
DRIES VAN NOTEN 2026年春夏ウィメンズコレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
ジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)が手掛けるようになって2度目のウィメンズコレクションの発表となった「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」。創業デザイナーのドリス・ヴァン・ノッテンの後任としてのプレッシャーをものともせず、世間にその名を知らしめた2025年秋冬ウィメンズコレクション、そしてそのシーズンのベストショーと複数メディアで評価された2026年春夏メンズコレクションと、クロスナーは確かな実力でブランドの更新を続けてきた。
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パリのパレ・ド・トーキョーで行われた2026年春夏ウィメンズコレクションショーは、「衝撃を与えたいわけではなく、美しさと喜びをもたらしたい」というブランドの哲学をそのままに、色鮮やかなカラーパレットとクラフトマンシップで唯一無二の服飾美を完成させた。
今季のコレクションの発想源は、誰もが目にする夕陽の美しさという、日常的でありながら荘厳な自然現象である。浜辺から眺める夕暮れの空、波間に浮かぶサーファーたちのシルエット、水面に煌めく光の反射と、これらの普遍的かつ壮大な光景からインスピレーションを得たクロスナーは、同ブランドの根本哲学を忠実に継承しつつ、「女性にリラックスを」という想いのもと現代女性に向けた新たな美学を提示した。
夕陽の美しさという普遍的テーマの選択は、クロスナー自身の視点の表れだろう。ドリス・ヴァン・ノッテンがしばしば歴史や異文化からインスピレーションを得たのに対し、クロスナーは自然の中の一瞬の輝きに着目。浜辺から眺める夕暮れの空、波間に浮かぶサーファーたちのシルエット、水面に煌めく光の反射と、これらの日常的でありながら荘厳な光景は、より直感的かつ普遍的なインスピレーション源であり、それゆえ良い意味での"軽さ"をコレクションに与えている。

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冒頭のルックから、観客は徐々に高まっていく色彩のハーモニーに誘われる。ミュートされた色調と繊細なシルエットで始まるコレクションは、次第に鮮やかさと大胆さを増していく構成となっており、まるで夕暮れから夜明けへと移り変わる空の様相を彷彿とさせた。クロスナー自身が述べる「ゆっくりとクレッシェンドを構築し、鮮やかで大胆な表現で終わらせたかった」という意図が反映されたものだ。
今季特筆すべきは、サーファーのウェットスーツから着想を得た優美なシルエットである。丸みを帯びたラグランスリーブの肩は小さく整えられ、細身のバーミューダパンツは波を滑る姿勢を連想させる流線形の美しさを表現していた。体に沿いながらも窮屈さを感じさせない直線的なテーラリングは、動きの自由を保ちながらも洗練された佇まいで、このバランス感覚こそが、クロスナーの実力を如実に示すものであろう。

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素材選びにおいては、対照的な要素を調和させるという考えのもと、ネオプレン、ダブルデュシェスサテン、モアレといった構造的で硬質な素材と、ウォッシュド・シルクモスリン、ウォッシュド・コットンボイル、シルクサテンといった流動的で柔らかな素材が交互に登場。サーフボードと流動的な波の対比のように、相反する要素の美しい共存を表現していた。装飾技法においても、独創性が光る。特に色彩の上に施された黒の刺繍は、まるでドローイングを施したかのような繊細さで、波の繊細な模様や水面に映る光の揺らぎをデザイン。カットとダーツが装飾として機能する手法は、無駄を省きながらも豊かな表情を生み出す、ミニマリズムの中の贅沢さを体現している。言わずもがな、クロスナーのアイコン的要素となっている白地の裏襟は今季も継続展開となっている。
また、ショーのサウンドトラックには、作曲家フィリップ・グラス(Philip Glass)の繊細かつ壮大な音楽にサーフロックの要素が織り交ぜられ、視覚と聴覚の両面から観客を夕暮れの浜辺へと誘う没入感が演出された。

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「美とは、完璧さではなく、調和のことである」というドリス・ヴァン・ノッテンの理念を受け継ぎながらも、クロスナーは自身の言葉で新たな美の解釈を表現することに成功している。対立する要素の調和、日常の中に潜む美の発見、そして普遍的感動の探求と、これらは同氏が紡ぎだす新たなデザイン言語となっている。今季のコレクションは、もはや「後継者」という枠を超え、クロスナー自身の創造性と感性が生み出す独自の世界観が確立されたことを物語っていた。夕陽に照らされた波のように、彼のデザインは常に動き、変化し、そして輝きを増している。このクリエイティブな旅路は、まだ始まったばかりだ。
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