「トムウッド」クリエイティブ・ディレクター兼創業者のモナ・ヤンセン
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今年でデビュー10周年を迎えるノルウェー発のジュエリーブランド「トムウッド(Tom Wood)」が、ホームのオスロに次ぐ世界2番目となる旗艦店を、東京・青山にオープンした。北欧の美しい自然や実用的でコンテンポラリーな美学を反映した、ソリッドで凛とした佇まいのユニセックスジュエリーを展開してきた同ブランドは、デビュー当初よりサステナビリティにも精力的に取り組んでいる。今回の日本出店やクリエイションの背景にはいったいどんな思いやストーリーが秘められているのか、旗艦店のオープンを前に来日した、クリエイティブ・ディレクター兼創業者のモナ・ヤンセン(Mona Jensen)に話を聞いた。
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第2の旗艦店をオープンした日本は、深い繋がりを感じる場所
ーまずは、世界2店舗目となる旗艦店を日本にオープンした理由を教えてください。
日本を第2の旗艦店の場所として選んだのは、私たちにとって最も大きく重要なマーケットであり、非常に繋がりを感じる場所であるからです。これまでに何度も日本を訪れましたし、「第2の故郷」とまでは言わずとも、いつも来るたびにとても歓迎されているように感じる場所だと思っています。
ーなぜ青山というロケーションを選んだのでしょうか?
それは、私自身が青山エリアやここに立ち並ぶリテール店舗のデザインが好きだからです。そのため、ブランドの世界観をフルで見せるために小規模かつ2階建ての物件を青山で探していたのですが、理想的な場所を見つけるのはすごく大変で、かなり時間がかかりました。
ーいつ頃から東京出店を計画されていたんですか?
コロナ前からです。コロナのせいで計画がストップしてしまい、去年の春にようやく日本への入国規制が緩和されたので、すぐに日本行きのチケットを取って来日し、ふさわしい物件を探しました。
ーようやく完成した店舗を見て、今どんなお気持ちですか?
とても嬉しいです。自分が夢見ていた通りの素晴らしい店舗が完成したので、すごく満足しています。
ー店舗デザインでこだわった点や気に入っている点を教えてください。
特に気に入っているのは、1階と2階の二面性ですね。1階が店舗、2階が招待制のギャラリーになっているのですが、それぞれの階の異なる雰囲気がとても良いバランスを生み出していると思いますし、私たちがどういったブランドかということを、商品だけでなく背景にある様々な着想源などとともに、より深いレベルでお客様にお見せすることができる店舗になっていると思います。
トムウッド 青山店の1階内観・外観
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トムウッド 青山店の2階内観
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ー2階のギャラリーは、北欧と日本のデザインの融合や、ブランドの日本進出の背景にあるストーリーやインスピレーションなどを視覚的に表現したと伺いました。モナさんやブランドと日本には、どのような繋がりや関わりがあるのでしょうか?
実は日本というよりも、アジアという地域全体にずっと強い繋がりや親しみを感じてきました。18歳ぐらいの頃に、4ヶ月間かけてアジアの国々を旅したことがあったのですが、その時にアジアの文化や人々に触れて魅力を感じ、結びつきを感じるようになったんです。日本を初めて訪れたのは12年ほど前だったと思うのですが、ヴィジュアルや建築をはじめ、ここで目にする全てのものに魅了されました。なので、人々と関わった経験はもちろん、目にしたものへの賞賛の気持ちも含まれていると思います。
ー具体的に、日本で訪れた場所や見たものなどからインスピレーションや影響を受けたことはありますか?
東京という街は、大都市で多くの人がいるにもかかわらず同時に静寂さを感じる場所で、そこが魅力的だと感じています。京都も、まるで今でも忍者がそこにいるかのように、歴史が手に取るように見えるところが素晴らしく、非常にインスピレーションを与えてくれる場所ですね。あとは、安藤忠雄などをはじめとした日本の現代建築や住宅も大好きですし、デザインという点で言うと、陶器作品やガラス作品が持つ、それを手掛けた人々の顔や姿、ものづくりに対する情熱的な思いが見えるような、日本の職人技ならではの独特のタッチや風合いもとても美しいと思っています。なので、これまでとてもたくさんの日本のものから影響を受けてきました。
ー今回、石巻や京都、益子など日本の地方の工房や職人が手掛けた家具や器などを展示品としてセレクトされていますが、選定の基準は?
私自身にとってパーソナルで親しみを感じるような、自然で違和感のないものを選びました。ここには、私が自宅でも使っているノルウェー製のソファや椅子などの個人的なお気に入りの家具も持ってきていますし、一方で日本独自のタッチがありつつも自分自身との深い繋がりを感じるような、日本のデザイナーや職人が手掛けたものもセレクトしています。たとえば、益子の職人の手による陶器は実際に自宅で使っているものもありますし、家の壁に使っているのと同じ色の木を用いて石巻工房で製作してもらった、ダイニングテーブルとベンチなどもあります。全く同じではないですが、私の自宅と近しい雰囲気の空間を生み出すことを目指しました。
2階のギャラリーの展示品
石巻工房のダイニングテーブルとベンチ
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ー来店する人に、特におすすめしたい商品は?
一番見てもらいたいのは、青山店限定の「マインド リング レッド ガーネット(Mined Ring Red Garnet)」ですね。でも、日本でここまで幅広い品揃えを展開するのは初めてで、オンラインで見られるフルコレクションを全てお見せしているので、いろいろなバリエーションを手にとって頂ければと思います。
青山店限定の「マインド リング レッド ガーネット」ラージ。日の丸をモチーフに、東の海から昇る太陽をイメージしたレッド・ガーネットをあしらった。税込7万2600円。
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青山店限定の「マインド リング レッド ガーネット」スモール。日の丸をモチーフに、東の海から昇る太陽をイメージしたレッド・ガーネットをあしらった。税込4万9500円。
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1階で展開するジュエリーコレクション
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デビューから10年、トムウッドは自分の分身であり代弁者
ー2013年のブランド設立から10年が立ちましたが、今の率直な気持ちを聞かせてください。
まるで昨日のことのように感じます。本当にあっという間の10年でした。とても良い気分ですし、これまで頑張ってきたことが意味ある形で結実したことに達成感を感じています。そして、今やノルウェーのチームも大きくなり、日本でも大きなチームが出来つつありますし、ノルウェーと日本に2つの店舗を構えられたことに、とても満足しています。
ー始めた当初、「トムウッド」というブランドやその名前にはどのような思いを込めたのでしょうか?
10年前、ジュエリーのデザインはとてもフェミニンなものが多く、ジュエリー自体がフェミニンなものだと考えられていました。でも、私自身は一女性として、ジュエリーにもっとマスキュリンな要素を加えたかったし、男性も身に付けられるブランドにしたかったんです。いつも言っているのですが、トムウッドは私の分身みたいなもので、私の中にある男性的な部分だと思っています。今ではトムウッドというブランドは、それを通して私の思いやパーソナリティを伝えてくれる代弁者のような存在になりました。
ー10年経って、ブランドはモナさんが予想していたようなものになりましたか、それとも違うものになりましたか?
難しいですね。現在はトムウッドに多くの人が関わっていて、それぞれのやり方でブランドを成長させようと働いてくれているので、それはいいことだと思います。私1人だけだったらもっとブランドは小さかったと思うので、良い意味で予想していたのとは違う結果になっているのではないかなと。
ーモナさん自身について、この10年間で変わったことと変わらないことは?
変わったのは、内省する時間を持てるようになったことですね。特にコロナ禍でステイホームの時期が長かったことで、自分自身についていろいろなことを学びましたし、以前よりも忍耐強くなり、冷静さを保つことができるようになったと感じています。一方で、10年経った今でも、始めた当時と変わらない情熱やエネルギーを持ち続けていますし、まだまだもっと多くのことを実現したいという意欲があります。私は決して満足しないので(笑)。
デザインからプロセス、働き方、生活まで、全てに通底するサステナビリティ
ーデザインする上で、最も大切にしていることはなんですか?
私がいつも大切にしているのは、まず第一にハイクオリティなものを作ること。そうすれば、アイテムは恒久的なものになり、長く残るからです。そして、実用性や着け心地の良さ、サステナビリティは常に頭の中にあります。材料調達や製造に関しても、新しい業者を探すときは、倫理的な労働環境や条件で労働者を扱っているかどうかを確認するために、厳しいルールを設けて協業する相手を選んでいます。このように、大切にしていることはとてもたくさんあります。形だけではなく、アイデアから最終製品に至るまでの全ての過程を考慮しなければならないので、その分難しさはありますね。
ー近年リサイクル素材の使用率を大幅に増やし、今年末までに全てのジュエリーをリサイクル素材に切り替えることを公言しているほか、自宅の素材や設備も環境に配慮したものを採用しているなど、公私共にサステナビリティをとても重視されているのが印象的です。サステナビリティに対する、モナさんの考えを教えてください。
「サステナビリティ」という言葉にはいろいろな側面があると思っていて、自然環境だけでなく、私たちの周りの世界や人々も含まれます。日常生活において個人的な選択をすることはもちろん大切ですが、ブランドとしては、私個人よりも大きな影響力を持っているからこそ、サステナビリティについて発信していくことが重要だと考えています。だから、私たちは常に学びを深めてきましたし、それを発信するための新しい方法を模索してきました。このトピックは間違いなく全ての人に関係することですが、比較的新しく、国によって知識や考え方も変わってくるため、とても複雑なテーマであることも確かです。でも、ノルウェーはサステナビリティに関しては非常に進んでいる国なので、私たちがこれからやっていくべきなのは、他国の人々のサステナビリティに対する考え方を学ぶとともに、彼らがもっと興味を持てるように働きかけていくことだと思っています。みんなが小さいことをすれば、それが大きな変化に繋がっていくので。
リサイクル可能なアルミニウムやスチール、アップサイクルしたファブリックなどを優先的に使用した店装
デザイナー 山本大介が手掛ける、廃材の軽量鉄骨を再利用した素材「FLOW」で制作された展示品
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ーノルウェーは、全体的にサステナビリティの観点で進んでいるのでしょうか、もしくはトムウッドがより先進的ですか?
どちらとも言えないですね。サステナビリティという考え方は昔からありました。でも私たちの会社は、他社よりも多くの時間とお金を投資して非常に良い形での運営を行ってきたので、サステナビリティの実践をどの会社よりも日常レベルで浸透させているのではないかと思います。
ーモナさんが考える、ノルウェーの文化やデザインとはどのようなものですか?また、それはご自身のクリエイションに反映されていますか?
ノルウェーでは、実は近年まであまりデザインの分野では目立ったものがなかったんです。北欧だと、たとえばデンマークは、アルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)などの家具デザイナーが昔から有名ですよね。最近はノルウェーも、建築ではスノヘッタ(Snøhetta)、家具デザイナーではアンドレアス・エンゲスヴィック(Andreas Engesvik)などが知られるようになりましたが、それもここ20年くらいの話です。だから、私はノルウェーというよりも、北欧のライフスタイルやデザイン、自然から影響を受けてきたと思います。
ー最後に、今後新たなカテゴリーを手掛ける予定やアパレル復活の可能性など、ブランドやご自身の将来の展望を教えてください。
楽しみ続けることと長く残る良いものを作ること、あとはさらにサステナブルになることですかね。新カテゴリーについては、時が来ればわかると思います(笑)。アパレルの再開は、サステナビリティの点で今は考えていないですね。だって、私たちにこれ以上洋服は必要ないと思うから。
(聞き手:佐々木 エリカ)
■トムウッド 青山店
所在地:東京都港区南青山3-14-20
電話番号:03-6447-5528
営業時間:12:00〜20:00
定休日:不定休
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