円安基調の推移と、原材料費・燃料費の高騰、海外の生産・物流の乱れなどの理由によって、国内生産回帰が見直され始めている。
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繊維・衣料品もその一つで、大手総合アパレルの国産製品比率向上計画が2021年ごろから相次いで打ち出されている。
その中でもさすがに「実現不可能では?」と思われたのが、ワールドの「百貨店向け製品の国産比率90%」という目標だった。
そのことについてはこのブログでも触れている。
「百貨店向け」に限定されてはいるが、いくら何でも「国産比率90%」という目標は、今の減り続けている国内縫製工場の現状から考えても無理がありすぎる。
そのため、当方はメディア向け・投資家向けの過剰なリップサービスではないか、と考えたわけである。
しかし、先日、長年交流のある方からタレコミがあった。
「国産比率90%の件が報道されて社内でもかなりの問題になっている。どうも社内の打ち合わせを無視して勝手に話した人物がおり、その発言が報道されてしまったようだ」
そして
「今後は『百貨店向け製品の国産比率50%』に軌道修正する」
とのことだった。
このブログにコメントを下さる方々の中には、当方など及びもつかないほどの各分野のプロの方がおられる。もちろんお会いしたことはないが、もし機会があればその方々にお会いして各分野の教えを乞いたいと思っているほどである。
その中のお一人の方が、前回のブログに
ワールドは九州 淡路島 北陸 東北に各アイテム別の自社工場があるのでそこでの生産の稼働率を上げて行くと思われる。
という意味のコメントをくださった。
実際にピーク時から比べるとだいぶと縮小してはいるが、ワールドは現在でも自社工場を持っている。そこをフル稼働すれば「70%位までは行けると思う」とのことなので、少なく見積もっても50%なら達成できるのではないかと考えられる。
このワールド自社工場の件は例えば、この2年前の医療用ガウンのニュースリリースでも触れられている。
ワールドの医療用ガウン (アイソレーションガウン) 法人向け販売開始 ~直営工場を中心にすべて国内で縫製~|株式会社 ワールドのプレスリリース (prtimes.jp)
ワールドが手掛ける医療用ガウンは、通常、ワールド商品の生産を手掛ける、国内6カ所の自社工場にて徹底した品質管理のもと
生産場所:
株式会社ワールドインダストリーファブリック(岡山県岡山市、兵庫県洲本市)
株式会社ワールドインダストリーニット(長野県松本市)
株式会社フレンチブルー(鹿児島県出水市)
株式会社ラ・モード(熊本県山鹿市)
株式会社センワ(福島県東白川郡) 他
とある。
ワールドの経営陣はそこまで錯乱しておらず、過剰なリップサービスをしてしまった不届き者が一人いただけだということになる。
余談だが、広報としての勤務経験もあるが、主役たる人が打ち合わせと全く異なることを取材席上で突如口走り始めるというのは、実はちょくちょくあった。
え?何を言ってるんデスカ?
という感じで隣で固まらざるを得ない。
今回の「百貨店向けは国産比率90%」というトンデモ発言もその一つだったのではないかと、経験上思えてくる。
ワールドのようにだいぶと縮小したとはいえ、自社工場があるアパレルと無いアパレルでは「国産比率大幅上昇」という取り組みの実現性は全く異なるものにならざるを得ない。
そもそも国内縫製工場の問題は「工員が高齢化しており、次世代の工員の成り手を確保しにくい」という点にあると考えられている。
これはもちろんその通りで、50代の縫製工員なんて言ったら、超若手という工場も珍しくない。たしかにファッション専門学校の生徒の中にも「人見知りなので販売員じゃなくて縫製工員になりたい」という子が毎年何人かいるが、やはり圧倒的少数派で毎年確実に工場に就職させたところで、現在の国内工場すべてをまかなうことはできない。
だが、縫製工員の成り手不足も大きな問題であることは全く異論はないが、当方はそれ以上に工場経営者の成り手が減少していることが大きな問題ではないかと考えている。
仮にいくら「働きたい」という人が増えたとしても、受け入れる工場自体が無くなっていれば働くことはできない。
工員が高齢化しているのと同様に現在の工場経営者も高齢化している。息子や娘、甥、姪などが継ぐ場合もあるが、後継者がいないという場合の方が体感的に多い。そうすると、あと10年~20年後には廃業する工場が続出するということで、いくら工員を確保したところで無意味となる。
だから、工場を持たないアパレルが安易に「国産比率向上」と口走るのは、素直に信用することは難しい。
他方、ワールドのように自社工場を一応維持しているとなると、経営自体は続けられるので、あとは工員の確保が課題となる。
どちらも難しいことには変わりはないが、ワールド型の方が実現性は少し高いといえる。
まあ、そんなわけで「百貨店向け製品は国産比率50%」という常識的な範囲に落ち着いたので、一安心した次第である。
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