Fashionインタビュー・対談

【インタビュー】ブランドデベロッパー中村聖哉(Seiya Nakamura)が説く新時代のファッションビジネス論

— ADの後に記事が続きます —

デザイナーの導き方とブランディングの重要性

ーブランドデベロップメントは、具体的に何からスタートするんですか?

 まずはどうなりたいのかをヒアリングします。ブランドは様々ですから、それぞれの目標から逆算して考えていく必要があります。「ウェルダン」は、会社メンバー自体が影響力を持ち、加えてインフルエンサー・マーケティングを効果的に活用しています。立ち上げから3年目ですが既に僕等が担当しているグローバル・ホールセールだけで年間30億円以上の売り上げがあります。これはリテール・プライスに換算すると100億円近い規模になります。日本ではGR8、ユナイテッドアローズ、伊勢丹、バーニーズ ニューヨーク、アデライデなどで扱って頂いているんですが、グローバルでみてもとても好調で、2020年1月にはパリコレでプレゼンテーションも行いました。それと才能には溢れているがデビューしたばかりのデザイナーズブランドを比べると、ブランド毎に設定するビジネスの成長スピードは違ってきますよね。武器はそれぞれ違いますから、それを踏まえて目標地点を定める必要がある。逆に何をやりたいかのが明確じゃないと、僕の中では「メイクセンス」しません。

ーデザイナーたちは、どんな目標やなりたいブランド像を描いているものなんですか?

 売上がこれくらい欲しい、いつかビッグメゾンのデザイナーになりたい、これまでにない新しい価値観を訴求するブランドにしたいなど、様々です。

ー目標への導き方も、それぞれ違うということですね。

 なのでまず、全体感を示すようにしています。実現するためには全体を見て、それを共有した上でどう導いていけるかが僕等の仕事。マーケティングや卸先、ブランドイメージ、価格等、複雑なレイヤーを重ねて点を線に繋いで形にしていくイメージです。

©FASHIONSNAP.COM

ーデザイナーや企業と密な関係性も必要になりそうです。

 毎日やりとりしていますね。このインタビュー中も、各所から連絡がきていて(笑)。そもそもアジアで、僕らのようにインターナショナルでやっているショールームってあまり無いんですよ。ビジネスを拡大していくためには、投資家などを含めて業界外のネットワークも大事になってきます。パリのコレクションシーズン中は、ヨーロッパや北米から数多くのショールームが集まりますが、僕らが大事にしていることは、ショールーム毎にブランドをキュレーションすること。通常ショールームは1社1〜2ヶ所ですが、僕らはパリだけで5ヶ所あります。何棟かに分かれいてますが、パリの展示会スペースは1000平方メートルを超えるサイズ感です。

ーなぜショールームのキュレーションを大事にしているんですか?

 掛かるコストと労力を考えれば、1ヶ所でまとめて見せる方が良いです。ただ多くを集めてもブランドの世界観を伝えられなければ意味がないと思っていて。それが差別化に繋がり、今までにはない特化したショールームの形が出来てきたのではないかと思っています。システムが構築されている大きな会社と当時ショールームビジネスを始めたばかりの僕が同じ戦い方をしても、そりゃ勝てませんからね。このキュレーションが功を奏して、最初のシーズンは30件だったアポイントメントが現在では全体で1000件を超えました。ブランドにも、ビッグメゾンと一緒の戦い方はしちゃだめだと良く言っています。「メイクセンス」するかどうかはブランディングや戦い方でも大事なので、そこを共有できるかどうか。

ー日本のブランドはブランディングが得意ではないイメージがあります。

 そうですね。ブランディングがすごく強力なブランドは、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」など一部に限られると思います。でも海外と比べて思うのは、第一に日本はモノが良い。でもモノに頼り過ぎているブランドが多いとも感じていて。モノの良さだけではなく、ブランディングをしっかりしていかないと今の世界では埋もれてしまう。例えば極端な話ですが、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)がコーラの空き缶を凹ませて「これが作品だ」と言ったら、1億円くらいの価値になるかもしれませんよね。そういうパワーが日本は弱い。

ーそれはなぜだと思いますか?

 ジェフ・クーンズは金融出身で、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)も元々はカニエ・ウェスト(Kanye West)の元で働いていましたよね。ストーリーを作ることを経験している人は、ブランディングの大切さがわかっている。マーケティングにおいても、情報を散りばめたり文脈を作る力、それを正当化する環境や価値観の作り方が、圧倒的に今の日本ブランドは弱いと思うんです。まだデジタルを使いこなせていないのは1つの理由で、特にクリエイティブな部分でのデジタルマーケティングに関しては、日本は本当に遅れていると思います。僕自身はネットより実際店舗に足を運んで買い物をするタイプですが、世界は違う方を向いている。みんなスマホ中毒ですよね。時代やターゲットに沿ったツールで発信していくのはマーケティングとして鉄則だと思います。

ーヴァージル・アブローなどはファンの心を掴むのが上手いですね。

 コミュニティー形成は大事ですね。ファッションという独自の軽さを持つコンテンツは、繋がりを作りやすいと思っていて。ビジネスもダイバーシティがないと難しいですし。

ーでもSNSが発達したことで、ブランディングコントロールが難しくなったという側面もあるかと。

 確かに以前よりコントロールは難しいですが、ブランディングこそが成長にとって大きい要素の一つということに変わりはありません。プロダクトのクオリティは、AIや3D技術が導入されることで世界レベルで向上していくはずで、それこそ容易にコピーを作ることができる時代がきている。既に「ロレックス(ROLEX)」の本物とコピーを見分けることは難しいですから。本質的に人は本物を持ちたいという気持ちがあるはずなので、本物だという価値を消費者にいかに伝えていくかが大事になっていくかもしれないですね。

ー卸売りを軸にしたブランドビジネスは今後も続くと思いますか?

 これからの時代、卸先をただただ増やすためのセールスという職種は機能し難くなりますし、これからは間違いなくD2Cモデルのように直接売っていく時代に移行していきます。その流れの中で、セールスをビジネスのファンデーションにしていた僕が、卸売りだけではないブランドビジネスを提案していってもいいんじゃないかと思ったんですよね。様々なブランドがEコマースやデジタルマーケティングを駆使して、自分たちで発信していく時代が加速していく中で、いずれにしてもブランド・デベロップメントの考え方が大事になり、僕たちが力になれることがこれから更にあるんじゃないかと思っているんです。最近だと、Seiya Nakamura 2.24のパリオフィスに、パリの有名ブランドでWebやEC立ち上げからデジタルマーケティング、コマーシャルディレクターを経験したスタッフを迎え入れました。デジタルやヴィジュアルに強いクリエイティブチームを抱えて、クライアントにあわせたソリューションを提案しています。

ー確かに顧客に直接販売するモデルは利益率も高いですが、認知を広げて顧客を増やすのが難しいという課題もあるかと思います。

 おっしゃる通りですね。直接売ることが大事だと感じているブランドは沢山いるでしょうけど、結局はECプラットフォームにユーザーは集中してしまうでしょう。ただ強力なプラットフォームと戦略的なパートナーシップを組んだりと、連携を組む事やPRを駆使したアイデア次第でいくらでも自社ECを推し進めていくことはできるのではないかと考えています。

アートから学ぶべきこと、これからのファッションビジネス

ー中国では販売のイベントも行っているそうですね。

 上海に新しくできた「ギャラリー・ ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)」の1階メインスペースで、グランド・オープンを記念して去年の10月26日からインスタレーションを8ヶ月間やらせてもらっています。コンセプトとしてイメージしたのは「クリエイティブ・プレイグラウンド」。フミト ガンリュウやナマチェコ、ランダム アイデンティティーズなど、ラファイエットが扱っているブランドをメインにインスタレーションを行っていますが好評のようで、パリ店での巡回も決まっていました。でも、今の状況でどうなるかという感じですが...。

ー店舗展開なども視野に入れているんですか?

 今のところ自社での予定はないですが、来年「ウェルダン」の実店舗をフランチャイズで中国に2店鋪オープンさせる予定です。自社としてはポップアップやインスタレーションは出していけたらとは考えていますね。上海に「TX」という商業施設が去年オープンしましたが、そこでもポップアップスペースを設ける予定です。チームラボが特殊な施設を作ったり、エディソン・チャン(Edison Chen)がインナーセクトを出したりする今までに無い経験ができるモールで、そこで9月からの6ヶ月間大きなスペースを使わせてもらえることになっていて。そこではパリのショールームと同じ名義の「RYODAN」というプロジェクトとして運営していく予定です。

ーベルリンに作る新会社では具体的にはどんなことを?

 僕はアートコレクターなんですが、コンテンポラリーアートが持つ強さは、技術や高価な素材を使うことで生まれるものではなく、アイデアと感覚的な部分が大きいと思うんですよね。どうやってアイデアやストーリー、表現方法に価値をつけるか。消費者に未来を感じさせられるか。アートから学ぶことはすごく多い。それをファッションで実現するような、アイデアやクリエイティブに価値をつける仕事や現存のものに新しい価値観を作っていく仕事をしていきたいと考えています。

ー実現したらファッションの可能性を広げられそうですね。

 それこそ新しい事業は、他業種も関わってくると思います。クリエイター集団が在籍するエージェンシーのようなイメージですかね。新事業の本拠地はベルリンですが、ビジネスの拠点はアジアかなと考えています。将来的にはLAやメキシコシティ、東南アジアにも拠点を作りたいですね。今は自分のやりたいことの点を打っている段階で、あと3年くらいで点が線になり、皆さんに驚いてもらえるようなビジネスの形を作れているんじゃないかなと。そのために世界各国に拠点を作っているところなんです。

ーデジタル化とグローバル展開を加速させていく。

 そうですね、ただこれから5Gの影響などでますますデジタル化は進んでいくんですけど、それとは逆の文脈でローカライズもされていくと考えています。現在は、国を跨ぐ移動も困難になっていますし、この後の世界も2019年の頃には戻れないでしょう。その中でしっかりと自分のベースを作りつつ、様々な国で違うビジネスを起こす上ではローカライズが不可欠だと考えています。

ーローカライズで成功するには?

 まずは現地のパートナーをしっかりと持つことに尽きますね。パートナーをどう見つけるかはとても重要で、僕自身が長期に亘って現地に滞在しコミニュケーションをとるようにしています。そしてその地域で勝てるプロジェクトを進出前にしっかり用意している事ですかね。

ーこれからのファッション業界はどのように移り変わっていくと思いますか?

 ファッション業界は三極化していくと思っています。高価格と低価格のブランドだけが残るという二極化は比較的イメージしやすいかと思いますが、ラグジュアリーやデザイナー本人自体が影響力を持った記号性のあるファッション、サステナビリティやデザイン、テックといったメッセージやストーリー性があるファッション、そしてユニクロや「ザラ(ZARA)」の様な巨大な企業が作り出すファッションだけが生き残るような気がしていて、それら以外は淘汰されていくのではないかと思います。

 ただファッションの可能性は服だけじゃないですからね。自分がデザイナーじゃないからこそ感じている可能性をもとに、新しい"ファッション"の価値観を作っていきたいと考えています。

©FASHIONSNAP.COM

ー服を作って売るだけがファッションビジネスではないということですね。

 ファッションとはマテリアルビジネスで、とにかく既成服を作って売ること、みたいな感覚は古い。ファッションという感覚にもっと焦点を当てたほうが可能性があると思いますね。新しい時代ではものを売るのではなく、どう感覚を共有するかが大切で、今はそのフェーズなんだと考えています。

ー他の業界にも領域を広げられそうです。

 企業やプロダクト、テック、コスメ、ライフスタイル、ウェルネス、観光とか、需要はとてもありますよ。例えば「Soho House」は高級ホテルですが、打ち出し方はまさにファッションですから。そうやって領域を広げていくと同時に、他業界をもっと参考にすることも必要だと思います。Seiya Nakamura 2.24としても、ファッションをプラットフォームにして他分野で新しいビジネスを生み出していきたいですね。

(聞き手:芳之内史也)

Seiya Nakamura 2.24:オフィシャルサイト

最新の関連記事

Realtime

現在の人気記事

    次の記事を探す

    Ranking Top 10

    アクセスランキング