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カルティエ「ロードスター」復活から見えたメンズウォッチの新潮流──ウォッチズ&ワンダーズ取材記 vol.1

 「高級時計市場は、落ち着きを見せ始めた」。ここ1年、そんな声を耳にする機会が増えました。中国市場の減速、二次流通価格の調整、そしてコロナ禍以降に続いた“時計バブル”の反動——。そういった状況を見れば、確かにそう見えるのかもしれません。しかし、取材で訪れたジュネーブでは、その空気は少し違って見えました。

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世界最大の腕時計展示会「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2026」は、毎年春に行われる世界最大の腕時計展示会です。今年は4月14日から20日まで7日間の開催で、来場者数は約6万人、前年比9%増という過去最高を記録しました。65ブランドが出展、そして6000人を超えるリテーラーと1750人のジャーナリストが集い、会場のパレクスポは、朝から夕方まで人の波が途切れることがありませんでした。

取材・文/山本晃弘(ヤマカン

 そんな熱気のなか個人的にもっとも印象に残ったことを、まず申し上げましょう。

「ジュエラーたちは、いまメンズウォッチに本気です!」

 一般的に、腕時計専業ブランドはメンズの売上比率が高く、レディースの売り上げは苦戦しています。一方で、ジュエラーでもあるブランドはレディース腕時計の売上比率が高く、メンズの売り上げに課題を抱えています。そうした背景を考えると、多くのジュエラーが、これまで以上にメンズウォッチに力を入れてきたことは、当然の流れであると言ってもいいでしょう。

14年ぶりに帰ってきたカルティエの「ロードスター」

カルティエ「ロードスター」

Image by: ©Cartier ©Valentin Abad

 今年もっとも大きな注目を集めたのは、「カルティエ(Cartier)」の「ロードスター」の復活でした。2002年に誕生し、近年はコレクションから姿を消していたロードスター。その独特なトノーケースと、自動車のスピードメーターを思わせるダイヤルデザインは、一部のコレクターの間では“カルティエの隠れた名作”として語られてきました。そして2026年、そのロードスターが帰ってきたのです。

 現地で実機を見た第一印象は、「懐かしさ」ではなく、「今っぽさ」でした。ラージモデルは47.2×38.7ミリ、ミディアムモデルは42.5×34.9ミリ。防水性能は10気圧。数字だけ見れば決して小さい時計ではありません。ただ実際に腕に載せてみると、不思議なほど収まりがいいのです。理由はブレスレットにあります。新型「ロードスター」はブレスレットのリンク構造を一新して可動域が増えたことで、かつての“少しゴツいカルティエ”から、“かなり着けやすいカルティエ”へと進化していました。また、クイックスイッチシステムを採用したことで、ブレスレットからストラップベルトへの交換も簡単です。

カルティエ「ロードスター」

Image by: ©Cartier ©Valentin Abad

 実は、1904年に3代目ルイ・カルティエが飛行家サントス・デュモンのために作ったものが、世界初の男性用腕時計であると言われています。それを思い起こすと、カルティエは120年以上も前からメンズウォッチに本気だったのです。

 「ロードスター」の復刻は、カルティエというブランドの再定義であると感じました。

カルティエ「ロードスター」(ミディアムモデル)

自動巻き(Cal.1899 MC)、パワーリザーブ約39時間、ケースサイズ42.5×34.9ミリ、SS。100メートル防水。154万4400円(予定価格・10月発売予定)。

ブルガリが“薄さ”より“装着感”を選んだ日

ブルガリ「オクト フィニッシモ オートマティック」

 今年、個人的にもっとも戦略的だと感じたのが「ブルガリ(BVLGARI)」です。

 「オクト フィニッシモ」が、ついに37ミリ径になりました。“ついに”と書いたのには、理由があります。「オクト フィニッシモ」は、ブルガリの高い技術力によって、史上最薄の記録を何度も打ち立ててきました。イタリアのブランドらしい建築を思わせるケースデザインで、ラグジュアリースポーツウォッチに“美しさ”という概念を持ち込んだのです。

 一方で、40ミリ径というサイズについては、「カッコいいけど大きい」という指摘も少なくありませんでした。そういった男性の声に、ブルガリは真正面から応えたのです。新しい37ミリ径「オクト フィニッシモ」の厚さは6.45ミリ。従来の40ミリ径モデルの厚さが5.15ミリだったのと比較すると、1.3ミリ厚くなっています。それでも、6.45ミリという厚さは、イタリア語で「極上」もしくは「極薄」を意味する「フィニッシモ」のモデル名に相応しいエレガントさをキープしています。

 搭載したムーブメントは、新たに開発されたCal.BVF100。ここで重要なのは、“小さくした”ことではありません。わざわざ“新しいムーブメントを作って、小さくした”ことです。単なるバリエーション追加ではなく、ブランドの意思表示だと言っていいでしょう。

 長く続いた“デカ厚”高級腕時計のブームは一段落して、ここ数年は、36~40ミリ程度のケース径を持つ腕時計が「ビジネスで使うことを考えるとリアル」だと言われています。“薄さ”という価値の頂点を追求してきたブルガリが、“小ぶりで薄い”新作を投じたとなると、腕時計のサイズはまた価値観が変わり始めているのです。

ブルガリ「オクト フィニッシモ オートマティック」

自動巻き(Cal.BVF100)、パワーリザーブ約72時間、ケース径37ミリ、チタン。30メートル防水。価格262万9000円

ヴァンクリーフ&アーペル “男性を魅せる物語”

 今年、もっとも意外性を感じさせたのが「ヴァン クリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)」でした。これまではレディースのジュエリーウォッチやポエティック コンプリケーション(詩的な複雑時計)の印象が強かったこのメゾンが、“男性が欲しくなる複雑時計”を本気で作ってきたのです。

 新作「ミッドナイト ジュール ニュイ ファーズ ドゥ リュンヌ ウォッチ」は、いまこの時の空にある月の形を表示します。こうしたムーンフェイズ機能は、すでに1929年、ヴァン クリーフ&アーペルの歴史に登場していました。複雑機構でありながら、どこか静かで詩的な時計作りは、このころから始まっていたのです。

 派手さで勝負するのではなく、知っている人だけが分かる美しさと存在感。近年の高級時計市場では、どうしてもスペック競争や希少性が話題になりがちですが、ヴァン クリーフ&アーペルは、“物語性”を商品価値に変えてきた先駆者であると感じます。

ヴァン クリーフ&アーペル「ミッドナイト ジュール ニュイ ファーズ ドゥ リュンヌ ウォッチ」

自動巻き、パワーリザーブ約36時間、ケース径42ミリ、18Kホワイトゴールド。30メートル防水。価格2574万円(予定価格・6月発売予定)。

ピアジェが思い出させた、“スポーツウォッチの品格”

ピアジェ「ピアジェ ポロ シグネチャー デイト」

 「ピアジェ(PIAGET)」は、ジュエラーでありマニュファクチュールでもある実力者。「ピアジェ ポロ」という腕時計は、1979年に誕生したメンズウォッチです。「ポロ」という名前を持つとおり、ラグジュアリースポーツというジャンルの一翼を担ってきました。

 新モデル「ピアジェ ポロ シグネチャー デイト」は、ゴドロン装飾を再解釈した美しいダイヤルを採用した、42ミリと36ミリの2サイズ展開。インターチェンジャブルで簡単に付け換えられるブルーのラバーストラップも付属しています。いずれのサイズも男性が着けられますが、36ミリをパートナーとのシェアウォッチとして使うのもおすすめです。

 ジュネーブで数え切れないほどのスポーツウォッチを取材しましたが、その中でピアジェが見せたのは、“スペック”ではなく“品格”でした。大きさより、バランス。派手さより、奥行き。目立つより、長く付き合えること。そんな価値観が、今年のピアジェにはあります。

ピアジェ「ピアジェ ポロ シグネチャー デイト」

自動巻き(Cal.1110P)、パワーリザーブ約50時間、ケース径42ミリ、SS。100メートル防水。244万2000円(4月発売予定)。※ケース径36ミリモデルはインデックスがダイヤモンド入り。500P1自社製の自動巻きムーブメントが搭載されて、261万8000円

ヤマモトの見立て

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今年のウォッチズ&ワンダーズを歩いていて感じたのは、ジュエラーたちがもはや“ドレスウォッチのブランド”ではなくなったことです。彼らが作ろうとしているのは、女性のための時計でも宝飾の延長でもなく、‟時計好きの男性が、次に選びたくなる一本”でした。

2026年は、“メンズウォッチ=武骨さ”という価値観が終焉し、“メンズウォッチ=色気”が再定義された年として記憶に残るでしょう。

最終更新日:

会場写真©2026 Watches and Wonders Geneva Foundation

※腕時計は未入荷や売り切れの場合もあります。また、為替レートなどの影響で価格が改訂されることがあります。

服飾ジャーナリスト / AERA STYLE MAGAZINE WEB編集長 兼 エグゼクティブエディター

山本晃弘

Teruhiro Yamamoto

「メンズクラブ」で編集者のキャリアをスタートしたのち、「ELLE a table(現ELLE gourmet)」「GQ JAPAN」「アエラスタイルマガジン」の3誌を創刊。2019年にヤマモトカンパニーを設立し、新聞、雑誌、WEBでファッションや腕時計について執筆する傍ら、ブランドの広告制作やコンサルティングを行っている。スイス現地での時計展示会やファクトリー取材は、20年以上にわたる。

ビジネスマンや就活生に着こなしを指南する「服育」アドバイザーとして、また、郷里である岡山のRSK山陽放送でラジオパーソナリティとしても活動中。著書に「仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。」がある。

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