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ファッション業界のマルジェラファン代表、UA栗野とミキオサカベが映画「マルジェラが語る"マルタン・マルジェラ"」を考察【#Fスナ映画部屋特別編】

Video by: FASHIONSNAP

坂部:今までの話を踏まえて、栗野さんに聞きたいことがあって。デビューシーズンから所謂「ドール期」「オーバーサイズ期」と呼ばれているような最初の約10年と、「ディーゼル(DIESEL)」を展開するOTB傘下に入ってから引退までの約10年間でクリエイションがとても変わったなと思うんです。そこについてはどう考えていますか?

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栗野:「自分の殻を破る」みたいな感覚があったのかな、とは思うよね。

坂部:確かにそれはあるかもしれませんね。

ーWe Margielaでは、様々な人の目線からOTB傘下に入ってからのブランドの変化について語られていましたよね。

坂部:そうですね。でも根本的に僕が「すごいな」と思ったのは、デビュー当初の話をしているスタッフたちが「お金がなかったから、お給料が出ていなかった」と言うんですよ。お金をもらっていないけど、みんなで作ったものがめちゃくちゃ良い物だったという事実は「資本主義で回っていない会社だった」ということに繋がると思うんです。資本ではないもので会社を大きくしていった「巨大なエネルギー体」みたいなものが、当時のメゾン・マルタン・マルジェラだったのかな、と。

栗野:巨大なエネルギー体を、10年間同じ馬力で稼働することはどう考えても難しいはずなんです。だからこそ限界が来て「殻を破る」という選択をとったのかもしれない。それでも10年間続けていたんだからすごいよ。

坂部:本当にそう思います。巨大なエネルギー体として会社を回していたマルタンのカリスマ性と、クリエイティブに対する異常なほどの純度は、他のデザイナーでは簡単に超えることが出来ないくらい凄まじいことだと思います。

「Margiela / Galliera 1989-2009」展の準備中

Imaged by © 2019 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata Productions

栗野:ファッションデザイナーとして、資本主義の中に入るんだけど、取り込まれないギリギリのところで拮抗している。それでも、徐々にカンパニーは大きくなるものじゃないですか。生地代はもちろん、10年経てば雇う人も増えるし、20年経てばスタッフだって結婚して子どもが生まれたりする。

坂部:クリエイションとは別の話ではあると思うんですけどね。それでも資本主義との折り合いをつけることは、純粋な気持ちで物作りに取り組むマルタンのような人にとっては特に難しかったのかな、って。

栗野:だからこそ、殻を破る際に方向性もガラリと変える必要があったのかもしれないね。

マルジェラ自身によるドローイング

Imaged by © 2019 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata Productions

坂部:印象や方向性の変え方自体は、本人がどこまで変えるつもりだったのか想像ができませんが、少なくとも最初の10年の方が純粋に目指しているものに向かって製作していたように思います。

栗野:OTBの傘下以降は「現実問題を踏まえた上で、僕が出来る範疇で目指せるものはこれです」という話をしていたのかな。

坂部:それでもすごい面白いクリエイションなんですけどね。とにかく、OTBグループ傘下になったことなどの「切り替わり」を受け、目指したいものへの純度が不透明になってきた。だからこそ、後半の10年ではいままでとは違う物づくりに励んだんだろうな、というのが僕の邪推です。

栗野:この話になると必ず思い出すのは、英語圏だとマルタンは「キング・オブ・デストロイ」と呼ばれていること。要するに、破壊と再構築の人なんです。

坂部:作るために壊している。

栗野:そうです。ヴィンテージ素材を使ったカプセルコレクション「レプリカ」も、コルクをネックレスにするのもそうです。最初の10年は、「作るために壊すんだ」という対象がいっぱいあったんじゃないかな。

ーそれは初期衝動と言い換えることもできるかもしれないですね。

栗野:「この常識はいらない」「この枠は壊していいだろう」という対象は、10年間でやり尽くしたんでしょうね。最初の10年で、わかりやすく変える対象がなくなっちゃった。

坂部:一方で、壊していくものをループできる人なんじゃないか、とも思います。マルタンは、1年を通して同じコレクションを発表した時がありましたよね。そういう風に、同じ対象をもう一度壊せるタイプの人。5年前の自分自身と、今の自分は違うだろうし、5年前の自分が壊した対象を別アングルから破壊して再構築するようなことはやってのけそうなんですよ。

初めて東京に来た際に地下足袋から着想を得て生まれた、マルジェラのアイコンともいえる足袋シューズ。

Imaged by © 2019 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata Productions

 個人的には、10年も変わらないスタイルで製作を続けたことはすごいと思っています。栗野さんの言葉を借りるなら「破壊と再構築」を20年もやる人はなかなかいないし、死ぬほど大変なはず。でも、大変さを度外視で純粋に自分がやりたいことをやっているから、側から見たら「何かと戦っている感」がない。

ー「作ってみたい」という純粋な気持ちを10年間貫けることを、リスペクトしている、と。

栗野:いま、ふと思ったんだけど。スタッフも含めた「メゾン・マルタン・マルジェラ」というブランドの初期衝動として「一緒に世の中変えようぜ」という意識があったのかも。僕がショーで携わったデビューから5年後の1994年。当時の世の中には「とにかく新しい時代に突入するぞ!」という雰囲気が漂っていたんです。ファッション業界も音楽業界もギシギシと音を立てて変わり始めていた時代だった。マルタン自身が持つ「社会の流れへの興味」みたいなものも、殻を破る上で必要な要素だったのかもしれないね。

Imaged by FASHIONSNAP

ーアントワープの卒業生と「マルタンがまたブランドやるかも」という話をすることはありますか?

坂部:「復活しないだろうね」という話しかしないですね(笑)。

栗野:やっぱりそうだよね。彼を知れば知るほど、近ければ近いほど「絶対ないな」と思う。

坂部:いま復活することが、「自分のためにも世の中のためにもならない」と本人が一番わかっているんだと思います。あの頃作ったものは、作品と環境と時代が全て合わさって出来上がったものだ、と。

栗野:「僕がやればいい」というスタンスではないんだな、と今回の映画を見ても感じたよね。

坂部:この映画を観て、マルタンの「エモーショナルな人間性」がわかったからこそ「僕より優れたデザイナーはいっぱいいるから、僕がやることはないよ」と本気で思っていそうだな、と。

栗野:(メゾン・マルタン・マルジェラの影の立役者である)ジェニー・メイレンスの娘に聞いた話があって。ショーを終えた打ち上げで何をするのかと言うと、スタッフの生まれ故郷の大衆音楽を順番に歌うんですって。国籍も性別も年齢もバラバラのスタッフが、日本人スタッフが選曲した「赤とんぼ」を歌って楽しく盛り上がる、と。その話を聞いて、マルタンは修学旅行委員長みたいな人なんだなって思いましたよ。みんなが楽しく過ごせるようにすごく頑張る人なんだな、って。

(聞き手:古堅明日香)

Imaged by FASHIONSNAP

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