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【服好き必聴アーティスト】リトル・シムズ編 ボッテガ・ヴェネタのモデルにも起用された実力派ラッパー

Image by: (c) Beatink

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【服好き必聴アーティスト】リトル・シムズ編 ボッテガ・ヴェネタのモデルにも起用された実力派ラッパー

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 機材や環境の発達により、1日で数百~数千曲がリリースされる昨今の音楽産業。歓迎すべきことではあるものの、その膨大すぎる量がゆえ自ら触手を伸ばすことを躊躇い、真に評価を受けるべきアーティストとの邂逅が消失し、気付けば過去のお気に入りばかりをリピート再生している......という状況に心当たりがある方に向け、月に1回"ファッションシーンとの親和性も高い"アップカミングなアーティストを紹介する連載【服好き必聴アーティスト】。(文:Internet BoyFriends)

 早耳な音楽フリークの方々にとっては既に知られた存在が登場するだろうが、復習も兼ねてファッション的新情報を得られるという心持ちで読み進めていただければ幸いだ。第3回は、2021年にリリースした4thアルバム「Sometimes I Might Be Introvert」が世界各国の主要音楽メディアから軒並み高評価を得た、ナイジェリアにルーツを持つ実力派女性ラッパーのリトル・シムズ(Little Simz)をお届け。

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子役からラッパーに

 "シンビ(SIMBI)"のニックネームで知られるリトル・シムズこと本名シンビアツ・アジカウォ(Simbiatu Ajikawo)は、1994年にロンドン北部のイズリントンでナイジェリア人の両親のもとに生まれた。いきなり余談にはなるが、イズリントンはイングランド国内で最も多様な階層が暮らす地区の1つとして知られているほか、同国を代表するフットボールクラブであるアーセナルのホームタウンであることから彼女は生まれながらのグーナー(サポーターの愛称)で、たびたびアーセナルのユニフォームを着用してライブに臨んでいる。

 両親が音楽好きだったため、幼い頃からレゲエやヒップホップ、R&Bといったブラックミュージックが常に家で流れているような環境で育ったこともあり、9歳の頃にはリリックを綴りラップの真似事をしていたという。このように、元来のキャラクターとして自分の内なる想いを表現することが好きだった彼女は、ラッパーとして日の目を浴びる前は演劇学校に入学して子役として活動。その後、イングランド国内では本連載の2回目で紹介したスケプタ(Skepta)を中心とするグライムの気運が高まっていたこともあり、14歳頃から徐々にマイクを握るように。筆者は以前、リトル・シムズ本人にインタビューをする機会があったのだが、ラッパーに舵を切った理由について「私と年齢が近い黒人の女の子たちは、黒人というアイデンティティだけで嫌な思いをたくさんしていた。みんなの代弁者になりたかったけど、声を大にして思ったことを伝えるようなタイプでもなく、人前に立つのは苦手で歌も下手だった。そんな時、表現方法の1つとしてラップがしっくりきた」と語っていた。

 ここからの彼女の行動力は凄まじく、15歳にして自身のレコードレーベル「Age 101 Music」を立ち上げると、2010年に16歳で初のミックステープ「Stratosphere」、翌年に2ndミックステープ「Stratosphere 2」、2013年に3rdミックステープ「XY.Zed」と4thミックステープ「Blank Canvas」、2015年に1stアルバム「A Curious Tale of Trials + Persons」、2016年に2ndアルバム「Stillness in Wonderland」をリリースするという驚くべきスピードで作品を量産。どれもチャートで目立った功績を残せたわけではないが、1stアルバムが「AIMアワード」で年間最優秀アルバム賞を受賞するなど、その類稀なるスキルフルなラップと真摯なリリック、ジャンルを往来するサウンドから、確かな音楽ファンの間で噂が瞬く間に広まっていった。そんな中、2016年に米経済誌「フォーブス(Forbes)」が発表した"30歳以下の欧州で活躍するアーティスト"と"注目のヒップホップ・アーティスト"の2リストに選出され、同年に1stアルバム収録曲の「Wings」が「iPhone 6s」のCMソング(一部地域限定)に起用。さらに翌年、若手のフックアップに定評のあるゴリラズ(Gorillaz)に楽曲「Garage Palace」で抜擢され、ローリン・ヒル(Lauryn Hill)やアンダーソン・パーク(Anderson .Paak)のツアーにも帯同し、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)には「現代で1番ヤバいラップをしている人物」と太鼓判を押されるなど、実力派たちの後ろ盾もあり世間にその存在を知らしめたのだ。

 なお、初来日ライブは2017年の音楽フェス「タイコクラブ(TAICOCLUB)」とかなり早く、その時の様子はYouTubeに上がっている。

若干25歳にしてシーンから一目置かれるラッパーに

 先輩およびメディアの力でメインストリームの光に照らされることとなったリトル・シムズは、次なる一手にこれまでの倍近い2年の月日を費やし、2019年に満を持して3rdアルバム「GREY Area」をリリース。ルーツであるヒップホップとグライムの要素を軸に、サンダーキャット(Thundercat)やクレオ・ソル(Cleo Sol)、リトル・ドラゴン(Little Dragon)、マイケル・キワヌーカ(Michael Kiwanuka)ら多彩なゲストを迎えた実験的な本作は、英音楽メディア「NME」をはじめとする多数のレビューサイトで高評価を叩き出し、「NMEアワーズ」では最優秀ブリティッシュ・アルバム賞を受賞。その年にイングランドおよびアイルランドで制作された最も優れたアルバムに対して贈られるマーキュリー・プライズにもノミネートされ、若干25歳にしてシーンから一目置かれるラッパーになったのである。

 3rdアルバム「GREY Area」で最前線に躍り出て孤高の女性ラッパーとしての地位を確立したが、その直後にコロナ禍で強制的に活動休止を余儀なくされる。曰く大きな影響はなかったそうだが、この未曾有の環境下に身を置いたことで新たな境地へと辿り着き、2021年に4thアルバム「Sometimes I Might Be Introvert」という傑作を生み出した。日本語に訳すと"時々、私は内向的になるかもしれない"で、頭文字を取ると愛称の"SIMBI"になる同作は、全19曲を収録する大ボリューム。家族との軋轢や人種差別といったシリアスなテーマを取り扱いながら、前作に引き続き盟友プロデューサーのインフロー(Inflo)とタッグを組みヒップホップ、R&B、レゲエ、ソウル、ファンクを再構築するような折衷的サウンドを打ち出し、聴き込めば聴き込むほど味が出る作品に。残念ながらUKチャートでは初登場4位とトップ3に食い込むことはできなかったものの、世界各国の主要音楽メディアから軒並み高評価を獲得。UKアーティストの作品が伸びにくいUSチャートでも好成績を収め、UKラップ史にその名と作品を刻んだ。

ラッパーと並行して女優としても活動

 冒頭でチラッとリトル・シムズの子役について触れたが、彼女はラッパー活動と並行して本名のシンビアツ・アジカウォで女優としても活動している。直近ではドレイク(Drake)が制作総指揮を務める「ネットフリックス(Netflix)」のオリジナルドラマ「Top Boy」や、映画「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」、そしてオランダを代表するストリートブランド「パタ(Patta)」と「ナイキ(NIKE)」のショートフィルムシリーズ「The Wave」に敬愛するスケプタと共に出演。また、「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」が2021年に発表したWARDROBE 02コレクションにはモデルとして起用されており、彼女がUK最大の音楽の祭典「ブリット・アワード 2022(The BRIT Awards 2022)」でパフォーマンスを披露した際には、同ブランドのトレンチコートに身を包んでいた。今後、次世代を牽引するラッパーとして存在感を強めながら、表現の活動領域を広げるうえで女優やモデルとしてもホットな存在になることが期待される。

 ちなみに、彼女は"UKラッパーあるある"の「ナイキ」好きで、アーティスト写真や過去に2度出演したベルリン発のYouTubeチャンネル「カラーズ(COLORS)」では「ナイキ」のアイテムを着用。また、お気に入りのスニーカーは人生で初めて購入したモデルでもあるという「エア フォース 1(Air Force 1)」とのこと。その他のライブ映像でも「ナイキ」のアイテムを着用しているのが散見されるので、今回を機に興味が湧いた方は合わせてチェックしてみてほしい。

クリエイティブコレクティブ

インターネット・ボーイフレンズ

Internet BoyFriends

東京とロンドンを拠点に活動するエディターやライター、スタイリスト、フォトグラファー、グラフィックデザイナーが所属。

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