
2026年春夏メンズコレクション
Image by: PRADA
共同クリエイティブ・ディレクターのミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)による、「プラダ(PRADA)」2026年春夏メンズコレクションは、いつになく”静か”だった。テーマは「A CHANGE OF TONE」。解体・簡素化・本質への還元を掲げ、情報、制約、デザインとあらゆる面で“多過ぎる”状態に飲まれている現代人のマインドセットを促す。

Image by: PRADA

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簡潔であること、それが今シーズンのプラダが意識した点だ。いつも丁寧に、コンセプトやアイテムの詳細が書かれているコレクションノートも、ポエティック且つ簡易にまとめれらている。
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「A CHANGE OF TONE」
姿勢の変化 ― 意味の解体、そして力の解体(A shift of attitude – dismantling of meaning, and dismantling power)
ダイレクト(Direct)
無限に広がる自然要素の組み合わせ(Limitless elemental compositions)
自由そして気楽(Free ease)
要素 ― 大地、空気、太陽、自然(The elements – land, air, sun, nature)
感覚(Sense)
異端的なハーモニー、新しい動き(Non-conformist harmonies, new movements)
衝動(Impulse)
恋人たちの湖、頂の果て、最後のひと泳ぎ(Lover’s lake, peak’s end, the last swim)
架空の場所(Imaginary places)
一見すると抽象的な内容だがこれらの語に“対義語”を当てはめると意図が浮かび上がる。たとえば「感覚」の対義語は「理論」、「衝動」は「理性・計画性」、「異端的なハーモニー」は「既存の調和」だ。つまりミウッチャ・プラダとラフ・シモンズは、合理性や計画性に縛られた世界から離れ、より直感的で人間味のあるものづくりを追求したかったのだろう。ここで鍵となるのが「ミニマリズム」と「シンプル」という言葉の違いだ。ミニマリズムは単なる装飾の排除ではなく、「なぜ削ぎ落とすのか」「削ぎ落としたあとに何が立ち上がるのか」を問い続ける思想である。余白に宿る静寂や緊張が、見る者の感覚を研ぎ澄まし、主体的な解釈へと導く、プラダが提示するのは、まさにそのような“静かな問いかけ”ではないか。
ファーストルックは海景をプリントした開襟シャツにリブタートルネックを重ねたスタイル。リゾートウェアと都市の通勤服という二つのコードを一着で融合させる手法は、今季全体を貫く“マージ”の精神を象徴している。足元にはウィメンズで先行投入されたオープントゥシューズのメンズ版。トゥを大胆に切り落としたその形は、クラシックな革靴の記号をずらし、フォーマルを静かに解体する。

Image by: PRADA

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注目すべきはディテールに対する執念だ。レザージャケットには非常に細かいエンボス加工が施され、ステッチも職人の手作業で縫われている。ボートネックニットの襟ぐりや裾、袖口にあしらったステッチも手作業によるもの。コレクション全体でロゴは極力控えめにし、クラフトマンシップの息づかいを前面に押し出すことで、静けさこそが強さである、という新しいエレガンスを体現しようとしている。

Image by: PRADA

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今季最も挑発的だったのは、ラフ・シモンズの幼少期の記憶を再構成したというブルマショーツだ。ウエストにギャザーを寄せポケットをあしらったブルマは、ハイソックスとレザーシューズを合わせることで少年の無垢さと大人の官能を同時に引き出す。加えて2025年秋冬ウィメンズコレクションで登場したミニドレスの要素を踏襲したオーバーサイズのニットチュニックや、ロング丈のサファリシャツをワンピースのように着こなした装いなど、ジェンダーの境界を曖昧にするスタイルが随所に登場。そのほか、ミリタリーカラーやエポレット、ヒッピーカルチャーのフリンジ、ビーチサンダルに象徴されるサーフ精神など、多元的な引用を自在に交差させる編集力も際立った。

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

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ミウッチャは「穏やかであることは、戦うための新しい方法論」とし、ラフは「服を通じてイノセンスな記憶を呼び戻したかった」と付言。大声を張り上げずとも、”完璧なデザイン”は着る者の感性に直接触れ、想像力をかき立てる、それが二人の示した「A CHANGE OF TONE」の核心ではないか。フォーマルとカジュアル、自然と人工、男性性と女性性といった相反するもの同士を溶かし合わせ、柔らかなベールで包み直すことで、プラダは「優しさは弱さではない」という価値観を静かに提示したのである。
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