.8%)を実現した。プレミアム化のためには、製品だけではなく店舗でどのようなブランド体験を提供するかが重要になる。アークテリクスミュージアムの美しい空間設計や予約接客の仕組みも、まさにそうした戦略を象徴している。

中国・杭州のモール内のアークテリクス店頭

中国・杭州のモール内のアークテリクス店頭にできた入店待ちの行列

失速した“未来の小売り”ブーム

 帰国後、アークテリクスミュージアムでの体験を反芻する中で、今から5年ほど前にファッションや小売りの世界を席巻した「D2C(Direct to Consumer)」というキーワードについて考えた。D2Cとは、ブランドやメーカーが小売店や卸業者を通さず、顧客と直接つながるという考え方だ。SNSの普及と共に2010年代に米国で広がり、日本では2020年前後にバズワードになった。

 当時はD2Cサステナブルスニーカーブランドの「オールバーズ(Allbirds)」が“シリコンバレーの制服”と呼ばれ、ビューティ業界ではZ世代へのリーチに長けた「グロッシアー(Glossier)」が急成長。日本のファッション業界関係者はニューヨーク出張のたびに、D2Cブランドを集めた複合型ショールームの「ショーフィールズ(SHOWFIELDS)」「ネイバーフッド グッズ(Neighborhood Goods)」をこぞって視察していた。当時は、D2Cブランドやそのショールームである“売らない店”が、「未来の小売り」として頻繁に語られていた。



ニューヨークにあった「ショーフィールズ」外観と「ネイバーフッドグッズ」内観(共に2020年2月撮影)

 「D2CはSNSとECだけで拡大できる」という期待感の中、D2Cブランドにはベンチャーキャピタル(VC)から巨額の資金が流れ込んだ。赤字を抱えながら急成長を目指すビジネスモデルは熱狂を集めたが、結局、長くは続かなかったことは周知の通りだ。オールバーズは株価低迷や店舗整理が続いて身売りすることになり、AI活用事業への転身を先日発表。グロッシアーはD2C一本足打法から、「セフォラ(Sephora)」などへの卸拡大へと舵を切っている。ショーフィールズは双日からの出資を受けて日本に上陸するという話が進んでいたが、米国で破産申請し、計画は立ち消えとなった。

D2C思想を最終的に体現したのはメガブランド

 D2Cの熱狂は、VCマネーに浮かされた一過性のブームだったと言える。しかし、上海のアークテリクスミュージアムでの体験を振り返って思うことは、「あれこそ、D2Cという考え方が理想としていたものではないのか?」ということ。D2Cが本来目指していたのは、店を極力持たずにECで直接モノを売っていくというコスパのいいビジネスモデルではない。ブランドが顧客と直接つながり、関係性を長く育てていくことだった。モノを売るだけでなく、ブランドの歴史を伝え、リペアやケアも含めたアウトドアカルチャーの価値観を共有し、イベントで客同士をつなげてコミュニティ化していくアークテリクスミュージアムは、まさにそれに当てはまる。

 ただし、これはアークテリクスに限った話ではない。過去のバズワードであるD2Cや、それと同義のDTCという単語が、今も頻繁に登場する世界が実はある。スポーツやアウトドアの業界だ。近年、あらゆるスポーツ・アウトドアブランドが「Direct to Consumer(DTC)」を重要戦略として掲げ、直営店や自社ECへの投資を加速させている。長らく専門店への卸売りを商売の基本としてきたスポーツブランドにとっては、店頭やECで顧客と直接つながり、データを蓄積し、コミュニティを育て、ブランド体験を届けることは新戦略。それが業界全体としての近年の好業績につながっている。この3年ほど、世界各地でスポーツブランドによる大型出店が目立っているのは、そうした背景からだ。

 D2Cブランドブームは、新興ブランドがSNSやECの力を活用して、既存のマーケットや大手ブランドを超える存在になっていくと期待を集めた。しかしブームは過ぎ去り、当時話題になったD2Cブランドで今も変わらず輝きを放っているものは非常に少ない。ただ、D2Cという考え方自体が消えたわけではない。D2C思想が目指した理想は、むしろ新興ブランドではなく資本力を持つ大手ブランド、特にスポーツ領域のメガブランドに吸収され、より洗練された形で2020年代のブランドビジネスの標準になった。上海のアークテリクスミュージアムが、まさにそうした変化を象徴している。

上海・外灘の夜景

いつの時代も美しい上海・外灘の夜景

最終更新日:

文&写真・五十君花実

Hanami Isogimi

FASHIONSNAP ディレクター

1983年愛知県出身、早稲田大学政治経済学部卒。繊研新聞記者、WWDJAPAN副編集長、編集委員を経て、25年10月から現職。山スキー、登山、ラン、SUPを愛するアウトドア派。ビジネスからクリエイション、ライフスタイルまで、多様な切り口でファッションを取材。音声、動画、コミュニティーなど、活字以外のアウトプットも模索中。

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