KENZO 2024年春夏コレクション(中央: アーティスティック・ディレクターのNigo)
Image by: KENZO
6月23日、風薫る夕刻のパリ。Nigoによる「ケンゾー(KENZO)」4度目のランウェイショーが、セーヌ川にかかる橋「ドゥビリ歩道(Passerelle Debilly)」で行われた。片側には、かつての「東京通り」にちなんで名付けられた美術館「パレ・ド・トーキョー(Palais de Tokyo)」があり、もう片側には、言わずとしれたパリのシンボル「エッフェル塔(La tour Eiffel)」がそびえ立つ。東京とパリをつなぐメタファーとも取れるこの場所でのショーのテーマは「シティポップ」。日本から世界に浸透しているカルチャーにスポットが当てられ、また日本のグラフィックデザイナーVerdyとコラボレーションしたコレクションが、セレブリティを含む多くのゲストを魅了した。
シティポップとケンゾーを重ねて
1970年後半から80年代にかけて日本で流行した「シティポップ」は、国外では知る人ぞ知るマニアックな音楽ジャンルだった。2010年代後半に熱心な音楽ファンに発見され、徐々に世界的ブームへと発展していく。その熱狂は落ち着いたものの、レコードショップを覗いてみると、山下達郎や竹内まりあといったシティポップ・スターたちの盤は、いまだ高値がついている。そしてシティポップ全盛期は、かつてのケンゾー隆盛の時代でもあった。
ショーの2日前、特別に行われたコレクションプレビューにて、1970年生まれのNigoは「僕自身は当時、シティポップにハマっていたわけではないのですが」と前置きしつつ、「シティポップのファッション版を、今やるのは面白いのではないか。刺さる人には刺さるはず」とテーマの意図を説明した。Nigoは、高田賢三がデザインした70年後半から80年代前半のアーカイブに潜りながら、自らのクリエイションも見直したそうだ。ショールームのラックにかけられたスタジアムジャンパーに目をやると、ワイドでショート丈のすっきりとしたシルエットで、Nigoが好むクラシックなアメリカンスタイルとは異なっていた。
イースト・ミーツ・ウエスト 柔道着をスーツに
2024年春夏コレクションのファーストルックを飾ったのは、モデルの美佳。彼女はこれまでNigoが手掛けるケンゾーのすべてのショーに出演しているミューズでもある。
高田賢三を象徴する花の一つであるバラが大胆に配されたプレッピーなデニムテーラードに身を包み、大きなアイウェアは80sのムードを加速させる。アーカイヴから用いた花柄は、Nigoのシグネチャーでもあるカモフラージュ柄となり、エレガントなシルエットに落とし込まれた。
日本文化に由来するアイデアは、今やケンゾーを代表するモチーフだ。柔道着から着想したスーツは、今回のキールック。畳んだ道着を帯でくくり肩に掛ける、独特な持ち運び方もスタイリングに取り入れている。また、剣道ベルトを機能的なウエストバッグとして提案。テーラリングにも日本の着物に由来するカッティングを反映している。
Nigoの関心は時代を超越する。「時代劇でよく見る、男性が着流の裾をたくし上げる仕草(=尻端折り)が好きで、それをスカートにしてみました」。また、インディゴのつなぎとジャケットには青海波(せいがいは)と呼ばれる古代の波模様を施し、モダンに仕上げた。
初コラボはVerdy ロゴをデザインに
今回の最大のサプライズはVerdyとのコラボレーションだ。ブランドが軌道に乗るまでコラボは控えていたというNigoだが、4シーズン目のコレクションにして若きクリエイターに白羽の矢を立てた。ロゴ全盛期の反動を受け、控えめで高級なスタイルを指す「クワイエット ラグジュアリー」が広まりつつある中、Verdyがスワッシュ・フォントで解釈したグラフィックロゴ「KENZO by Verdy」が新鮮に映る。決して時代遅れにならないのは、Nigoがストリートスタイルのゴッドファーザーであり、何が"本物"かを知る男だからだろう。
「グラフィックはとても繊細なんです」と語るNigoは、Verdyのイメージを壊さぬよう、またブランドのルールを脱しないよう細かく確認しながら進めたそうだ。これまで何度も一緒に仕事をしてきた2人にとって作業はこなれたものだが、今回はケンゾーというメゾンでの取り組み。「正直、僕らならヒットしそうなものは作れてしまう。でも、もっと特別なことにチャレンジしてみたかったんです」とNigo。例えばロゴ入りのフーディをニットで表現したり、柔道から着想したジャケットにはスポンサーシップのようにグラフィックを挿入したり。またケンゾーのアーカイブを参照したジャケットのパイピングなど、グラフィックの新しい使い方も試みられた。
足元は、2シーズン目となるスニーカーの新作をはじめ、ウィメンズルックではエレガントなキトゥンヒールのミュールをスタイリング。チュールなど繊細な素材を積極的に用いることで、ポップでノンシャランな女性像も確立しつつある。クリエイティブ・ディレクターに就任して以来取り組んできた「リアル・トゥ・ウェア」のコンセプトを守りながら、Nigoのケンゾーはコレクションを重ねるごとに進化を続けている。
音楽はコーネリアス 盟友ファレルも見守る
会場には、新たにグローバルアンバサダーに就任したSEVENTEENのバーノン(VERNON)をはじめ、各国から多彩なセレブリティが集った。
「ショーの音楽が、エッフェル塔を臨む景色とマッチしていました」と話すのは、俳優・モデル・DJで音楽活動でも注目を浴びる大平修蔵。ショーミュージックを手掛けていたのは小山田圭吾が率いるコーネリアスだ。小山田はシティポップから派生した「渋谷系」の代表的人物であり、彼のサウンドはショーのテーマに現代的な解釈を加えていた。
モデル・DJの井上ヤマトは「日本人デザイナーのショーに、世界からこれだけのゲストが集まるというのは嬉しい。自分ももっと頑張ろうと思えました」と話す。ショーのクロージングのモデルとしてランウェイを歩いたUTAは「興奮が止まらなかったし、Verdyさんのグラフィックが入ったの服を着れたのも最高でした」とコメント。パリコレ初参加となるモデル・インフルエンサー・DJの南雲翔馬やモデルの高橋ららなども、フロントロウでショーを堪能した。
大平修蔵
井上ヤマト
南雲翔馬
高橋らら
コラボを共にしたVerdyは、「Nigoさんから指名してもらった時は本当にワクワクしたし、パリのアトリエに通ってコレクションが徐々に完成に近づいていく様子も見ることができました。自分のグラフィックがランウェイに出るのは初めてなので、嬉しかったですね」と晴れやかな表情を浮かべた。
モデルが勢揃いで闊歩するフィナーレの後、ランウェイに登場したNigo。フロントロウでショーを見守っていた盟友ファレル・ウィリアムスの元に歩み寄ってハグを交わし、互いを称え合う姿は、これまでの2人の友情と軌跡を知る者ならば涙ぐましい光景だ。ファッションとカルチャーから新たな時代を築く2人と多彩なゲスト、そして美しいパリの情景に溶け込むコレクションが大きな拍手で包まれる、エモーショナルなラストシーンが見る者の記憶に刻まれた。
photo: KENZO
text: Ko Ueoka
composition & edit: Chiemi Kominato (FASHIONSNAP)
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