古代ローマの一枚布で作られた衣のことを「TOGA(トーガ)」という。デザイナー古田泰子が、その"聖なる衣"の意味を持つ言葉に運命を感じ、ブランド名に冠してスタートしたのが1997年。以来、20年以上にわたり唯一無二のスタイルを貫いている。初めて自分でワンピースを作った小学生から、東京とパリでの刺激的な日々、挫折と挑戦を経て、情熱的にオリジナリティを追求している現在まで、古田の言葉と共に「ふくびと」全10回連載で辿る。
第1話——1971年、岐阜県に3人姉妹の末っ子として生まれた古田泰子。歳の離れた2人の姉からの影響をたっぷりと受け、同級生たちとは少し違うおませな女の子に育っていった。夜遅くのテレビドラマやティーン誌を見て、時には大人びたファッションセンスで周囲を驚かせることも。小学生の頃にはすでに、デザイナーを夢見ていた。
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・新聞紙で作ったワンピース
小学2年生までは、名古屋市内で育ちました。両親は特にクリエイティブな仕事をしていたわけではありません。ちょっと変わっていたといえば、父はあまり家にいなくてたまにお土産を買って帰ってくるような、いわゆる遊び人だったこと。一番上の姉とは7つも歳が離れていたので、2人にはべったり甘えていました。姉たちも私のことをおもちゃのように可愛がっていたらしく、そのせいで影響はとても大きかったんだと思います。姉たちの読んでいるもの、聞いているもの、見ているものを、自然と見聞きしていました。
小学校で決められた就寝時間を越えた時間帯のテレビ番組も、悪いと知らずに一緒に見ていました。ドラマの『ムー一族』(1978~79年、毎週21~22時放送)が大好きで、翌日その話を友達にしたらホームルームで先生に叱られたりして「えっ、これってよくないこと!?」って驚いた。「みんなとちょっと違うのかな」と薄々感じた最初の出来事でした。
よく見ていた雑誌も『なかよし』などではなく、姉たちが読んでいる『宝島』や『ポップティーン』。「初デートに持っていくもの=ハンカチ2枚」みたいな女子高生のお悩み相談を読んだりして、ちょっとませていたのかもしれません。
服はお下がりではなく、割と買ってもらえることが多かったと思います。「これが着たい」と選ぶと、姉と母から「センスがいい」と褒めてもらえる。ツイードのジャケットとか大人好みの渋い素材をチョイスする子どもだったらしく、母の好みにも合っていたのでしょう。ただ与えられたものを着る、ということはありませんでした。
はっきりとした記憶にはないんですが、母によると小学2年生の頃から「ファッションデザイナーになりたい」と言っていたそうです。服を作る=デザイナーという職業しか知らなかったのかもしれません。
小学生の時の夏の旅行で着たいワンピースがなくて、自分で作ったことを覚えています。新聞紙を型紙のようにして「ここに肩紐をつけたらドレスになるかな」とか「ウエストはゴムを入れて、共布のベルトを付けよう」とか考えて。生地屋さんに行って自分で選んで買った、マドラスチェックの綺麗なパープル色が印象に残っています。
小学校で引越した岐阜の同居先に祖母がいて、着物の仕立てを生業にしていました。よく余った生地で縮小サイズの着物の作り方を教わったりしていたので、「着物の考え方」というほどではないけれど、新聞紙で作ったドレスもそれを真似したような格好。祖母の手縫いを見て、ミシンを使わずに仕上げたんだと思います。
・初めて買ったヴィンテージのリング
ファッションに関して母はいつも協力的というか、放任主義。中学の頃に私が「学校を休んでバーゲンセールに行きたい」と相談すると、「娘が風邪を引いてしまって」と学校に嘘の電話をかけてくれました。「明日はちゃんと行きなさいよ」と言って。親としては無責任かもしれないけど、私を説得して学校に行かせる方が難しかったからでしょう。
雑誌『an・an』で好きだったのが、「原宿ファッションチェック」や「ファッションコンテスト」。それから「誌上フリーマーケット」に応募して買ったヴィンテージのリングは、今でもつけています。出品していたのは女性のスタイリストでロンドンのポートベローかカムデンのマーケットで買ったという、フリーメイソンのシンボルマークが入ったオニキスのリング。
その時はフリーメイソンのことなんて全然知らなかったんですが、何かすごく魅力的に見えたのだと思います。ヴィンテージに興味を持つのは、同世代の友人より早かったのかもしれません。——第2話につづく
第2話「スキンヘッドの女子高生、モードを志す」は、8月14日正午に公開します。
文・辻 富由子 / 編集・小湊 千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP
【連載ふくびと】トーガと古田泰子 全10話
第1話―「大人の文化」を先取りしていた子ども時代
第2話―スキンヘッドの女子高生、モードを志す
第3話―「何を伝えたくて服を作っているのか?」
第4話―パリの洗礼とコム デ ギャルソンの衝撃
第5話―衣装デザイナーとしての活動、そして挫折
第6話―前衛的な雑誌「ジャップ」で誌面デビュー
第7話―世の中を変える「場所」を作りたくて
第8話―パリからロンドン、まだ見ぬ世界へ
第9話―「なりたい自分」を叶えるのがファッションだ
第10話―聖なる衣が最期を飾るまで
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