エミリー・アダムス・ボーディ
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Fashionインタビュー・対談

【インタビュー】NY発の若手ブランド「BODE」に聞く、エモーショナルな服の作り方

エミリー・アダムス・ボーディ
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 エミリー・アダムス・ボーディ(Emily Adams Bode)が手掛けるNY発の若手ブランド「ボーディ(BODE)」。ヴィンテージ素材を活用したコレクションで知られ、2020 インターナショナル・ウールマーク・プライズでカール・ラガーフェルド・アワードを受賞するなど注目を集めている。

 メンズウェア市場では未だ珍しい女性デザイナーによる服は、「エモーショナル」という言葉で表現されることも多い。ボーディの服に感情が宿る理由を掘り下げていくと、エミリーが焦点を置くクラフトへの女性による貢献の歴史があった。ニューヨークで新しいアトリエに引っ越したばかりだというエミリーに、Zoomで話を聞いた。

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― エミリーさんがファッションに目覚めたきっかけは?

 具体的な出来事が何か一つあったわけではないですが、ファッションに関しては母や叔母を通して学んだと思います。彼女たちは子どもの頃に着ていた服をクローゼットに残していて、私は4年生ぐらいの頃から母のお古を借りてコーディネートするようになりました。ファッションとの出会い、というとその体験がふさわしいかもしれません。

 デザイナーという仕事があるということを理解し始めたのはもっと後。高校の卒業が近づき進路について考えている中で、ファッションの学校に行って、それをキャリアにもできるんだ、と思うようになりました。

― パーソンズ美術大学ではなぜメンズウェアを専攻したのでしょうか?

 学校の課題でメンズ服を作ってみて、私の中で「これは拡げていける」と感じたからです。あとは、自分が着る服を仕事として作ることに興味が湧かなくて。自分や女友達が着るために服を作ること自体は大好きなのですが、その服の周りに一から世界観を作り出すことには興味がなかったというか。自分とは全く違う趣味があって、着こなし方があって、フィロソフィーがある……私の直接的な経験とは違うところにいる「誰か」のために服をデザインする、というアイデアのほうがしっくりきたんです。ボーディのデザインは私にとってパーソナルなものでありつつ、メンズウェアは私の"外"にあるものなので。

― メンズウェアを手掛ける女性デザイナーは未だ珍しい存在ですよね。

 そのこと自体が、他のメンズブランドとボーディを差別化させていると思います。ボーディでは、女性が主に担ってきた伝統やクラフトを、メンズウェアの文脈に持ってきているんです。それは例えば、手織りだったり、刺繍だったり、修復することだったり、キルトだったり、パッチワークだったり。

 ボーディで使っている素材は、女性の家着として昔よく使われていた生地や、女性によって作られた生地など、"女性中心"のものがほとんどです。だから、ボーディが使っているファブリックには、家庭という空間、コンフォート、家、家族…というアイデアが内在していると思うんです。

ミュージシャン ハリー・スタイルズもボーディのファンとして知られている。ハリーが着用しているSenior Cordトラウザーズは定番アイテムで、購入時に自分の好きなモチーフ等についてボーディのスタッフがヒアリングし、オリジナルのドローイングを施してくれる。

― 家庭というコンセプトに関連して、子ども服のようなユーモラスな要素もデザインに見られます。

 子ども服は常に興味の対象で、ボーディでも子ども服やベビー服を展開しています。子ども服の、気まぐれで、ボーイッシュで、ちょっと風変わりで、手仕事を感じられる、そんなところが大好き。子ども服の周りには「感情」があると思うんです。それは、出産や誕生日など人生のイベントに合わせてギフトとして子ども服を贈ることが多いのも関係していると思います。子ども服になぜ「感情」を感じるのか? ボーディではそのアイデアをメンズウェアのフォーマットに落とし込んでいます。

― それこそ、ボーディの服を「エモーショナル」と表現する人が多いですよね。どのような方法で服に感情を落とし込んでいるのでしょうか?

 クラフトへの情熱と、扱っている生地がどこかのタイミングで人の手によって作られている、ということを念頭に置きながら服を作ることでしょうか。ハンドクラフトを大切にしたり、ちょっと風変わりなものに注目してみたり、家庭的な要素を持った生地を使うようにしたり。

 一点物の服に関しては、使っているアンティークのテキスタイルはどれも誰かに愛されてきたものたち。だから、それらには人間的なタッチだったり、「生き続けるもの」が宿っていると思うんです。ボーディの服に関して、エモーショナルと同じく「コンフォーティング」と言われることも多いです。長い間、誰かに愛されてきたものなので、感情がファブリック自体に備わっているというか。生地に織り込まれているんです。

 ヴィンテージ素材を使っていないものに関して、例えばレプリカのようなアイテムで、昔は手縫いだったものを今はミシンで縫っているとしても、服の背景にある考えやコンセプトは今も健在している。だからボーディは、素材からハンドタグ、コピー、イメージメーキングまで、その感情が残るように意識しています。

― 現状、アンティーク・ヴィンテージ素材はコレクションの何割を占めているんでしょうか?

 シーズンごとに違いますが、平均で40%くらいです。アンティークのテキスタイルに限らず、デッドストックの素材も多く使っています。中には200年前のテキスタイルもありますね。

― サステナビリティの文脈で語られることも多いですが、ボーディが実践するアップサイクリングはクラフトへの愛から始まっているんですよね。

 そうですね。ボーディでやっていることは、単にアンティーク生地を再利用するのではなく、それらに付随するクラフト技術や伝統を守ることなんです。だからすでにある素材だけに集中するのではなく、(素材を新たに作ることで)その伝統を途絶えないようにしたり、再生させることも大事だと考えています。

 サステナビリティへの取り組みについては様々な歯車があって、100年以上の歴史を持つ家族経営の工場に生産をお願いしたり、ソーシャルグッドな要素を持つ企業と仕事をすることを意識したりしています。

― ヴィンテージ生地はどこで買い付けているんでしょうか?

 コレクションによりますが、多いのはニューイングランドやミッドウエスト。あとは、コレクションで頻繁に使うティッキングストライプはフランスで調達したり、ウォールブランケットは英国やアイルランドなど、ヨーロッパもたまに行きます。ただ全体的に見ると、アメリカが多いと思います。

― アンティーク生地を選ぶ時の基準は?

 来歴で選んでいます。歴史的に重要な視点が込められたものなのか、どこから来たものなのか、誰が所有していたものなのか。あとは、家庭内の伝統的な文化や歴史的な意味で、どんな役割を果たしていたものなのか。もちろん、繊細で複雑な刺繍など、テキスタイルに見られる手仕事も重要です。

― アトリエにはたくさんの生地がありそうですね。ボーディが提案している男性像もコレクター的なイメージですし、いわゆる最近のトレンドであるコンマリ的なシンプルライフとは逆行していますよね。

 そうですね(笑)。今Zoomをしているこの場所に最近アトリエを移転して、これまで集めてきたテキスタイルなどはここにまとめるようにしたんです。仕事も大切ですけど、同じくらい、仕事外の人間関係も大事にしたい。私生活のパートナーにとって、ゆっくりしたい家にボーディのインスピレーションクローゼットがあることが良いとは限りませんから(笑)。仕事から離れつつ"住みやすい"家をキュレーションすることは、今の課題なんですよ。

― 今回インターナショナル・ウールマーク・プライズで発表したコレクションについて教えて下さい。

 アーティストで私の友人でもあるベンジャミン・ブルームスタイン(Benjamin Bloomstein)の幼少期が着想源です。教育や経験など、何が今日の彼を作ったのか? 彼の経験から、再利用、自給自足、サステナビリティといったカルチャーを抽出し、服に落とし込んでいます。

ボーディによる受賞コレクションから、馬のショー用ブランケットを再利用・リメイクして作られたオーバーコートやスーツ、1930年代に稼働を終えたニット工場のステッチサンプルから着想を得た、追跡可能で認証済みのメリノウール・ジャカードニット、メリノウールを個別にかぎ針で編んだ何百もの小花の集まりによって作られたハウスコートなどが登場。ユナイテッドアローズ、ユニオントーキョー、メイデンズショップ、フリークスストア、FAYE、リリー デル サローネ、HNW Storeなどで販売中。

― 賞金として10万豪ドルを獲得しましたが、ボーディで次にしたいことは?

 今回のウールマークとの取り組みを通して出会ったマニュファクチャラーとの仕事を続けていきたいです。これまで仕事をしたことがなかった工場と繋がりができ、素晴らしいサンプルを出してもらうことができたので。

― 2021年春夏コレクションの発表予定は?

 近々バイヤー向けに発表します。プレス向けの発表は、お店に並ぶ時期を予定しています。コレクションの発表の仕方や時期について今後どうしていくのかは考え中です。

― 拠点を置くニューヨークはロックダウンに入ったり、新型コロナの影響が大きかった一年だったかと思います。エミリーさんの考え方にはどのような変化がありましたか?

 私個人ではなく会社として、一時停止することや、時には「ノー」といっても良いんだということを学びました。気がつけばずっと走り続けていたんです。常に複数のプロジェクトを進行していて、それら全てを納得のいく良いものに仕上げるのは、とっても難しい。時にはスケジュール的に厳しい納期もありますし。ロックダウンによって一度強制的に止まらざるを得なくなったことで、「私達が本当に集中すべきことは何なんだろう?」と考え、優先事項を整えることができました。それは例えば、ECサイトへの注力だったり、新しいスタジオを作ることだったり。

― 最後に。色々とあった2020年ですが、今年買って最も良かったものは何ですか?

 "飼った"という意味では犬です! 買ったわけではないんですが(笑)。ワイアーヘアード・ポインティング・グリフォンという犬種で、母親から譲り受けたんですがまだ子犬なんですよ。マンデイという名前。今この取材中もアトリエで走り回っていて、いたずらっ子ですがとっても可愛いんですよ。

エミリー・アダムス・ボーディ
米ジョージア州アトランタ出身。パーソンズ美術大学でメンズウェア、Eugene Lang Collegeで哲学を学ぶ。自身の名を冠したメンズウェアブランド「ボーディ(BODE)」は2016年にデビュー。2019年にLVMHプライズのファイナリストに選出され、2020年インターナショナル・ウールマーク・プライズでカール・ラガーフェルド・アワードを受賞した。

(聞き手:谷桃子)

ボーディ:公式サイト
インターナショナル・ウールマーク・プライズ:公式サイト

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