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かつて「ファストファッションの黒船」とも呼ばれた「フォーエバー 21(FOREVER 21)」が2019年10月の撤退以来、約3年半ぶりに日本市場で復活する。舵を握るのは「ニコアンド(niko and ...)」や「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」を展開するアダストリアだ。フォーエバー 21は「大量生産・大量販売・大量廃棄」のビジネルモデルで一世を風靡したが、それが故に商品の品質が低く、「粗悪品」と評価されることも多かった。サステナビリティが求められる今の時代に、アダストリアはフォーエバー 21をどのようにして日本で成功させるのか。
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かつてのフォーエバー 21はなぜ失敗したのか
まずはフォーエバー 21についておさらいしたい。
フォーエバー 21は1984年に韓国出身のチャン・ドウォン&ジンスク夫妻が米国・ロサンゼルスで創業。ブランド名には「人生でもっとも輝く21歳のココロを永遠に持ち続ける人々のためのブランド」という意味が込められている。
「ベストファッションを最小プライスで提供する」というコンセプトの通り、ファストファッションのビジネスモデルが支持を集め、カナダや中国、韓国、シンガポール、アラブ首長国連邦など世界各国に進出した。日本へは2009年4月に上陸し、1号店を原宿に出店。実はフォーエバー 21は2000年に三愛グループと手を組んで一度日本に進出していたが、事業が振るわず撤退。2度目の進出では、フォーエバー 21に先立って2008年に日本展開を開始した「H&M」がファストファッションとして注目を集めていたこともあり、話題を作る環境は整っていた。その勢いに乗ってフォーエバー 21は翌年4月にアジア初の旗艦店を松坂屋銀座店にオープン。渋谷や新宿にも大型店舗を構えるなど着実に事業を拡大させてきた。
数百円程度の商品を用意するなど、H&Mよりも低い価格帯で提案し、もはや使い捨て感覚で最旬トレンドのファッションを楽しめる。それがフォーエバー 21の魅力だったが、一方で「生地がペラペラ」「縫製が甘い」といった“安かろう悪かろう”のイメージもあった。日本においては、フィッティングやサイズ感、デザインなどローカライズされていないことも顧客離れの要因となった。そして社会全体がサステナビリティへの意識が高まる中、ターゲット層であるZ世代を中心にファストファッションに対して懐疑的な見方が広まったこともブランドのイメージダウンにつながったとされている。売上低迷が続き、2019年には米連邦破産法11条の適用を申請。日本を含む中国などアジアの市場からは撤退した。
バーニーズ擁するABG傘下で再出発
事業を縮小しながら再建を目指したフォーエバー 21。ブランド再建に名乗りをあげたのは、米国のブランド管理会社オーセンティック・ブランズ・グループ(Authentic Brands Group、以下ABG)だ。
ABGと言えば、フォーエバー 21以外にも「バーニーズ・ニューヨーク(Barneys New York)」や「ブルックス ブラザーズ(Brooks Brothers)」「エディー・バウアー(Eddie Bauer)」「リーボック(Reebok)」など経営難に陥った有名ブランドを次々に傘下に収めていることでも注目を集めている。ブランドポートフォリオの数は実に50以上。不振に陥った理由を分析し、知名度を活かしながら各ブランドの復活の道筋を作っている。
フォーエバー 21では、各国で商品の品質・価格や店頭表現の改善に加えて、サステナビリティや社会貢献へのアプローチも積極的に行うなどイメージ刷新に取り組んでいる。このリブランディングが奏功し、アメリカを中心に世界主要国で570店舗以上を展開するグローバルブランドとして事業を再び拡大している。
ABGは自らがブランドを運営するのではなく、各国のパートナー企業にオペレーションを委託するのがビジネスの特長。パートナー企業はABG側が提示するデザインのガイドラインに則りながら、各国でローカライズしたオリジナル商品を販売する。フォーエバー 21の日本再上陸でその役割を担うのがアダストリアだ。
復活への道筋は脱ファストとローカライズ
今回の再上陸では、日本におけるマスターライセンシーを伊藤忠商事が担い、アダストリアと、同社が海外ブランドコンテンツを展開するために新設した子会社ゲートウィン(Gate Win)がサブライセンシーとして日本事業を運営。アダストリアは自社でブランドを育て上げた成功例と、豊富な実店舗の販売網に加えて自社ECサイト「ドットエスティ(.st)」では1400万人の会員を有するなど、さまざまな強みを持つ。アダストリアの木村治代表取締役社長はこのオペレーション基盤を武器に、フォーエバー 21のファッション性や多様性、そしてブランドの圧倒的な知名度をかけ合わせることで「日本のマーケットで強いブランドにできる」と確信したという。
課題は、以前の上陸時に定着したファストファッションのイメージからの脱却だ。アダストリアは以前より無駄にモノを作りすぎないよう独自のサプライチェーンを構築しており、フォーエバー 21でもこのサプライチェーンを活用して適切なタイミングや生産量を提供する計画だ。「BASIC」「VINTAGE」「STREET」「MODE」「POP」「FEMININE」の6つのデザインコンセプトをベースに、サイズやカラー展開をローカライズしてニーズに応えるとともに、コレクションの2割にサステナブル素材を取り入れるという。クリエイティブ面の監修は、東京コレクションへの参加や国内大手アパレル会社での経験を持ち、現在はアダストリアブランドの全体のクリエイティブディレクターを務める野田源太郎氏が指揮を執る。
“新生フォーエバー 21”では、ターゲット層を10代後半〜30代前半と以前よりも幅を広げる。平均商品単価は4000円、平均客単価は5800円で、価格帯は引き上がる想定だが、その分生地や縫製などのクオリティを担保する考えだ。
日本で展開が始まる2023年春夏シーズンは100型以上を揃え、日本オリジナル企画の商品を8割、仕入れ商品を2割で構成する予定。MDチームにはアダストリアの主力ブランドで経験を積んだメンバーを揃え、適切な量やバランスを見ながら仕入れをしていくという。
販売はまずアダストリアの自社ECサイトで2023年2月21日からスタートし、実店舗は同年4月下旬から関東・関西のららぽーとなどの大型ショッピングセンターを中心に、主に郊外エリアに出店を進めていく方針。5年後の2028年2月期には15店舗体制、上代売上100億円を目指し、そのうち6割をEC売上となる見込み。過度なドミナント出店は計画していない。
復活に必要なのは「本気でファッションをやりきること」
ニコアンドやグローバルワークのほかにも「ローリーズファーム(LOWRYS FARM)」「ジーナシス(JEANASIS)」「ヘザー(Heather)」「ページボーイ(PAGEBOY)」といった数々の自社ブランドを成功させてきたアダストリア。2020年10月には韓国発のセレクトショップ「エーランド(ALAND)」の出店を開始し、コロナ禍にもかかわらずオープン初日は雨の中100人以上が行列をつくり話題を集め、今年4月には2号店を出店するなど事業を軌道に乗せている。これらの功績もあり「アダストリアが手掛けるフォーエバー 21」に期待する声も聞こえてくる。
ただ、ジーユーやユニクロよりもやや高い価格設定は、最近の値上げの波で消費者の購買意欲の低下が懸念される中でややネックになりそうだ。日本市場で新生フォーエバー 21復活の勝算とは何か。野田氏は「ファッションをやりきること」だと話す。
「コロナ禍もあって、女性のファッションに費やす時間は年々少なくなっていると感じている。『洋服を着ること』と『ファッションを身に纏うこと』は意味が異なるものだが、今の時代の女性にとってのファッションは合理的な方向に向かってしまっていると思う。ファッションは、その時の自分の気分の変化を楽しむもの。そういった意味で、我々は女性のファッションの時間をこのフォーエバー 21で取り戻したい。これは『我々が本気でファッションをやります』という宣言でもある」(野田氏)。
ABGのヴァイスプレジデントのケヴィン・サルター(Kevin Salter)氏も「フォーエバー 21にはファッションとして楽しそう、面白そう、と惹きつけられる部分がある。そこは他のブランドの方向性とは違う部分になると思っている」と言葉に力を込めた。
◆こぼれ話:アメリカンイーグル再上陸も同日ニュースに
フォーエバー 21再上陸のニュースは大きな話題を集めたが、同日は奇しくも「アメリカンイーグル(AMERICAN EAGLE)」の実店舗が再出店するという発表と重なり、こちらも大きな注目の的となった。同ブランドも全店舗の営業が終了した2019年末以来、約3年ぶりの日本の実店舗復活となる。以前は青山商事が運営を手掛けていたが、今回の再上陸では本国のアメリカンイーグルグループが担うという。
アメリカンイーグルはデニムを中心としたアメリカンカジュアルを提案しているためファストファッションブランドとは異なるが、比較的に低価格帯のブランドとして認知されていた。そしてフォーエバー 21と同じく2019年に日本を撤退、そして今回は同じタイミングで日本への再出店発表となり、SNSでも「外資ブランドの再挑戦」と話題を括られてしまった。アダストリアとしては「新生フォーエバー 21」を打ち出したいはずだったところ。かつてのイメージを拭い、市場に浸透させることができるのか。アダストリアの手腕に注目したい。
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