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「デザイン画は出発点の一つに過ぎない」 クレイグ・グリーンが信じる“手で作る”ファッションの価値

クレイグ・グリーン

クレイグ・グリーン

Image by: Dover Street Market Japan Co., Ltd.

クレイグ・グリーン

クレイグ・グリーン

Image by: Dover Street Market Japan Co., Ltd.

クレイグ・グリーン

クレイグ・グリーン

Image by: Dover Street Market Japan Co., Ltd.

 制服の実用性と祭服の精神性を巧みに融合させながら、服とは呼びがたい意味ありげな立体物をモデルに括り付けた、クレイグ・グリーン(Craig Green)の卒業コレクション。当時のことを知る者は、服の概念を腕づくで拡張されたあの衝撃を忘れないだろう。その後、自身の名を冠したブランドを設立。リアルクローズと彫刻、機能とファンタジーが奇妙に同居する作風を貫き、ロンドン前衛の旗手として市場と批評家の双方から高い評価を得てきた。「アディダス(adidas)」や「モンクレール(MONCLER)」との協業など引く手数多の華々しいキャリアを築く一方、商習慣を破る年1回のコレクション発表や、教育現場への積極的な参加など業界を巨視的に捉えた活動も話題に。2022年には大英帝国勲章を受勲し、名実ともに同国を代表するデザイナーと言える。そんな同氏が、ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)でのインスタレーションに合わせて来日。最新コレクションの背景、制作プロセスへのこだわり、次世代へのまなざしを通して、イギリスファッションの顔となったグリーンの思考に迫った。

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■クレイグ・グリーン
 1986年ロンドン生まれ。セントラル・セント・マーチンズのMAコースを卒業後、2012年に「クレイグ グリーン(CRAIG GREEN)」を設立した。2014年にはBritish Fashion Awardsでメンズウェア部門の新人デザイナー賞、2016年から3年連続で同アワードのメンズウェア部門の大賞を受賞するなど、現代のイギリスを代表するデザイナーとして高く評価されている。また、2023年にはウィーン応用美術大学のファッションデザイン教授に就任するなど、教育者としても活動している。

クレイグ グリーンのインスタレーション

インスタレーション

Image by: Dover Street Market Japan Co., Ltd.

制服が持つ“民主化の魔法”、機能が内包する“可能性の美”

⎯⎯まずは、今回のDSMGでの展示について教えてください。

 2026年春夏コレクションをベースにしたもので、マネキンを使って実際のルックを展示しています。ドーバー ストリート マーケットのニューヨーク店とロサンゼルス店で先んじて行ったインスタレーションに、先月パリ店と銀座店で披露した小規模な展示の内容などを加えて、巡回の集大成のような作品に仕上げました。壁には、今季のコレクションのキーカラーで、1960年代後半から70年代前半のイギリスを象徴する「ハーベスト・イエロー」という色を一面に塗りました。黄色い部屋では人々が口論になりやすく、赤ちゃんが泣きやすいことが発見されているように、色が持つ前向きなイメージとは裏腹に攻撃性や怒り、悲しみなどの感情を引き起こす点が興味深い。そのほかにも、電球で光る眼鏡や口から飛び出す布など、コレクションに登場したアイコニックな演出を取り入れています。

CRAIG GREEN 2026年春夏コレクション

CRAIG GREEN 2026年春夏コレクション

Image by: CRAIG GREEN

CRAIG GREEN 2026年春夏コレクション

CRAIG GREEN 2026年春夏コレクション

Image by: CRAIG GREEN

 今季は、サイケデリアの要素も特徴です。フリーマーケットなどで調達したヴィンテージのベッドシーツを参考に、グラフィックを製作しプリント生地に仕上げました。ベッドシーツは不思議なもので、生活の親密な部分に関わっているのに、例えばホテルでは洗濯済みとはいえ共有しますよね。下着を人と共有することは決してないのですから、そこに境界線があってベッドシーツの共有に抵抗を覚えないことは面白いことです。シーツは、就寝中の一番無防備な自分を守る層だと考えています。そこで多くの親密な瞬間が生まれ、サイケデリックな感覚が湧いてくるんです。

⎯⎯コレクション全体のテーマは?

 ビートルズ(The Beatles)がテーマでしたが、彼らの音楽やファッションを直接的に表現したわけではなく、彼らが20代の短期間に大量の作品を生んで絶大な成功を収めたこと、若者たちが何かを探求する余地や自由があった時代そのものに着想を得ています。また、我々が以前から制服や集団に関心を寄せてきたことにも繋がります。今はとても個人主義的な時代ですが、自分が何かの集団の一員であるという感覚は、ある種理想的でロマンティックだと思うんです。共通した美意識を持つ4人組のバンドなど、今ではかなり珍しい存在ですから。

CRAIG GREEN 2026年春夏

全ルックはこちら

CRAIG GREEN 2026年春夏コレクション

2026 SPRING SUMMERファッションショー

⎯⎯話題になった口から布が飛び出しているルックも再現されていますね。

 あの演出は、子供の頃にシーツを噛んだり怖がったりした時の触覚的な感覚を表現したものです。マシュー・バーニー(Matthew Barney)の短編映画シリーズ「クレマスター」からの影響もないことはないですが、より個人的な記憶に紐付いています。あと、少しエクトプラズム(霊媒の口や鼻から放出され、霊の姿を視覚化させる反物質)のように見えるところも気に入っています。霊が体から出ていく様子を写した心霊写真が、口から布が出ているように見えたりする、あのイメージを取り入れました。

⎯⎯マネキンやゾウの目が光っているのは、何を表現していますか?

 ビートルズが活躍した時代はLSDなどの薬物が流行した時期ですから。ゾウもトリップしているということです(笑)。

クレイグ グリーンのインスタレーション

インスタレーション

Image by: Dover Street Market Japan Co., Ltd.

⎯⎯なるほど(笑)。制服の話題が出ましたが、それらをブランドの軸にしている理由は何ですか?

 私が興味を惹かれるのは地位を示すための制服ではなく、何かしらの物理的な目的を内包した機能的な制服です。パフォーマンスや行動を助けるための衣服、といった感じでしょうか。私がそうした服に美しさを感じるのは、家族が配管工や大工などの職人仕事に従事していたことが影響していますが、そもそも制服は今や希少でロマンティックなものです。手を使った肉体労働は少なくなっていますし、オフィスに通う人たちでさえ、もうオフィスには行かなくなっていますから。

 制服は、抑圧的で支配的なものと捉えられがちですが、私はある意味で民主的なものだと捉えています。私が通った学校は年に一度私服の着用が許される日があり、多くの生徒が楽しみにしていたのですが、中には制服を着たいという子もいました。ファッションのセンスが問われたり、経済的な格差があらわになることが嫌だったのです。制服を着ていれば誰もが平等に見え、人格や能力だけで判断してもらえる。制服には魔法のような力があると思うんです。

⎯⎯コードのディテールも、ブランドの中で何度も繰り返し登場している要素ですよね。

 私は、かつて何かに使われていたとか、これから何かに使えるかもしれないといった、可能性を感じさせるものに美しさを感じるんです。紐やコードは、自分の体型や好みに合わせて形を整えたり、あるいはそのままストレートに着たりできる点が好きです。機能的な役割を果たすことも、逆に全く意味がないこともあって、その間に美しさが宿ります。軍服などにも何かを縛るための紐がよく付いていますよね。その紐はすでに目的を失って機能していませんが、まだ何かできるような可能性を感じさせる。そうしたエネルギーにずっと惹かれていて、いつの間にか自分自身の表現の一部になりました。

CRAIG GREEN 2020-21年秋冬コレクション

CRAIG GREEN 2020-21年秋冬コレクション

Image by: CRAIG GREEN

デザイン画は出発点の一つに過ぎない

⎯⎯コレクションではいつも実験的なアイデアに挑戦する一方、日常になじむリアルクローズも作り続けていますよね。両者のバランスに付いてどう考えていますか?

 実験的な試みや物語性に重点を置いた作品であっても、伝統や現実に根ざしていることは大切です。そうでなければ、アイデアが暴走してしまう可能性があります。制約の中でこそ創造性は発揮され、真の問題解決につながるのだと常に考えています。「何でも好きなことをしていいし、お金もいくらでも使っていい」と言われるよりも、「こうしなきゃいけない」という状況の方がむしろ良かったりするのです。

⎯⎯なぜアートではなくファッションデザインを選んだのかについてもお聞きしたかったのですが、その理由に繋がりそうなお話です。

 まさに、その制約のために私はファッションを選びました。入学当初はアーティスト志望で、ファッションのことは何も知りませんでしたが、転向は理にかなっていたと思います。身体という制約があることは素晴らしい。身体はどの時代でも大きな変化がなく、その強固な枠組みの中でどれだけ新しいことができるか、という点が面白いのです。特に男性の身体には多くの制約があり、それに取り組むこと自体が大きな挑戦で、物事を限界まで押し広げるチャンスになります。それに、私はより人間的なものが好きでした。身体と不可分の衣服には、おのずと人間らしい温かみが生じるのです。

 話を戻しますが、我々のコレクションにはごく実用的なデイリーウェアと、日常生活ではまず着ることのできないような彫刻のような作品が共存しています。この対比が最も肝心で、両者を互いに引き立て合うように配すのです。例えば、実験的なルックにリアルな要素を少し添えるだけで、物語の伝わり方が変わってより面白くなることがあります。補色のような関係ですね。

CRAIG GREEN 2015年春夏コレクション

CRAIG GREEN 2015年春夏コレクション

Image by: CRAIG GREEN

CRAIG GREEN 2015年春夏コレクション

CRAIG GREEN 2015年春夏コレクション

Image by: CRAIG GREEN

⎯⎯斬新なコンセプトに注目が集まりがちですが、服作りそれ自体はむしろ実践的ですね。素材に触れて、それらを組み上げるというプロセスは、どのような価値がありますか?

 私は、“物作り”つまり「手を動かして作りながらデザインすること」を強く信じています。美しいデザイン画が描けることは素晴らしいですが、殊ファッションデザインにおいて絵は出発点の一つに過ぎません。私が教授を務めるウィーン応用美術大学での授業では、学生たちにまず手を動かすことを促しています。頭の中だけで新しいものを作り出すことは非常に難しく、とにかく作り始める必要があるのです。物理的に何かを生み出し、その立体的な動きを観察しながら手を加えていく方が、はるかに可能性が広がります。

 我々のスタジオは、服作りをするアトリエとインスタレーションの制作スペースが同居しています。アトリエではカッティングや縫製を行い、もう一方の制作スペースには木材などの素材が並んでいます。今回の展示に用いたマネキンなどもそのスペースで制作しました。そこにいる全員が常に物理的な何かを作っている、そんな環境なのです。社会はデジタル化へと不可逆の道を進んでいますが、我々はこうしたアナログなプロセスを守り続けていくべきだと考えています。

学生を蝕む恐怖心と、クリエイティブ思考の社会的価値

⎯⎯年に1回という一般的なブランドとは異なるスケジュールでコレクションの発表を行っていますが、どのような影響を感じていますか?

 厳密には、シーズンごとにコレクションはあるのですが、ショーやキャンペーン、ヴィジュアルといった形式で発表するのが年に1回です。ショーなどを通じてコレクションを発表する場合、人々に何か強烈な感情を抱かせるような物語性が重要です。一方で、そうした形式を採らない場合は、実用性がより重視されて製品そのものに焦点が当てられます。この2つの異なる仕事を別々に行うことは、我々にとって理にかなっているのです。リアルな普段着とその品質について考える時期がある一方で、完全なファンタジーを追求する時間もある。いつまでこれを続けるかという具体的な計画はありませんが、少なくとも今は正しい方法だと感じています。

クレイグ グリーンのインスタレーション

インスタレーション

Image by: Dover Street Market Japan Co., Ltd.

⎯⎯教育現場での経験に関連して、今の学生たちを取り巻く業界の環境や、学生自身のマインドセットについて感じている課題を教えてください。

 教授に就任して3年目になりますが、学生たちに強い恐怖心があることが心配です。画像があまりに手軽に見つかったり、SNSが生活に深く根付いている状況と関係があると思います。彼らはあまりに心配症で、アイデアがあるだけの段階で「3年前に見たあの作品に似ているかも」などと言って尻込みしてしまうのです。そうした学生に対して「まずは作ってみて、そこから一緒に手を加えながら変えていこう」と励ますのですが、その恐怖心がプロセスを最後までやり遂げる経験を妨げ、成長を阻害するのではないかと危惧しています。

 彼らは、さらに大きな不安も口にします。例えば、「近い将来、デザイナーは必要なくなるのではないか」とか「AI時代において、デザインはどういう意味を持つのか」といった懸念です。しかし、私は創造的な教育は常に重要だと信じています。デザイナーではない全く別の道に進んだとしても、たとえ政府機関で働くことになったとしても、クリエイティブな思考は社会全体を前進させる原動力なのです。そのプロセスを実践から学ぶことは本当に重要なので、学生たちにはもっと恐れ知らずに挑んでほしいのですが。

⎯⎯学生時代のご自身はどうでしたか?

 もちろん恐怖はありました。しかし、それはクリエイティブな仕事を志す者なら誰もが常に感じる種類のもので、それは最終的なアウトプットへと辿り着くためのプロセスそのものなのです。私が学生だった15年前とは、外部からの影響やプレッシャーの質も違っています。今の学生たちが感じている恐怖は、私が言うプロセスに内在する恐怖とは異なる種類のものだと感じているのです。

モチベーションは毎日上下する、それが健全

⎯⎯14年デザイナーを続けてきた中で、ご自身の中で変化したことはありますか?

 年を取ったし、疲れやすくなりましたね(笑)。ただ、業界は絶えず変化し、我々は毎シーズン新しい仕事に挑戦している。それが何よりワクワクすることで、様々なブランドとのコラボレーションはその最たる例です。他者のアイデンティティを自分たちのデザインに落とし込むこと、歴史あるブランドの伝統を自分たちのやり方で表現することは、とても新鮮で楽しい任務です。

⎯⎯「アディダス(adidas)」や「モンクレール(MONCLER)」「フレッドペリー(FRED PERRY)」などの大手ブランドとのコラボにも取り組んでいますね。コラボに積極的に取り組む理由を詳しく教えてください。

 先ほど話したデザインにおける「制約」の話になるのですが、モンクレールはダウンジャケット、アディダスはスリーストライプス、フレッドペリーはポロシャツといったように、ある枠組みの中で仕事が出来る点が好きです。小規模なものや単発のものもありますが、今挙げたブランドはどれも規模が大きく長期間にわたる協業でした。単に製品を作るだけではなく、人々がそのブランドに抱くイメージを更新し得るような、新しい独自のストーリーを共に築いていくのです。それは互いにとって刺激的な仕事です。

⎯⎯つまり、コラボの仕事を純粋に楽しんでいると。

 仕事は、楽しむことが大事です。楽しく取り組んでいると、大抵いい作品に仕上がります。例えば、アディダスとは合計で5年ほど一緒に仕事をしてきました。その間、毎月のように顔を合わせているので、親しくなって共通言語のようなものが生まれます。とても素敵な関係であり、楽しかったですよ。

⎯⎯ブランドを始めた当時と比較して、業界の変化をどのように感じていますか?

 ファッションへの注目がますます高まり、ブランドの数も増え続けるなど、規模が大きくなっているように思います。あくまで過去15年間の個人的な経験に基づく話ですが、私がファッションに興味を持ち続けられるのは、常に流動的な状態にあるからだと思います。何が起こるか予測がつかない。だからこそエネルギーが生まれ、多くの人の興味を惹くのです。

⎯⎯モチベーションが上下することはないのですか?

 日によって毎日上下しますよ。それが健全なことだと思います。物事にイライラしたり思い悩むことで、初めて前進できる。あらゆる視点から物事を見て、ネガティブな面もポジティブな面も同時に捉えて、そこから作品を生み出せばいいんです。毎日一定のモチベーションを維持できる場合は、ただの趣味なのか執着しすぎているのか、どちらかだと思います。

⎯⎯実験的なクリエーションに取り組む独立系ブランドが、10年以上継続して成長していくことは簡単なことではありません。長く成功し続けるために重要なことを教えてください。

 必要なのは特別なことではなく、努力です。一生懸命働き、全身全霊を注ぎ、自分が伝えたいことを信じ続けること。この業界は決して楽じゃないですが、自分のやるべきことに忠実であり続ければきっとうまくいくと思います。

FASHIONSNAP

佐久友基

神奈川県出身。慶應義塾大学法学部を卒業後、製薬会社に入社し着道楽を謳歌するも、次第に"買うだけ"では満足できなくなりビスポークテーラー「SHEETS」に弟子入り。4年間の修行の末「縫うより書く方が向いている」という話になり、レコオーランドに入社。シズニでワンドアなK-POPファン。伊勢丹新宿店で好きなお菓子はイーズのアマゾンカカオシュー。

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