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柱1本ない巨大空間、石上純也の「KAIT広場」|デザインとアートのはなし

KAIT広場

IMAGE by: 林信行

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柱1本ない巨大空間、石上純也の「KAIT広場」|デザインとアートのはなし

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ジャーナリスト/コンサルタント
林信行

何もない空っぽの広場が、驚きに満ち満ちていた。

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神奈川工科大学 多目的ホール(通称:KAIT広場) by 石上純也

The latest work of Junya Ishigami, KAIT Plaza was one big empty space filled with amazement. 80m x 50m plaza at Kanagawa Institute of Technology will become open to public in April 2021.

 昨年末、神奈川県本厚木の神奈川工科大学に石上純也の最新作が竣工した。神奈川工科大学の多目的ホール。通称「KAIT広場」。同大学のグラウンドの手前にある異様に背が低く広い奇妙な建物がそれだ。入り口のドアをくぐると、いきなりの下り坂。見渡すと、そこは床も天井もたわんだ柱1本ない巨大空間だった。

 天井にはいくつか四角い大きな穴がくり抜かれたように開いていて、そこから空を覗くことができる。私が訪れた日はよく晴れていたので、床のそこかしこに火の光がクッキリと天窓の輪郭を描いていた。ちなみに、曇りの日に訪れるとこの輪郭がぼやけて独特の美しさがあるという。また雨の日に訪れると、天窓のどころに雨粒の柱が現れるそうだ。すべての天気、すべての時間帯の眺めを確認してみたくなる。

 ちなみに床は透水性のアスファルトで降ってきた雨水はそのまま吸収され床面を流れることはない。ペットボトルの水をこぼしてもスッと地面の中に消え、広場の下にあるタンクに貯まるそうだ。

 石上純也と、神奈川工科大学の関わりはこれが最初ではない。2008年には、この広場のすぐ隣(西側)に、全面ガラス張りの工房「KAIT工房」をつくった。その石上が、同大学に大学生同志や市民をつなぐ広場づくりを頼まれた時、考えていたことがいくつかある。1つは、来た人が傾斜のついた広場で自分の居場所を見つけて地面に座る。石上はイタリアはシエアのカンポ広場のような、そんな広場づくりを目指した。もう1つは、建物の中に地平線を作り出すこと。なるほど、言われてみれば空のような天井面と大地のような床面が交わったところに、我々の日常から消えてしまった広大な地平線が見えた。

 空間の広さは約80m×50m(4000平米。これからクローバーを植えるという周辺スペースを入れると90m×70m)。天井を構成するのは厚さ12mmの鉄板。天井を支えるのは周囲の壁だけで、柱は一本もない。大きな12mmの鉄板は自重で真ん中が少しだけ下にたわんでいる。

 冬場はこの部分が床面から2.5m程の高さだが、夏は鉄が太陽の熱で鉄が膨張して天井高が2.1m程まで降りてくる。実に季節によって天井高が30cmも変わる構造物と言うだけでも珍しいのではないか。一見、シンプルなものほど実は作るのは大変なのがデザインの常。

 薄く巨大な天井は鹿島建設が初めて挑戦したという本格的なロボット溶接で実現した。鉄板が四方の壁を引っ張って倒してしまわないように、天井の中にはリング状の骨組みが入っているという。

 夏の暑さが厳しくても大丈夫なように、屋根の色は、太陽光の熱吸収率と反射率のバランスから決定された。また夏場には天井の内側に、隠されたパイプからの冷却用水が流れ、屋根に開いた穴から滴り落ちてくるという。

 石上純也といえば「建築家の作るランドスケープが見てみたい」と言うオーダーに応え、四季のどのシーズンから見ても美しい植生が楽しめるように、樹を一本ずつ根から植えて作った人口の庭「水庭」、そして昨年末「朽ちていく建築が見たい」のオーダーに応えて作った一夜限りの「氷と炎の建築」、そしてついに今年こそオープンするという山口県の地面を掘って作る洞窟のようなレストランなど、これまでの建築のイメージを覆すものが多いが、ついにオープンした「KAIT広場」も世界の建築付きを魅了する日本を代表するランドスケープの一つとなりそうだ。

 なお、筆者は河邊徹也さんの誘いで石上さんによる個人的ツアーで見学してきたが、KAIT広場の一般への公開は2021年4月以降。同学では大学構内への無断での入構及び撮影はお断りしている(一般公開に関する詳細は3月初旬に同校のホームページに掲載予定)。

 一般公開時には隣にある、同じく石上純也による建築「KAIT工房」も外からチェックして欲しい。天井から飛行機が吊るされたり、ソーラーカーが飾られた正方形のガラス張りの建物は、創作活動が外から見えるようにした大きな工房。巨大な工房ながら見渡しが良いのは壁が一切ないから。石上曰く、小さな壁を建物全体に散りばめた建物ということ。中に林の木々のように生えている305本の平たい柱は視界を隠さないように1本1本が異なる向きを向いているという。

 四方向ガラス張りの建物だが、既に三方向には校舎のビルが建っており、空が見えない。東側に面したKAIT広場が地面を掘った背の低い建物になっているのには、この建物の中から空を見渡せるようにするという狙いもある。

 工房の東の窓に見えるKAIT広場の屋根もまた地平線のようで美しかった。

 なお、1月27日(水)、石上純也氏とカヤバ珈琲玉川高島屋S.C.本館の広場などを手掛けた建築家、永山祐子氏との対談(オンラインイベント)を筆者、林信行がモデレートする。

■対談イベント(オンライン配信)
開催日時:1月27日(水)14:00〜15:30
参加費:一般500円、QWS会員無料
イベントページ

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