「トーガ(TOGA)」が今年2月に2025年秋冬コレクションで“スニーカー”を披露してから早7ヶ月。ついにその全貌が明らかになった。「アシックス(ASICS)」とのコラボレーションで、「ゲル キュムラス 16(GEL-CUMULUS 16)」をベースにトーガのエッセンスを溶け込ませた3カラーが登場。アイコニックなレザーシューズとは真逆の、ランニングシューズを元にしたブランド初の“ハイテク”スニーカーだ。数日後にはロンドンファッションウィークに発つと言うデザイナーの古田泰子は、その多忙さを感じさせない軽やかな足取りで取材場所に訪れた。新たなスニーカー制作の裏側と、東京-ロンドンという2拠点、ブランドの社会性、30周年など、最近思うことを聞いてみると、さっぱりと明朗に答えてくれた。
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綺麗なだけのファッションではない、世の中に存在する別の側面を表現したい
⎯⎯(取材日の)3日後にはロンドンに出発されると聞きました。一時休止した時期もありましたが、長年ロンドンでコレクションを発表しているのは、何か特別な親和性があるのでしょうか。
ロンドンで発表するようになって、もう10年近く経ちます。最初はもちろん緊張しました。気付けば今ではロンドンにもブランドを支えてくれるスタッフがいて、ただ新作を発表する場所というよりは、国外拠点の一つのようになっています。
⎯⎯なるほど。東京とロンドンで、コレクションチームが動いている。
はい。なので、一過性のものにならないように、どういう形で続けて世の中に広めていけるかという話し合いが常にできています。それに、ロンドンはヨーロッパのファッションウィークのスタート地点でもあるので、気負いすぎずに発表できる環境なのかなと。
⎯⎯街の空気感みたいなものも合っていると感じますか?
ロンドンに固執するような感覚は全くないんですが、もともとイギリスの音楽シーンやカルチャーは好きでした。クラシックなものを認めつつ、それを崩して新しく表現するといった文化があると思います。そういうところが、トーガと合っているのかも。
⎯⎯勝手ながら、トーガのコレクションには、美しさや強さの中に、生活している人の力強さ、市井の人々への賛美のようなものを感じます。そこが、ロンドンの空気感と合うのでは、と勘繰っていました。
ありがとうございます。私たちが魅せたいことは、今おっしゃっていただいたことに近いです。綺麗なだけのファッションではなく、そうではない側面も世の中には絶対に存在する。その目線はいつも持っています。それがロンドン、パリ、東京であろうが、発表の場はそれほど重要ではないのかもしれません。

初のハイテクスニーカー 「私たちが想像する以上の年数が必要でした」
⎯⎯2025年秋冬のランウェイで登場したスニーカーが、ついにお披露目ですね。アシックスとのコラボもさることながら、ランニングモデルがベースということで、新鮮に感じました。
もともと、ハイテクスニーカーの開発に力を入れている会社とご一緒してみたいという気持ちがずっとありました。このジャンルは特に、スポーツをベースにする企業が優れた技術と努力をかけているものなので、自分たちで作ろうとしても、どこか中途半端なものになってしまう。構想していたところ、アシックスさんと協業できることになりました。

トーガ2025年秋冬コレクションより
⎯⎯トーガ初となるハイテクスニーカーのクリエイションはどうでしたか。
実際に始めてみると、私たちが想像する以上の年数が必要でした。最初のミーティングはコロナのパンデミック中だったと思うので、2020年か2021年頃。デザインした後にサンプルを作っていただいて、アシックスさん側の規定やテストをクリアするために何度も調整、というのを繰り返しました。
プロジェクトが始まると、テクニカルに表現する力が非常に強い、プロフェッショナルなデザインチームだと感じました。例えば、サイドのラインに微妙なグラデーションを入れたいと言った時に、どのくらいの濃淡なのか、レベル感を細かく調整してくれたり、シューレース一つとっても、色のシミュレーションを何パターンも作っていただきました。サンプルの数が何個あったか覚えていないほど試行錯誤し、製作してくださったんです。最後の最後まで、お付き合いしてもらったなと感謝しています。
⎯⎯デザインのポイントはどんなところでしょうか。
トーガのアイコンであるメタル使いや、ウェスタンカッティングのディテールを、アシックスのスニーカーの中にレイヤーとして落とし込みました。

ランニングシューズの「ゲル キュムラス 16」を基本の型に採用

⎯⎯シューレースをレイヤードしているのも面白いですね。
シューレースをダブル使いするためのバランス感も、何度も試した部分です。コードストッパーのシューレースは、デザインでもありますが、ここでアッパーとタンを簡単にフィットできるという機能性も備えています。ただデコラティブなのではなく、ハイテクスニーカーとしての「箱」というか、ベースを活かしたモデルを目指しました。ちなみに、コードストッパーのディテールは、トーガでよく用いるループタイから引用しています。

⎯⎯配色もトーガらしい捻りがあります。ご自身で一番履くカラーはどれですか?
グレーは一番ベーシックで履きやすいと思いますが、そこにシルバーを混ぜてトーガらしくなるように遊びました。シルバーはアシックスさんの他のモデルでもよく使っていますし、トーガでもショッピングバックなどよく登場するカラーなのでそこはリンクさせたくて、どのカラーにもシルバーを入れています。強いて言うなら、シルバーとグレーのモデルですね。トーガ的な配色と、アシックスらしいメッシュ地のザ・スニーカーという型がガチっとハマったなと思います。

「後々のクラシックとして残していけるものなのか」を常に考えています
⎯⎯シューズはブランドの初期から展開していて、今や1シーズンでメンズ・ウィメンズ合わせて20型ほど登場します。
シーズンの企画の中で一番早く取り掛かるのが靴です。靴を考えながら服を生み出していくこともありますし、逆に服のディテールから靴に落とし込むこともある。常に連携させながらチーム全員で進行していきます。
⎯⎯シューズ以外にも、ブランドではランウェイコレクションの「トーガ」、プレコレクションウィメンズライン「トーガ プルラ(TOGA PULLA)」、メンズライン「トーガ ビリリース(TOGA VIRILIS)」、ユニセックスライン「トーガ トゥ(TOGA TOO)」とライン展開が豊富です。クリエイションの源は何でしょうか。
見たり聞いたりしたものを、ファッションだけではなく何か別のものに置き換えたり、こうしてみたいと考えたりすることが、もう生活の一部になっています。作ってみたいものは尽きないのですが、一番大事にしているのは「どんな新しいものを出してもトーガらしく」という点です。そして、それが「後々のクラシックとして残していけるものなのか」を常に考えています。
⎯⎯ラインとして散漫にならないように、考えが必要だと。
今回のシューズのようにコラボであったり、さまざまなラインがあったりしますが、トーガという傘の下にあることは変わらない。そこが希薄にならないための議論を大事にしています。
MD的な部分は頼もしいチームがいてくれて、活発に意見を出してくれるので、私も吟味できる。その上でコレクションを製作しています。
⎯⎯近年は、選挙投票者へのノベルティキャンペーンなども行っています。ファッションと社会的イシューの距離感は、現代のデザイナーが少なからず考えを巡らせるところだと思います。
このプロジェクトは自分たちがファッションを発表したり、普通に生活したりする中で、どれだけ政治やそのほか社会を取り巻く出来事が関連しているのかを伝えたいという思いから始まりました。政治の話をストレートにぶつけるのではなくて、何かこう、マッチアップとなるようなスタートが切れないかということで続けています。
ただデザインが好きだから買う、というだけでなく、私たちが何を伝えたいか、何をしているかという背景に賛同して購入に至ってほしい。買い物でワンクリックすることが、何のための一票なのかというところまで、ブランドとして考えたいですし、伝えたい。今の時代に生きて、ファッションブランドを運営している身として、意志をクリエイションに乗せたいと思っています。
⎯⎯セレクトショップやデザイナーズブランドで、徐々にそういう意思を表示していく動きもあります。
喜ばしく思います。私たちはこの方法で始めましたが、もっといい方法が他にもあるかもしれない。向き合い方も方法も、ブランドの数だけ考え方があって、やり方が違えど発信していく場が増えるといいと思います。
30周年は世界ツアーがしてみたい
⎯⎯来年でトーガは設立30周年です。以前のインタビューでは、やりたいことはまだまだあるとおっしゃっていました。
30周年までまだまだ先だと思っていました。ここ1、2年が本当にあっという間に過ぎてしまって、気がついたらもう2年後でした。私としては周年を気にせず、流れるように変わらずもの作りが続けていけたら幸せです。
⎯⎯ポジティブな節目ですから、ファンや業界からも注目されますよね。
プレスからは「この節目に何かやりましょう」と言われています。みんなで何かを作る挑戦ができるチャンスかもしれないと考えています。
⎯⎯どんなサプライズがありそうでしょうか?
やってみたいことは、30周年のカプセルコレクションを作って世界ツアーをしてみたいです。ショー形式にこだわらず、各地で発表するということをしてみたい。ファッションの発表の場は決まっていますが、今まで発表したことがない場所でトーガを見てもらいたい。そんなこんなで気がついたら30周年も過ぎ去っているのだろうなと思います。

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