群雄割拠の国内メンズ市場の中で、後藤愼平が手掛ける「エムエーエスユー(M A S U)」は、1月にファン向けイベント「マス ボーイズ ランド(MASU BOYS LAND)」を開催し大盛況を見せるなど、ムーブメントを巻き起こしている。2023年秋冬コレクションからは、阪急メンズ東京6階の「ガラージュ D.エディット(GARAGE D.EDIT、以下ガラージュ)」でも取り扱いを開始。3月10日に同館で催す顧客向けイベントでは秋冬アイテムの先行予約会を開催する。
パリにも進出し、飛ぶ鳥を落とす勢いのデザイナー後藤愼平は「服に想いを乗せることが何より大事」と力説する。後藤が考えるデザイナーの定義とは?後藤と3月のイベントにゲストとして参加予定のファッションディレクター 高島涼、阪急メンズ東京 バイヤーの日比野智之を迎え、話を聞いた。
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後藤愼平
「M A S U」デザイナー。文化服装学院卒業後、メゾンブランドのヴィンテージを扱うLAILAへ入社。SEVEN BY SEVENの立ち上げメンバーとして企画・生産に携わる。2018年秋冬シーズンからM A S Uのデザイナーを務めている。
高島涼
ファッションディレクター兼コンセプトストア「+81」オーナー。「STUDIOUS」の販売員を経て2018年に独立。InstagramやYouTubeでドメスティックブランドを中心に紹介するファッションインフルエンサーとして活動し、多くのファンを獲得している。2020年に自身がオーナーを務める「+81」を立ち上げた。
日比野智之
阪急メンズ東京 6階 ガラージュ D.エディットのバイヤー兼マネージャー。2016年に阪急に入社。取り扱いアイテムのバイイングを担当する傍ら、販売スタッフとしても店頭に立ち売場を支えている。
なくなりつつある「ジェンダーレス」という概念
ー2023春夏コレクションも立ち上がり、新作が店頭に並び始めました。みなさんは今シーズンのメンズ トレンドは何だと考えていますか?
後藤愼平(以下、後藤):カジュアルがトレンドなのは変わらないですが、カジュアルの中でカテゴリーが分かれている感じですよね。一昔前はもっとトレンドが偏っていた感覚がありましたが、今は割とバラバラだと思います。
高島涼(以下、高島):そうですね。ファッションを楽しむ人によってそれぞれのスタイルがあって、他人やトレンドに左右されずに着たいものを着ている、といったムードが強いのかもしれませんね。
日比野智之(以下、日比野):僕はこの頃、ファッションがジェンダーに対してより開放的になっているように感じていて。メンズでもこれまでウィメンズで取り入れられることが多かったシアーやレースなどを採用したりして、「男性らしさ、女性らしさ」といった既存の価値観が取り払われつつあると思っています。
後藤:確かにそれは感じますね。初めてジェンダーレスの波が来た時は一過性のもので終わるかと思いましたけど、着実に根付いてきている感覚はあります。
M A S Uデザイナー 後藤愼平
Image by: FASHIONSNAP
日比野:もちろん男性が着ることを想定した服、女性が着ることを想定した服にも魅力はありますけどね。ただ、今後は「性別」という概念自体を取り払う考えがもっと広がっていきそうな気がしています。
後藤:ジェンダーレスというジャンルではなく、性別で区別しないことが当たり前になってきそうですよね。このペースでいくとあと2、3年くらいで服に興味がない人たちにも浸透していくんじゃないかなと。
ー今注目しているブランドはありますか?
日比野:僕が注目しているのは「ジャックムス(Jacquemus)」ですね。2023年春夏シーズンから取り扱いを始めたブランドなんですが、遊び心とリアルクローズのバランスが絶妙。元々はウィメンズで注目されていましたが、最近はメンズのレディートゥウェアも人気ですよね。
阪急メンズ東京 バイヤー 日比野智之
Image by: FASHIONSNAP
後藤:カジュアルなんだけどストリートに寄りすぎず、品もあって、バランス感覚が良いですよね。
日比野:そうですね。個人的にはアクセサリーを特に推しています。最近はメンズでも、洋服以外の帽子や革小物などにもこだわりを持って自分のスタイルに取り入れる人が増えてきましたよね。
高島:僕は「サカイ(sacai)」の元チーフパタンナー 髙橋伸明さんが立ち上げた「NTN」というブランドを注視しています。サカイ出身者のブランドなので、様々な要素を掛け合わせたドッキング的なアイテムを展開するのかと思っていたら、スタンダードなモノづくりをしていて驚きました。それでいて、服には魂がこもっている。今後の展開が気になりますね。
ファッションディレクター 高島涼
Image by: FASHONSNAP
日比野:展示会に行ったことがあります。良い意味でサカイらしさがなくて、着てみて初めて分かる魅力を持ったブランドですよね。後藤さんの注目ブランドはどこですか?
後藤:既にチェックしている人も多いかもしれないですけど、「イー アール エル(ERL)」ですかね。デザイナーのイーライ・ラッセル・リネッツ(Eli Russell Linnetz)が「ディオール(DIOR)」のゲストデザイナーに選ばれる前からずっと気になっていました。作っている服は奇を衒っている訳ではないんですが、全くありきたりに見えないのが凄い。僕はこれがメンズファッションにおいてすごく重要なポイントだと思っていて。「見たことあるはずなのに新しく見える、突拍子もないことをやっているわけじゃないのにカッコいい」というのは大切にしていきたい感覚なんですよね。
ー現在、ガラージュで好調なブランドは?
日比野:「オーラリー(AURALEE)」ですかね。元々素材の良さが際立っていたブランドではありましたが、最近は色使いがすごく洗練されているなと感じます。これまでのミニマルでクリーンな服装を好む客層にプラスして、モードやストリート寄りの層にも求められている印象です。これからもっともっと世界に広がっていくブランドになるのではと期待しています。
後藤:セレクトショップに行って「このニットいいな」と思ったらオーラリーだったこともありますし、僕も本当にクオリティが高いなと思います。涼くん(高島)も持っていますよね?
高島:持っています。色々なコーディネートに合わせやすいし、毎シーズンキーカラーと言えるような面白い色味のアイテムを出してくれるので注目していますね。
売れるブランドの共通点は?
ー「売れるブランド」と「売れないブランド」の違いは何だと思いますか?
後藤:お客さんに対する「思いやり」だと思いますね。お客さんがその服を手に取った時にどう感じるかを考えれば、きちんとした物を世に出そうと思うだろうし、変わった物を作る時も真意が伝わるよう意識するはず。僕は、目新しいことや奇抜なことよりも、クオリティがしっかりしていることの方がずっと大事だと思っていて。デザインの面でも品質の面でも、お客さんを喜ばせることを第一に考えることが売れるブランドの共通点かなと。
高島:個人的には、自分たちの軸をしっかりと持ちつつ、時代に合わせて進化しているブランドが安定して売れているイメージがあります。
後藤:そこはすごく大事なポイントだと思います。例えばストリートテイストが流行った時に、自分の色を残したままどう馴染ませていくか。天才ならいつ何をやってもいいと思うんですが、僕はそうではないので時代に適応するという部分は意識していますね。
ー高島さんと日比野さんが取り扱いブランドを決めるときに着目するポイントは?
高島:第一はやはり直感ですが、ほかには「そのブランドにしかないメッセージ性や軸があるか」ということは判断材料にしています。服を見たときに、どれだけエモーショナルな部分を感じられるかというのが重要ですね。そういうブランドの服は、僕らもできる限り同じ熱量でお客さんに届けたいと思うので。
日比野:僕は「お客さんがそのブランドの服を着ているところを想像できるか」「売り場のブランドと組み合わせて提案できるか」という2つの視点でバイイングをします。あとは、先ほど高島さんが言っていたように、服からメッセージ性を感じ取って「このブランドの良さを伝えたい」と思えるかどうかも大事なポイントだなと。エムエーエスユーの服からは、エモーショナルな部分がかなり伝わってきたので取り扱いを決めました。
後藤:なんならそこしか意識していないですからね(笑)。「これだけ世の中に服が溢れている中で、自分が服を作る意味とはなんだろう?」と考えると、メッセージ性というものは必要になってくると思います。どれだけカッコ良くても、その裏に何もない服はどこか薄っぺらく感じてしまうというか。なぜその服を作ったのかを淀みなく言えなければデザイナーではないと思っているので、服に想いを乗せるというのは1番大事にしている部分です。
高島:ショップ側からしても、そういった考えで服作りをしているブランドは自信を持ってお客さんに紹介できます。
後藤:真面目すぎるかもしれないですけど、そういう考え方をしていかないと、どんどんファッションが簡単なものになってしまうと思うんです。服の裏側だったり、物語だったり、そういった目に見えない部分が好きでこの仕事をやっているので。
時に人生観まで変える、ファッションの力
ーM A S U 2023年春夏コレクションのテーマは「ready」ですが、シーズンテーマに込めた想いとは?
後藤:「ready」には2つの意味が込められています。1つは「次のステージとして、海外で勝負する準備はできているぞ」という意思表示。もう1つは、2023年春夏コレクションのインスピレーション源になっているマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の二面性です。マイケルはステージ上の煌びやかなイメージが強いですが、プライベートの時にストールで顔をぐるぐる巻きにしてパパラッチから逃げる姿もまた美しくて。2つの姿はスターの二面性として分けて見られがちですが、僕には表裏一体、どちらもある意味「ready」な状態だと映りました。物事の二面性を分けて捉えずに、どちらも肯定するという想いを込めています。
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
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高島:ステージとプライベート、どちらもマイケル・ジャクソンですもんね。
後藤:そうなんですよ。誰しもそうだと思うんですが、仕事をする自分がいて、プライベートの自分もいる。どちらか一方を否定するというのはすごく苦しいことだなと思うので、どちらも自分だと認めて肯定してあげることが大切なのかなと。
日比野:僕はこれまで自分の二面性について「色々なところで色々な人に会う中で、人によって態度を変える自分が嫌だな」と考えることがあったんですが、今の後藤さんの言葉を聞いてハッとさせられました(笑)。どんな自分も自分ですもんね。
そして、ファッションの凄いところもまさにそれですよね。たかが服と言ってしまえばそれまでなんですけど、時に自分の考え方や人生観まで変えてしまう時がある。エムエーエスユーからは、そういった変化を促すほどの強烈なパワーを感じます。
高島:愼平さん(後藤)はこの時代のカリスマですからね。1月にマス ボーイズ ランドにお邪魔した時に思ったんですが、都心からも結構遠い場所なのに、あそこまで多くの人が詰めかけてアーカイヴや限定アイテムに熱狂しているのは本当にすごいなと。服のイベントというよりは、アーティストのライブに行っているような感覚でした。テーマパークにいるようなある種の非日常をファッションで体現するというのは、並のブランドではできないと思うので。
ー初のファン向けイベント「マス ボーイズ ランド」を終えての感想は?
後藤:想像を遥かに超える人数のお客さんが来てくれて。中には前日から泊まり込みしてくれた人もいたんですが、そういう人たちがエムエーエスユーという共通の話題で仲良くなり、コミュニティを形成していくというのはすごく嬉しいことですし、ブランドとしても理想的なこと。お客さんに楽しんでほしくて企画したイベントだったのに、逆にこっちが元気をもらってしまいました(笑)。今回イベントの中で2023年秋冬コレクションを発表したんですが、改めてブランドを好きでいてくれる人たちにもっと服を見てほしいなと思いましたね。
高島:第2回をやる予定はあるんですか?
後藤:第1回でサンプル品は全部売れちゃって(笑)。アーカイヴセール的なことはしばらくできないですけど、違ったアプローチでブランドを好きでいてくれる皆さんの交流の場になるイベントは企画したいですね。
重要性高まる「体験という名の付加価値」
ー今の時代に、ファッションを盛り上げるために必要なことは何だと思いますか?
日比野:先ほどの話にあったマス ボーイズ ランドのような、ブランドのファンが物を買う以外にブランドと繋がれる機会というのはこれまであまりなかったように思います。僕はこの体験こそが本当に大切なものだと考えていて。「買い物」という物を買うだけの行為に体験が加わることによって、買った物がそのもの以上の価値を持つようになると思うんです。インターネット上でなんでも買える現代だからこそ、いかにしてリアル店舗で体験という名の付加価値をお客さんに届けるか、という部分が今以上にファッション業界を盛り上げるカギになると考えています。
高島:僕は、お客さんと密な関係値を作ることが今後ますます重要になると思っていて、その辺り愼平さん(後藤)はインスタグラムで「質問コーナー」をやったりと上手だなと。「ブランドがお客さんとどう関わっていくか、どういった体験を提供するか」というのは、今後重要なテーマになると思います。
後藤:褒めてもらってばかりで、なんだか恐縮します(笑)。でもお二人が今言っていたことは本当にそうで。ファッションブランドはクローズしがちというか、格好つけすぎているところがあると感じています。でも時代に合わせていくというのはすごく大事なことで、SNSの運用もその一つ。デジタルなどを駆使してブランドそのものをデザインしていくというのは、意外とやっていないブランドも多いですが、個人的にはもっと柔軟に顧客と向き合っていく必要があると考えています。
ー後藤さんは、今後どんなことにトライしていきたいと考えていますか?
後藤:今できることは全部やっているつもりなので、今後も引き続きという感じですが、例えば温泉ツアーなど、やってみたい企画は色々あるんです(笑)。「生地の産地にお客さんと一緒に行きましょう」みたいな企画も面白いかもしれないですし。
ー3月10日に阪急メンズ東京で、エムエーエスユーの先行受注会を含めた顧客向けイベントが開催されます。どのようなイベントになるのでしょうか。
日比野:夜に少し早くお店を閉めて、顧客様向けのナイトイベントという形で開催します。コロナの影響でナイトイベント自体が3年ぶりなので、僕としてもすごく楽しみですね。エムエーエスユーのイベントに関しては、予めガラージュがオーダーした品番の中からにはなりますが、先行予約という形式で注文を受け付けます。一部アイテムに関してはサンプルも用意してもらえることになっているので、実物を皆さまに見てもらえる最初の機会になるかと。お花をあしらったフォトブースもセッティングするので、ぜひお洒落をしてお越しいただいて写真を撮ってほしいです。
高島:僕も当日お邪魔する予定なのですが、今から楽しみです。
後藤:僕も入れるんですかね(笑)?
日比野:是非是非!お酒を振る舞いながら、自由にワイワイできるようなイベントになればと思っています。阪急メンズ東京の顧客様向けのイベントではありますが、ウェブサイトで募集をかけて、一般の方も特別にご案内する予定です。このイベントが、ファッション業界を更に盛り上げる一助となれば嬉しいですね。
■阪急メンズ東京
公式サイト
■M A S U 2023年秋冬コレクション先行予約会
日時:
2023年3月10日(金)18:30〜21:00
2023年3月11日(土)、12日(日)12:00〜17:00
場所:阪急メンズ東京6階 ガラージュD.EDIT
申し込みリンク
■阪急メンズ東京ナイトイベント「SPRING NIGHT」
開催日:2023年3月10日(金)
時間:18:30〜21:00
場所:阪急メンズ東京全館
FASHIONSNAPの読者 50組100名を招待。
※3月10日の「M A S U 2023年秋冬コレクション予約会」に申し込んだ人は同イベントにも参加可能(追加申し込み不要)
申し込みリンク
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