
「オーガストバロン」(左:ベンジャミン・バロン、右:ブロール・オーガスト・ヴェストボ)
Image by: DOVER STREET MARKET GINZA
ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)のパブリックイベント「オープンハウス(OPEN HOUSE)」にあわせて来日した「オーガスト バロン(AUGUST BARRON)」のデザイナー、べンジャミン・バロン(Benjamin Barron)とブロー・オーガスト・ヴェストボ(Bror August Vestbø)。日本にはこれまでにも何度か訪れており、とりわけお気に入りの場所は神保町だという。インタビュー当日も、古い「マリ・クレール(marie claire)」を何冊か購入したと、嬉しそうに見せてくれた。
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二人の出会いは、2015年にバロンが立ち上げたエディトリアル・マガジン「ALL-IN」の創刊号。当時はバロンがフォトグラファーとして活動し、オーガストは複数のブランドでアシスタントをしていた。ALL-INで使う服を自分たちでDIYし、一点物を制作していくなかで、徐々にブランドとして活動することに興味を持つようになったという。
そして2025年秋、ブランド名をALL-INからオーガスト バロンに改名し、再スタート。スタイリストのロッタ・ヴォルコヴァ(Lotta Volkova)は初期から服を購入し、現在はチームメンバーとして参画。「LVMHプライズ2025」のファイナリストにもノミネートされるなど、いま注目を集めている若手ブランドの一つだ。二人の出会いから、ブランド名を変えたきっかけ、そしてクリエイティブとビジネスのバランスについて聞いた。
──まずは、お二人が出会う前のことをお伺いしたいです。それぞれファッションに興味を持ったのはどのようなきっかけでしたか?
べンジャミン・バロン(以下、バロン):うーん、はっきりは覚えていないのですが、母がよく僕に映画「アンジップト」を観せてくれたんです。ニューヨーク拠点のファッションデザイナーのアイザック・ミズラヒ(Isaac Mizrahi)による、コレクション準備からショー完成までのドキュメンタリーフィルムで、いまだに好きな映画のひとつ。でも、オーガストと出会うまで、まさかファッション業界で自分もデザイナーとして働くなんて想像もしていなかった。なんていうか、ファンのままで十分だったというか。オーガストは小さい頃からデザイナーに憧れていたんだよね?
ブロー・オーガスト・ヴェストボ(以下、オーガスト):そうだね。何歳だったかも覚えていないくらい、本当に小さい頃から将来の夢はデザイナーだって決めていました。影響を受けたものは、ディズニープリンセスが大変身を遂げるようなアニメのシーン。「シンデレラ」が舞踏会に行くためのドレスに、「白雪姫」の象徴的なパフドレス、「眠れる森の美女」のフェアリーなドレス、「リトルマーメイド」が地上にあがってから着る初めてのドレス......挙げ始めたらキリがないほど、彼女たちが美しい変身のシーンに影響を受けました。バロンは影響を受けた作品とかある?
バロン:この前「プリティ・ウーマン」をもう一度見直して、好きなシーンがたくさんあるなと改めて感じたかな。他にも「クルーレス」とか。僕も、着替えて“おめかし”するシーンには惹かれるものがある。

Image by: DOVER STREET MARKET GINZA

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──影響受けた作品からも、今のオーガスト バロンに通ずるものを感じます。マガジン「ALL-IN」がブランドの前身ですが、どのように二人での活動をスタートさせましたか?
バロン:出会ってから最初のうちは、それぞれ自身の活動があって、何年か経ってから一緒に仕事をするようになりました。お互いのプロジェクトに関わることが増えて、だんだんと統合していったんです。初期は服を集めて、雑誌のエディトリアルのためにリメイクしていたのが服作りの始まり。それを見た業界の方たちから声がかかるようになり、徐々にブランドとしてコレクションを発表するのに興味を持つようになりました。振り返ってみると、自分たちが作っている作品に対する周囲の反応に、常に応えるような形で進んできました。
──活動から10年が経った昨年に改名しています。どのような心境の変化があったのでしょうか?
バロン:僕らは一点物からスタートして、今は量産できるアイテムを販売していますが、今でもいわゆる”ファッションブランド”というよりは、業界の外側から見ているアウトサイダー的なポジションだと感じています。ただ、経験を重ねるにつれて、ファッションブランドの意識が高まっているのは明らかです。実は何年も前からマガジン名ではなく、個別にブランド名をつけることは考えていたのですが、発表する瞬間まで、なんだかしっくり来なかったのです。今となっては、オーガスト バロンがより個人的で、確固たるファッションブランドだと感じられるブランド名だと思っています。名前を変えた時点で、私たちの活動の未来を示唆していたのかもしれません。

オープンハウスで展示したインスタレーション
Image by: FASHIONSNAP

Image by: FASHIONSNAP

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──ブランドを継続するにあたって、クリエイティビティとビジネスのバランスは避けて通れないと思います。お二人はどのように学んでいきましたか?
バロン:ビジネス面については、私たちは実践を繰り返しながら学んできました。というのも、二人ともファッションブランドへの就職や経営の経験がなかったので。二人で活動を続けながら、少しずつ時間をかけて学んできたことの一つだと思います。
オーガスト:そうだね。結局、ブランドを経営する上で大事なポイントは「他人が何を求めているのか?」「自分たちは何を求めているのか?」「自分たちにとって、何が特別で重要に感じられるのか?」を理解しようとすることでもあると思うんです。周りで起きていることに目を向けて、それに応答する感覚を持ち続けるというか。雑誌についても同じことが言えます。たとえば、私たちが雑誌の形態として「紙」にこだわっている理由は、「何かを発見する」感覚に取り憑かれているから(笑)。「自分が知らなかったものに出合う」体験を常に求めているんだと思います。
バロン:そうだね。だからこそ、一点物を作ることにもワクワクしていたのだと思います。でも、服を実際に販売し始めてから気づいた面白さもある。現実世界で自分たちの服を着た人たちを見る瞬間もワクワクするようになりました。ブランドとして経験を重ねるうちに、人々が実際に着たいと思うような服をどのようにデザインするか、ということも自然と学んできたのです。
オーガスト:二人が何を着たいのか、友達に何を着てほしいのかって感じだよね。
バロン:それがファンタジーをリアリティに落とし込む、僕たちのバランス感覚につながっているよね。
──ブランドのコンセプトにある「Recontextualize」についてどのように定義づけていますか?また、「Deconstruction」などの言葉と、どのような違いがありますか?
オーガスト:うーん、そうですね。「リコンテクスチュアライズ(再文脈化する)」というのは、もともと別の文脈に属しているものを、新しい文脈の中に置き直すことだと思います。「デコンストラクト」というのは、何かを分解すること。たとえば、一つの例として1950年代のドレスがあったとします。「デコンストラクト」というのは、それをただ単純に分解します。そして「リコンテクスチュアライズ(再文脈化)」は、それを今という時代の中に置き直す、ということかな。
バロン:例えば、僕らの2026年春夏シーズンで発表した「REAL HOUSEWIFE」は、インスピレーションとなった1950年代の主婦というイメージを、いわゆるボンテージの要素や、ファンタジーの文脈で捉える試みでした。ある“象徴”に対して一般的に抱かれるステレオタイプを、別の文脈に置き直しているとも言えるのかもしれません。
オーガスト:音楽でいう「サンプリング」に感覚に近いかもしれないです。音を遅くすると、それはある意味で分解しているようなものだし、別の音とミックスすれば、その音の文脈を変えることになります。こう考えると、僕らはまるでDJのようにデザインしているんだね。
バロン:そうだね。
2026年春夏シーズンのアイテム @ドーバー ストリート マーケット ギンザ





Image by: FASHIONSNAP
──今回の来日の目的でもあるサイン会を行った、写真集「REAL HOUSEWIFE」についても教えてください。
バロン:表紙を見てわかる通り、ファミリーアルバムのような雰囲気にしました。中面には、ポラロイド写真を差し込んだようなページや、まるでアルバム写真のように見えるページがあったり、印刷もこだわっていて、マット紙の上から光沢のある仕上げを施しています。すべての写真は、オーガスト バロンの2026年春夏シーズンのショーを、3人の異なるフォトグラファーに撮影してもらったもの。まずMartín Sabinoは、ショーのために作ったリビングルームのような空間を使って、家族写真のような作品を彼独自のスタイルで撮ってくれました。それからSharna Osborneは、隣接したクラブのような空間で撮影してくれて、独特のエネルギーが漂っています。彼女の作品は、どちらかというと移ろう一瞬を捉えるようなもので、とても生々しくてリアルな感じなんです。そしてLaia Bonastreは、モデルたちが準備している最中の様子を捉えています。ショーを開催するまでの“瞬間”を切り取ったスナップショットのような写真集に仕上がりました。

「REAL HOUSEWIFE」のサイニングイベントには熱量の高いファンが集まった
Image by: DOVER STREET MARKET GINZA
オーガスト:実際の現場では、3時間で3人のフォトグラファーが同時進行で撮影したんです。非常に興味深いプロセスでした。
バロン:一人のモデルを撮影した後、「次はあっちへ行って」と言って、別のフォトグラファーがまた撮るみたいな感じ。合間にモデルがタバコを吸ったりもしながら、とにかく常に撮られている状況でした。だから、3つの撮影は別々ではあるんだけど、すべてが同じ時間軸の中で進んでいたのです。
オーガスト:そうそう。
バロン:でも、僕たちもその様子を初めて写真から知りました。というのも、本番中はバックステージをずっと走り回っていて、何が起きているのかをしっかり把握できなかったんですよね。だから後になって、こうした写真を通して何が起きていたのかを見返せるのは非常に面白かった。3つの「目」が、一つの物語を語っているような写真集になりました。

Image by: DOVER STREET MARKET GINZA

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オープンハウスの関連イベントとして、ポッドキャスト「AfterParty」とトークセッションを行った
──現在パリを拠点に活動していますが、拠点を移してから、ブランドやご自身にどのような変化がありましたか?
バロン:本当にいろんなことが変わったと思います。一つに絞るのは難しいのですが、パリに移る前は、正直なところ、私たちの活動はあまり知られていなかったと思うのです。自分たちのためにやっていたようなものですから。でもパリに移ってから、私たちのやっていることに対して人々が注目してくれるようになった。ここで得られるチャンスは大きいです。たとえばパリに引っ越して約3週間経った頃、プロデューサーの友人・Zoeに「3週間後にファッションショーをやりたいって言ったら、実現できる?」と冗談半分で聞いてみたら、「普通じゃできないクレイジーなことだけど、いいね、やろう!」と話に乗ってくれて。それで、ホテルのロビーみたいな場所で小さなショーを開いたんです。当時はたしか「ショーに使える予算は、4000ユーロ(約75万円)くらいしかないよね」って話していたと思います。
オーガスト:当時のパリは大きなブランドが中心で、若いブランドは今ほど多くはなかった気がします。だからこそ、人々が新鮮に感じて応援してくれたのかなと。ただ純粋に楽しみでやっているような、ちょっと荒削りな僕たちのクリエイションに対して喜んでくれたと感じています。
バロン:僕も「既に確立されたブランドばかりがショーを発表しているよね」と誰かに言われたのを覚えてる。だから、そこから逸脱した僕たちのコレクションが、逆にすごく面白く感じてもらえたというか。周りの人たちも「これは一体何なんだ?」と興味を持ってくれたんじゃないかな。
オーガスト:でも、普通に生活するにも好きな街だよね。
バロン:ヴィンテージショップや街を散歩していると、本当に美しい服があちこちにあって、すごく良い環境にいるなと感じるんです。少なくともオスロに住んでいた頃は、そういうファッションの歴史をあまり身近に感じることはなく、どこか遠い存在として憧れるような感じでしたから。でも、その中心にいると、まったく違う感覚になるのです。
オーガスト:わかる。言葉にするのは難しいけれど、やっぱりその場所にいること自体が大事というか...…。現実的な話だと、細かな実務的なこともたくさん増えました。例えば、エディトリアルとか──
(オーガストが水の入ったコップを盛大に倒し、PRチームのパソコンにかかる)
オーガスト:Oh my god…...
(スタッフ一同:大変だ、拭くものを用意しなきゃ!)
バロン:なんてドラマチックなインタビューの締めくくり方…...
──オーガストバロンらしいですね(笑)。
オーガスト&バロン:続きは、また日本に来た時に、是非話をさせて......!
最終更新日:
国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。執筆だけではなく、企画制作など活動の幅を広げている。2024年に始めたポッドキャスト『AfterParty』は、Spotifyが選ぶ注目の次世代ポッドキャスター として「RADAR:Podcasters 2025」選出。
■After Partyではオーガストバロンの二人とトークセッションを実施。当日の様子をポッドキャストで配信中。
(編集:平原麻菜実)
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