
「コッキ(KHOKI)」の服について人に訊ねると、必ずと言っていいほど共通して返ってくる言葉に「温かさ」というものがある。もちろんこの場合は温度の話ではなく、「温かい人」「温かい言葉」といったように優しさや思いやり、心地よい雰囲気などを表す比喩だ。「温かさ」というものは極めて主観的であいまいな表現だが、なぜ誰もが揃って同じ表現に辿り着くのだろうか。ブランドとして3度目となる2027年春夏コレクションのランウェイショーに立ち会ったとき、その“共通の感覚”の根源に触れた気がした。
ADVERTISING
ショー会場に入って真っ先に目に飛び込んできたのは、ベッドやキッチンなどを設置した「家そのもの」とも言えるセットだ。2度目のショーである2025年秋冬シーズンでは、ディレクター Kokiの実家の近くの森から持ち込んだ段ボール600箱分の枯葉を用いて「家の外」を再現したが、今回作り出したのはその内側。Kokiの実家から、幼少期の自室に置いてあったという思い出のアイテムをプロップとして持ち込んだ。山梨県北杜市の清里でドライフラワーに関する事業を営んでいた実家はKokiにとって、「デザイン」というものに初めて触れた“出発点”とも言える場所。雄大な自然と素朴な手仕事の温もりが当たり前に存在する環境で生まれ育ったからこそ、前衛的でありながら着る人を突き放さない、ある種の包容力を孕んだコッキのモノづくりは生まれたのかもしれない。「自分の内側をさらけ出す感覚があってタフな作業だった」(Koki)と振り返りながら作り込んだ会場は、一見すると外界から隔絶されたノスタルジックな箱庭のようでありながら、生活の気配と、服が日常に寄り添うためのリアリティに満ちていた。



ファーストルックを飾ったのは、ピンストライプのセットアップの内側から、ヴィヴィッドな赤のインナーを覗かせたセンシュアルな装いだ。フロントのジップや白いステッチ、裾のデザインなどに表れているように、インナーのベースにあるのは労働者階級の服であるワークジャケット。そこにフリルを落とし込むことで、無骨さと繊細なフェミニンさを共存させている。しかし、ここで提示されているのは単にメンズウェアに女性的な要素を加えたという表面的な試みではない。実用着のタフネス、フリルの愛らしさ、テーラードの品格。本来異なる時代や場所、用途で着用されてきた服たちが、まるで誰かの生活の中で長年重ね着されてきたかのように、自然にひとつのスタイルとして馴染んでいる。年代や国境を超えて様々な国のカルチャーが入り混じる「蚤の市」を心の故郷とするコッキの、カテゴライズできない服作りがファーストルックに凝縮されていた。

今季ならではの新たな要素として挙げられるのが、Kokiが趣味で集めているヴィンテージの舞台衣装からインスピレーションを得て製作したというショーピースたち。迷彩柄を用いたジャケットのルックは、貴族の装飾服を思わせる肩フリルや金糸刺繍、レースといったデコラティブな意匠を散りばめつつ、膝丈のデニムショーツと合わせることで浮世離れしすぎない絶妙なバランスへと着地。燕尾服風ジャケットのウエストにレオパード柄のコルセットを重ねたルックも力強い。格式や演劇の幻想性を漂わせながらも、ボトムスにダメージデニムを合わせることで古典的なエレガンスと現代のストリートを交差させ、クラシックとモダンという本来矛盾するはずの感覚を共存させた。ショーピースとインラインのアイテムが互いを引き立て合い、展示会で商品を見るのとはまた違った“装うことの楽しさ”を提示した。


ショーのスタイリングは、今回から国内外で活躍するスタイリスト 山口翔太郎が担当。山口もコッキの服について語るときに「温かさ」と答える一人だ。「カッコつけるということがなく、服作りの楽しさが伝わってくる。素直で遊び心があって、自然体。そんな人に似合う服だと思いました」。モード色の強いアイテムにデニムを合わせてカジュアルダウンするなど、「あくまで日常に根ざした服として提案する」ことを意識してスタイルを作り上げたという山口。「パラブーツ(Paraboot)」が提供したグルカサンダルは、ドレスライクな品格を漂わせながら、編み込みの隙間から肌が覗く適度な抜け感を備え、スタイリングが単一のイメージに固まるのを防ぐクッションとして機能した。




多くの人を魅了するコッキの「温かさ」の正体とは。象徴する素材に伝統工芸「アメリカンキルト」があるが、その本質は単に手仕事やクラフトマンシップに留まるものではない。過去と現代、国境の壁、現実と非日常といった異なる要素を拒絶せず丸ごと取り込み、着る人の生活に接続する寛容な眼差しにある。一見前衛的なデザインには、完璧なスタイルで着飾るのではなく、装う人の個性と混ざり合うための余白が意図的に残されている。コッキの服に袖を通したときに感じる「温かさ」とは、衣服というメディアを通して作り手と自分が静かに通い合う、血の通ったコミュニケーションなのかもしれない。
最終更新日:
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【注目コレクション】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング

auのGoogle Pixel 11と生きる、“好きが仕事になる”毎日


















