左)丸龍文人、中央)中村聖哉、右)山縣良和
Image by: FASHIONSNAP
丸龍文人が手掛ける「フミト ガンリュウ(FUMITO GANRYU)」と「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」の山縣良和によるコラボランウェイショーが3月16日、国立新美術館で行われる。戦後の日本ファッション史をたどる世界初の大規模展「ファッション イン ジャパン 1945-2020―流行と社会」のこけら落としとして、Seiya Nakamura 2.24の中村聖哉ディレクションのもと着々と準備が進んでいる。コレクションのテーマは「必然的多様性」。未来を見据える3者は今回のショーをどう捉えているのだろうか?話を進めていくと「起点」というキーワードが浮かび上がってきた。
ーみなさん付き合いは長いんですか?
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中村聖哉(以下、中村):僕らの会社で以前からフミト ガンリュウのマーケティングやセールスを担当していますし、僕自身がフミト ガンリュウのCMOという事もあって丸龍さんとは結構長い付き合いになります。山縣さんとは少し前にハウスパーティーで会ったのが最初でしたね。僕がロンドンに住んでいた時から山縣さんの作品は見ていて、特にセントラル・セント マーチンズ時代に発表したぬいぐるみのコレクションは今でも鮮明に覚えています。
山縣良和(以下、山縣):「シーエフシーエル(CFCL)」の高橋くん(高橋悠介)に急に呼ばれて聖哉さんの家に伺ったのが最初ですね。丸龍さんとは、知り合ってかれこれ10年くらいになりますかね。
丸龍文人(以下、丸龍):多分それくらいかな。世代も近いですし、時々彼が運営している「ここのがっこう」にも講師として赴いたりと公私共の付き合いをさせて頂いています。
ーそれで今回ショーを一緒にやることになった経緯というのは?
中村:一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)のディレクター 今城薫さんからお話を頂いたことが始まりです。「ファッション イン ジャパン 1945-2020―流行と社会」という展覧会があり、そのスペシャルプロジェクトとして文化庁の方々と一緒に何かできないかと。展覧会の内容が1945年から2020年までの日本のファッションを掘り下げるという内容で、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」をはじめとした日本を代表するブランドの中に、フミト ガンリュウ、リトゥンアフターワーズの服も展示されます。そこに所謂「アムラー」や「たけのこ族」「原宿系」といったその時代の流行にも触れながら、日本のカオティックでユーモアラスなファッションを振り返ろうというもので、今のこういった世の中の状況もありますし、僕としてもやりがいのあるイベントだなと思いました。今ファッションの中でサステナブル等のワードが急速に浸透していますが、僕の根本部分にあるのは「レスポンシビリティ」というワードで、このタイミングで行う今回のショーには今までとは違う特別な意味を持たせ、そしてそれが未来に繋がる責任あるイベントにしたいなと思っています。パリで沢山のショーやプレゼンテーションに携わらせて頂きましたが、コロナ間で行う文化的なイベントのこけら落としてのショーを従来通りにするべきでは無いと考え、今回既成概念に囚われないであろうお二人にお願いしました。
ー中村さんが総合プロデューサーという立ち位置ですか?
中村:ショークリエイティブ・ディレクションとしてSeiya Nakamura 2.24が受託していますが、僕自身はプロデューサーというよりキュレーターだと思っています。今回ショーでは山縣さんにリトゥンアフターワーズによるインスタレーションを兼ねた作品を制作してもらい、そのインスタレーションの中をフミト ガンリュウの服を着たモデルが歩くんですが、山縣さんはコンセプチュアルな世界観の表現がとても優れているデザイナーなので、その部分とフミト ガンリュウの服をコラボさせる事で、面白いショーの見せ方ができるのではないかと考えました。
ー依頼を受けて、山縣さんは率直にどう思ったんですか?
山縣:まぁびっくりしましたよね(笑)。でも僕の中で印象に残っている聖哉さんの言葉があって、それが2020年代のファッションの重大なキーワードは「education(教育)」だと。僕もここのがっこうを主催していますし、これからのデザイナーは、常に社会課題と向き合い「学ぶ」姿勢が今まで以上に大事になっていくと思っています。今回お仕事をご一緒させていただく事によって、僕にとっても今までとは別の形でファッションの表現が出来るかもと思いました。今ファッション業界は環境問題をはじめとする様々な問題が山積しており、どれも簡単に解決できるものでもありません。歴史が次のフェーズに入っていくこのタイミングで、日本のファッションの起点となりそうなイベントに自分が関われるならと思い承諾しました。
ーフミト ガンリュウとしては東京で初めてのショーとなりますね。
丸龍:そうですね。今回コレクションのテーマが日本語で言うと「必然的多様性」なんですが、流行りの多様性という言葉は一見対義語の画一性と比較するとポジティブに聞こえますが、僕はどちらの言葉もポジティブに受け取るし懐疑的にも受け止めていて。事実に基づいた予測というものをいつもコレクションテーマに取り入れているんですが、今回は多様性というワードをニュートラルなスタンスで表現したいなと思って服を作りました。このイベントの内容もそのテーマと親和性があるので、やってみたいと思ったんです。
ー必然的多様性、難しい言葉ですね。
丸龍:言語化が難しいテーマだからこそ服として形にしているというのはもちろんあります。ファッションに限らず色々な歴史を紐解いてみてもそうなんですが、多様化の先には画一化が待っていると思うんです。今現在のフェーズで言えばSNS警察が力を発揮していて、それによる攻撃を恐れた世界同時多発的な空気を読むムードがあるじゃないですか。価値観の多様化が進む一方、時流や風潮を読むことで生まれる画一化も進んでいることに気づくべきだと思いますし、多様化と画一化が繰り返されていることにそろそろ我々も自覚して、未来に備える必要がある。警鐘を鳴らすではないですが、マインドセットになるようなアプローチは作り手としての義務だと考えていて、多様化の先にあるもの、水面下で進行しているものを同時に表現できればと考えています。
中村:コレクションのテーマもそうですが、ショーでも様々な要素を掛け合わせる予定です。今急ピッチで準備を進めているところですが、いいものになるという自負はあります。
ー具体的にどんな仕掛けが?
中村:ネタばらしになってしまうのであまり言えませんが、「Point Of View」がキーワードになります。山縣さんのアイデアなんですが、2人はタイプが全く違うデザイナーで、その2人の目線だったり、ショーに関わって頂く人、観覧者、メディアといった方々の視点を体感できる仕掛けを用意しています。ショーのライブ配信もFASHIONSNAPさんとBASEさんのプラットフォームを使って行う予定で、そちらも色々な角度から楽しんで頂けるものになると思います。そしてその他にも色んな仕掛けを用意している訳ですが、従来のパリコレでのショーではなく、東京のこのタイミングだからこそ、僕らが挑戦したいエンターテインメントなショーになるんじゃないかなと思っています。
丸龍:パリでショーを行っていた時、自分の中で不必要に空気を読みすぎていたなと気付いたところがあったんです。打ち合わせをする中で、今まで凝り固まっていたなっていう部分が多く発見できましたし、今回のショーをきっかけにその殻を破っていけたらと思っています。読むべき空気は読んだ方がいいとは思いますが、自分の中で勝手に決めた余計なルールに従う必要はないでしょうから。
ー「Point Of View」はどういった経緯で出てきた言葉なんですか?
山縣:まず2人のお話を聞いて、どのような形で違う世界観を持ったブランドが、空間を共有することが出来るのか悩みました。そしてそれぞれ違う視点を持ったデザイナーの二人、そして本イベントのキュレーターである聖哉さんのそれぞれの視点(different Point of views)が交差するということそのものが今回の重要なテーマになるのではないかと。そこでふと「コーネリアス(Cornelius)」のある楽曲を思い出し、頭の中で点と点が繋がったんです。
丸龍:最終的な表現方法のアウトプットこそ違いますが、元々知人というのもありますし、話す言葉は違っても、結局同じこと言っていたりすることが山縣くんとの間で沢山あるんですよね。彼のことをリスペクトしているからこそ、彼の持っている能力で、服の持つ側面を多角的に見せる事が出来ないかと考えています。
山縣:丸龍さんの表現も最大限尊重しつつ、ショーを共同作業する方法として提案させてもらったのが、シーンごとに担当を決めることでした。まず、僕は会場に置くスカルプチャーの制作に加え、ショーのオープニングとエンディングに関わっています。ショーのメイン部分は丸龍さんの全力の表現で、最初と最後に僕のエッセンスを少し加えるというのが、1番綺麗な形かなと思ったんです。また、今回の作品はリトゥンアフターワーズとしてこのイベントの後に国立新美術館で開催される展覧会「ファッション イン ジャパン 1945-2020―流行と社会」と連動しており、今後の長期的なプロジェクトのスタートポイントでもあります。
ーフミト ガンリュウは既に展示会で2021-22年秋冬コレクションを発表していますが、ショーのために例えばアートピースのようなもの披露する予定はありますか?
丸龍:既に発表させて頂いたラインナップの全てがアートピースであり、全てがリアルクローズだという思いでデザイン、製作しているので。不要な追加は避け、全く違うコーディネートにより、テーマである多様性の側面を見せられたらと思っています。服としてのリアルさを伴わない類のアイデアが浮かんだ場合は、服じゃない形でアウトプットしたいと思うタイプなので、そこはメディアを分けて考えていきたい。実際今回のショーで山縣さんはファッションデザイナーでありながらも空間のデザインを担当します。それは、ファッションデザイナーの視点で作られた、アート表現になると思うんです。私自身もファッションデザイナーの視点で考えた別媒体の表現方法に興味がありますし、それこそ篭って仕事をする時間が増えたからか、服では表現できないアイデアも浮かぶことがあったので、機会があればアウトプットしていけたらと考えています。
ーリトゥンアフターワーズの服は出ないんですか?
山縣:会場でこれから始めるプロジェクトの実験を象徴する一体のみ展示はする予定です。今後は少しずつ新作コレクションを発表していく予定で、今回はそれにつながるプロローグのようなものだと思っていただければと思います。
中村:ショーのオフィシャルタイトルは「FUMITO GANRYU+Yoshikazu Yamagata(writtenafterwards)ショー」となっていて、ブランドではなく山縣さん個人とのコラボレーションなんですよ。ショーは山縣さんとのコラボレーション、国立新美術館内で行われる展示はリトゥンアフターワーズ、という座組みです。
ー「ファッション イン ジャパン 1945-2020―流行と社会」のオフィシャルページに、「独自性が評価されてきた日本のファッションは、これからの未来になにを示すことができるのだろうか」という文章が綴られていますが、2021年以降ファッションはどうなっていくと思いますか?
山縣:すぐに答えるのが難しい質問ですね(笑)。少々時間をください。丸龍さんどうですか?どうしていきたいかの方が答えやすそうですが。
丸龍:どうしていきたいかで言うと、僕はストーリーテラーではなくストーリーメーカーだと思っているので、ひとつひとつ物づくりで表現していく、ということに尽きますね。必然的多様性というワードは、俯瞰視した自身のマインドや状況、展望を言葉にしたものでもあるので、それを実践していくことはもちろんですが。多様性が孕む危険性や画一化がもたらす次世代のスタビリティを予測した上で、流されることのない是々非々なスタンス、ニュートラルに捉えるマインドであり続けるための表現をしていきたいですね。
山縣:20世紀以降は量産化が進み均質化してきた時代だと思うんですが、これからは別のものが求められるんじゃないかなと思うんですよね。例えばマネキンには約200年の歴史があるんですが、マネキンやトルソーの形は時代時代に平均化、理想化された人間の究極体みたいなところがあります。服を作る上でトルソーを基本ベースにしてデザインしていくところがありますが、実際はそうじゃない体型の人がほとんどなんですよね。だからこそ服飾の歴史の最初に戻って一人一人の身体と心に対応させていくことがファッションの課題の一つで、これも丸龍さんの言う必然的多様性と言えるんじゃないかなと話を聞いていて思いました。
加えて、今のファッション産業のサイクルで足りていない部分というのは「分解」ですよね。他の産業と同じように、「分解」をシステムに組み込んでいく必要があるんですが、近代から現代にかけて過剰な生産と消費へ舵をとってきた歴史があり、ファッション業界は生産、消費の他、循環させるためのもう一つの重要なシステム「分解」を置き去りにして不均等な形で産業が過剰に成長してしまった。「分解」までを考慮したファッションデザインが、今後強く求められていくと思います。
中村:山縣さんの言う分解機能も僕の中では「責任(レスポンシビリティ)」だと思っていて、要はどこまで考えてモノを作るか、に尽きるんですよね。今ある地球規模での課題や社会的な問題から世界中の人々全体の民度が僕も含めて必ず上がっていくと思います。
そしてその流れから服や物を作りづらくなる未来はすぐにくる気がします。でもそれがファッションをプラットフォームとしたビジネス全体をシュリンクさせる訳ではなく、むしろ広がっていくだろうと思っています。それはもう既に服を作るだけがファッションじゃなくなっているし、「ファッション性」がもっと加速度的にフォーカスされる時代になっていくのではないかと。イメージ構築に置いて凄く大事な役割を担うのがファッション性だと思うんですよね。
ー今のファッション業界の問題を解決するには一貫して責任が必要。
丸龍:そう思います。作り手として必要なものを提案、供給するという責務を全うしながら、それと同時に価値を上げる事に貢献できないかと考えています。ファッションという言葉自体が度々下に見られることに対して、憤りをすごく感じているので。
中村:表層的でネガティブな意味で使われている「ファッション」という言葉自体の価値をあげていきたいってことですよね。
丸龍:そうそう。おこがましいかもしれませんが、今回のショーがそれに向けた一つの起点になれば嬉しいなと思うんです。決して自己満足で終わらせない事、あくまでお客さんファースト。そういったラインナップや企画にしてこそプロフェッショナルだと思っているので。
山縣:次の時代の新たなスタートポイントになれればいいですね。
中村:もちろんそのきっかけになれれば光栄ですし、個人的には見て楽しかったなと少しでもポジティブになって頂けるだけでも嬉しいです。どんな時代でもファッションを楽しむということは凄く大事なことだと思うので。
(聞き手:芳之内史也)
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