
歴史的な背景を持つ、ヴィンテージ古着。製造された年代が古いものや希少性が高いものが一般的に珍重されていますが、ヴィンテージの楽しみ方はそれだけではありません。この連載では、さまざまな視点でヴィンテージ古着の楽しみ方が味わえるアイテムを、国内最大規模のヴィンテージの祭典を主催するVCM代表 十倍直昭が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に紹介しています。
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今回は特別編。「VCMマストバイヴィンテージ」と題し、11月2日と3日にパシフィコ横浜 展示ホールCで開催される「VCM VINTAGE MARKET vol.7」に出店する古着屋さんのオーナーをお呼びし、それぞれのお店の出品アイテムのなかから「マストバイヴィンテージ」を紹介してもらう座談会を、3回に渡ってお届けします。第1回のゲストは、「エフジェー(FJ)」オーナーの藤田雄介さん、「ディスマン(THISMAN)」オーナーの大野寛太さん、「カーブ(curb)」オーナーの上村遥さんです。
2008年よりヴィンテージショップを運営。その後2021年には、ヴィンテージ総合プラットフォーム VCM(@vcm_vintagecollectionmall)を立ち上げ、来場者を1万人以上を動員する、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。
また渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」、エルメスジュエリーを専門に取り扱う予約制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLERY」を運営。
2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、全国のヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。
好きが高じて会社員から古着屋に、「FJ」オーナー藤田雄介
──まずは藤田さんから自己紹介をお願いします。つい最近まで会社員をされていたそうですね。
藤田雄介(以下、藤田):今年の春から独立して「FJ」という屋号で活動しています。それまではファッション関係の会社でバイヤーなどをしていました。服作りにも携わっていましたが、古着とは直接関係のない仕事です。3年くらい前から古着のYouTubeを始めたのをきっかけに、好きが高じて今に至る、という感じですね。

「エフジェー」オーナー 藤田雄介
Image by: FASHIONSNAP
──古着にハマった時期やきっかけについて教えてください。
藤田:高校3年生の時ですね。当時、周りの先輩たちが「テンダーロイン(TENDERLOIN)」などアメカジ色の強いドメスティックブランドを着こなしていて、そのスタイルに憧れていたんです。でも、先輩の中にそういったブランドアイテムではないにも関わらず渋いデニムを穿いている人がいて。聞くとそれが「リーバイス(Levi’s®)」のヴィンテージだったんです。もともとデニムは好きだったのですが、そこでヴィンテージの格好良さを認識するとともに、あらゆる服の元ネタは古着にあるんじゃないかと考え、どんどん探求するようになりました。

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──現在の古着屋としての活動はオンラインストアが中心ですか?
藤田:アメリカやタイで買い付けをしているのですが、ありがたいことにポップアップやVCMのようなイベントでほとんど売れてしまって、なかなかオンラインストアに商品を掲載できていないのが現状です。今後はオンラインも充実させたいですし、ゆくゆくは実店舗も持ちたいと考えています。ただ、YouTubeで全国の古着屋さんを巡る企画のほか、デザインの仕事もしているので、実店舗があっても月に数日しか営業できないかもしれない。それはそれでどうなのかな、と。でも、やっぱりお客様と直接お話しして販売するのが好きなので、対面で販売できる場は大切にしていきたいです。
十倍直昭(以下、十倍):藤田さんはVCMが始まった当初から関わってくれているんです。まだVCMの認知度が全くなかった初回開催時に、YouTuberとして取材に来てくれたんですが、その動画がものすごく再生されて、第2回目以降の集客に多大な影響を与えてくれました。
藤田:そんなこともありましたね(笑)。

左から十倍直昭、上村遥、大野寛太、藤田雄介
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十倍:彼は古着YouTuberとしても先駆者的な存在で、発信力がずば抜けています。ヴィンテージの知識はもちろん、服作りの経験も豊富なのでオリジナルで展開しているアイテムのクオリティも高い。今回の3人に共通しているのは、それぞれに熱いファンがついていること。誰の真似でもない、自分のスタイルを確立している。この時代にオリジナリティを出すのは並大抵のことではありません。だからこそ、彼らが何を考え、どういうヴィンテージに注目しているのか、僕はとても楽しみにしているんです。

十倍直昭
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西海岸のマストアイテム、ボードシャツ
──藤田さんが選んだ「マストバイヴィンテージ」の1点目をお願いします。
藤田:まずは、僕のアイコン的なアイテムである、「ペンドルトン(PENDLETON)」のボードシャツです。学生時代にサーフィンやスケートをやっていたこともあり西海岸のカルチャーが好きで、古着を好きになった頃からずっと着続けているアイテムです。映画「ロード・オブ・ドッグタウン(Lords of Dogtown)」の登場人物が着ているのを見て、憧れました。ファッションのトレンドは目まぐるしく変わっていますが、これだけは不思議と飽きずにずっと着ていますね。

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十倍:昔は1970年代の襟が大きいモデルはほとんど注目されていませんでしたが、今やどの年代のものも人気ですよね。「FJ効果」で、ペンドルトンの相場が上がったんじゃないかと思うくらいです(笑)。
上村遥(以下、上村):ステューシーを専門に扱う僕のお店ですら、若い人に「ペンドルトンのボードシャツはないか」と聞かれます。
大野寛太(以下、大野):海外での買い付けでも、ペンドルトンの相場は確実に高くなっていることを実感します。ブラックカラーは以前から希少でしたが、やっぱり藤田さんはブルーという印象が強いですね。

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藤田:最近は自分の中で、ペンドルトンの選び方が少し変わってきました。もちろん1950〜60年代の古いものも集めていますが、最近は70年代以降の、比較的新しい年代の方が面白い柄が多いと感じています。年代に固執するよりも、純粋に「自分が着て格好良いか」ということを考えるようになりました。この柄(画像上のブラウンのアイテム)、新しめの年代ですけど格好良いんですよ。

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大野:アメリカに買い付けに行くと、ペンドルトンを着ている現地の方をよく見かけます。朝晩が冷え込むカリフォルニアの気候に、このウールのシャツがすごく合っているんですよね。アウター感覚で羽織れる。まさに西海岸のマストアイテムです。
藤田:そうなんです。「ディッキーズ(Dickies)」のワークパンツにペンドルトンのシャツを羽織っているチカーノとか、めちゃくちゃ格好良いですよね。僕にとってボードシャツは流行り廃り関係なく、ライフワークとして集め、その魅力を伝え続けていきたいアイテム。VCMには、そのために集めた特別なアイテムをたくさん持っていきます。
気軽に着られるヴィンテージスケートスウェット
──続いて、藤田さんが選ぶ「マストバイヴィンテージ」の2点目をお願いします。
藤田:1990年代のスケートブランドのスウェットです。ブランドは「サンタクルーズ(SANTA CRUZ)」や「スラッシャー(Thrasher)」など様々ですが、メイド・イン・USAのボディにこだわって集めています。スケートもののヴィンテージというと、1980年代の「パウエル・ペラルタ(POWELL PERALTA)」などが有名ですが、あまりの人気で今はとんでもない価格になってしまい、気軽に手を出せるものではなくなりました。もちろん僕も好きですし、仕入れたい気持ちもありますが、それよりも僕が提案したいのは、もっとリアルなスタイルなんです。なんてことないスウェットに501を合わせて、足元は「ヴァンズ(Vans)」のスニーカー。そんな気取らない格好良さを、みんなと共有したい。

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十倍:今のヴィンテージ業界は、あらゆるものが高騰しています。だからこそ、「次なる提案」ができるお店が生き残っていく。藤田さんのこのセレクトは、まさにその一つですよね。特に「リー(Lee)」ボディのアイテムはいいですね。Tシャツじゃなくてスウェットってのもいい。

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藤田:1980年代のヴィンテージに比べれば、1990年代のものはまだ10分の1くらいの価格で手に入りますが、バックプリントや袖プリントのデザインは秀逸なものが多いし、もっと評価されるべきだと思っています。知名度が高いヴィンテージだとキメキメな雰囲気になってしまいがちなので、こういった「リラックスして着られるけど実はこだわりの米国製で自分の気分は上がる」みたいな楽しみ方をしてもらえると嬉しいですね。
十倍:スケートというアメリカのカルチャーが背景にあるアイテムだからこそ、アメリカ製であることが重要ですね。

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手放したら二度と出会えない唯一無二のリメイクジャケット
──それでは最後の3点目をお願いします。
藤田:アメリカで見つけた、1990年代のリーバイスのトラッカージャケットです。後染めのブラックボディに、ゼブラ柄のリメイクが施されています。

ジャケットが披露されると、一同から感嘆の声が上がる
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十倍:これはすごい。後染めのボディをさらに黒く染め直しているから、ゼブラ柄の切り替えが際立っている。縫製のクオリティも高いですね。

THISMAN オーナーの大野が着用
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藤田:正直、これは手放したくなかった一枚です(笑)。これまで買い付けたものを私物にしたことは一度もなかったんですが、これだけは初めて自分のものにしようか本気で迷いました。でも、この「VCMマストバイヴィンテージ」企画があると聞いて、これを紹介しない手はないな、と。作られた年代は新しいですし、いわゆるヴィンテージの王道的なアイテムではありません。でも、このブラックとゼブラの組み合わせが放つ、どこか50sのロカビリーや不良のような雰囲気に一目でやられました。僕、もともと50sのファッションもすごく好きで、アニマル柄には目がないんですよ。

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十倍:わかるなぁ。古着って、やっぱりちょっと不良っぽさが大事。僕たちの世代はそれが当たり前だったけど、今の若い世代もそこに格好良さを感じてくれているのが嬉しい。男の格好良さの根源みたいなものは、時代が変わっても同じなのかもしれないですね。
藤田:このジャケットは、手放したらもう二度と出会えない。個人的には、高価なデッドストックよりも価値があると思っています。そういった意味で、僕の「マストバイヴィンテージ」の象徴と言える逸品です。

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──最後に、VCMに来場するお客さんにメッセージをお願いします。
藤田:格好良い大人になりたい方は、ぜひ僕のブースに遊びに来てください(笑)。それは冗談として、普段なかなかお会いできない皆さんとお話しできるのを楽しみにしています。
ヴィンテージデビューは小5、「THISMAN」オーナー 大野寛太
──続きまして、この取材のために新潟から来てくれたディスマンの大野さん。まずは古着を好きになったきっかけから教えてください。
大野:僕には藤田さんのような格好良いストーリーはなくて(笑)。子どもの頃、家にあまりお金がなかったので、家族の服はリサイクルショップで買うのが当たり前だったんです。そんな中で、誰かが着ていたものを安く手に入れて、それが 「格好良いね」って褒められるのが子ども心にすごく嬉しかったし、得した気分もしたんですよね。

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──そこからヴィンテージに興味を持つようになったんですね。
大野:「この服はどんな人が着ていて、どんな歴史があるんだろう」という、探究心が刺激されました。最初にハマったのはレザージャケットです。題名は覚えていないんですが、子どもの頃に見た映画で渋い男たちが着ていた、着古された革ジャンに憧れて。小学5年生の時に「ウィゴー(WEGO)」で買った4000円くらいの革ジャンが、僕のヴィンテージの原点ですね。後々わかったことなんですが、その革ジャンはちゃんと片爪ジップ(1960年代前半までのヴィンテージによく見られる仕様)が付いている、古い年代ものでした。
十倍:小学5年生は早いね!
大野:父もリーバイスのジーンズを穿いていましたし、母も兄も、家族全員が古着好きだったんです。だから僕にとってヴィンテージにハマるのはごく自然なことでした。高校卒業後に当時人気だった古着屋「ハンジロー(Hanjiro)」で働き始めたのですが、会社の体制が変わるタイミングなど色々あって、新潟に初出店した「ザラ(ZARA)」のオープニングスタッフになりました。その後、自分が好きで通っていた古着屋「デザートスノー(DESERTSNOW)」で働きたいと思うようになりました。当時デザートスノーでは求人を出していなかったのですが、「働かせてください」と履歴書を持って行った日が偶然クリスマスだったので「プレゼント代わりに雇ってあげるよ」と言われて採用されたんです(笑)。

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──ザラで働かれていたのは意外ですね。
大野:ザラでの経験は、意外と今の古着屋運営に役に立っているんですよ。例えば、お店のVMDにはザラで学んだことがかなり活きています。
十倍:ディスマンは服の見せ方がとても上手で、お店に行くとその世界観に引き込まれると以前から感じていたんですが、そんな秘密があったとは(笑)。大野君は動画やインスタでの発信も上手いんです。以前はモヘアカーディガンのイメージが強かったけど、今ではアニマル柄やジュエリーなど、ディスマンならではの提案が確立されている。新潟の古着シーンを牽引する、唯一無二の存在だと思います。
大野:今のお店は、小学校のときの同級生と一緒にやっています。あえて古着に全く興味のない2人を誘いました。同じ熱量の人と組むと、どうしても見るものが似てしまう。自分では選ばないようなものをピックアップしてくれる仲間が欲しかったんです。
使いづらいけど格好良いフリスコジーンズ
──では、大野さんが選ぶマストバイヴィンテージの1点目をお願いします。
大野:僕自身が愛用している、フリスコジーンズです。お店でもプッシュしているので、「ディスマンといえば」なアイテムになりつつあります。以前から、ブラックカラーで格好良くて、ずっと使えるパンツはないかなと探していて、行き着いたのがフリスコジーンズでした。ディテールがどうとか、歴史がこうとか、そういうことよりも、単純に見た目が格好良いと思ったんです。フリスコジーンズの象徴と言えるL字ポケットは、スマホの出し入れがしづらくてちょっと嫌なんですけど(笑)。

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十倍:わかる(笑)。でもその不便さがまた良いんだよね。ここ数年はフェードアイテムの人気が急激に高まりましたね。501のブラックもそうだけど、良い感じに色落ちした黒系のパンツはみんなが探しているから、本当に見つからなくなってきました。

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大野:特にこういうヴィンテージならではの雰囲気を持つ個体は貴重です。今回VCMには、特に表情の良い一点物と呼べるフリスコを揃えて持っていきます。

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アートピースと呼べる特別な「ボロ」
──2点目はどんなアイテムでしょうか?
大野:フリスコのフェードにも通じるキーワードになりますが、今回は「ボロ」をテーマにアートピースと呼べるアイテムを用意しました。その中でも、このカバーオールは究極の一枚です。

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十倍:これはすごい。サンフェード、縦落ち、そしてこのリペア。「全部入り」ですね。サンフェードには「いいサンフェード」と「駄目なサンフェード」がありますが、これは特にいいやつですね(笑)。
大野:この「テキトーな直し」感も、いいんですよね。リペアショップでプロが綺麗に直したのではなく、「母ちゃん、破れたからなんとかしといて」みたいな(笑)。


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十倍:2008年頃に「ボロブーム」があったんです。当時はユーロのモールスキンジャケットや、100年以上前に作られた舞台衣装のボロなんかが注目されていました。でも、当時はダメージのあるデニムアイテムはほとんど評価されていなかった。そんな価値観は完全に変わりましたね。今、第二次ボロブームが来ていると感じます。
大野:現在はヴィンテージ加工の手法もかなり進化しましたが、このカバーオールの雰囲気は加工では絶対に出せない。まさに唯一無二のアートピースですよね。よく見ると、フロントの月桂樹ボタンは新しいものに付け替えられています。なのに、胸ポケットのボタンは付け替えられていない。そんなちぐはぐさも格好良いと思えます。

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十倍:古着好きの大人が今、一番求めているヴィンテージはこういうものかもしれない。VCMの会場には、まだ価値を見出されていないボロが眠っている可能性もあります。VCM=高価なヴィンテージ、というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、実はお手頃な商品も沢山あるので、是非掘り出し物を見つけ出してほしいですね。

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額装したくなる偉人ボロスウェット
──では、3つ目のアイテムをお願いします。
大野:バッハ(Bach)、ブラームス(Brahms)、ベートーヴェン(Beethoven)の頭文字を取って「Three B's」と呼ばれる、1960年代に放送されていた音楽番組のノベルティグッズとして作られたスウェットです。この3枚を大きいサイズを揃えて販売できる機会はまずありません。

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十倍:これは壮観だね。もはや着るだけじゃなく、アートとして所有したい領域。
大野:額装して飾りたくなる格好良さがありますよね。特にこのベートーヴェンは、ペンキ汚れやリペアも相まって、すごい雰囲気。デニムなどと違い、こういうダメージがあるスウェットって捨てられてしまうことが多いので、なかなか出てこないんですよ。

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十倍:僕が初めて大野君に会った時、バッハのスウェットを着ていたのを鮮明に覚えています。だから、これは彼にとっても思い入れのあるアイテムのはず。
大野:よく覚えてますね(笑)。VCMに初めて参加した時、何を着ていこうかクローゼットを漁って、気合を入れて着ていったのがバッハでした。VCMにはお店でも人気のモヘアやオンブレシャツも持っていきますが、この企画では僕個人が今本当に好きなものを紹介したかったんです。
──最後に、VCMに来場するお客さんにメッセージをお願いします。
大野:VCMは僕自身も一番楽しみにしているイベントです。一緒にお祭りを楽しみましょう!
「ザ・ノンフィクション」で話題、「curb」オーナー 上村遥
──最後はカーブの上村さん。話題になったフジテレビの番組「ザ・ノンフィクション」の「ボクと古着と下北沢 〜夢と現実のヴィンテージ〜」でその奮闘をご覧になった方も多いのでは。上村さんが古着に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
上村:もともとスケートボードをやっていて、そこから服に興味を持ちました。父もスケーターで、「カーハート(Carhartt)」のデトロイトジャケットをお下がりで着たりしていたので、古着は身近な存在でしたね。大学時代、コロナ禍で授業がオンラインになったのを機に、古着屋で週5でバイトを始めて、そこからどっぷりハマりました。スマホで大学のオンライン授業を受けながらレジで接客、なんてこともありました(笑)。

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十倍:今のヴィンテージ業界は、藤田さんや大野君のような30代が中心となってシーンを引っ張っていますが、さらにその下の20代の勢いも目を見張るものがあります。上村君はその筆頭。24歳にして既に4店舗を経営している。彼の成長スピードは尋常じゃないし、そのセンスと根性には僕もリスペクトしかありません。
──カーブといえば「ステューシー(STÜSSY)」です。
上村:周りの仲間が着ていたことが興味を持つきっかけでしたが、ステューシーの「自由さ」に惚れ込みました。一般的に古着は米国製のものが評価されますが、ステューシーの「黒タグ」と呼ばれる1980年代に製造されたアイテムは、ほとんどが中国製なんです。それは、創設者のショーン・ステューシー(Shawn Stussy)が、自分の作りたいアイテムをどうやったら実現できるかを世界中をリサーチした結果、中国の工場にたどり着いたから。世間の評価に流されず、自分のクリエイションを追求する。その姿勢に憧れます。また、ショーン・ステューシーは山本耀司を敬愛しているそうで、ストリートからクラシック、モードまで、ここまで幅の広いブランドは他にないと思いますね。
十倍:彼のステューシーに対する知識と愛情は本物。だから、多くの若い子たちが彼を慕ってお店に集まってくる。兄貴的な存在になっているんだと思います。接客もきちんとしているんですよ。このイカツイ見た目からは想像しづらいかもしれませんが(笑)。

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知られる前に買うべきスカジャン
──それでは、上村さんのマストバイヴィンテージ、1点目をお願いします。
上村:2005年にリリースされた、ステューシー25周年記念のスーベニアジャケットです。いわゆるスカジャンですね。

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十倍:ステューシーのスカジャンって、派手なスカル柄とかのイメージが強いけど、これはすごくオーセンティックなデザインだね。
上村:そうなんです。ブランドの主張は背中の刺繍くらい。シルエットも現代的で着やすいバランスになっています。リバーシブル仕様で、裏面は無地に25周年のロゴ刺繍だけというシンプルさも魅力です。このジャケットは、おそらく世界で100着程度しか生産されていません。当時の日本の店舗には各サイズ2着くらいしか入荷せず、しかもそれをスタッフが購入してしまうこともあったと言われています。そのため、市場に出回った数は極めて少ないんです。ステューシーといえばスタジャンが人気ですが、スカジャンは存在そのものがあまり知られておらず、希少性も高い。だからこそ、価値が広く知れ渡る前に手に入れておくべき「マストバイ」な一着だと思います。


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東西海岸のカルチャーが交差した歴史的な一着
──続いて2点目をお願いします。
上村:これは1992年頃に作られた、ステューシーとカーハート、そしてヒップホップレーベルの「トミーボーイ(TOMMY BOY)」によるトリプルコラボのアクティブジャケットです。

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藤田:これはやばいですね。
上村:トミーボーイがプロモーション用に制作した、スタッフや関係者向けの非売品です。1990年代初頭のニューヨークでは、多くの売人やヒップホップ関係者がカーハートのジャケットを着ていました。それに目を付けたトミーボーイが、カーハートのボディを使ってジャケットを作り、街のキーマンたちに配ったんです。そのデザインを手掛けたのが、西海岸がルーツであるステューシー。東海岸のヒップホップカルチャーと、西海岸のストリートブランドが交差した、歴史的な一着と言えます。

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十倍:このブラックフェードに赤の刺繍っていうのが、たまらなくクールだね。
上村:左胸に刺繍されているのは、元オーナーの名前だと思われます。一般には流通していないので、スカジャン同様存在自体がほとんど知られていません。ステューシーとカーハートのコラボアイテムは他にも存在していますが、このジャケットの背景にあるカルチャーの濃密さには代えがたい魅力があります。
十倍:そんなエピソードを聞くと、俄然欲しくなりますね。ひとまず、みんな着てみよう(笑)。でもやっぱり上村君が一番似合うね!

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「ディグる」の語源、日本が生んだ伝説のコラボ
──では、最後の1点をお願いします。
上村: 最後は2006年にリリースされた、ステューシー、カーハート、日本のセレクトショップ「サヴェージ(SAVAGE)」、そしてグラフィティアーティストのヘイズ(HAZE)がコラボしたアクティブジャケットです。サヴェージは、日本のレジェンドヒップホップDJ、MUROさんのお店です。その10周年を記念して、MUROさんと繋がりがあったステューシーとカーハート、そしてトミーボーイのロゴもデザインしたヘイズが集結して作られました。

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十倍:すごいメンバーだね。

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上村:このジャケットには「KEEP ON DIGGIN'」という刺繍が入っているんですが、そもそも僕らが今当たり前に使っている「ディグる」という言葉を日本に広めたのが、DJ MUROさんだと言われています。元々はDJがまだ知られていないレコードを探し出すことを「ディグる」と言っていて、そこから古着を探す行為にも使われるようになったんです。

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十倍:なるほど、そんなルーツがあったんだ。
上村:これは日本で販売されたものなので、先ほどのトミーボーイのジャケットよりは見つかる可能性はありますが、それでも数は非常に少ないです。日本のストリートカルチャーの歴史が詰まった、特別な一着ですね。
──最後に、VCMに来場するお客さんにメッセージをお願いします。
上村:VCMは、年齢を問わず誰もが楽しめるイベントだと思います。僕のブースでテンションが上がる一着を見つけていただけたら嬉しいです。

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来週公開予定の「VCMマストバイヴィンテージ」第2回では、「ソーマ 下北沢(SOMA SHIMOKITAZAWA)」オーナーの徳永勝文さん、「リード(LEAD)」オーナーの高雄大善さん、「スナッグ(SNUG)」オーナーの小川元気さんによる座談会をお届けする予定です。お楽しみに。
■店舗情報
「FJ」
公式オンラインストア
「THISMAN」
所在地:新潟市中央区古町通4番町568
営業時間:12:00〜20:00
公式サイト
「curb」
所在地:東京都杉並区高円寺南3-55-2 A
営業時間:平日14:00〜22:00 土日祝13:00〜22:00
公式オンラインストア
最終更新日:
vol.1 カーハート × ステューシー編
vol.2 キース・ヘリング Tシャツ編
vol.3 エルメス ヘラクレス編
vol.4 リーバイス ギャラクティックウォッシュデニムジャケット編
vol.5 ポロ ラルフ ローレン オープンカラーシャツ編
vol.6 セックス・ピストルズ ポスター編
vol.7 シュプリーム ゴンズジャケット編
vol.8 ソニック・ユースTシャツ編
vol.9 エルメス アクロバット編
vol.10 ナイキ クライマフィット ジャケット 2ndタイプ編
vol.11 カルバン・クライン「オブセッション」Tシャツ編
vol.12 マルタン・マルジェラ ペンキデニムジャケット編
vol.13 J.クルー ツートーンアノラックパーカ編
vol.14 エル・エル・ビーン ボート・アンド・トート編
vol.15 エルメス クレッシェンド編
vol.16 オンブレチェックシャツ編
vol.17 エルメス アレア編
vol.18 スカジャン編
vol.19 カルチャーポスター編
vol.20 エルメス グレンデシャン編
vol.21 アディダス レザートラックスーツ編
vol.22 コム デ ギャルソン オム シャツ編
vol.23 ハーゲンダッツ編
vol.24 エルメス トルサード編
vol.25 フレンチフレーム編
vol.26 ペンドルトン ボードシャツ編
vol.27 BDUブラック357編
vol.28 アニマル柄シャツ編
vol.29 フェードスウェット編
vol.30 モヘアカーディガン編
vol.31 ウエスタンジャケット編
vol.32 リーバイス「後染め」ブラックデニム編
vol.33 エルメス オスモズ編
vol.34 ラングラー デニムジャケット編
vol.35 ASAT トライバルカモフラージュ編
vol.36 リーバイス アクションスラックス編
vol.37 レインボーレイクジャケット編
vol.38 パタゴニア ドリズラージャケット編
vol.39 ポロ ラルフ ローレン レザースイングトップ編
vol.40 L-2Bフライトジャケット編
vol.41 エルメス ブックルセリエ編
vol.42 アメリカ軍ヘリンボーンツイルジャケット編
vol.43 パタゴニア パフボールベスト編
vol.44 リーバイス コーデュロイジャケット編
vol.45 ステットソン ハット編
vol.46 1930〜50sカバーオール編
vol.47 1940〜60sシャンブレーシャツ編
vol.48 プリントネルシャツ編
vol.49 キャントバステム編
vol.50 ポロ ラルフ ローレン キューバシャツ編
vol.51 リーバイス 70505 ビッグE編
vol.52 M-35 デニムプルオーバー編
vol.53 ヒステリックグラマー スカジャン編
vol.54 リー ウエスターナー編
vol.55 リーバイス「先染め」ブラックデニム編
vol.56 エルメス シェーヌダンクルTPM編
vol.57 オールドステューシー Tシャツ編
vol.58 ラルフ ローレン総柄セットアップ編
vol.59 エンポリオ アルマーニ フォトT編
vol.60 ヴァイパールーム Tシャツ編
vol.61 エルメス ヴァンドーム編
vol.62 オールドステューシー 総柄Tシャツ編
vol.63 エルメス キーリング編
vol.64 レノマ マルチポケットジャケット編
vol.65 リーバイス507XX & 507編
vol.66 リーバイス ピケジャケット編
vol.67 リーバイス 501 66 前期編
vol.68 P-44 ダックハンターカモ編
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