
「サンローラン(SAINT LAURENT)」のショーはこれまで夜の開催が多く、クラシカルかつ官能的なイヴニングスタイルが印象的だった。しかし今回のメンズ2026年夏コレクションは、パリ1区「ブルス・ドゥ・コメルス」のホールを午後の眩い陽光が満たす中で開催。夜から昼へと趣を一変させる、軽やかなデイウェアが登場した。
光の中のインスタレーション
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ブルス・ドゥ・コメルスは、サンローランの親会社ケリング創業者フランソワ・ピノー(François Pinault)設立の現代美術館で、安藤忠雄による改修設計でも知られる。過去のショーも同館で行われてきたが、会場に一歩足を踏み入れると、これまでとは異なる爽やかな空気に満たされていた。
ホール中央には円形の水盤が静かに張られ、その上で磁器の白いボウルがぶつかり合うたび、涼やかな音が響き渡る。仏アーティスト、セレスト・ブルシエ=ムジュノによるインスタレーション「クリナメン」である。この意図せぬ偶発のゆらぎが、コレクションの軽快さと見事に共鳴した。
シルクシャツとショーツで幕開け
モデルたちは水盤の周囲を、光の反射を浴びながらウォーキング。テーラードジャケットが定番だった近年のサンローランでは珍しい、シャツとショーツのファーストルックに目を奪われた。目の覚めるオレンジのハボタイシルクシャツは洗いをかけて柔らかく仕上げ、ゆったりとしたフォルム。これは、ショーノートの中に収められていた、1950年撮影のイヴ・サンローランがテニスをしている一枚の白黒写真と重なる。共地のタイを、さりげなくシャツの前立て内にインするディテールは、今シーズンならではの新鮮なエッセンスだ。


シルクからナイロンへ 端正なセンシュアリティ
ジャケットは広い肩幅を保ちつつ、ウエストを引き締めた彫刻的シルエットが印象的。ポケットに手を滑り込ませることで現れる艶やかなドレープが、シルクサテンのテクスチャーを際立たせ、端正な中にも官能性を漂わせる。カラーパレットは、サンド、ソルト、ペールオークル、ドライモス、プールブルーと鮮やかで、自然や乾いた夏を想起させた。





ショーの中盤はシルクに代わり、ナイロンが主役となった。極薄ナイロンキャンバスをボウブラウスに重ね、またナイロンタフタをシャツやセットアップに用いることで、風をはらんだ新鮮なボリュームとテクスチャーを生み出している。





クリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)は、ロスト・ジェネレーション期に影響を与えたアーティストたちと、新たな創造の道を歩んだイヴ・サンローランにオマージュを捧げたという。コレクションノートには「欲望がスタイルだった時代、美が空虚から身を守る盾であった時代に着想を得た」と記され、そのピュアで繊細なセンシュアリティが、まばゆい光の中に鮮烈な残像を刻んだ。

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