
ジュネーブのパレクスポに足を踏み入れた瞬間、ざわつきを感じました。バーゼルとジュネーブの二都市に分かれて展示会が開催されていたころから、20年以上にわたって取材しています。ブランドの巨大なブースが放つ光。ショーケースに並ぶ新作のきらめき。来場者の期待感。今年は、会場全体に明るい祝祭的な空気が漂っていました。今回、私が会場に持ち込んだ問いは一つです。
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「5年後、10年後、腕時計は若者の心をとらえているのだろうか?」
新作レポートが使命であることは承知していますが、新作に一喜一憂するだけではない、鳥瞰的な視点の取材を心掛けています。今回は、「新しい世代と腕時計」というテーマが気になっていました。それは、メディア関係者から「若者はファッションにもクルマにも興味がない。腕時計はどうなんですかね?」と渡航前に問われたからです。
目次
ウォッチズ・アンド・ワンダーズ ジュネーブCEOに問う、「新しい世代と腕時計」
ウォッチズ・アンド・ワンダーズ ジュネーブのCEO マチュー・ユメール(Matthieu Humair)氏は、柔らかい微笑でこちらを迎えてくれました。
「ようこそジュネーブへ。いつも取材してくださってありがとうございます」

マチュー・ユメール ウォッチズ&ワンダーズCEO
巨大見本市のトップという権威より、時計文化の“語り部”という印象。インタビューの冒頭で、私は核心の問いを投げました。── 「腕時計は、若者にとってどんな存在になるのでしょうか」。ユメール氏は、迷いなく答え始めました。
「WWGの重要課題は若い世代との接点づくり。腕時計の未来はそこから始まります」
静かではありますが、力強い口調で語られた展示会の意義。
「デジタル化が進むほど、フィジカルの価値は高まります。画面越しではなく、触れる・聞く・話す・体験する。それこそが、腕時計の魅力です」
「私たちは非営利財団としてブランドのために存在しています。多様性を尊重しながら出展コストを抑え、誰もが参加しやすいプラットフォームをつくらなければいけません」
この言葉の背景には、高騰した出展費で崩壊した「バーゼルワールド」の記憶が透けて見えます。だからこそ、ウォッチズ&ワンダーズは門戸の広さを徹底して、今の隆盛に至っているのです。
“誰でも参加しやすい”という発言は、ブランドだけではなく、来場者にも向けられています。従来はバイヤー、ジャーナリスト、一部の上位顧客だけに門戸が開かれていたのですが、現在はそうではありません。今年の会場では、25歳以下の来場者向け無料プログラム、学生のためのウォッチメイキング体験、市内では子ども向け教育プロジェクトまで実施されていました。
「時計の世界を“発見”してほしい。それが未来の時計文化を育てる第一歩です」
若い来場者がブースを回り、真剣に腕時計を見つめていました。ユメール氏の言葉が現実の風景として広がっていたのです。
「腕時計は、父から息子へ、母から娘へと受け継がれる文化です。私たちには、それを未来に渡していく責任があるのです」
ラグジュアリーの未来を語るのではなく、文化の継承”宣言”でした。そして、その宣言は、会場で見た新作の傾向と驚くほど重なっていたのです。
2026年に浮かび上がったキーワード「ヴィンテージをどう再構築するか」
会場へ戻って取材を再開すると、ユメール氏の言葉がそのままかたちになったような展示が多く見られました。多くのブランドが目指していたのは、派手な複雑機構や最新素材の競争ではなく、過去のデザインを現代の感覚で再構築すること。
古着、ワーク、ミリタリー。若い世代のスタイルと、時計ブランドの歴史的意匠が、自然に結びついていました。その象徴ともいえる4本を紹介していきます。
チューダー「モナーク」:70年代エレガンスを現代的にアレンジ
細密に面取りしたケースとブレスレットが特徴で、70年代風の雰囲気を漂わせつつ、腕にのせた瞬間に現代的に見える絶妙なバランス。COSC+METAS認定ムーブメントの精度と、65時間パワーリザーブの実用性。そして、若い世代でも手が届く価格。

チューダー「モナーク」
「あえて言えば、ウィークポイントが見つかりません」──取材に対応した日本のマーケティング担当者の言葉にも納得がいきます。
古着のスラックスにも、レザージャケットにも、シルバーアクセサリーの手元にも無理なく馴染みそうです。まさに“今のドレススポーツの理想形”です。

チューダー「モナーク」
自動巻き(Cal.MT5662-2U/COSC+METAS認定)、スモールセコンド、パワーリザーブ約65時間、ケース径39ミリ、SSケース、100メートル防水。81万6200円(5月より順次発売)
オリス「スター エディション(1966)」:ミッドセンチュリーの素朴さを現代の質感で
1966年に初代モデルが発売された時の広告を見ると、今回のモデルが忠実に復刻されていることがわかります。

メンズ腕時計の定番であった35ミリ径の文字盤、プレキシ風防の柔らかい表情、少しアイボリーがかった夜光塗料で光るインデックス。1960年代の素朴さを残しながら、現代の精度で美しく再解釈しています。
ツイードのジャケットを羽織るスタイルとの相性は抜群です。

オリス「スター エディション(1966)」
自動巻き、パワーリザーブ約41時間、ケース径35mm、SSケース、50メートル防水。36万3000円(5月発売)
レイモンド ウェイル「ミレジム スモールセコンド 」:1930年代の正統派を誠実に再現
“ヴィンテージ風”ではなく、本気で1930年代のクラシックをそのまま現代に持ってきたような誠実な一本。40ミリを下回る使いやすいケースサイズ、整然としたセクターダイヤル、SW261系のCal.RW4251らしい端正な文字盤デザイン。

レイモンド ウェイル「ミレジム スモールセコンド」
バブアーのブルゾンにも、レザーシューズにも、古着コーデにも。若い世代の“程よくクラシック”というニーズを満たしてくれる腕時計です。

レイモンド ウェイル「ミレジム スモールセコンド」
自動巻き(Cal.RW4251/SW261系)、パワーリザーブ約41時間、ケース径39.5ミリ、SSケース、50メートル防水。37万4000円。
パネライ「ルミノール」:ツールウォッチの力強さと洗練のバランス
1960年代ツールウォッチの荒削りな魅力を残しながら、ケースラインを直線的でミニマルに再構成した最新のルミノール。192時間というロングパワーリザーブのムーブメントを搭載しているから、一週間以上も止まることなく着用できます。

パネライ「ルミノール オットジョルニ」
ミリタリージャケットやカーゴパンツと合わせると、“武骨なのに上品”なスタイルに。若い世代が求める絶妙なニュアンスを感じさせます。

パネライ「ルミノール オットジョルニ」
手巻き(Cal.P.5000)、パワーリザーブ約192時間、ケース径44ミリ、ブルニートスティール、300メートル防水。168万3000円(6月発売予定)
ヤマモトの見立て

今回紹介した4本を通して見えてくるのは、ヴィンテージをただ懐古的に扱うのではなく、現代の精度と若者のスタイル感覚で再構築している点です。
ユメールCEOの言う「時計は受け継がれる文化」という言葉は、単なる比喩ではありません。古着やアーカイヴに親しむ若い世代の価値観と、歴史を掘り下げるブランドの姿勢が交差したとき、腕時計はファッションとしての必然性を取り戻します。
2026年のジュネーブは、新しいスタンダードの幕開けを、確かに告げていました。

会場写真©2026 Watches and Wonders Geneva Foundation
※腕時計は未入荷や売り切れの場合もあります。また、為替レートなどの影響で価格が改訂されることがあります。
最終更新日:
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