留学中のパーソンズの校舎より
Image by: Jun Takayama
日本でファッション業界のキャリアを積み、現在はニューヨーク・パーソンズ美術大学に留学中の高山純氏が現地のファッション事情をお届けする新コラム連載がスタート。記念すべき第1回は、同氏が社会人生活からなぜ留学を決意したのか、その経緯を綴る。
大学院留学のために僕がニューヨークに到着し、米国生活が始まったのは盛夏の8月。当初は結構暇で、観光や新居の内見、はたまた身体を動かそうと格闘技ジムの体験に行ったりとぶらぶらしていた。それから1ヶ月が経ち、なんとか生活基盤を整えて現在はブルックリンで暮らしながら授業や課題に追われる、いかにも学生という毎日を過ごしている。その中で、ニューヨークの生活やファッション業界の現在について発信してみようというのがこの連載だ。
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第1回は渡米することになったきっかけについてお話ししたいと思う。
僕は現在パーソンズ美術大学の大学院に在籍し、ファッションマネジメントを専攻している。ざっくりいうとファッションブランドの経営周りを1年かけて学ぶというプログラムだ。経営を学ぶならMBA(経営学修士)のプログラムに行くことが一般的だが、多くのMBAプログラムはファッション分野に特化していない。そのなかでパーソンズの大学院では1年制のファッションマネジメントのプログラムがあることを知り応募した。
僕がファッションデザインではなくファッションビジネスに興味を持ったきっかけは、高校生の時に読んだ一冊の本にある。それは、グッチ時代のトム・フォードとドメニコ・デ・ソーレについて書かれた本だった。最近映画化もされた「ハウス・オブ・グッチ」の原作本で、トム・フォードの就任やデ・ソーレとグッチを建て直す様子が映画よりも詳しく描かれていたと思う。
当時は有名デザイナーについて書かれた本は読んでいたものの、ファッション業界の経営者はフランソワ=アンリ・ピノーやベルナール・アルノーくらいしか知らなかった。経営とファッションが自分の中ではあまりリンクしておらず、別々の興味として存在していて、有名なデザイナーの裏には公私ともに良いパートナーが必要だと考えるきっかけをくれたのがこの本だ。
そして社会人になって投資界隈やファッション界隈をうろうろすることになるのだが、どうしても本で読んだような、デザイナーと経営者が良い関係を保ちながらブランドを成長させていくような光景は目にすることがなかった。
僕が実際に経営の現場で見てきた中では、デザイナーが経営を兼任して経験不足で失敗する場合と、経営を他人に任せたものの、搾取的な契約条件やずさんな経営をされて事業が立ち行かなくなる場合がある。逆に、デザイナーに頭が上がらず、ブランド規模に見合わないレベルのショーや高い原価を容認してしまったというパターンもあった。業界では同様のエピソードは多いのではないだろうか。いずれもクリエイティブと経営のバランスが取れ、二者が理解し合いながら同じ方向を向いていたら発生しなかったような問題だ。新進ブランドの課題は、会社の仕組みを整えることで一気に解決へ向かう場合が多い。僕はそういうスピーディーな変化が好きだ。
長い歴史を持つ大手ラグジュアリーブランドなどではビジネスの基盤が出来上がっており、儲からないコスト構造など初歩的なミスは発生しにくい。経営課題も複雑になるが、自社で解決策を練る資金も人材もある。
僕は完成された大型ブランドよりも、特に小規模ブランドを経営したり投資家とつなげたり出来る人材が必要なのではないかと考えている。ファッション分野の経営のプロがいればデザイナーの負担も減り、ブランドが育ちやすくなる──経営を人に任せてクリエイティブに集中できるなら新進デザイナーは苦労しないし、理解ある経営者を迎えてブランドを成長させるというのは理想論に聞こえるかもしれない。しかし、実際にそのような選択肢が若手ブランドにとって少しでも身近になる環境は作れると思う。
ファッションの首都はまだパリだ。しかし、英語が使えて懐が深そうなニューヨークに賭けてみた。ファッションとビジネスの組み合わさったところで何か面白いことができればという期待があってやってきたというところだ。
この連載を通じてファッションビジネスを学ぶきっかけになったり、ニューヨークのファッション業界に興味をもつ方が増えてくれたら嬉しい限りだ。
■その他、連載中のコラムを読む
・ジャラン ジャラン アジア - 1年間の3分の2以上を東南アジア諸国で過ごす横堀良男氏が現地の最新情報をレポート。
・ニイハオ、ザイチェン - 東コレデザイナーなどを経験した佐藤秀昭氏の視点から、中国でいま起こっていることをコラムでお届け。
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