リニューアルした時計売り場「ジェンタ ザ ウォッチ」
Image by: 松坂屋名古屋店
大丸松坂屋百貨店が富裕層戦略を推進している。その一つの施策が松坂屋名古屋店の時計売り場の拡大だ。売り場面積を従来の2倍に拡張し、近年価値が高騰している「ロレックス(ROLEX)」のショップ面積に関しては3倍に広げるという。同社は全国に店舗を展開するが、なぜ名古屋で時計の売り場を強化するのか。
日本時計協会が今年3月に発表した資料によれば、2021年度(1〜12月)の日本におけるウォッチ完成品の市場規模において、数量は前年比5%減の1900万個だったが、実売金額は7139億円と同15%伸長。中でも輸入品のカテゴリーは数量が1340万個で同7%減少したものの、実売金額は値上がりの背景もあり5857億円、同17%増と飛躍的に伸びた。コロナ禍で腕時計が投機対象としてさらに広まったことが背景として考えられる。
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大丸松坂屋百貨店でも2021年度(2021年3月〜2022年2月)における全店の時計の売上は前年比36%増となり、コロナ前の2019年度(2021年3月〜2022年2月)比でも6%上回った。名古屋店は2019年度比で14%増と他店よりも伸長率が高く、過去10年で最高の売上を叩き出した。特に30代による売上が突出的に伸び、2019年度比で30代前半による買い上げ額が約2.5倍、30代後半では約3倍となったという。
名古屋店は外商売上比率が最も高い
なぜ東京や関西地区の店舗ではなく、名古屋で時計の売上が大きく伸びたのか。それは外商売上が大きく影響しているという。大丸松坂屋百貨店ではグループ全体に対して外商売上は3割を占めるが、名古屋店の外商売上比率はグループ店舗では最も高い5割となっている。
松坂屋名古屋店の時計バイヤー長谷川明宏氏によると、名古屋のある愛知はトヨタ自動車発祥の地であることから自動車を中心とした製造業が盛んで、富裕層のポテンシャルの高い地域の一つになっているという。「親の世代から外商を利用する習慣が根付いているので、他の地域よりも身近に感じているエリアではないか」と分析しており、外商部が若年富裕層の開拓に力を入れていることも売上増に影響していると見ている。外商売上の内訳でみても、時計はラグジュアリーなどの特選ブティックに次ぐシェア率で、約15%と高い水準だ。
松坂屋名古屋店の時計売上が大きく伸びた要因はもう一つある。同店はもともと時計の品揃えに強く、2018年度(2017年3月〜2018年2月)は百貨店で日本一の売上があったと言われていたという。しかしインバウンドが活況となってからは、東京や関西地区の店舗の時計売上が伸びた一方で、名古屋はインバウンドが影響しなかったこともあり、日本一をとることができなかった。今回の時計売り場のリニューアルを機に、再び日本一を目指したい考えだ。
正規販売店縮小の環境下でも品揃えを強化できる理由
時計売り場のリニューアルは14年ぶり。リニューアルの実施は昨年中に完了する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響から後ろ倒しとなった。
今回のリニューアルでは12億円を投資し、展開スペースを従来の2倍となる1200平方メートルに拡大。時計売り場を構える北館5階にはもともと宝飾や特選生活雑貨の売り場があったが、特選生活雑貨の売り場を他フロアに移設し、宝飾サロンとメガネサロンは残しながらも5階の大部分を時計売り場に刷新した。売り場の名称は「ジェンタ ザ ウォッチ(GENTA the Watch)」と名付けた。
Image by: 松坂屋名古屋店
環境デザインでは外光が入る設計に変更。ブランドの製品をゆっくりと眺めることができるように開放的な空間に仕上げたほか、回遊性を高める区画として時計修理に対応するライブリペアゾーンとパブリックスペースを備えた「ウォッチテラス(Watch Terrace)」を中央に配置した。
主な取り扱いブランドは「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」「パテック フィリップ(PATEK PHILIPPE)」「A. ランゲ&ゾーネ(A.LANGE & SÖHNE)」「オメガ(OMEGA)」「カルティエ(Cartier)」などで、新規では東海地区唯一の取り扱いとなる「ルイ・モネ(LOUIS MOINET)」など約10ブランドを追加。近年は時計ブランド側が正規販売店数を制限する動きがあるが、こういった環境下で品揃えを強化できている背景には、松坂屋名古屋店が外商顧客向けに開催してきた「プレステージウォッチフェア」の催事を成功させるなど、過去の実績が評価されているからだという。なお、ロレックスの「デイトナ」やパテック フィリップの「ノーチラス」といった希少価値の高い人気モデルの取り扱いについてはコメントを控えた。時計売り場のリニューアルは7月6日から段階的に行い、10月に完了する予定だ。
時計売り場のリニューアルに先立ち、腕時計情報や正規販売店検索を掲載するウェブサイト「グレッシブ(Gressive)」を運営するベストナビとの協業で、ホームページ「Watch Master」を時計のオウンドメディア「GENTA the Watch」として刷新し、6月27日にオープンした。腕時計好きに向けたウェブマガジンと正規販売店検索の両軸で展開しているほか、オンライン試着サービスやブランドごとの来店予約サービスなどを新たに導入。オンライン試着サービスでは希少モデルを扱う高級ブランド以外の主要ブランド製品に対応し、自宅で試着イメージを掴むことで来店動機につなげたい考えだ。
<主な取り扱いブランド>
ヴァシュロン・コンスタンタン/A.ランゲ&ゾーネ/フランク ミュラー/チューダー/オメガ/ブライトリング/グランドセイコー/ハリー・ウィンストン/パテック フィリップ/ジャガー・ルクルト/カシオ/シチズン/セイコー/タグ・ホイヤー/ロジェ・デュブイ/ブレゲ/ロンジン/パネライ/IWC/ロレックス など
“時計ブーム”は継続の見通し 「衰退するブランドも出てくるだろう」
時計ブームが巻き起こっているが、値上げ幅にも話題が集まっている。時計のバイヤーを務めてまもなく9年目を迎える長谷川氏によると、約5年前から値上げの波が起き始めたとし、「内外価格差なのかわからないが、過去に定価50万円だったものが今では80〜90万円になっていたりする」モデルもあるという。
時計ブームはしばらく続くと見ており、「衰退するブランドも出てくるだろう」と推測する。海外ブランドの勢いが伸びているが、日本の「グランドセイコー(Grand Seiko)」はアメリカ市場でも技術力が高く評価されていることから、今後も注目のブランドだと話した。
投機対象としての需要が増加している時計だが、長谷川氏は「時計は時間を見る道具だが、所有する満足感が得られるアイテムだと思っている。そういった意味でも百貨店における商品群の中でもしっかり充実させていきたいと思っている。富裕層をはじめ、10~20代のお客様にも買ってもらえるような売り場にしていきたい」と意気込みを述べ、時計の楽しみ方を伝えていきたい姿勢を示した。
■GENTA the Watch:トップページ
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