ADVERTISING

「知識は価値を補強するものであって、服の価値そのものではない」 本当に良い古着屋を求めて。世田谷 YAURAN編

【連載】本当に良い古着屋を求めて 第7回

Image by: FASHIONSNAP

Image by: FASHIONSNAP

Image by: FASHIONSNAP

 自分らしいファッションとの出会いを探して、人気古着店のオーナー・名物スタッフをたずねる連載「本当に良い古着屋を求めて」第7回。

ADVERTISING

 東急世田谷線・世田谷駅から区役所西通り沿いを駒沢公園通り方面へ歩くこと約3分。大吉寺に面した交差点を渡ると「ヨウラン(YAURAN)」の入居するビルに辿り着く。地域の名物老舗カフェ 「アンジェリーナ」のすぐそばの物件だ。外構に設置されているのは、白地に黒文字の店名を配した控えめな看板。重さのあるガラス製のドアを開け、階段を上がると、うちっぱなしの鉄筋コンクリートを基調とした、整然としながらも存在感ある空間が広がる。

 出迎えてくれたのはオーナーの稲葉大輔さん。買い付けから帰ってきたばかりだという店内には、まだ値付けのされていない服が並ぶ。そんな中、ヨウランを形づける根底にある美意識や、セレクト基準、さらには稲葉さんの考える「いい古着屋」についてまで話を伺った。

古着は“ゼロに近い”もの 「選ぶ」ことで価値を生み出す

 稲葉さんは、千葉県・市川で生まれ育った。ファッションに興味をもったきっかけは中学2年生時に遡る。地元の祭りに、6歳上の兄が着ていた革ジャンを借りて出かけたところ、クラスメイトから「かっこいい」と声をかけられた。その体験を機に、服に対する意識が変わったという。

 その後、どこで服を買えばいいのかを兄に尋ねると、「古着屋がいい」と勧められ単身原宿へ。その時初めて「ベルベルジン(BerBerJin)」などが軒を連ねる原宿通り(とんちゃん通り)に足を踏み入れた。当時はストリートスナップ全盛期であり、地元では見かけない服装をした人たちで溢れていた。「古着屋という存在をそこで知りました。見たことのない格好をした人がいて、それが純粋に楽しかった」と当時を振り返る。

 以降、原宿に通い詰め、アメカジからデザイナーズブランドまで、ジャンルを横断しながら服への理解を深めていった。17歳の頃には古着店「コネクター(Connecter)」で働き始め、買い付けにも携わるようになっていく。

 もともと洋服を作りたいという思いもあったというが、その志向は古着屋で働いている中で変化していく。「古着って、誰かが一度手放したものじゃないですか。自分の中では、買う前の状態は“ゼロに近い”ものとして捉えています。それを自分で選んで並べたときに、そこに意味が立ち上がるというか、自分の考えが表現になる感覚があるんです」。自分が着るために服を選ぶ行為とは異なり、店として何を仕入れ、どう並べていくのかを考えることに面白さを見出すようになった。「デザイナーが考えて形にしていくのと、自分が考えて買い付けるのって、やっていることの構造は似ていると思っていて。新しい価値を作っている感覚に近いんですよね」。

最初にあるべきなのは、かっこいいと思えるかどうか

 コネクター、池尻の「ハグレ(hagle)」を経て、稲葉さんが独立に至ったのは2023年、27歳の時だ。下北沢・高円寺・原宿といった、古着屋が密集するエリアから離れた世田谷という場所に店舗を構えた理由は、しがらみなく自由にやりたかったから。昨今の古着ブームや、ヴィンテージデニムの高騰など市場のトレンドから距離を取る姿勢がそこにはある。「価値があるのは理解していますが、自分はその値段を出してまで欲しいとは思わない。それよりも、まだ見過ごされている面白い服があると考えています」。

 店のコンセプトは「先入観を持たずに洋服を見てもらうこと」。近年、古着はブームの影響もあり、裾野が広がっている一方で、情報を基準に服が選ばれる傾向が強いと指摘する。「何年代のどのモデルで、このディテールがあるから価値がある、という情報から入って服を選ぶ人が多いですが、それには違和感があります」。

 そうした見方よりも重視して欲しいのが直感的な判断だという。「最初にあるべきなのは、単純にかっこいいと思えるかどうか。そのあとに背景や知識がついてくるべきだと思っています」。ブランドや年代といった情報は否定しないが、それが判断の出発点になることには距離を置く。

 「服をより好きになるために、年代や背景を伝えるのは自分の役割。でも順番はあくまで後です」。知識は価値を補強するものであって、価値そのものではない。そうした考え方が、根底にはある。

 「内見した瞬間にビビッと来てここに決めました」と語るテナントには、広々としたスペースの片側に大きな窓が一面に配されており、晴れた日には陽の光が一杯に差し込むあたたかな空間が広がる。

 内装には隠されたこだわりが。シューズやネクタイなどが並ぶ木のディスプレイは、100年以上前のアメリカとカナダの国境に架かっていた橋の古材を使用。帽子が陳列されているラミネート板の下にある藁は、稲葉さんの妻の実家が畳屋であることに由来するものだ。複数の場所に分けて置かれている浅間山の花崗岩は、「時間の経過によって出来上がっていく点」が古着と似ており、シンパシーを感じたそう。昔は一箇所にまとめて積み上げていたが、友人に「思想が強そう」と言われたことを機に、今の配置に変わったという。

 存在感あるものが並ぶ一方で、色味を落ち着いたトーンでまとめることで、洋服を見る際に邪魔にならないようなバランスに仕上げているのもポイントだ。


例の岩

“リアルな”嘘っぽくない洋服

 店内で目立つのはテーラードジャケット。60〜70年代のアメリカ製のものを中心に、通年で展開している。この物量を常に提案している店はそう多くはない。アメリカではテーラードジャケットを日常的に着る文化が乏しく、カジュアルウェアに比べて需要が低いため、現地では相対的に在庫が残りやすいとされる。一方で、日本の古着市場でもデニムやミニタリーほどの需要はなく、バイヤーの間でも優先的に買い付けられる対象ではない。「いわゆるアメカジの中ではニッチな部類ですが、アメトラが好きなので、お店の軸の1つとして置いています」。そう説明する言葉に、独自の美学が滲む。

 近年注目されつつもある“ボロ”古着についても独自の基準を持つ。メンズトラッドの文脈を踏まえ、シャツは基本的に選ばないほか、ダメージが恣意的か、偶発的かにこだわるという。「リンキングの弱い当時のものだからこそ首元が擦り切れているといったような、着続けた結果として自然に生まれたものがいい。作られたダメージはどうしても嘘っぽく見えてしまうし、複雑な気分になる」。ペンキ汚れにおいても同様で、“リアルさ”を追求して選んでいるという。

 買い付けは専らアメリカで行い、ディーラーやフリーマーケットを回る。選ぶ基準は自分が好きかどうか。どんな服を探しているのかと聞かれると、特定のアイテムやブランドではなく、「ユニークなもの」とだけ伝えるという。「自分の好きな洋服は言葉にすると抽象的になることが多いので、あえてそう伝えています」。

 そのユニークさの根底にあるのが、1960年代後半から70年代にかけてのメンズファッションだ。「オーセンティックなデザインの中に、少し違和感が混ざっている。そのバランスが好きなんです」。商品の売れ筋よりも自身の基準を優先する姿勢が、ラインナップの個性を形作っている。

 メンズ中心の売り場には新商品も並ぶ。サテン地のドレスシャツはピンクのストライプのデザインで、メンズトラッドの文脈から見るとかなり異色だ。

 中でも特にイチオシだというアイテムが、古いピエロ用のパンツだ。複数のワッペンが無造作に縫い付けられており、その痕跡からは、パフォーマンスで使われていたであろう背景がたちのぼる。「量産的な古着よりも、こういう1点ごとの個性が強いものに惹かれます」。

 値付けは、世間の相場ではなく自分が買いたいと思う適正価格で行い、情報としての価値ではなく、その服自体の持つ本質的な価値に焦点を当てているという。

いい古着屋は判断基準を“内側”に持っている

 いい古着屋とは何かを尋ねると、「自分の“好き”をちゃんと表現できているかどうか。それに尽きると思います」という答えが返ってきた。

 かつて稲葉さんが出演していたポッドキャスト「世田谷古着倶楽部 デタラメ古着講座」では、「アメリカに行っているかどうか」がひとつの指標として語られたこともあるが、その意図については「アメリカに行っていること自体が重要というよりも、そこまでして自分の好きなものを追いかけているかどうかだと思っていて。結果として、そういう人のほうが表現できている店が多いという感覚です」と補足する。

 「ただなんとなく古着を扱っている店や、売れるからとりあえずそのアイテムを置いている店はいい古着屋とは言えないと思います」。そう語る背景には、古着を“選ぶ”ことを、表現として捉え、その積み重ねが店の輪郭を形どっていくという考えがある。

 では、個人にとっての「イケている」「イケていない」はどのように決まるのか。「結局、ファッションを楽しんでいるかどうかじゃないですかね。感覚は人それぞれ違うので、それぞれの正解があっていい。自分で“これがいい”と思えていれば、それで成立していると思います」。

 店においても個人においても、判断の基準は外側ではなく内側にある。“好き”を起点に選び、それを表現できているかどうか。その一貫した姿勢が、稲葉さんの価値を分ける軸になっている。

“YAURAN”的、いま気分なルック3選

 オーナーの稲葉さんが組む、今気分なルックを3選をご紹介。

ベロアトラッカージャケットにタイダイ染めパンツを feat.ボロタンクトップ

icon

稲葉さん

ベロア素材の持つ上品な色気を、古着感の強いアイテムとかけわせることで、モードに振りすぎず、カジュアルに落とし込みました。

こばなし
 インナーの袖がカットオフされているボロタンクトップは、フリマで買い付け。昼すぎに見つけ即決したという。「結構他の日本人バイヤーもいたので、なんで誰も買っていないんだろうって不思議でした」(稲葉さん)


ペイズリー柄のテーラードには、きれいすぎないフレアパンツ デニムのワークエプロンを添えて

icon

稲葉さん

お店を代表するアイテムの1つであるテーラードジャケットを中心にスタイリングを組みました。かっちりしすぎないように各アイテムのニュアンスや、ワークエプロンなどでバランスを取っています。

こばなし
 古着初心者におすすめするアイテム選びのコツは「着回しできるパンツを選ぶこと」。年中着られるものがあると、パンツを軸にコーデを組みやすいんだとか。


アメリカ感強いスウェットにはジャケットでキレイさを いぶし銀なプリントパンツも

icon

稲葉さん

スウェットなどわかりやすいアメリカ古着っぽい素材にはきれいなものを合わせたくなります。自分自身がよくやる着こなしですね。

こばなし
 買い付けにおいて、あらかじめこういうアイテムが欲しいというイメージも必要だが、自分の直感に従ってピックする“ジャズ的な即興性”も大切にしているという。


番外編:FASHIONSNAPスタッフのリアルバイ

 当連載恒例の、古着を愛するFASHIONSNAPスタッフSによるリアルバイ。今回購入したアイテムとそのコーティネートをインタビュー形式でご紹介。

icon

稲葉さん

どちらも70sのアイテムですね。量産的な服作りへのシフトが進んでいった時代ではありますが、そうとは思えない、ニッチなデザインが魅力ですよね。トップスはクラシカルなニュアンスが強いものなので、新品のトラウザーなんかも合うと思います。

購入者 社員Sに聞いてみた

⎯⎯今回ブルゾンとパンツを購入。コーデのポイントを教えてください。

icon

スタッフS

ヴィンテージファッションのトレンドに流されないYAURANのテンション感に合わせて、春先のムードに合わせたスタイリングを組みました。

⎯⎯ブルゾンのどんなところが気に入っていますか?

icon

スタッフS

シャツとブルゾンの中間のようなデザインで、1枚でライトアウターとして着られるし使い勝手がいい点ですね。70年代によく見られるデカ襟も魅力的です。

⎯⎯パンツはいかがでしょうか?

icon

スタッフS

まずシルエットが好きです。全体的にゆるく裾にかけて広がっているのがいいですね。

icon

スタッフS

あとは、センターステッチの入り方も見逃せないですね。生成りの色味と相まって独特なムードでそこにも惹かれました。

■YAURAN
所在地:東京都世田谷区世田谷1-15-11 大語ビル 2F
営業時間:13:00〜20:00
定休日:なし
Instgram

【連載:本当にいい古着屋を求めて】

第1回:祐天寺「Gabber」
第3回:学芸大学「ISSUE」
第4回:渋谷 「DESPERATE LIVING」
第5回:自由が丘 「EROTIC」
第6回:下北沢 「sowhat vintage」

最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

平松将

Sho Hiramatsu

青山学院大学経営学部卒業後、大手事業会社を経て文化服装学院に入学。服作りを学んだ後にレコオーランドに入社。
ファッション、アート、カルチャーに加え、人々の暮らしや都市の現実といったテーマにも関心を持つ。日課としてジャーナルとメモをつける記録愛好家兼トレーニー。

ADVERTISING

現在の人気記事

NEWS LETTERニュースレター

人気のお買いモノ記事

公式SNSアカウント