トム・サックス
Image by: FASHIONSNAP.COM

Fashion インタビュー・対談

コラボの条件、成功の理由、ナイキとマクドナルドは同じ?——トム・サックスに「ブランド価値」について聞く

トム・サックス
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 誰もが知る高級ブランドのロゴ入りの便器やバリューセットを制作するなど、ユニークなアプローチで常に注目を浴びている現代アーティストのトム・サックス(Tom Sachs)が、「ナイキ(NIKE)」という超メジャーブランドと手を組んだら......?最初の商品化に至るまで5年の歳月をかけたというコラボレーションから、2年ぶりの新作として第3弾アイテムが登場した。ラインナップは、ポンチョ、スニーカー、ビーニー、そして日本未発売のショートパンツ。即完売となった唯一無二のアイテムはどのようにして作られたのか。開発秘話と共に、トム・サックス流の"ブランド価値"についての考えなどを紐解く。

—早速ですが、ナイキとのコラボレーションは爆発的な人気で今回が3回目となりました。最初にコラボしたきっかけは?

 ナイキのCEO マーク・パーカー(Mark Parker)と、長年の友人関係なんです。それがきっかけの一つですが、1回目のコラボが実現するまで5年ほどかかりましたね。どのようにコラボするのかの条件を、お互いに話し合い理解するために5年が必要だったんです。

—条件とは?

 私にとってナイキなしではできないこと、ナイキも私なしではできないことをする。これがコラボの条件です。

—両者でなければ作れないもの。

 そうですね。ナイキは世界中のアスリートの声を聞いてパフォーマンスを上げるための会社ですから、私たちのチームはアートを追求するアスリートだと思っているんです。彫刻というスポーツのパフォーマンスを上げるためにスポンサーになってくれた。よく「あなたはナイキのために何をしているのか?」と質問されるんですが、ナイキが自分たちのために何をしてくれるのかが肝心。協力してくれたからこそ、私のスタジオはプロの選手からなるチームとなりましたし、新しい段階に発展し、このプロジェクトが成功しているんだと思います。

—第2弾は2017年発売だったので、新作は2年ぶりですね。今回のコラボの特徴は?

 「3月」に着目しました。3月は1年の中でも気温や天気の変化が激しく、思春期を象徴していると思うんです。1年で最も難しい月。このコレクションでは変化を表現していて、全てのアイテムでトランスフォーメーションを意識しています。無価値な土を価値ある陶器に変化させるということで、自分との関連性もある。それと、統計的に見て3月は家の鍵や車の鍵をよく無くす月なんだそうです。

—鍵というキーワードもアイテムに反映されているんですか?

 財布と携帯電話と鍵。生活の中で大事なトリロジー(三つ組)ですね。この3つなしには外出することができない。なのでポンチョをしまうバッグには、それらを収納できる最低限のスペースを設けています。

—ポンチョはウエストバッグに収納することができるんですね。サックスさんの「Always be knowlling(つねに整理整頓された状態であれ)」という言葉のようです。

 これについては考えていませんでした(笑)。確かにいい捉え方ですね。整理整頓に執着すること、そういう考えを私は気に入っているので。でもこれは、手品のトリックから着想したんですよ。突然雨が降ってきたり、寒いと思ったときに1秒後には何かを着ている、というアイデアです。

—スニーカーも、天候が悪い3月のニューヨークをイメージしたとのこと。ビーニーとパンツの着想は?

 ビーニーは南アフリカで山登りをする人たちが被る帽子から着想を得ました。フリース素材でできていて、最小限の素材で最大限の暖かさを生み出せるんです。パンツについては、体のコアの部分を暖かくするという意味で大事だと思っています。私のスタジオでは、毎週月水金の朝に体幹を強化するためのエクササイズをしているんですよ。ショーツのほうが膝を動かしやすいし、俊敏になれる。ストレスなく動けることで、作業に集中できる状態になると考えています。

—実用性の高さを備えているようですが、ファッションとアートではデザインに対する考え方は異なりますか?

 アートもファッションも、製作する上で特に違いはありません。もちろんナイキとのコラボレーションは全て実用的でなければいけないと思います。ただ、私の彫刻にはスピリチュアルな価値観が入っています。どんなに平凡で日常的なものにも、スピリットや実用性を見出すことができると考えているので、実用性を特別強く考えることはありませんね。ただ単に、作る上でのツールが違うだけ。私の作品を作るときは私のチームで製作し、ナイキとのコラボはナイキの製造システムに乗っかって作ります。違いといったらそれくらいでしょうか。

—過去には「エルメス」や「プラダ」のロゴを使ってマクドナルドのパッケージや便器などユニークな作品を発表してきましたが、ブランドの価値についてはどのように捉えていますか?

トム・サックスのインスタグラム。シャネルのロゴを用いたチェーンソー

 もともとブランドとは、品質を保証するものだったかと思います。ただ、ブランドのアイデンティティーについての考えは変わってきていますね。例えばナイキのような規模だと複数の工場で商品を生産しています。増えれば増えるほど、高品質を維持することが難しくなるでしょう。製造だけではなく、PRや販売にいたるまで様々な過程のどこかでうまくいかない可能性が出てくる。どんなブランドも、大きくなるとより複雑になります。

 もう一つ違う見方をすれば、例えばマクドナルドは社会を破壊しているのか。小さい食堂が廃業に追い込まれているかもしれないし、人々に肥満をもたらして、大規模農業によって地球環境が壊される可能性もある。でも、それと同時に最も多くの人に食料を提供し、人々を救ってきた企業とも言えるのです。

 私はトム・サックスというアーティストで自分のネットワークを持っていますし、トム・サックスというブランドだと思っています。もちろんナイキやプラダと比べると、サブスクライバー数が違います。でもブランドという原則は同じなんですね。つまり私1人というブランドでも、ナイキというブランドでも、マクドナルドもプラダも、"変わらない"と思うんです。

—次にまたアパレルアイテムを作るとしたら、何を作りたいですか?

 もう、これで十分なんじゃないですか(笑)?このプロジェクトで特許を3つも申請中ですし。全てが上手くいくように考え抜いて完璧なものを作るのには、とても時間がかかりますから。とはいえ、今開発中のものもいくつかあるんです。まだ言えないので、待っていてもらえたら。

■トム・サックス(Tom Sachs)
1966年にニューヨークで生まれる。ロンドン英国建築協会附属建築学校と、アメリカ・バーモンド州のベニントン大学を卒業後、建築家フランク・ゲーリー(Frank Gehry)の事務所で家具制作を経験した。「手づくりの既製品」をテーマに、プラダのシューズボックスを使用して作った便器「Prada Toilet」や、エルメスの包装紙でマクドナルドのバリューセットを再現した「Hermés Value Meal」など、ファッションをモチーフとした作品も製作。近年は宇宙や茶道などをテーマに幅広い作品を手掛けている。2019年6月23日まで東京オペラシティ アートギャラリーで個展「ティーセレモニー(Tea Ceremony)」を開催している。

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