Image by: KANDYTOWN
全く異なるジャンルでありながら、古くから蜜月関係にあるファッションと音楽。ここ十数年でその結び付きはさらに強くなり、今やファッションメディアでなにがしのアーティスト名を見ない日は無いと言ってもいいほどである。だがアーティスト名は目にするものの、彼/彼女らがファッションシーンへと参画した経緯や与える影響力、そして何よりも楽曲に馴染みが薄く、有耶無耶の知識のまま名前だけを認知している人も少なくないだろう。
そこで本連載【いまさら聞けないあのアーティストについて】では、毎回1組のアーティストをピックアップし、押さえておくべき音楽キャリアとファッションシーンでの実績を振り返り、最後に独断と偏見で「まずは聴いておくべき10曲」を紹介。第9回は、日本のヒップホップシーンを牽引するクルーでありながら、2023年3月の武道館公演をもって活動を“終演”する「KANDYTOWN」についてをお届けしたい。(文:Internet BoyFriends)
■いまさら聞けないあのアーティストについて:連載ページ
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目次
自然発生的な流れで誕生したKANDYTOWN
ラッパーやトラックメーカー、DJ、フィルムディレクターらを擁する大所帯クルーKANDYTOWN。彼らは2012年に世田谷区を拠点に結成されたのだが、もとはBANKROLLとYaBastaという2つのクルーを母体としている。BANKROLLは故YUSHIを中心に2005年に結成され、IOやRyohu、BSCらが所属。YaBastaはBANKROLLに触発される形でYOUNG JUJU(現KEIJU)やIO、Gottz、Holly Qらが2010年に結成した。この2クルーがどちらも世田谷区を拠点としており、ライブやパーティーなどで一緒になるシーンが多かったことに加え、音楽活動を始める前より幼馴染や中高の先輩という近しい関係だったことから、自然発生的な流れでKANDYTOWNが結成されたという。
初期は、“K”ANDYTOWNではなく“C”ANDYTOWNだったが、結成から2年後の2014年にフリーミックステープ「KOLD TAPE」をリリースしたタイミングで“K”ANDYTOWNに変更。“C”を“K”とした理由は、メンバーの多くが世田谷区の喜多見や駒沢、経堂など“K”始まりのタウン(町)が地元だったため、ふざけて“K-TOWN”と呼んでいたことが由来のひとつだそうだが、詳しい経緯は本人たちすらも不明だとインタビューで語っている。
故YUSHIという存在
「KOLD TAPE」は、彼ら曰く“溜まっていた曲をまとめて出しただけの作品”だったが、シーンからは支持を集めたことで2015年1月にストリートアルバム「BLAKK MOTEL」をフィジカルで制作。すると、同作も早耳リスナーたちの関心を集め、2月にクルーとして初の取材を受けることに。しかし取材前日、中心メンバーだったYUSHIが不慮の事故から23歳で夭逝してしまったのだ。
KANDYTOWNにリーダーはいないが、YUSHIは心臓に近い役割を果たしていた。小学生の頃からスケートボードに乗ってヒップホップを聴き、中学生でドゥーラグの上に「ニューエラ(NEW ERA)」を被るなど、全てにおいて“早い”人物で、彼に影響されてラップを始めたメンバーもいるほど。だが何よりも、その生き様からKANDYTOWNに“イズム”をもたらした必要不可欠な存在であり、そんなメンバーとの離別によってクルーは結束力を強め、本格的に動き出すことになったのである。
なお、YUSHIは高校生時代、後に「OKAMOTO'S」を結成するハマ・オカモトやオカモトレイジ、オカモトショウらと共に「ズットズレテルズ」というバンドを結成し、MCドカットカットとして活動。当初は卒業式限りの活動予定だったが、諸事情で“音楽の甲子園”と呼ばれた10代のアーティストのみが出演できる音楽フェス「閃光ライオット」(2009年)などにも出演している。下の映像は、新型コロナウイルスによる第1回緊急事態宣言発令を受け、オカモトレイジの「各々のバンドが世に出さずに持っている映像データを、お世話になったライブハウスもしくは、その映像の中で出演しているライブハウスに納品して、マネタイズする」というアイデアから、新宿のライブハウス「レッドクロス(紅布)」がアップした2009年のズットズレテルズの貴重なライブ映像だ。
ちなみに、オカモトレイジは同ライブハウスでアルバイトをしていたほか、BSCと小学校が、YUSHIとIOと中学校が一緒だったり何かとメンバーと縁が深く、2016年にKANDYTOWNがメジャーデビューする際はA&Rやディレクション周りを担当。1stアルバム「KANDYTOWN」の初回盤には、オカモトレイジの距離感だからこそ撮影できるメンバーを捉えた写真集が付属していた。
KANDYTOWNとは別にソロとしても精力的に活動
YUSHIの一件でアクセルに足を乗せ直したKANDYTOWNは、トラックメイカーのnoshとのコラボアルバム「Kruise’」(2015年)を経て、2016年11月に満を持してメジャーデビュー作となる1stアルバム「KANDYTOWN」をリリース。全19曲を収録する同作は、アートワークに故YUSHIが描いたイラストを採用し、その見事なマイクリレーと時代の流れを汲み取りつつもオリジナリティが溢れる音楽性から、2010年代のジャパニーズ・ヒップホップを代表する1枚に数えられるほど高い評価を獲得した。特に収録曲「Get Light」は、「リーボック クラシック(Reebok CLASSIC)」とのコラボレーションで書き下ろした楽曲ということもあってMVと共に話題となり、広く人に知られることとなったのである。
そして、1stアルバム「KANDYTOWN」のリリースにあわせて各メンバーがソロとして精力的に活動を開始。クルーとしてのまとまった作品は2019年2月のEP「LOCAL SERVICE」と、10月の2ndアルバム「ADVISORY」まで日が空くのだが、その前後までにIOが1stソロアルバム「Soul Long」(2016年2月)を、YOUNG JUJU(現KEIJU)が1stソロアルバム「juzzy 92’」(2016年11月)を、IOが2ndソロアルバム「Mood Blue」(2017年4月)を、Dony Jointが1stソロアルバム「A 03 Tale,¥ella」(2017年5月)を、MUDが1stソロアルバム「Make U Dirty」(2017年7月)を、RyohuがEP「Blur」(2017年10月)を、Neetzが1stソロアルバム「Figure Chord」(2019年2月)を、Gottzが1stソロアルバム「SOUTHPARK」(2018年10月)を、BSCが1stソロアルバム「JAPINO」(2019年7月)を発表している。もちろん、これ以外のソロ作品や他アーティストの楽曲への参加・プロデュースも数え切れないほどあるほか、Holly Qは俳優・上杉柊平としても活躍したりと、それぞれのメンバーがKANDYTOWNをプラットフォームのように位置付け活動していたのだ。
強い個性でファッションシーンからも引く手数多
メジャーデビュー前にもかかわらず、「Get Light」でリーボック クラシックとコラボしていたように、大所帯でありながらクルーとしての個性が強いKANDYTOWNは、活動初期よりファッションシーンからも引く手数多だった。2017年9月にデジタル配信限定でリリースした「Few Colors」は「ティンバーランド(TIMBERLAND)」とのコラボソングで、MVではメンバーたちがアイコニックな「6インチ プレミアム ブーツ」を着用して登場。さらに、2020年3月の「PROGRESS」も「ナイキ(NIKE)」とのコラボソングで、「エア マックス 2090(Air Max 2090)」にインスパイアされた楽曲として「エア マックス」の誕生日「エア マックス デイ」(3月26日)にリリースし、MVではさまざまな「エア マックス」シリーズを履きこなすメンバーを映し出している。
また、Dony Jointに至っては自身のブランド「グッドイェラ(GOOD ¥ELLA)」を手掛けているほか、YOUNG JUJUがメジャーデビューにあわせて現在のKEIJUへと改名した記念イベントでは「ピガール(PIGALLE)」が協賛し、IOが「カルバン・クライン ジーンズ(CALVIN KLEIN JEANS)」2020年春夏コレクションのモデルを務めたことから「CK」がライブをサポートしたりと、“KANDYTOWN meets Fashion”のトピックスは枚挙にいとまがない。
人気絶頂の中、活動を“終演”
冒頭でも触れたが、KANDYTOWNは2023年3月の武道館公演を最後に“活動終演”をアナウンスしている。それに先立ち、11月30日にリリースするのが3年ぶりとなる3rdアルバム「LAST ALBUM」だ。同作についてIOは、「KANDYTOWNが始まった時から構想にあった」と語っており、クルーとしては10年、プライベートでは20年近く関係を築いてきた彼らの足跡を、音楽を通じて振り返るような楽曲ばかりに。そして、決して過去の焼き直しではなく、KANDYTOWNというアイデンティティが深く感じられる作品に仕上がっている。
なお、12月にはニューエラの別注アイテムを展開するコンセプトショップ「ザ キャップ(THE CAP)」のサポートによる全国クラブツアーが開催されるので、武道館公演のチケットを逃した方はお見逃しなく。また、「まずは聴いておくべき10曲」とは別に、KANDYTOWNのサウンドクラウド(SoundCloud)にのみ上がっている「Untitled(2012)」もぜひ聴いてほしい。
まずは聴いておくべき10曲
1曲目:R.T.N
1stアルバム「KANDYTOWN」(2016年)収録曲で、タイトルは“Run The Night”は略。ラストの「熱い土地に憧れた 飛ばす246」は、故YUSHIが遺した歌声。
2曲目:Get Light
1stアルバム「KANDYTOWN」(2016年)収録曲で、リーボック クラシックとのコラボ楽曲。浅草周辺で撮影されたMVは必見。
3曲目:Scent of a Woman
1stアルバム「KANDYTOWN」(2016年)収録曲で、アルバムの中でも特にシブさの光る1曲。おそらく、アル・パチーノ(Al Pacino)が主演の同名映画に着想したもの。
4曲目:1TIME 4EVER
アルバム未収録曲で、故YUSHIの命日にリリースされた楽曲。ほぼフルメンバーとなる10人のMCがマイク・リレーを繰り広げている。
5曲目:Prove
EP「LOCAL SERVICE」(2019年)収録曲で、EPは「1TIME 4EVER」と同じく故YUSHIの命日にリリース。リリックでは随所に故YUSHIへの愛が感じられる。
6曲目:Local Area
2ndアルバム「ADVISORY」(2019年)収録曲で、Neetzの自宅でGottzとKEIJUが別の作品を収録中にノリで出来た楽曲。
7曲目:Until The End Of Time
2ndアルバム「ADVISORY」(2019年)収録曲で、アルバムのラストを飾る楽曲。MVでは、仲間と過ごす普段の彼らをはじめ、レコーディングやライブといった2019年の軌跡が収められている。
8曲目:NEKO (Remix)
OKAMOTO'SのEP「BL-EP」(2016年)収録曲で、RyohuとMUDがフィーチャリングで参加している。
9曲目:Make U Dirty
MUDの1stソロアルバム「Make U Dirty」(2017年)収録曲で、スポーツカーの「シボレー」をイメージして書き上げた楽曲。同アルバムの全曲をNeetzがプロデュースしている。
10曲目:Hold You Down
KEIJUの1stソロアルバム「T.A.T.O.」(2020年)収録曲で、客演はMUDのみだがMVにはHolly QやIOらも登場している。
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