私が黒髪をやめた話
ある日、私は黒髪をやめ、金髪にした。
理由はたくさんあった。凡人だと思われることが嫌だった。気が弱い女のように見られることが嫌だった。少しでも若く見られたかった。
黒髪をやめたことで、自分を守る為の鎧を身につけたような気持ちになった。
高貴さの象徴ともされるブロンドヘアー。
不良・反抗などのイメージを持たれていたヘアブリーチ。
特殊能力を持つアニメキャラを彷彿ともさせるカラフルなヘアカラー。
さまざまな選択肢がある中で、私が出会ったあえて“黒髪をやめた人たち”の話。
1人目は当時まだ大学生で20歳だったキミカさん。(写真・文:髙木美佑)
キミカさん/20歳/大学生
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数ヶ月前、Uni-Shareという雑誌に作品制作についての取材をしてもらった。
その時のインタビュアーが、彼女だった。
インタビュー内でこの連載企画の構想を話し、私が金髪にしていた理由を話すと、彼女も「私にも同じような経験があるんです」と話してくれた。
その場で彼女に写真を撮らせて欲しいとお願いし、後日2人で改めて会うことになった。
撮影当日。前日まで続いていた雨模様とは打って変わって、もう真夏のような陽が差していた。
待ち合わせ場所は、彼女の思い出の土地だという三軒茶屋。
生まれてからつい最近まで、この辺りに家族で住んでいた。家族との時間も、友人と遊ぶ日もほとんどをこの三軒茶屋で過ごした。
慣れ親しんだ道を歩きながら、写真を撮らせてもらった。
家族とのこと、彼女が幼かったときの話をしてくれた。
近くのカフェに入り、改めて髪についての話を聞いた。
彼女が黒髪をやめたのは、去年の12月。今年迎えた成人式の為だった。
小中学生の時の彼女はいじられキャラで、それがずっと嫌だった。
中学を卒業し進学・就職などそれぞれの別を道を経て、成人式で同級生に再会する時までには、頭が良くて可愛くて、女の子らしい服を着たキラキラした女子大生になって、過去に自分をいじってきた同級生たちを驚かせてやろうと思っていた。
けれど実際の彼女は、そうはならなかった。
幼い頃からサブカルチャーが好きで、古着を着て自分のスタイルを持っている女性だ。
私にとってはそれが彼女の魅力だと思うけれど、彼女が思い描いていた所謂“理想の女の子”
になれなかったことがとても悔しかったそうだ。
せめて少しでも変わりたくて、彼女は金髪にした。
「強くなりたかったんです」と彼女は穏やかな口調で話した。

Image by: Miyu Takaki
成人式に、彼女はみんなと同じような振袖は着なかった。
コム デ ギャルソンのドレスと鞄を身に纏い、全身を黒で着飾る。
彼女はスマホでその時の写真を見せてくれて、それはあまりにも格好良かった。
憧れだったブランドの服を着て、金髪にして、最高にイケてる自分で成人式に参加した。
それで最高の1日が終わるはずだった。
成人式の後、久しぶりに再会した同級生たちとの飲み会の帰り、タクシーを待っていた。
そこで、当時自分をいじっていた別の同級生たちと遭遇してしまった。
彼らは、彼女に「お前へんな格好してるな」と言葉をぶつける。
その一言で、小中学生時代の嫌な思い出が一気にフラッシュバックする。
乗り込んだタクシーの中で、昔のことを思い出しながら泣いてしまった。
ただ、彼女はもう昔の彼女とは違っていた。
泣き続けているうちに、涙とともに当時の自分も、嫌な思い出も流れ去っていった。
「今の私はこんなにイケてるのに、それを理解できないあいつらになぜこんなに悩んでいたんだろう?」
「小中学校の学区内という小さな世界から、私は大きく高く飛び立っていく」。
その時の気持ちは、飛行機に乗り離陸する空の上から、小さくなっていく街を見下ろしているようだった、と話した。

Image by: Miyu Takaki
金髪になってから半年ちょっとが経ち、周りの反応はどうだった?と聞いた。
「可愛い」や「似合ってるね」と言われる、と嬉しそうに話してくれた。
金髪だと気が強く見えて怖がられるかなと思っていたけれど、「雰囲気が丸く柔らかくなったね」と言われるようにもなった。
友人や特に彼女のことをよく知るお母さんにそう言われたことはとても意外だったそうだ。
自分の中での変化はどうだった?と聞いてみた。
写真を撮られることが大嫌いだったけれど、金髪の自分ならこうして写真を撮ってもらいたいとも思うようになったし、自撮りもするようになった、と話した。
金髪の自分をもっと残したい。服もなんでも着こなせて楽しい。
彼女はいつもお洒落だ。
そして、“なりたい誰か”がいなくなったと話した。
以前までは美容室に行くとモデルの写真を見せて「こういう風にしてください」と伝え、ロールモデルのような誰かが常に存在していた。
黒髪をやめてからは別の誰かのようになりたい、と思う気持ちがなくなったのだという。
いつまで金髪にしている予定なの?と聞くと、ちょうどこの後に美容室を予約しているとのこと。
「就活までまだ時間はあるし、青とか違う色にしてみようかなって」
小さなことに縛られていた自分に気づき、金髪で自分を誇示する必要がなくなったので髪色へのこだわりも薄れたそうだ。
それは諦めや投げやりな感情ではなく、軽やかでとてもポジティブなものだった。
「それに、金髪にしたら彼氏ができるかなって思っていたけど、全然できなかったから」と冗談を言いながら笑った。
その日の夜、彼女からメッセージが届いていた。
「今回髪色の話をしている中で、やっぱり金髪に愛着を感じたので、金髪を続けることにしました。」
私のせいで彼女にイメチェンの機会を失わせてしまったかと思うと申し訳ない気持ちもあるけれど、彼女の金髪がとても似合っていたので、これからも彼女がもう少し金髪でい続けてくれることを嬉しくも思う。

Image by: Miyu Takaki
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