2013年開催「絶命展 -新美編-」のファッションショー
2013年開催「絶命展 -新美編-」のファッションショー
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Fashionポスト・コロナ

【コロナ後:ブランド編】大転換の時期 先代のビジネスモデルを引き継がない

2013年開催「絶命展 -新美編-」のファッションショー Image by FASHIONSNAP.COM
2013年開催「絶命展 -新美編-」のファッションショー
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 新型コロナウイルスの収束後、ファッション界はどう変わる――?未だ先が見えない状況だが、奥底にはパラダイムシフトの萌芽も見え始めている。かつてない困難からの気付きや価値観の変化に目を向け、これからのファッションを考える特別寄稿連載「コロナ後」

 1人目は、イッセイ ミヤケで社長を務めた経歴を持ち、日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)の理事として東京コレクション事業を束ねている太田伸之氏

 

和菓子店の店主に習うダイレクトな商売

 2年ほど前、流通業界の仲間たちとの忘年会に突然珍客が現れました。わが故郷三重県桑名市のお隣、員弁郡東員町で和菓子店「月乃舎」を営む川瀬隆一さん。松屋銀座の食品催事が完了したので、地元に帰る列車の前に同郷先輩に挨拶をと、銀座のビストロに立ち寄ってくれました。以来、私はSNSで川瀬さんと繋がり、彼の東奔西走する姿をネットを通じて見ています。

 東員町は人口3万人に満たない田舎町、ここで和菓子店を開いていても売上はたかが知れている。そこで、川瀬さんは全国のデパ地下催事に積極的に参加、催事販売が終了すると次の百貨店の原料仕込みのため一旦東員町に戻ります。札幌三越、仙台藤崎、新宿伊勢丹、渋谷東急、名古屋高島屋など全国各地をほぼ毎週まわり、早朝から百貨店の厨房で商品の最終仕上げ、そして自ら催事売り場で販売します。

 各地で回を重ねると顔なじみのお客様がたくさんでき、全国のお客様に向けてホームページやSNSで季節のお菓子や販売イベントの模様を発信、自社WEBストアでも販売。川瀬さん自身はまるで旅芸人のように、地元にいる時間よりも地方巡業の方が長く大変でしょうが、作り手が自ら販売するのでお客様にはかなりの説得力、全国でリピーター客はかなり増えました。

月乃舎 東員町本店
百貨店催事ポップアップ

 地方の小さな和菓子店が全国百貨店の食品担当の応援を受け、ポップアップ売り場を巡回しながら現地で和菓子を作り、そこで自ら接客して売る、これも一つのD2C(Direct to Consumer)ビジネスモデルではないでしょうか。WEB販売の拡大が今後の課題でしょう。一方、百貨店側にとっても「とらや」「源吉兆庵」「叶匠寿庵」などナショナルブランドとは違う和菓子店を期間限定展開することで、売り場に新鮮味を出せるメリットがあります。

 ファッションの世界でも、ネット時代のD2C、お客様開拓と濃密な関係構築、従来の形式に縛られない直接販売を、とずっと主張してきました。

 都心ビルの1階に路面ブティックを構え、ファッションショーを開き、手の込んだ販促印刷物を制作。百貨店やセレクトショップには卸売をする。国内で売上が伸びたら、海外合同展示会やショールームと契約して海外販売を開始。現地でショーも数シーズン開催。そして経費倒れや売掛金回収不能で海外市場から撤退、という事例をたくさん見てきました。海外市場に根を生やしたのは、結局数社のブランド企業だけ。正直いつまでこんなことを繰り返すのだろうと思います。

 

過去のビジネスモデルを引きずらない

 6年半前、国立新美術館で渋谷パルコ「絶命展」の記念ファッションショーがありました。展覧会とショーを主宰した「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」山縣良和さんと「ミキオサカベ(MIKIO SAKABE)」坂部三樹郎さんから出演を頼まれ、ショー開始前ステージ上で3人の討論会。このとき会場に集まった数百人の若手デザイナーやデザイナー予備軍、専門学校生さんに、私はこんな話をしました。

 1980年代の日本のデザイナービジネスと同じことを、このデジタルとネットの時代にしていて良いのだろうか。ネットで商品や販売イベント情報を発信しながら、ミニバンやキャンピングカーで移動ブティックの巡回があってもいい。あるいは、各地の有力セレクトショップに頼んで、週末だけお店の軒先を借りる期間限定の露店販売だっていい。家賃の高い路面にカッコいい直営店を構えなければブランドイメージが確立できない時代ではない。デジタル情報を発信しながらお客様のところに出向き、作り手が直接お客様に売る。ネット時代だからできるブランドビジネスを考えましょう、と。

2013年開催「絶命展 -新美編-」のトークショー

 次世代デザイナーに言いたかったことは、先輩たちが築き上げたビジネスモデルを引きずらない、いまの時代に合ったお客様との濃密な関係構築と新しいダイレクト販売を考えよう、でした。80年代に東京コレクションを運営した私がこんな発言をするとは、主宰者の坂部さんと山縣さんも驚いていました。が、月乃舎の川瀬隆一さんが行っていることはまさにこれなのです。ポップアップ巡回によるD2C、これとオンライン販売とをうまく結びつけたオムニチャネル、新進ブランドにはぜひ取り組んで欲しいビジネスモデルです。

 今般の新型コロナウイルス感染拡大、仮に収束するまで小売店やブランド企業が持ち堪えられたとして、業界を取り巻く環境はこれまでと同じ姿に戻るとは思えません。世界の生産インフラが整うにはかなり時間を要します。インバウンド需要はすぐに回復せず、小売店や大型商業施設は相当数減少、販売チャネルがズタズタ、ブランド側には厳しい状況が待っているはず。

 そして何より生活者マインドがどうなるか。季節が変わるたびこれまでと同じ気持ちで新作コレクションを買っていただけるかどうか。生活者の関心は安全安心な暮らし、健康や地球環境保全に向かい、ファッション消費には慎重になっているかもしません。これまで以上に、お客様に商品の背景にある物語をひとつ一つ丁寧に伝える工夫も絶対に必要になります。

 泥臭いかもしれないD2Cとプラットフォーム事業者の利用も含めたオンラインとのリンクしたビジネス。合わせてブランド世界観を明確に映す新しいデジタル表現での発信活動。コロナ騒動が収束したら、次の時代を担うブランド企業には前向きに取り組んで欲しい。

 みなさん、この難局をどうにか乗り越えましょう。

太田伸之

1953年、三重県生まれ。明治大学経営学部を卒業後、渡米。8年間ニューヨークでジャーナリストとして活動。1985年に東京ファッションデザイナー協議会(CFD)設立のために帰国、東京コレクションを開始。1995年に株式会社松屋 営業本部顧問、株式会社東京生活研究所 専務取締役を経て、2000年より10年間株式会社イッセイミヤケ 代表取締役社長を務める。2006年(社)日本ファッション・ウィーク推進機構理事、2013年に株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)代表取締役社長に就任。2018年に株式会社海外需要開拓支援機構の代表取締役社長を退任。同年株式会社MD03を立ち上げる。著書に「ファッションビジネスの魔力」(毎日新聞社、2009年)など。ブログ>>売り場に学ぼう

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