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【ソウシオオツキ×ピリングス×ローカルアーティストの2杯目】どうしてLVMHプライズで受け入れられたと思いますか?【居酒屋本音談義】

Image by: FASHIONSNAP

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【ソウシオオツキ×ピリングス×ローカルアーティストの2杯目】どうしてLVMHプライズで受け入れられたと思いますか?【居酒屋本音談義】

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 会議室でのかしこまった対談よりも、お酒とタバコを片手に話した方が素直な話を聞けるかもしれない、とまたもや二人のデザイナーと一人のカメラマンを居酒屋に呼び出した。

 記憶に新しい、ファッションプライズ「LVMH Young Fashion Designers Prize(以下、LVMHプライズ)」のセミファイナリスト発表。日本からは、「ピリングス(pillings)」の村上亮太と、「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」の大月壮士が選出され、同世代のダブルノミネートに業界内外は大いに盛り上がった。LVMHグランプリが発表された7日後。帰国直後の大月と、展示会後に駆けつけてくれた村上、そして2つのブランドの快進撃を陰で支えた立役者でフォトグラファーのローカルアーティスト“河原”を、3人の行きつけだという三軒茶屋の居酒屋に招集した。今回、FASHIONSNAPではほぼノーカットの全3話連載でその模様をお届けする。

 第2回は「互いのクリエイションをどう思っているか」という問いかけから始まる、世界に受け入れるための壁について。

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大月壮士
1990年千葉県生まれ。2011年文化服装学院アパレルデザイン科メンズデザインコース卒。在学中、プライベートスクール「ここのがっこう」に通い、山縣良和と坂部三樹郎に師事。2015年秋冬にメンズウェアレーベル「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」を立ち上げる。LVMHプライズ2016のショートリストに日本人最年少でノミネート。2019年度 Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門入賞。TOKYO FASHION AWARD 2024を受賞。LVMHプライズ2025で日本人で3人目のグランプリを受賞した。

村上亮太
上田安子服飾専門学校卒業後、山縣良和による「ここのがっこう」でファッションを学ぶ。リトゥンアフターワーズのアシスタントを経て、2014年に「リョウタムラカミ(RYOTAMURAKAMI)」を立ち上げ。2020年にはブランド名を「ピリングス(pillings)」に改名。同年「K'sK」代表の岡本啓子と共に、ニットスクール「アミット(AMIt)」を開校した。2023年12月にリトルリーグと事業譲渡契約を締結。LVMHプライズ2025でセミファイナリストに初選出された。

ローカルアーティスト(河原)
日本大学芸術学部写真学科を中退後、2017年にセレクトショップ「エスメラルダ サービスド デパートメント(Esmeralda Serviced Department)をオープン。またフォトグラファーとして「ピリングス」や「ソウシオオツキ」のランウェイフォトやルック撮影を手掛ける。

──LVMHプライズのセミファイナルの会場でお二人はどんな話をしましたか?

大月:何を食いたいか、ぐらいの話はしていた気がする。でもこれが村上くんではない違うデザイナーだったら全く話さなかっただろうなとも思う。

村上:会場の喫煙所で話したよ。「世界ってこうやねんな」って。

──「世界をどう感じたのか」の会話を教えて欲しいです。

村上:意外とシンプルなコミュニケーションも大事だな、と。例えば、ピリングスの今回ショー(2026年春夏コレクション)も「まいばすけっと」という共通コードや情緒的なものは大事にしているものの、観にきた人に話を聞いてもらって、大衆に向けた言葉に還元されて初めて伝わる難しさがある。

大月:英語力もそうだけど、クリエイションとしてももう少し簡単なコードでコミュニケーションがとれないと、ってことだよね。大前提「so beautiful」だけで完結する世界でもあるのがファッションの怖さでもあり、良さでもあるから。

河原:それで思うのは「ソウシオオツキ」は「トラッド」みたいなカテゴリーを持っていたのが伝わりやすかったのかもね。

村上:「テーラリング」という共通言語を持っていて、大月くんはそれのツイストという分かりやすい見え方をしてる。自分も「ニット」という分かりやすいものだと思っていたけど、意外とテーラリングよりは共通言語じゃないな、というのは現地ですごく感じたところ。

河原:「パーティーに着て行けない」みたいなのは言われてましたよね。

村上:やっぱりドレスメイキングやテーラリングみたいなものは価値のあるものとして健在で、それを更に「工夫し、曲げた表現をしている」=「クリエイティブ」みたいな見え方はしているなって。

河原:ピリングスはアナ・ウィンターに「重くて着れないわ」と言われたっていう噂を聞きました。

村上:小声で言っていたつもりが、そこにいた全員に聞こえるくらいのボリュームで、現場が凍りつくっていう。俺はそれに対して「今後、軽い服も作ります」と宣言したら「村上がアナ・ウィンターに言い返した」というとんでもない噂の広がり方をしていた(笑)。

大月:パリで展示会やっていた時、あるバイヤーから「村上さん、アナ・ウィンターに楯突いたらしいですね」って言われたよ(笑)。

村上:翌日、全員知っていたからね。「重い服どれ?」とか聞かれてさ(笑)。

大月:でも、そもそもアナがそれを言った経緯というのがあって。「ヴォーグ(VOGUE)」の100周年イベントにピリングスが服を貸し出したんでしょ?

村上:そうそう。それが過去最強に重いやつだったの。それを多分覚えていて「あなた、服を貸してくれたわよね」って言われたから「おー」と思って。

河原:覚えてくれているのもすごいですよね。

河原:ピリングスはコレクションピースとして強いものもあるから、それを重点的に持っていってましたね。

村上:ブランドの強みを見せようと思って、アーカイヴを揃えて持っていったんだけど「強いピースだけど、デイリーユースだとどう使うの?」ということは聞かれた。

大月:やっぱり思っている以上に、その先のビジネスみたいなのを見てるなって俺も感じた。

河原:「ジャックムス(JACQUEMUS)」を輩出したいんだろうね。

大月:ジョナサン(・アンダーソン)がコメントしていたのも売り先の心配だったし、値段とかもすごく聞かれた。ショートリストに入った段階でクリエイティブのレベルが皆高いのは大前提。

河原:ブランドとして持続可能性があるか、とかね。

──村上さんがセミファイナルのフィードバックで覚えていることはありますか?

村上:セントマ(セントラル・セント・マーチンズ)のMAの先生に「映画的な表現で、とても広い誰もいない道を見ているようだ」「内向性を表現してるけど、内向的な人はこの服を着ないよね」と言われたのはすごく残っている。リアリズムというか、「もっとセールスピースを作ろう」という話になってくるかもしれないけど、興味を持つきっかけになりました。

──今回、なぜセミファイナリストに残れたと考えていますか?

河原:ピリングスは順当にクリエイションが日本で発表しているブランドで一番いい。ピリングスは五角形が広く大きく綺麗で、抜かりないし、タッチの良さもあるし、ショーとしてのスペクタクルもある。

大月:マイナスをプラスにできるのは村上くんならではだな、と。

村上:嬉しいな。一応、自分としては全部ポジティブ表現のつもりなんだけどね(笑)。

──ピリングスは来年もLVMHプライズに応募するんですか?

村上:グランプリ獲るまで出すつもりですよ。基本的に、自薦だと難しいと言われている中でソウシオオツキは自薦でグランプリまで獲ったわけだし。

──では大月さんがグランプリを獲れた要因は?

河原:最初はコレクションルックがバズったからかな、と思ったんですよね。でも意外と現地に行ったらルックのことも、バズっていたこともみんな知らなかった。

大月:「ルックがわかりやすい」というところから入って、一着一着を見たら「意外とちゃんとしてるね」みたいな反応だった。

村上:追い風はあったよね。

大月:これも「追い風」の一つだったのかもしれないけど、セミファイナルのプレゼンテーションの後にキム・ジョーンズ(Kim Jones)からDMが来て。「このニットが欲しいんだけど」と全色買いをしてくれた。

河原:メンズだから一人だけ2026年春夏コレクションを見せられたというのも大きかった。

大月:他の人たちは「アディショナルラック」という名前で未発表の2026年春夏コレクションを持ってきていたけどね。

河原:2026年春夏は、セールスピースとしても結構刺さっていたように感じた。

大月:一応集大成的でもあったしね。プレゼンをした後に「ものをみたい」とフィービー・ファイロがブースに来たりとリアクションはあった。

──ほかのファイナリストとは会話しましたか?

大月:でもスティーブ・オ・スミス(Steve O Smith)の相方がLVMHプライズ2016のセミファイナルでモデルをやってくれていた過去があって。俺がグランプリ獲った時に泣いて喜んでくれた。「夫が賞を獲った時より嬉しい」みたいなことを言ってくれて。

大月:個人的にはトリシェジュ・ドゥミ(Torishéju Dumi)が社交性と政治的後押しもあって無敵だと思っていたんだけど、初日にディナークルーズみたいなのがあって。「緊張しすぎてプレゼンの内容が頭の中を駆け巡って離れないの」みたいな話をしていて「こんなに無敵に見える人でも緊張するんだな」と思ったらだいぶ気持ちが楽になった(笑)。

──「ソウシオオツキ」「ピリングス」、それぞれのクリエイションをお互いはどう見ていますか?

村上:ソウシオオツキは、先ほども話に出ましたけど「テーラリング」という共通言語があって、そこの遊び方が良いな、と。個人的には、バブル期の一発目(2025年春夏)はコスプレっぽく見えたのが引っかかっていたんだけど。

大月:村上くんと吉田(ケイスケヨシダ 吉田圭佑)しか文句を言ってこなかった(笑)。

村上:(笑)。でも、3シーズン続けた現状を見てみると「すごく正しい表現だったな」と思う。ああしないと伝わらない部分があまりにも多いから。

大月:章立てることによって正当化させたという結果論なところもあるけどね。

村上:でも今の時代、そこまで考えて言語化できる人が少なすぎるから。あれくらいやってあげた方がちょうどみんな気持ちよく解釈して、ごちゃごちゃ言えて、議論になるという懐の深さはあったと思うよ。

──3シーズン続けたことで「ソウシオオツキ=80年代っぽい」という流れも生まれつつあるな、と感じます。

大月:独自性は既にあると思っているから、あれをずっと続けるのも手だし、他のことをやるのもあり。

河原:「バブル」というのもそうだけど、トランプ大統領のあれこれとかもあって時勢的に「ナショナリズムをどう考えるか」という世論があった。別にその様式が重要か、と問われたらそうじゃないのかもしれないけど、時代性に対してフィットしたのかな、とは思った。

河原:話が少し脱線するかもしれないんだけど、「リア(RIER)」のルックで白人のモデルしか出てこないコレクションがあって。単純に自分の想像力に任せて伸びやかにクリエイションをしていたら白人しか出てこなかったのかな、と。「ポリコレを守らなかったからかっこいい」と言いたいわけじゃなくて、そういうナショナリズムをフラットに取り扱ったところ、時勢にフィットしたということはあると思うんだよね。

村上:今の世の中的にトレンドがないから、日本のローカライズされたものが面白く見えるという節もある。ローカルなものの価値が高まっている中で、アプローチとして一番しっくりくるというか、的確にやってるな、というのがソウシオオツキ。

──「リバイバル」というのがファッションの王道になりつつあるのも「ローカライズの価値が上がった」からこそかもしれませんね。

大月:最初は意図せずだったけど。

村上:重要なのは「昔からそれをやっていたこと」だと思うよ。綺麗に、クリティカルに見せたら、時代も相まってグランプリ、ということで。

河原:ただ昔のものをリバイバルして、そのためだけにクリエイションとして出したらその浅はかさって絶対にバレるからね。

大月:さっき、村上くんが言っていた「コスプレかどうか」みたいな話は、たしかに2025年春夏までは「コスプレでいいじゃん」と思っていたんですよ。そこから、2025年秋冬の課題としてシェイプを提案して、2026年秋冬で語れる部分を増やしていく。順繰りに継ぎ足してアップデートしていくやり方が自分にはあっていると思ったからその方法を取った。2025年春夏の印象だけで語れば「コスプレ」に終始するかもしれないけど、2026年春夏まで見ていくと別にそうはなっていない。

大月:考えたこともなかったけど、“ビスポークコンプレックス”みたいなのはあるのかも。「テーラー」を謳っているブランドは「サヴィルロウで修行していました」みたいな人が多いけど、俺はそういう後ろ盾もないし。コレクションを見てディスられても「解像度が低いな」という気持ちもありつつ、俺の見えていない何かが見えているのかなという恐怖もある。

──「ピリングス」のクリエイションをお二人はどう見ていますか?

河原:2023年秋冬コレクションのショーをやった時は、リトルリーグとの事業譲渡契約の話は決まっていたんですか?

村上:決まってないね。お金がなくなって「最後のショーかな」と思っていたところだった。

大月:たしかに、2023年秋冬の時は地下感がまだあったように感じる。

村上:リトルリーグ入りをして1発目のショーだった2024年秋冬コレクションは多分幸せやったんやと思う(笑)。別のものに悩み出しはするけど、お金がないとかの心配は無くなったからね。

──長くブランドをやっていると変化はつきものですけど、その変化についての自己分析は?

村上:人間像や、やりたいことは変わっていない。ただ、科学技術館でやった2025年春夏くらいから「ピリングスなりのコンサバティブなものにチャレンジしたい」と思った。ラックに掛かっていたら普通の服だけど、それをどうやって面白く見せるか、伝わるようにするのかという解決方法として、重ね着できるようにしたり。ぱっと見、コンサバティブだけどちょっと違うみたいなのをやったのが2025年春夏コレクション以降で、根本的にやりたいのはその方向性。

河原:今回の2026年春夏コレクションも2025年春夏コレクションから引き続き「コンサバなものをもっとピリングスらしくしたら、村上さんらしく考えたらどうなるか」という服にも見えた。

ピリングスの2025年春夏コレクション

ピリングスの2026年春夏コレクション

大月:2026年春夏はあいさん(スタイリストのAi Takahashi)のスタイリングがいつも以上にゾーンに入ってると感じた。

河原:俺も「メジャーブランドのそれだな」と。「ミュウミュウ(MIU MIU)」のようなベージュのカーディガンもちゃんとブランドの文脈の中でやっていてる。

村上:いつもは完全にデザイン画上でスタイリングまで描き切るんだけど、久々にアイテム単体で描いて、最後にスタイリングするという方法を取った。あと今回は、アシスタントにデザインしてもらったものも多くて。もちろん、最後までフィニッシュできたものは少ないけど、その視点で始まったアイテムもあったからね。

大月:あと村上くんは色を使うのが上手い。

河原:色を使える人を羨ましがる傾向があるな。

大月:使えないから、憧れる。

村上:大月くんもうまいと思うけどね。ただ明るい色を使わないだけでしょ。

大月:意図してないから。

村上:感覚としてできるんじゃない?

大月:意図してやれるようになりたい(笑)。

──ピリングスはメンズでも成立しそうな服とテーマだなと思います。

大月:今回は特にメンズも想像できるよね。

村上:デザインの仕方はすごいメンズ的だと思います。

──メンズとウィメンズのデザインの仕方はどう違うんですか?

村上:ウィメンズの服を作っている人は感覚的な人も多いと思うんですけど、俺は割と理屈立ててデザインしてると思う。考え方はメンズだけどアウトプットがウィメンズというのは助かっている部分でもあって。というのも、メンズの考え方でメンズの服を作るとあまりにも自分の言葉すぎるというか。ウィメンズに変換することで、まろやかになって第三者的な視点にもなるな、と。

──男性がウィメンズの服を作ると、フェティシズムが出るのかなと思っていました。

河原:「俺が女だったら着たい」ではなくて「こういう女の人が好き」みたいな。

村上:それはあると思います。

大月:村上くんからそういう下心みたいなものを聞いたことも感じたこともないけどね。近所の妙齢のマダムとかを想像して作っているの?

村上:どこにも言ったことないけど、毎シーズンミューズは立てていて。「この人に響いたらこのコレクションよくなるな」「こういう生き方をしてるひとに届いたらいいな」と考えながら作るね。

河原:女優さんとかではなくて?

村上:基本的には身近な人。普段、普通に話している人とか。本を読むのも好きだから、物語に出てくる人と身近な人をミックスしたり。

──そういうところが映画的なのかもしれないですね。

河原:その人はショーとかも見にくるような人なんですか?

大月:スタッフ?

村上:そのくらいの距離感。

大月:ニッターのマダムとか?

村上:大月くんはずっとマダムに持って行きたがるな(笑)。絶対に誰か言わないから!

──(笑)。その人に感想を聞いたりしないんですか?

村上:いや、聞かないし言わない。シンプルにすごい気持ち悪い話だと思うし。

大月:吉田だったら殊更に言うもんな。

河原:すごく性格を感じますね。書かれていたことも知らないラブレターみたいな(笑)。

大月:言うと、デザイナーのドヤっぽくもなっちゃうしね。

村上:自分のモチベーションでそういう設定しているってだけだから(笑)。

【続きを読む】3杯目:日本らしいクリエイションって何だと思いますか?

最終更新日:

目次
居酒屋本音談義、大月壮士×村上亮太×河原まこと
1杯目:LVMHプライズのグランプリとセミファイナリストの立役者って誰ですか?
2杯目:どうしてLVMHプライズで受け入れられたと思いますか?
3杯目:日本らしいクリエイションって何だと思いますか?

撮影協力:五臓六腑 久
東京都世田谷区太子堂2丁目15−8

FASHIONSNAP 編集記者

古堅明日香

Asuka Furukata

神奈川県出身。日本大学芸術学部文芸学科を卒業後、広告代理店を経てレコオーランドに入社。国内若手ブランドの発掘のほか、アート・カルチャーを主軸にファッションとの横断を試み、ミュージシャンやクリエイター、俳優、芸人などの取材も積極的に行う。好きなお酒:キルホーマン、白札、赤星/好きな文化:渋谷系/好きな週末:プレミアリーグ、ジャパンラグビー。

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