ロマンチックな曲線美、ふんわりとしたパフスリーブに透け感のあるテキスタイルで、着る人すべてを虜にする魔法のようなドレスを作り続ける「セシリー バンセン(Cecilie Bahnsen)」が、今年7月に「アシックス(asics)」とのコラボレーションを発表した。クチュールの要素を取り入れたセシリー バンセンとは相反するスポーツブランドとのタッグでありながら、レースやリボンなど、従来の型にはまらないディテールが心をくすぐるランニングシューズは多くの注目を集め、瞬く間に完売。11月22日には、第2弾となる新作を発売する。発売を前に来日したデザイナーのセシリー・バンセンへのインタビューを通して、心ときめくフェミニンで“カワイイ“クリエイションの秘密を紐解く。
ブランドらしさと相反する「アシックス」コラボに込めた思い
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─まずは、今回アシックスとのコラボに至った経緯を教えてください。
1年半ほど前、「コレクションの中にテック系のスニーカーが欲しい」と思いついて、真っ先にアシックスにコンタクトを取ったのがきっかけです。ちょうどそのとき、アシックス側も私たちのようなウィメンズブランドとコラボレーションしたいという考えがあったらしく、お互いのヴィジョンが一致したことから、トントン拍子で実現しました。
─アシックスのスニーカーは、セシリー バンセンが持つイメージとは相反する存在にも感じられます。
確かに真逆の存在とも言えますが、アシックスが打ち出すマスキュリン(男性的)なデザインによって、私たちが得意とする柔らかさとのコントラストが引き立つと思ったんです。製作時には、テクスチャーや色、透明感など、私たちが持つフェミニンな世界観をどのようにアシックスのシューズに取り入れるのかが重要だと考えていたので、2つの世界を融合させるような感覚でしたね。
─アシックスとのプロジェクトは今後も継続予定?
今後も続けていきたいです。これまでは、アシックスの視点でシューズの作り方や見せ方をまとめてくださっていたので、次の機会には、よりセシリー バンセンのエッセンスを入れた、新しくて挑戦的なデザインにしたいと考えています。
─過去には「スイコック(SUICOKE)」や「マッキントッシュ(Mackintosh)」とも協業していますが、他のブランドとコラボレーションする意義についてどう考えていますか?
一度きりのコラボレーションで終わってしまうよりも、長期的に取り組んで、互いにとって良い影響を与えられるようなパートナー選びをしています。共通のゴールをもとに、同じ姿勢でものづくりに取り組める相手かどうかを見極めていますね。マッキントッシュとのコラボレーションも、「またいつか何かできたら」と話しています。
第2弾のコラボスニーカー
「FRUiTS」を読んで東京に憧れた10代
─今回が5度目の来日とのことですが、日本のものからインスピレーションを受けた経験はありますか?
東京の街や、東京の人特有の服の着こなし、建物の成り立ちなど、さまざまなものから面白いエッセンスを感じています。東京に住む人々は、トレンドのファッションを自分なりのスタイルにまとめることに対する情熱があるように思うので、見ていて楽しいですし、訪れるたびに、歴史的な側面とモダンなファッションの両方からインスピレーションを受けています。
─東京はどんなイメージですか?
コペンハーゲンで育った私にとって、東京は、北欧のミニマリズムの思想とは相容れない性質がとても新鮮でした。「東京には北欧とは全然違う世界があるんだろうな」という憧れもあって、10代の頃は、ファッション誌の「フルーツ(FRUiTS)」を集めていました。それこそ、今回のコラボでヴィジュアルを依頼したホンマタカシさんの写真もよく目にしていましたね。
─昨今、日本では、セシリー バンセンのコピーのようなデザインの服を着ている若者をよく見かけます。
日本だけではなく、コペンハーゲンでも、セシリー バンセンのようなデザインの洋服を着ている若者を見かけることがあります。ただ、意図的にコピーしたデザインでない限りは、否定するつもりはありません。私たちのクリエイションが他の人々をインスパイアできている証のようにも感じられますし、似たようなデザインが生まれることは、トレンドの変遷の中で必ず起こりうるムーブメントの一環として、ポジティブに受け止めています。
多様性の時代に提案する“フェミニン”のあり方
─ものづくりをする上でのインスピレーション源は?
新たにコレクションを制作する時は、過去のコレクションを振り返った上で「何に磨きをかけたいのか」や「スタジオにいるチームがコレクションをどう着こなしていたか」をもとにイメージを膨らませています。あとは、日常の何気ない瞬間ですね。ドレスを着て自転車に乗るときに裾が引っかからないように結んだり、作業をするときに袖が邪魔にならないよう、捲ってミシンで仮縫いをしたりするんですが、そういうちょっとしたタイミングで生まれたシルエットが意外と可愛かったりするんです。偶然のひらめきから新しいものづくりができると考えているので、一瞬一瞬を大切にしています。
─「セシリー バンセン」といえば、ロマンチックさや、独特の柔らかさを持つ曲線美といったキーワードが思い浮かびますが、デザイナーとして、ブランドらしさをどう捉えていますか?
私たちの作るドレスは、とてもフェミニンなデザインでありながら、スウェットやTシャツにも合わせられるような快適さもあるのが魅力だと考えています。女性らしさと快適さ、気楽さをミックスして、日々の生活の一部に取り入れることができるところがブランドらしさに繋がっていると思います。
─ロマンチックなデザインは、日本語では「カワイイ」と表現されますが、セシリーさんが考える「カワイイ」の定義とは?
セシリー バンセンのコレクションは、花柄や生地を重ね合わせたレイヤリング、透け感など、「カワイイ」と表現される要素を多く含んでいます。ただ、私たちは型にはまった可愛らしさではなく、着る人が自分なりの着こなしでドレスとスニーカーを組み合わせたりしながら、「自分のスタイルの中でどう女性らしさを演出するのか」を大事にしてほしいと考えながらものづくりをしています。一人一人が自分らしいスタイルを楽しむことこそが「キュート」や「カワイイ」の定義だと考えているので、いろいろなスタイルに私たちのアイテムを取り入れて欲しいですね。
─近年、ジェンダーにおける多様性への認識が広がりを見せる中、「男性らしさ」「女性らしさ」という言葉の使いづらさを感じることが増えました。セシリー バンセンは「女性らしさ(femininity)」がアイデンティティの一つでもあると思いますが、そういった動きについてどう考えていますか?
ジェンダーを限定するような表現を避けるのはとても良いムーブメントだと感じています。私は、セシリー バンセンのアイデンティティはそのフェミニンさにあると自覚していますが、「全ての性の人に向けたフェミニン」であることを念頭に置いてクリエイションをしています。アシックスとのコラボシューズをユニセックス展開にしているのも、「履きたい」と思った人全員に届けられるようにするためです。「フェミニン」という言葉は、「女性が女性らしくいなければいけない」という意味ではないと考えているので、全ての人々が日常に「カワイイ」を取り入れたいと感じたときに選んでもらえるブランドであり続けたいですね。
(聞き手:張替 美希)
■セシリー・バンセン(Cecilie Bahnsen)
2007年にデンマーク王立芸術アカデミーを卒業し、そこで出会ったデザイナーAnja Vang Kraghの最初のアシスタントとして、パリの「ディオール(DIOR)」や、コペンハーゲンのロイヤルデンマーク劇場でフリーランスの仕事に取り組む。その後、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)の元でインターンシップを経験。2010年に、イギリスのロイヤル・カレッジ・ オブ・アートのウィメンズデザイン部門を卒業。ジョン・ガリアーノのスタジオで更にキャリアを積み、2011年にイギリス発の「アーデム(ERDEM)」でデザインアシスタントに就任。2015年に故郷のデンマーク・コペンハーゲンに戻り、自身のブランド「セシリー バンセン(Cecilie Bahnsen)」を立ち上げた。2017年にLVMHプライズのファイナリストに選出されたことで、若手注目ブランドとして一躍脚光を浴びる。
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