フレグランスの魅力とは、単に“匂い”だけじゃない。どんな思いがどのような香料やボトルに託されているのか…そんな奥深さを解き明かすフレグランス連載。
第15回は、日本でも高い人気を誇る「ディプティック(Diptyque)」から誕生したプレミアムコレクションにフォーカス。
目次
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原材料もボトルデザインも価格も、全てにおいてハイエンドに位置付けられる高級フレグランスが7年ほど前からじわじわと増え続けている。そんな流れの中、ついにディプティックからもプレミアムなコレクション「レ ゼサンス ドゥ ディプティック(Les Essences de Diptyque)」が誕生した。
自然のモチーフを題材にした香りのクリエイションは従来同様だが、今回のポイントは、モチーフが「無臭」であること。つまり、調香師たちのクリエイティビティが今まで以上に試されると言っていい。
調香を手がけたのはアレクサンドラ・カーリン(Alexandra Carlin)、ファブリス・ペルグラン(Fabrice Pellegrin)、オリヴィエ・ペシュー(Olivier Pescheux)とナタリー・セット(Natalie Cetto)の4名。昨年秋に惜しまれつつ逝去したオリヴィエ・ペシューを除いた3名に、それぞれが手がけた香りについて語ってもらった。彼らの言葉を通して創作の裏側を知れば、香りをもっと深く楽しめるはずだ。
カーリンの調香スタイル
文学を専攻していたせいか、私は原材料を“香水という物語を書く言語”としてとらえています。私はとても実験的なタイプで、新しいものや革新的な抽出方法を試すのが大好き。今回、「好奇心のキャビネット」というディプティックの指針により、既成概念に捉われずに希少な原料を使うことができました。
「コライユ オスクロ」創作の裏側
「コライユ オスクロ(Corail Oscuro)」のモチーフである珊瑚の鮮やかな色彩は、2022年のビエンナーレでマンフリン宮に展示されたアニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)のインスタレーションや、ギズラン・サリ(Ghizlane Sahli)の壁画を想起させました。珊瑚には香りがなくても、雰囲気、環境、色、形があります。
ディプティックから提示されたキーワードは「演劇的」「光」「ベルベット」「キアロスクーロ(明暗)」。創作途中で行き詰まった時、水面の光と珊瑚の脆さについて再び思いを馳せました。個性と力強さを持たせつつ、透明感を利かせてキアロスクーロを表現しています。
「コライユ オスクロ」の楽しみ方
官能的なミネラル感と謎めいたフローラルを感じてもらえればと思います。それは空の光と海の深さの間をたゆたう、ソルティクリスタルローズのよう。私は、出だしの爽やかさと、全体に漂うスパイシーでウッディな熱のコントラストを作りたいと考えました。珊瑚の輝きはまるで磁力。皆さんにもきっとそれを感じてもらえると思います。
ペルグランの調香スタイル
私の作品は、自然の本質を伝えたいという願望に導かれています。自然の美しさと複雑さを捉えることに挑戦し、自分のビジョンをクリエイティブに表現することを追求しています。そのため、私の個人的な解釈と普遍的な感覚との間に適切なバランスを見つけることが不可欠なのです。
「ルナマリス」の創作の裏側
私は、海底に新たな世界を発見することを夢見て、大洋の真ん中で休息するのが大好きです。「ルナマリス(Lunamaris)」ではマザー オブ パールが本来持っている特性を反映させることに時間を費やしました。マザー オブ パールの虹色の色合いを香りで表現したかったのです。この視覚的効果、虹色の光、輝き、高貴さを表現するため、さまざまな原材料をレイヤーすることで、多面的な香りの特徴を作り出しました。
「ルナマリス」の楽しみ方
ディプティックのフレグランスを創作する時、香りに性格や性別を結びつけることはありません。むしろその時のエモーションや個々の気持ちを結びつけています。そして私はいつも、その日のムードやその瞬間に合う香りを選ぶようアドバイスしています。
ルナマリスは輝きのあるとてもエレガントな香りで、自信を感じるのに最適です。さらに言えば、マザー オブ パールの虹色のニュアンスの違いをぜひ実感してほしいですね。
「ローズ ロッシュ」の創作の裏側
「ローズ ロッシュ(Rose Roche)」については、風の音に耳を傾けながら、砂漠のバラの魅惑的な美しさを初めて観察した時のことを思い出します。砂漠のバラは、時が経つにつれ温かみのある色調を帯びてグラフィカルな形状に変わっていく、その強さが印象的です。私はすぐに、灼熱の砂漠で日光浴をするバラを思い描き、ミネラル感のあるフレッシュなフローラルノートを想像しました。
「ローズ ロッシュ」の楽しみ方
私にとってフレグランスを楽しむ最良の方法は、まず「試すこと」、「肌で体感すること」、そして「エモーションを感じること」。それは知的なプロセスではなく、自然発生的なものでなければなりません。
この香りは、風が思いがけないほど綿密に、時間をかけて砂漠の砂を形作る様子にインスパイアされたものです。つまり、砂漠の風と砂の温度感と、その美しい感触を表現したかったのです。
セットの調香スタイル
私たち調香師は芸術家であり、エモーションを刺激したいと願う一方で、職人でもあります。陶芸家や家具職人と同じように原材料についての話もします。色彩、自身の嗅覚の記憶、アート、キャラクター…あらゆるものからインスピレーションを得て、それぞれの作品はユニークなものとなるのです。
私はもともと好奇心旺盛で、写真、音楽、文学、絵画にとても興味がありますし、料理も旅行もする。それら全てが作品を豊かにする栄養素なのです。
「リリフェア」の創作の裏側
私は自然の恵みの質感と深みを、本来の見え方を超えて表現したいと思っています。自然はアート作品であると同時にアーティストでもあり、非常に豊かな意味と複雑性を持っています。だから私たち調香師にとって、自然を尊重し敬意を払うことは義務なのです。私は「リリフェア(Lilyphéa)」を、睡蓮をモチーフにした香りの模範となるよう、最善を尽くしました。
「リリフェア」の楽しみ方
このアンバー、グリーン、ムスクの香りは、私にとって睡蓮を象徴するすべてを表現しています。すなわち官能性を極めながらも揺れ動く、甘く儚い存在。睡蓮に思いを馳せる時、私たちを横たえ、浮遊するよう誘うのは、厚みのある緑の葉の幻影。この香りをまとう人には、まるで睡蓮の宇宙へと没入するかのように、みずみずしさと優しさの間を漂うような感覚を味わってほしいのです。
「ボワ コルセ」の創作の裏側
「ボワ コルセ(Bois Corsé)」のモチーフである樹皮の定義を考えると、柔らかで優しい中心部を守るために木は荒々しくたくましくある、という明確なイメージが湧きました。そこで、サンダルウッドとトンカビーンの香りを保つためにシダーとブラックコーヒーを組み合わせ、中毒性のある二面性を作り出しました。
「ボワ コルセ」の楽しみ方
木に関する哲学的な物語を旅するように、発見し、考察し、熟考する時間を取りながらこの香りを楽しんでほしい。すべてがあっという間に過ぎ去ってしまう世の中では、本質に集中することが大切です。このフレグランスは、ウッディノートによる自然へのオマージュであると同時に、アンバーなどのセンシュアルノートが私たちの内なる自然を思い出させてくれるのです。
ビューティ・ジャーナリスト
大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。
■問い合わせ先
ディプティック ジャパン:公式サイト
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