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エイサップ・ロッキーの押さえておくべき功績【連載:いまさら聞けないあのアーティストについて】

エイサップ・ロッキーの押さえておくべき功績【連載:いまさら聞けないあのアーティストについて】

 全く異なるジャンルでありながら、古くから蜜月関係にあるファッションと音楽。ここ十数年でその結び付きはさらに強くなり、今やファッションメディアでなにがしのアーティスト名を見ない日は無いと言ってもいいほどである。だがアーティスト名は目にするものの、彼/彼女らがファッションシーンへと参画した経緯や与える影響力、そして何よりも楽曲に馴染みが薄く、有耶無耶の知識のまま名前だけを認知している人も少なくないだろう。

 そこで本連載【いまさら聞けないあのアーティストについて】では、毎回1組のアーティストをピックアップし、押さえておくべき音楽キャリアとファッションシーンでの実績を振り返り、最後に独断と偏見で「まずは聴いておくべき10曲」を紹介。第6回は、エイサップ・モブの"顔"であり、ファッションアイコンとしても名高いラッパー、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)についてをお届け。(文:Internet BoyFriends)

■いまさら聞けないあのアーティストについて:連載ページ

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エイサップ・モブとの出会い

 エイサップ・ロッキーは、1988年10月3日にニューヨーク・マンハッタンのハーレムでラキム・メイヤーズ(Rakim Mayers)として生を受けた。父親はパートナーのリアーナ(Rihanna)と同じくバルバドス出身で、兄の影響から9歳でラップを開始。そして、12歳の時に父親がドラッグ関連で逮捕され、13歳で兄が銃殺されたことを機にラップと真剣に向き合うことを決めたという。稼ぎ頭を失った家族は路頭に迷い、ロッキーは10代の多くをホームレスシェルターで過ごすことになったのだが、貧しい暮らしの中でもラップの腕だけは磨き続けた結果、"あるコレクティブ"に加入することに——エイサップ・モブ(A$AP Mob)である。

 エイサップ・モブとは、"ヒップホップ百科事典"と称されたラッパーでプロデューサーの故エイサップ・ヤムズ(A$AP Yams)、のちにファッションブランド「ヴィーロン(VLONE)」を立ち上げるエイサップ・バリ(A$AP Bari)、モデルやデザイナーとして活躍するエイサップ・イルズ(A$AP Illz)の3人が2006年に結成したヒップホップ・コレクティブだ。ロッキーと同い年のヤムズが音楽業界にツテを持っており、モブに所属するラッパーを探していたところ、バリの高校の先輩でラップが上手いと評判だったロッキーから「どうすればラッパーになれるか分からない」と指南を仰ぐ連絡がきたことから意気投合。2人の関係性は、ヤムズが映画「スター・ウォーズ(STAR WARS)」になぞらえて「俺がヨーダで、ロッキーがルーク・スカイウォーカーさ」と語るほどの仲で、ロッキーが表舞台に立つことができたのは彼の存在が大きい。ちなみに、"A$AP"とはヤムズが考案した「常に努力を怠らず、常に繁栄し続ける(Always Strive And Prosper)」というスローガンの略で、他にも「地位や権力を獲得する(Acquire Status and Power)」や「日々積み重ね、日々金を追求(Always Stacking Always Paper-chasing)」「神は人民を救う(Allah saves all people)」といった意味が込められている。

全米を代表するラッパーの1人として、エイサップ・モブの"顔"として

 2011年8月、満を持してロッキーのデビュー楽曲「Peso」がインターネット上で発表されると、シーンに新たな風を吹き込むそのクオリティとヤムズが運営していたヒップホップブログを通じて話題となり、ボルテージが頂点に達した10月にデビューミックステープ「Live. Love. ASAP」をリリース。同作は上位に食い込むことはできなかったもののチャート入りを果たし、ロッキー本人も若手アーティストの登竜門とされる「BBC Sound of 2012」にノミネートされるなど、長く低迷が続いていたニューヨーク・ヒップホップシーンにおける星として最前線に躍り出たのだ。なお、本作は楽曲の権利問題などから長らくストリーミング配信されていなかったが、10周年を迎えた2021年に収録楽曲を多少変更して解禁。そして、アートワークをよく見ると、ロッキーの顔にオリジナル版にはなかった痣のようなものがコラージュされているのだが、これは2015年に26歳の若さで死去してしまったヤムズを追悼したもの。ヤムズは生まれながらに右眼下に紫色の痣を持っており、これを自らのアイコニックな身体的特徴としていたのだ。

 「Live. Love. ASAP」で一躍時の人となったロッキーは、勢いそのままに1stアルバム「Long. Live. ASAP」を2013年1月に、2ndアルバム「At. Long. Last. ASAP」を5月にリリースすると、2作続けて全米アルバムチャートで1位を獲得。名実ともに全米を代表するラッパーの1人として地位を確立すると、今度は自身の居場所であるエイサップ・モブの"顔"として2016年の1stアルバム「Cozy Tapes Vol. 1: Friends」と、2017年の2ndアルバム「Cozy Tapes Vol. 2: Too Cozy」で精力的な活動を見せた。その後も2018年に自身の3rdアルバム「TESTING」をリリースするだけでなく、他アーティストの楽曲にも多数参加しており、2013年からの6年間は信じられないスピードで作品を量産していたのである。だが膨大な楽曲数と反比例し、日本ではロッキーの名前は知れど楽曲を聴いたことがない方が多いかと思うので、本稿の最下部に「まずは聴いておくべき10曲」を紹介しているのでぜひ聴いていただきたい。また後述するが、ロッキーはヴィジュアル面にもかなりのこだわりを持っているので、あわせてMVにも目を通してほしい。

ファッションアイコンとして引く手数多

 その佇まいと類いまれなるセンスで、デビュー当時よりファッションブランドから引く手数多だったロッキー。これまでキャンペーンに登場したブランドだけでも、いち早く目を付けた「ディーケー エヌワイ(DKNY)」や「サルヴァトーレ フェラガモ(Salvatore Ferragamo)」にはじまり、「ゲス(GUESS)」「カルバン・クライン(Calvin Klein)」「ディオール(DIOR)」「グッチ(GUCCI)」など枚挙にいとまがないので、今回はハイライト的な協業事例をいくつか紹介したい。

 ロッキーは、自身の頭の中を具現化するクリエイティブ・エージェンシー「アウグ(AWGE)」を早くから結成しており、MVやマーチャンダイズは基本的に同エージェンシーが監修しているのだが、そのオリジナリティの高さは「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW Anderson)」をも魅了。2016年にロッキーではなく「アウグ」とのコラボアイテムを発売している。なお、「アウグ」はロンドンの老舗百貨店「セルフリッジズ(Selfridges)」内に常設展をオープンするだけでなく、清水慶三が手掛ける「ニードルズ(Needles)」とは定期的にアイテムをリリースし、「マリーン セル(Marine Serre)」や「メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)」ともコラボを果たすなど、エージェンシー以上の存在となっているのだ。

 2つ目は、普段から頻繁に着用している懇意の「グッチ」だ。メゾンブランドの多くがファッションショーの招待状に創意工夫を凝らすのだが、「グッチ」は2017年秋冬コレクションの招待状に12インチのレコードを採用。そのB面には、ロッキーが19世紀の小説家ジェイン・オースティン(Jane Austen)の作品「Persuasion」を朗読する音声が録音されていたのである。なおA面は、UKのミュージシャンのフローレンス・ウェルチ(Florence Welch)が同国の詩人ウィリアム・ブレイク(William Blake)の「Songs of Innocence」と「Experience」を朗読する音声だったとのこと。

 3つ目は、エイサップ・モブ名義でリリースした楽曲「RAF」だ。ロッキーは、過去にツイッターで「RAF IS OUR FASHION GOD」と呟くほどの"信者"で、リリックでは「ラフ シモンズ(RAF SIMONS)」への愛を「Please don't touch my Raf」などとラップしている。そしてMVは、「ラフ・シモンズ」のデビューショーである1995-96年秋冬コレクションを彷彿とさせる内容となっているのだが、そのあまりの出来の良さから「ラフ・シモンズ」が公式サイトに使用していたことも。なお同楽曲には、ロッキーの他にプレイボーイ・カルティ(Playboi Carti)、クエヴォ(Quavo)、リル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert)、フランク・オーシャン(Frank Ocean)が参加している。

 最後は、2018年にリリースされた「アンダーアーマー(Under Armour)」とのコラボスニーカーだ。その前年、トラヴィス・スコット(Travis Scott)とケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)が「ナイキ(NIKE)」と、ファレル・ウィリアムス(Pharrel Williams)が「アディダス(adidas)」「シャネル(CHANEL)」と、タイラー・ザ・クリエーター(Tyler,The Creator)が「コンバース(CONVERSE)」とコラボスニーカーを発表するなど、2017年は今日まで続くラッパー×スニーカーのムーブメントが巻き起こった年で、有識者たちの間では頻繁に「果たしてエイサップ・ロッキーはどのブランドを選ぶのか」が議題に挙げられていた。そんな中、ロッキーが選んだのは(失礼ではあるが)まさかの「アンダーアーマー」で、多くのファンが「ナイキ」や「アディダス」を想定していただけに、SNSには肩透かしを食らった声が多数上がっていた。なお、「SRLo」と名付けられたコラボスニーカーは、スニーカーブランド「オサイラス(OSIRIS)」の人気モデル「D3」にデザインが酷似していたため、法廷闘争にもつれかけるという苦い思い出に終わった。

まずは聴いておくべき10曲

1曲目:Peso

デビューミックステープ「Live. Love. ASAP」(2011年)収録曲で、ロッキーの名を世間に知らしめた必聴曲。MVは、ロッキーが育ったハーレムの英雄キャムロン(Cam'ron)の「My Hood」にオマージュを捧げている。

2曲目:Fashion Killa

1stアルバム「Live. Love. ASAP」(2013年)収録曲で、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「リック・オウエンス(RICK OWENS)」など数多くのブランド名がリリックに登場。また、MVにはリアーナが出演している。

3曲目:LSD

2ndアルバム「At. Long. Last. ASAP」(2015年)収録曲で、タイトルは合成麻薬と"LOVE"、"SEX"、"DREAM"から。トリッピーな世界観が特徴で、歌舞伎町で撮影されたMVにはYOONやANARCHYが登場する。

4曲目:Lord Pretty Flacko Jodye 2 (LPFJ2)

2ndアルバム「At. Long. Last. ASAP」(2015年)収録曲で、リードシングルの1つ。ライブの際にオープニング曲としてよく使用されている。

5曲目:Yamborghini High(feat. Juicy J)

エイサップ・モブの1stアルバム「Cozy Tapes Vol. 1: Friends」(2016年)収録曲で、ジューシー・J(Juicy J)を迎えた楽曲。つい通信回線の不具合を疑ってしまうMVは必見。

6曲目:Feels So Good

2ndアルバム「Cozy Tapes Vol. 2: Too Cozy」(2017年)収録曲で、ロッキーの他にエイサップ・ファーグ(A$AP Ferg)、エイサップ・ナスト(A$AP Nast)、エイサップ・トゥウェルヴィー(ASAP Twelvyy)が参加しており、シンプルなビートゆえにそれぞれの良さが光る筆者のお気に入り楽曲。

7曲目:RAF(feat.A$AP Rocky,Playboi Carti,Quavo,Lil Uzi Vert,Frank Ocean)

2ndアルバム「Cozy Tapes Vol. 2: Too Cozy」(2017年)収録曲で、ロッキーの他にプレイボーイ・カルティ(Playboi Carti)、クエヴォ(Quavo)、リル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert)、フランク・オーシャン(Frank Ocean)が参加した豪華楽曲。タイトル通り、ロッキーが敬愛する「ラフ シモンズ(RAF SIMONS)」への愛をラップしている。

8曲目:A$AP Forever

3rdアルバム「TESTING」(2018年)収録曲で、キッド・カディ(Kid Cudi)らを迎えた楽曲。テクノアーティストであるモービー(Moby)の楽曲「Porcelain」をサンプリングし、エイサップ・モブへの自信や愛をラップしている。

9曲目:Praise the Lord (Da Shine)

3rdアルバム「TESTING」(2018年)収録曲で、スケプタ(Skepta)を迎えた楽曲。"ニューヨークの顔"と"ロンドンの顔"という米英スターが共演した中毒性の高いトラックで、MVもそれぞれの都市をレペゼンした内容に。

10曲目:Potato Salad

アルバム未収録曲で、親友タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)との楽曲。R&B歌手モニカ(Monica)の楽曲「Knock Knock」をサンプリングしており、パリで撮影されたMVにはジェイデン・スミス(Jaden Smith)がカメオ出演している。

■いまさら聞けないあのアーティストについて:連載ページ

クリエイティブコレクティブ

インターネット・ボーイフレンズ

Internet BoyFriends

東京とロンドンを拠点に活動するエディターやライター、スタイリスト、フォトグラファー、グラフィックデザイナーが所属。

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