グラフィックデザイン界の巨匠ピーター・サヴィル(Peter Saville)。名前を聞いてピンと来なくても、「ジョイ・ディヴィジョンの名盤『Unknown Pleasures』のジャケットをデザインした人」と言えば、察する人も多いのではないだろうか。ピーター・サヴィルの活動はファッション業界にまで及び、「カルバン・クライン(Calvin Klein)」や「バーバリー(Burberry)」が数年前に刷新した新ロゴを手掛け、最近ではユニクロ「UT」とルーヴル美術館のコラボアイテムをデザインしたことが記憶に新しい。
そんな彼がついに、テキスタイルデザイナーとしてデビュー。デンマーク発のテキスタイルメーカー「クヴァドラ(Kvadrat)」とタッグを組んだコレクション名は日本語で天然色を意味する「テクニカラー(Technicolour)」。ピーター・サヴィルがテキスタイルで表現したかったものとは一体なんだったのか。
クヴァドラ(Kvadrat)
1968年にデンマークで設立されたテキスタイルブランド。北欧の伝統に根ざしたデザインが特徴で、現在までにデザイナーや、建築家、芸術家など様々な分野で活動するアーティストとのコラボレーションアイテムを展開している。
公式サイト
ピーター・サヴィル(Peter Saville)
1955年、イングランド・マンチェスター生まれ。ファクトリー・レコードの専属デザイナーとして活動し、ジョイ・ディヴィジョンや、ニュー・オーダー、ハッピーマンデーズなどジャケットのデザインを手掛ける。音楽関連にとどまらず、アドビやジバンシィなどイギリス国内外の企業デザインにも携わっている。
■Technicolour
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カーテン「Flux」
【インテリアテキスタイル】
・Fleck:11色展開
【カーテン】
・Fade:8色展開
・Flux:1色展開
【ラグ】
・Flock:5色展開
・Fleece:3色展開
・Field:2色展開
発売日:10月から日本展開をスタート予定
問い合わせ:Kvadrat Japan 03-6455-4155
公式サイト
ークヴァドラとは以前から繋がりがあったそうですね。
私とクヴァドラの関係性は、2004年にクヴァドラのCEOアンダース・ブリエル(Anders Byriel)が私のスタジオを尋ねてくれたことから始まります。今回のコラボコレクション製作以前にも仕事での関わりがあり、例えばクヴァドラのロンドンショールームは私が共同デザインしたものです。彼らは企業という枠を超え、長年にわたって関わってくれている家族であり、同じ想いを共有している同志です。
ーピーターさんの考える、クヴァドラの魅力は?
自然素材から最高級のクオリティを引き出す信頼と、創作に対する一貫性を持った革新的な企業だと思っています。また、テキスタイルコレクションを作るために招かれた私のようなデザイナーに、やりたいことができる自由を与えてくれる柔軟さも魅力的です。
ーコラボコレクションはコロナ禍での製作となりました。
当然ですが、世界中がパンデミックを経験する中でそれぞれのスタッフが違う国にいながらテキスタイルを作り出すことはとても難しかったです。それでもクヴァドラはとても協力的でしたし、製作作業は刺激のあるものでした。
ー今回はインテリアテキスタイル1種、ラグ3種、カーテン2種の全6種類が展開されます。それぞれのアイテムの特徴を教えてください。まずはインテリアテキスタイルの「Fleck」から。
大きな特徴は、汎用性のある11色を用意したことでしょうか。Fleckはシンプルで控えめでありながら、同時にドラマティックな印象を放ちます。ナチュラルなウール生地に浮かび上がるのは、明るい黄、青、赤の一見ランダムなドット。実用性を第一に考えたシンプルなデザインに思えるかもしれませんが、家具に用いられることで素晴らしい表情を見せてくれるでしょう。
ーラグは「Field」「Fleece」「Flock」が用意されています。一番のお気に入りは?
「Fleece」です。「田舎の田園風景を彩る色とりどりの羊=ありのままの草原の営み」という元々のコンセプトを明確に反映しているからです。ラグを手織りした後、あえて表面を均一にカットしないことで表情が不規則になっていますし、ダブルウォッシュ仕上げによって織り目が広がることで自然の羊毛を思わせる柔らかさがあります。
ーカーテンテキスタイルでは「Fade」と「Flux」の2種類を展開します。
それぞれに異なったお気に入りポイントがありますが、特にFadeは思い出深いです。異なるネオンの輝きを持った3種類の糸を使用しています。つまり、Fadeのドレープに光が当たれば、鮮やかな色のニュアンスが表面に揺らめくのです。透明感がありながらも、不思議なほどに落ち着きのあるカーテンになったと思っています。
Fade
ーコレクションタイトル「Technicolour」の由来は?
今回のコレクションは、羊の群れに印を付けるために使用されているマーキングスプレーから着想を得ています。色とりどりの羊がいる田園風景の中でも、一際目を惹く鮮やかな瞬間を色のスペクトル図にし、テキスタイルへと昇華させました。
ー羊のマーキングスプレーをインスピレーション源にしようとした理由を教えてください。
羊のマーキングスプレーに、田舎の風景にはそぐわないくらい鮮やかな色を使用していることがずっと不思議でした。その不思議さは「違和感」という魅力にも繋がります。その不思議な情景を見て、私は「これらの色彩を、テキスタイルの製造段階で保てたら」とよく想像していたのです。色付きのスプレーでマーキングされた羊たちがいる牧場風景こそが「ありのままの草原の営み」で、私はその瞬間をテキスタイルを用いることで保存したいと考えました。
ーすべてのアイテムに共通しているポイントがあれば教えてください。
コレクションでは「自然風景の痕跡とコントロールされた事柄」を表現しています。つまり、カラーマークのついた羊の群れが草を食む様子を残しながらも、工業的なものへ変化する物語です。その物語を通して語られるのは「自然とはただ訪ねて行く場所ではなく、私たちの故郷でもある」。人々と農耕生活を結びつけ「自然は単なる場所ではなく、あなたにとっての家にもなり得る」ということを問いかけたいと思いながら製作をしました。
ーテキスタイルデザインとグラフィックデザインの違いはどこにあると考えていますか?
グラフィックデザインはコミュニケーションが全て。一方で、テキスタイルデザインは暮らしや労働環境にまつわるものだと考えています。いずれにしても、私個人の美学を反映させることが使命だと思っています。
ー近年は、服やインテリアテキスタイルなど、人々の日常により身近なものを積極的にデザインしている印象です。人々の暮らしに寄り添うものをデザインすることについて、どのように考えていますか?
私が普段デザインを手掛けているレコードジャケットも買った人が大切に保管し、人によっては部屋の中に飾ってくれるようなものだと思っています。つまり私の仕事というのは、どのようなアウトプットであろうとも「日常生活という体験の一部でそれに寄与するもの」だと考えています。
(聞き手:古堅明日香)
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