Fashion インタビュー・対談

【インタビュー】元greenデザイナー吉原秀明、活動再開と新ブランド「HYKE」を語る

HYKEデザイナー吉原秀明
HYKEデザイナー吉原秀明

 2013年の幕開けと共に、元「green(グリーン)」のデザイナーが活動を再開するというニュースが業界を駆け巡った。「機能性と美」を追求し続けた「green」は、ブランドが成熟した10年目に突然の休止を発表。2009年春夏コレクションをもって第一線から離れたデザイナー吉原秀明氏と大出由紀子氏だが、およそ3年を経て復帰することが話題を集めている。発表された新ブランドは「HYKE(ハイク)」。ベーシックだがこだわりが感じられる約50型のデビューコレクションが並んだ展示会の会場で、活動再開の背景にある思いや服作りの信念、そして新しい取り組みについて、主に全体のディレクションを担当している吉原氏に聞いた。

―まずは2人の原点にさかのぼります。服作りを始めようと思ったきっかけは?

 最初に代官山でお店をやっていて、古着のバイイングなどを行っていました。1点1点に愛着があるものを見つける喜びや、それを買ってもらう喜びがありましたが、実は売ってしまうのがさみしくもありました。そこで、古着のニュアンスを取り入れた服作りができないかと考えたのが、服作りを始めたきっかけです。


―大出さんは以前、自らをデザイナーではなく「職人」や「洋服屋」と言っていたのが印象的でした。

 職人になろうとしていたわけではありませんが、手をかけて作ったものの良さを大切にしようという思いは今もあります。糸や生地、服を作る職人や現場に近い関係の服作りを心かけてきました。そういった意味で、根底に「職人」に対する思いがあります。

―2009年、「green」の人気が絶頂の時に活動を休止。やり残した事や課題はありましたか?

 全てにおいて、「もっと出来る」と思う部分はありました。もの作りを続ける限り上には上があって、より良いものを目指すことが常に課題ではあります。逆に、そういった気持ちが作り続けるエネルギーにもなっていましたね。10年続けたブランドの休止は大きかったですが、1人で活動を継続するという選択はありませんでした。

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green ラストコレクション


―活動再開のタイミングについてどのように図っていたのですか?

 休止することを考えた当初から、2~3年後に戻りたいと考えていました。でも活動を再開するには全てを仕切り直す必要があって、また2人で一から立ち上げています。デビューコレクションの企画が始まってから展示会までの期間は約半年。以前より小規模の再スタートなので、不安な気持ちもありました。

―新しいブランド名の由来は?

 どうしても「green」のイメージが強いので、活動を再開する時には特定のものを意味しないブランド名がいいと思いました。僕と大出を含めて家族の名前の頭文字を組み合わせて付けたのが「HYKE(ハイク)」です。

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HYKE 展示会は元greenの本店跡地に開設したプレスルームで開催


ー2人それぞれの役割や、新体制については?

 以前のブランドでは2人でほぼやっていましたが、今は企画以外の部分の主な役割があって、大出は生産を、僕はブランド全体のディレクションを管理する事が多くなっています。以前のスタッフにも声を掛けましたが、その多くが結婚して子供がいるという状況でした。僕らも家庭があって、子持ちで働く事の大変さは十分わかっているので、そういったスタッフの受け皿になりたいという気持ちもあります。以前は休みもなく働き詰めという感じでしたが、これからは仕事のスタイルまで配慮できるような体制を続けていけたらと思っています。


―「HYKE」のブランドコンセプトは?

 ブランドコンセプトは「Heritage & Evolution(服飾の歴史、遺産を自らの感性で独自に進化させる)」ですが、基本的な服作りに対する考え方はずっと変わっていません。ただ、一度休止していたこともあり、改めて丁寧に作りたいという気持ちがありました。以前よりデザインはベーシックで、素材は特に丁寧に選んでいますし、縫製など技術的な部分も基本から確認しながらやっています。

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デビューコレクションはウィメンズのウェアと雑貨 約50型


―以前から古着のディテールを反映していました。コンセプトの「Heritage」についての考え方について教えてください。

 古いものに影響を受けて育ってきているので、自分たちが再び服を作ろうと思ったときに、この世の中に存在しないような全く新しいデザインを生み出したいという考えはありませんでした。どちらかというと、自分が影響を受けてきたものに対して自分たちなりの変化を付け加えたり、元あるものから引き算をして新しいものをつくるという感覚のほうが強い。影響を受けるものは古着であったり、もっと古い年代のものであったり、それはその時によって変わってきますね。


―デビューコレクションのインスピレーション「NAVY」についてお伺いしたいです。

 今回のインスピレーションソースになった「NAVY」には、アメリカ海軍の「U.S NAVY」とキーカラーの「ネイビー」の2つの意味があります。ミリタリーは時代ごとに当時の最新技術を取り入れているので、古着でも独特の風合いがあって、年代ごとにそれぞれ面白さがありますね。特に「U.S NAVY」は「green」のときから何度か取り上げていた、僕らの好きなスタイルでもあります。以前より型数が減っているので、色やデザインを全体で通すことで、より濃い提案ができればと思っています。


―具体的なデザインの落とし込みについて教えてください。

 例えば今回、ウールの帽子を「NEW ERA(ニューエラ)」に別注しています。「NEW ERA」は過去に「U.S. NAVY」にウールキャップを支給していたという歴史があって、それがきっかけになりました。

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NEW ERA WOOL CAP


 靴については、「U.S. NAVY」で「サービスシューズ」と呼ばれているオックスフォードシューズを制作しました。基本的にアメリカでは軍隊が税金で賄われているので、軍隊が国にサービスをするという意味でそういった名前で呼ばれています。今回ディテールの参考にしたのは1940年代のサービスシューズで、甲の部分にT字型の当て革があったり、ホールの横のステッチが特徴的な、古いディテールを取り入れました。木型から作り、履きやすいようにコードバンで有名なホーウィン社のオイルドレザーを使用して、無骨なメンズライクな雰囲気がありつつ女性が心地よく履けるように仕上がっています。

 アウターにも力を入れました。Pコートは1910年~30年代くらいのものを参考にしていて、ハンドウォーマー・ポケットの素材がコーデュロイだったり、ボタンのところに星が13個入っていたりという特徴を取り入れています。

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OXFORD SHOES


―デビューコレクションで、なぜムービー形式の発表を選んだでしょうか?

 現状の規模では以前のように大きなランウェイショーを開催するのは難しいので、この先にも続けられるプレゼンテーションの方法が何かを考えたのが理由です。ムービーにおいても、自分たちの表現を伝えたいという思いはランウェイと変わりません。




ー以前から機能性や品質にはこだわりがありました。もの作りの現場との取り組みについて、変化した部分はありますか?

 再びお取り組みさせて頂く工場さんは僕らの活動再開を喜んでくれましたが、一方ではここ数年の間で潰れてしまった所もありました。新しい取り組みについては、お互いに一から手探りで確認しながら、もの作りの現場と連携をとっています。仕事のスタイルが変わった今は、以前のように産地まで直接足を運ぶ事が難しくなっていますが、しばらくは過去の知識と経験で、そういった部分を補っていこうと思っています。

―3年前とは経済情勢が大きく変動している今、ビジネスの側面をどのように考えていますか?

 「green」の休止を決めたのはリーマンショックの直前だったこともあり、大きな不況の波を受けてはいませんでした。ただ、関係先から色々な状況を聞いて、ビジネスの厳しさは感じています。僕らとしては工場さんや生地屋さんと安定したお取り組みをすることで、なんとかサポートしていけたらいいなという思いがあるので、ものに見合った適正価格で売っていくということでお返ししていきたいと思っています。必要以上にコストを抑えることはどこかに無理を生じさせ、良い関係は続きません。その価格に対してお客さんが満足して購入する、という基本的だけど見失いがちなことをしっかり意識していく必要があると思っています。

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2013-14年秋冬コレクション 店頭展開は2013年7月〜順次


ー当面の目標はについて教えてください。

 今はスタートラインで、まだ先のことまで考えることができない状況ですね。まずは服を丁寧に作って、お客様に届けて、それを気に入って着てもらえる、というサイクルを「HYKE」で一から築いていけたらと思っています。

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【映像・画像】HYKE 2013-14年秋冬コレクション




吉原 秀明 / 大出 由紀子 [HYKE デザイナー]
HYKE-INTERVIEW-2013-03-20130329_020s.jpg 吉原 秀明
 1969 年生まれ、東京都出身

 大出 由紀子
 1969 年生まれ、群馬県出身


ヒストリー
 1998年にデザイナーとして活動をスタートする。
 2005年秋冬よりランウェイショーで新作を発表。
 2009年春夏コレクションをもって活動休止。
 2013年秋冬コレクションより約3年間の休止期間を経て活動再開。

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