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10年保証、リセール、循環型 アークテリクス高木賢ディレクターが語る“長く使う”ビジネス

聞き手&文五十君花実

高木賢アークテリクス カントリーディレクターのポートレート

高木賢アークテリクス カントリーディレクター

Image by: ARC'TERYX

高木賢アークテリクス カントリーディレクターのポートレート

高木賢アークテリクス カントリーディレクター

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高木賢アークテリクス カントリーディレクターのポートレート

高木賢アークテリクス カントリーディレクター

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 「アークテリクス(ARC’TERYX)」が、循環型のものづくりを目指す新たな設計思想「システム・ゼロ(System 0)」を始動した。第1弾製品に選んだのは、Tシャツやフリースのような比較的循環させやすい製品ではなく、ブランドを象徴する「ゴアテックス」採用のハードシェルジャケット。素材の分離や回収、再資源化までを見据える一方で価格は19万8000円と、既存の最上位ハードシェルの約1.3倍となった。なぜアークテリクスは、あえて「最も難しい」プロダクトから循環型のものづくりに挑むのか。そして、価格との両立をどう考えているのか。リセールまでを視野に入れたビジネスの考え方や、日本市場の足元について、アメアスポーツジャパンの高木賢アークテリクス カントリーディレクターに聞いた。

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「システム・0」について説明するアークテリクスの動画

「機能性の高い製品から挑戦すべき」

⎯⎯ゴアテックスのハードシェルは異素材を貼り合わせた多層構造で、単一素材の製品に比べて再資源化のハードルが高いです。なぜ、あえてそこから循環型のものづくりに踏み切ったのでしょうか。

高木賢アークテリクス カントリーディレクター(以下、高木): 本国のスチュアート・ハセルデンCEOには、「アークテリクスである以上、まず機能性の高いものから循環型にチャレンジするべき」という考えがあったようです。アークテリクスを代表するアパレルアイテムで、かつ機能性の高い製品となるとゴアテックスのシェルジャケット。だからこそ、まずここからやってみよう、となりました。

  われわれは継続品番を含め、春夏・秋冬の各シーズンで300〜400型ほどのアパレルを作っています。この中で、循環型の製品を可能な限り広げていきたいと考えていますが、今回発表した循環型の第1弾製品「スペーロ SV ジャケット(Sperro SV Jacket、以下スペーロ)」の価格は19万8000円。この価格設定をすべての循環型製品に採用するのは現実的ではないと思っています。もう少し、通常の製品ラインナップに近い価格帯で循環型製品を拡大していく手法を、今グローバルで考えているところです。

「スペーロ SV ジャケット」の画像

9月4日にグローバルで一斉発売する「スペーロ SV ジャケット」(19万8000円)

Image by: FASHIONSNAP

⎯⎯サステナブルな製品であっても、価格が高すぎては消費者にとって現実的な選択肢になりにくいですね。

高木:その通りです。 お客さまはまだ、「サステナブルだから買う」というよりも、機能性や価格を理由に製品を選ぶケースが多い。「サステナブルだから価格が1.3倍でも買ってください」というのでは、なかなか理解を得るのが難しいと思っています。

 ただ、あくまでスペーロはチャレンジの第一歩。2027年春夏にこなれた価格の循環型製品を販売するのは難しいと思いますが、将来的には、通常の価格帯から大きく外れない製品をシステム・ゼロで考えていきます。

「買い替えを促して成長するブランドではない」

⎯⎯日本独自のサステナビリティへの取り組みとしては、2026年2月から、ゴアテックスのシェルジャケットを中心に保証期間を10年間に延長しました。修理コストを負担しても、保証期間の延長に踏み切った理由は何ですか。

高木: ブランドとして、現状で修理にどのくらいのコストをかけているかをしっかり検討して判断しましたが、基本的な考え方として、修理を有償にしてしまうと「そんなに料金がかかるならもういいや」と諦めてしまうお客さまがいます。それであれば、正規店で買ってもらって、日頃からメンテナンスをしていただき、まだ使える状態の製品については10年間修理保証をする。安い製品ではないため、「これだけ長く保証してもらえるなら」と安心して買っていただけている部分はあると思います。

 保証システムは、会員制度の「BIRD CLUB」の中に組み込んでいます。直営店ではすでに保証期間を記した紙の保証書を渡すことをやめていて、BIRD CLUBアプリの中で購入情報、修理情報を管理するようにしています。今後はこの仕組みを、少しずつホールセールの取引先にも広げようとしています。

⎯⎯その仕組みはデジタル製品パスポート(DPP)に近いものなのでしょうか。

高木: 少し違いますが、スペーロにはDPPを搭載しています。ジャケットの内側にQRコードが付いていて、それを読み込むとグローバルのDPPのサイトに遷移する仕組みです。欧州では今後、アパレルにもDPPの導入が進んでいきます。アークテリクスはもちろん欧州でも販売しているので、それを見越してスペーロにDPPの仕組みを取り入れました。

⎯⎯長く使ってもらうために10年保証をすることと、ブランドが売り上げを伸ばして成長していくことは、相反するようにも思えます。

高木: それについては、ホールセールの取引先からも何度も聞かれました。これは理想形ですが、例えばハードシェルジャケットを買ったお客さまがその製品や保証を気に入れば、次はフリースを買ってみよう、ハードシェルのパンツを買ってみよう、となっていく。一つの製品を短期間で何度も買い替えていただくのではなく、冬にスキーやスノーボードをする時もアークテリクス、トレッキングもアークテリクス、トレイルランニングもアークテリクス、なんなら街で使うバックパックもアークテリクスというように、一人のお客さまの中でブランドが横に広がっていけばいいなと考えています。買い替えを促して需要を生んでいく、という考え方ではないんです。

⎯⎯実際に、「いいものを長く使う」という消費行動は広がっていますか。

高木: インターネットで多くの情報を得られる中で、刹那的な消費よりも「いいものを長く」と考えるお客さまが増えている肌感があります。特にアウトドアアクティビティを好む方は、自分たちが自然に対してどんな影響を与えているかを、否応なく意識していると思うんです。氷河が溶けている、山小屋の水が枯渇して出ない⎯⎯。そういう話を聞けば、自分一人ができることは小さくても、少しでも環境への負荷を抑えたいという気持ちになるんじゃないでしょうか。

「スペーロ SV ジャケット」では、長く使い続けてもらうことを目的にファスナーで従来よりも修理しやすい構造を採用

Video by FASHIONSNAP

日本でも買い取り・再販を開始予定

⎯⎯アパレル製品の環境負荷低減を考える上で素材選びは大きな要素ですが、使った後の出口の設計も重要ですね。

高木: そうです。スペーロを長年使っていただき、製品としてのライフサイクルが完全に終わっていれば、それは回収し、ケミカルリサイクルにまわします。でも、まだ製品として使える状態であれば、買い取りして再販する選択肢もある。北米では買い取り・再販を既に行っています。

 日本でも、近い将来に買い取り・再販をスタートしたいと考えています。全品番が対象になるかは未定ですが、少なくとも機能としてまだ使える状態の製品は買い取り、お客さまに何らかのバウチャーをお渡しする。買い取った製品は、洗濯や撥水加工などのケアをして、再販します。

「アークテリクス 神田ブランドストア」画像
「アークテリクス 神田ブランドストア」画像
「アークテリクス 神田ブランドストア」画像

アークテリクスの国内直営店はアウトレットを除き現在18店。写真は7月に移転・増床した神田の店舗

Image by: FASHIONSNAP

⎯⎯日本ではまだ買い取り・再販を始められていない理由は何でしょうか。

高木: 一般的な古着店で売られているアウトドアウェアは、基本的にはファッションアイテムとして販売されています。撥水性、防水性などの機能までは保証されていません。しかし、アークテリクスが自社製品を再販する以上は、機能性を担保した状態で売りたい。そのための仕組みを今考えています。

 買い取る際に、機能性のあるなしをどう評価するのか、買い取った製品をどのような物流で集めるのかといったことを含め、裏側の仕組みが必要です。北米では、Troveというリセールのプラットフォーム企業と組んでこれを実現しています。

⎯⎯日本の店頭の状況も伺います。引き続き、中国人訪日客の減少がさまざまな分野で指摘されていますが、アークテリクスにも影響は出ていますか。

高木: 2026年1〜6月は前年同期の売り上げ実績をしっかり上回っていましたが、7月以降はやや軟調になっています。中国人のお客さまは昨秋以降減っていて、その影響がじわじわ出てきた感触です。

⎯⎯「オン(On)」や「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」など、並びのスポーツやアウトドアのブランドの状況を見ても、ここに来てやや成長スピードの鈍化が指摘されています。

高木: 2023年以降の3年間は、われわれだけでなく、アウトドアマーケット全体が少し異常とも言えるくらい成長した時期だったと思います。中国市場でアウトドアブランドのニーズが急拡大していることが寄与しましたが、世の中全体として服装のトレンドが変わったことも大きい。コロナ禍前に比べると、日常生活やオフィスシーンでアウトドアウェアを着用する人が明らかに増えました。過去3年間は確かに急成長でしたが、アウトドアウエアを日常的に着る人が増えていることで、われわれのマーケットは今後も確実に広がっていくと思います。

最終更新日:

聞き手&文・五十君花実

Hanami Isogimi

FASHIONSNAP ディレクター

1983年愛知県出身、早稲田大学政治経済学部卒。繊研新聞記者、WWDJAPAN副編集長、編集委員を経て、25年10月から現職。山スキー、登山、ラン、SUPを愛するアウトドア派。ビジネスからクリエイション、ライフスタイルまで、多様な切り口でファッションを取材。音声、動画、コミュニティーなど、活字以外のアウトプットも模索中。

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