日本でファッション業界のキャリアを積み、現在はニューヨーク・パーソンズ美術大学に留学中の高山純氏が現地のファッション事情をお届けする新コラム連載がスタート。今回はニューヨークの街で増えつつあるというブラジリアン柔術(BJJ)に特化したジムをフックに、「横乗り」と「格闘技」カルチャーの交差から生まれる新しいコミュニティについて考察する。
アメリカといえば大型のジムやカリフォルニアにあるマッスルビーチなど筋トレをイメージする人は多いかもしれない。僕も、アメリカは筋トレ大国だしジムもたくさんあるんだろうなと思っていたが、実は人口10万人あたりのジム数は東京の5.8店舗に対し、ニューヨークは3.1店舗と意外と少なく、むしろ倍近い差がある。ニューヨークは賃料が高く、また東京は小規模パーソナルジムが乱立していることが影響しているのかもしれない。
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しかし、ニューヨークでは様々な趣向に合わせたジムが存在する。月額15ドル程度から通えるチェーンのジムや、トレーナー全員が服役経験者で刑務所式のトレーニングを教えるなど、多種多様となっている。
高級ジムの代表格として有名なのが、「エキノックス(EQUINOX)」だ。エキノックスは同名の高級ホテルも運営しており、ホスピタリティやウェルネス分野では抜きん出た存在になってきている。日本への進出計画もあるという噂もあり、数年後に実現するかもしれない。エキノックスの見学に行った際、店舗マネージャーは「ニューヨークでの出会いは夜のクラブよりも昼のフィットネスクラブが主流になるはず」と話してくれた。高級な設備のみならず会員同士の交流など、独自のブランディングやコミュニティ形成にも力を入れているようだ。
エキノックスの外観
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エキノックスは筋トレやヨガなどのスタジオクラスを提供するいわゆるフィットネスジムだが、格闘技ジム界隈も面白いことになっている。僕は格闘技が好きで、ニューヨークでもジム探しをしているときにブラジリアン柔術(BJJ)に特化したジムの多さに驚いた。いくつかのジムに体験に行った際には参加者が多く、人数制限がかったりもした。
BJJは約100年前に日本人柔道家がブラジルに渡り、柔術を伝えたことから現地で発展したと言われる、関節技や絞め技を中心とした打撃のない格闘技だ。技の多さや駆け引きの面白さから「マット上のチェス」とも呼ばれたりする。東京では青山や広尾に某有名ジムがあるものの、このような特化型ジムは少数派だ。
アメリカでのBJJは、西海岸に移り住んだブラジル人から広まっていった。ジムが海の近くにあることで、サーファーがBJJを始めたり、柔術家が余暇にサーフィンを楽しむなど交流が深まっていき、現在でもトップサーファーのBJJ愛好家は多い。ウェアの面でもラッシュガードの着用が共通しており「ルーカ(RVCA)」などサーフブランドが有名柔術家のスポンサーになっていたりもする。
このようにBJJとサーフィンには気持ちいい相性のよさがある。また、いわゆる横乗り系スポーツのスケートボードやスノーボードを楽しむ人にもBJJ好きは多いらしい。
▲ブラジリアン柔術に特化したマンハッタンのジム「Masterskya」のYouTubeより
では、なぜ都心のニューヨークにBJJジムが多いのか? ニューヨークの場合、サーフィンはできないが代わりにスケーターがBJJ道場にいたりする。スケートボードのグラフィックも手掛けるアーティストがGi(柔術着)やラッシュガードのデザインをする例も出てきており、ストリートカルチャーとのオーバーラップが徐々に増加中だ。
一例を挙げると柔術着ブランドの「アルビノ&プレト(ALBINO&PRETO)」がスケートボーダーでアーティストのマイク・ジリオッティ(Mike Gigliotti)とコラボしたり、ヒップホップグループのウータン・クラン(Wu-Tang Clan)ともBJJ用のウェアを発売している。僕が先日参加したイベントでもアーティストがペイントしたGiが展示されたり、BJJをモチーフにしたグラフィックを購入できたりと、ジャンルを横断して盛り上がっていた。
▲ウータン・クランとのコラボ動画
このような横乗りカルチャーと、BJJをはじめとした格闘技カルチャーのつながりが、新しいスタイルのBJJジム人気を後押ししているように思う。複数のバックグラウンドを持つこのようなジムは一種のソーシャルクラブのような機能も果たしている。
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スターバックスは家でも職場・学校でもない場所「サードプレイス」を提供したことで成功した、という話があったと記憶している。しかし、現在は特定のサードプレイスに限らず、オンラインでもオフラインでも複数のコミュニティや居場所がある人が増えている時代だ。コミュニティの規模は大小様々だが、カルチャーをつなげて育てることができる場であり、そこからまた新しいムーブメントが生まれていくと僕は思う。それはBJJに限らず、どのコミュニティにもその可能性がある。
「コミュニティ形成」が一種のバズワードになっている中で、ちぐはぐ感や押し付け感があるコミュニティも増えている気がする。BJJとサーフィンは良い例だと思うが、本当に親和性があるコミュニティ同士からしか面白くて新しいカルチャーは誕生しないだろう。
衣・食・住という生活の基本に、「闘」「音」「波」「韻」など各々の好きな趣味を組み合わせたとき、どのような化学反応が起きるか考えるだけでも面白い。実はコミュニティやカルチャーというかっこつけた言葉などは不要で、気の合う人たちで汗を流したり、新しいものをつくる場があれば自然にかっこいいものが出来上がるかもしれない。
■その他、連載中のコラムを読む
・ジャラン ジャラン アジア - 1年間の3分の2以上を東南アジア諸国で過ごす横堀良男氏が現地の最新情報をレポート。
・ニイハオ、ザイチェン - 東コレデザイナーなどを経験した佐藤秀昭氏の視点から、中国でいま起こっていることをコラムでお届け。
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