⼤丸松坂屋百貨店 澤田太郎社長
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⼤丸松坂屋百貨店がファッションのサブスクリプション事業に乗り出した。月額税込1万1880円でマルニやメゾン マルジェラなどのブランドアイテム3着を1ヶ月間レンタルできるというサービスは、百貨店業界では初めて。同社がサブスク事業参入に踏み切った背景とは。澤田太郎社長へのインタビューから新時代の百貨店の姿を探った。
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―新規事業の構想のきっかけは?
5年前に(親会社の)J.フロント リテイリングが米スタートアップのル・トート(Le Tote)に出資したことから構想が始まりました。当時、日本国内ではレンタルやサブスクリプションのマーケットは大きくありませんでしたが、このビジネスは将来大きくなるだろうと予想していました。顧客データを蓄積していける点にも魅力を感じ、グループとして出資を決めました。
※ル・トート:サンフランシスコを拠点とするスタートアップ企業。サブスクリプションモデルの衣料品レンタルサービスを展開している。2019年には老舗百貨店ロード&テイラーを買収する規模に成長した(※2020年に米連邦破産法11条の適用を申請)。
―サブスクリプションのビジネス拡大を感じた理由は?
自社で短期留学のようなかたちでシリコンバレーに社員を派遣した時期があったのですが、グーグル本社の視察を目的にサンフランシスコに一緒に訪れた当時、「ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)」の上層階に「レント・ザ・ランウェイ(RENT THE RUNWAY)」が100坪ほどの店舗を出店していたんですね。同じ館内に店舗を構えていたラグジュアリーブランドも揃っていて、小売とファッションレンタルが一つの建物の中で共存できるものなのかと驚いたのを今でも覚えています。ラグジュアリーブランドの商品は普段なかなか買える値段ではありませんが、試着は手の届く料金で体験できる。この取り組みはニーマン・マーカスと出店ブランドの双方にとってエントリーカスタマーになりうるのではないかと、サブスクリプションについての可能性について考えるきっかけになりました。
さらにその2年後に再度視察に行ったら、今度は路面店がオープンしていました。店内もデジタルを活用してシステマチックになっていて、たったの2年でこれだけ進化するんだなと。他のサービスも続々と登場していましたし、社内では「シェアリングビジネスが小売業にとって脅威になるんじゃないか」という意見が当時すでにあがっていました。
―「シェアビジネスが小売業にとって脅威」という意見を逆手に取り、サブスク事業を自社に取り込んだということですね。
ニーマン・マーカスを例に、小売とサブスクリプションの共存が可能であることがわかりましたし、あとは大量生産・大量消費・大量廃棄といったファッション業界の課題解決にもつながると判断し、今回の新事業「アナザーアドレス(AnotherADdress)」を立ち上げに至りました。現地に派遣した若手社員の一人が責任者となり、若手の女性社員と2年の歳月をかけて準備を進めてくれました。百貨店の当社としては早いスピードで実現できたのではないかと思いますね。
―新規ビジネスで若手中心の立ち上げ。社内での反応は?
小売業のフロービジネスとは異なり「在庫が豊富にあった方が良い」というストックビジネスなので、ビジネスモデルの違いについては理解していただく必要がありました。あとは上質なブランドに協賛してもらえるのかという懸念もありましたが、百貨店だからこそ外資ブランドとのコネクションがありましたし、海外の方がサブスクリプションサービスが浸透していることもあり、外資ブランドからはポジティブな反応をいただけました。国内のブランドにも続々と参入いただき、50ブランドとの協力関係を作ることができました。
■参加ブランド
マルニ、メゾン マルジェラ、3.1 フィリップ リム、ミントデザインズ、レッド ヴァレンティノ、エムエム6 メゾン マルジェラ、アドーア、エポカ、ベイジ,、マッキントッシュ ロンドン、ジルスチュアート、セオリーなど
―レンタル商品は、新作と旧作の両方をラインナップしています。
前提として7割が新作、3割がアーカイヴという構成になる予定です。サイズはS・M・Lを用意していますが、XSやLLといったニーズも出てきたら導入したいと考えています。
―百貨店で売れなかった在庫商品をサブスクへ流すという危惧もありますが。
サブスクで取り扱う商品はあくまで今回のサービスのために仕入れていますから、売れ残ったものを捨てるのがもったいないからサブスクのために安く買ってレンタルに出す、ということはありません。
―ブランドによって基準が異なるサイズ表記の対応は?
今回は全部バイヤーの手で測り直し、表記の一貫性を追求しました。デジタル上で展開しているので「トゥルー フィット(True Fit)」や「ユニサイズ(unisize)」といったサイズのソリューション企業の導入も必要に応じて適時検討してきたいですね。ただサイズが合わなければ交換可能にしているので、サービス面で最低限のストレスは取っていきます。
―ブランド数は将来的にどの程度拡大していく方針?
レント・ザ・ランウェイでは400ブランドほど展開がありますが、これをベンチマークに拡大していきます。まずは日本のブランドにどんどんご参加いただき、今後需要が見えてきたら海外のブランドも増やしていけたらと思っています。
―ローンチ時はウィメンズのみの展開です。
メンズに関しては現時点で問い合わせが多く届いていて、将来的には取り扱いたいと考えています。
―事前会員登録の進捗は?
すごく好調です。3月12日夕方にこのサービスを発表しましたが、その後2日で3月の目標数字をクリアしました。お客様を待たせないために、逆に在庫を積まなくてはいけない状況ですね。
―主な登録者層は?
体感では40代を中心にご登録いただけていると感じています。60才くらいのお客様から電話でお問い合わせをいただくこともあります。今まで百貨店で買い物してこなかった若年層の方や、「所有」に対する意識が変わってきているミレニアムの世代の方々にもご利用いただきたいという思いはありますが、年齢でセグメントするつもりはなく、「ブランド品を買いたくても買えなかった人」という潜在層にこのサービスを届けられたらと思います。
―日本国内では「エアークローゼット」や「メチャカリ」が先行してサブスクサービスを展開しています。
我々のサービスには百貨店のコネクションを使って作り上げたブランドを揃えているので、服の質では他社と差別化ができているという認識です。
―事業目標は?
5年目で登録者3万人、その後の1年間で売上高55~60億円を目指します。最初の1年は仮説検証に取り組んでいくことになると思いますが、将来的にはリアルの場に出て会員を増やしていきたいです。
―ニーマン・マーカスのように、百貨店の中に単独店舗を作る予定は?
我々はリアルでのタッチポイントに強みがあるので、シナジー効果が見込める段階になったら百貨店と連携してやっていきたいという話は出ていますね。もしくは居住エリアに単独店を出店し、来店していただいてから出勤するというクローゼットのような役割や、地方出張や海外旅行の際にご利用いただけるようなオプションサービスも構想にあります。
―サブスクが浸透すると、百貨店の要である「売る力」が落ちることにつながるのでは?
その心配は全くないですね。我々のサブスクサービスでは新作も提供していきますから、適正な在庫量と、それに見合う会員数というものが存在する。それは、先程申し上げた3万人くらいの規模が適切なんじゃないかと考えています。何より、このサブスクサービスでファッションの楽しさをご体験いただくことが、ブランドのファン増加や商品購入につながるのではないかと考えていますし、それが僕の一番の理想です。ですから、ファッションの世界でサブスクリプションサービスが小売に取って代わることはないと見てます。
―サブスクサービスが小売業の業績向上にもつながる、という考えですね。
サブスクサービスではどんな服がレンタルされたのか、どんなシーンで使われたのか、どんな評価をされたのかといった利用動向や顧客満足度だけではなく、洗濯ブラザーズとの連携で何回クリーニングに耐えられるのかという商品開発に役立つデータも収集できます。商品の耐久性についてブランド側はデータを得られていないようでとても興味を持っていただけていますし、データでビジネスをしていくという面を小売業にも活かせれば相乗効果は見込めると思っています。
―百貨店業界は縮小傾向にあります。今後の百貨店のあり方についてはどのように考えていますか?
買い物だけではなく体験する場所へと変わっていくと思いますし、出店者にとっても、売るだけではなく自社のブランドのファンを増やしていく場所になるでしょう。それを踏まえると、百貨店店舗は一つのメディアになるべきだと考えています。我々の会社は呉服屋からはじまり300〜400年ほどの歴史がありますが、百貨店としての歴史はそこまで長くはない。これからも時代に順応しながら変わっていくべきなのかなと思いますね。
―服が売れない時代に、売り場の充実に対しての考えは?
ファッションの元気を取り戻すために色々なディスカッションをしていますが、今後はリーズナブルな服と作り手のストーリーやメッセージ性を感じさせる服のみが残り、二極化していくだろうというのは強く感じます。百貨店としては丁寧に商品一点ずつ説明すれば売れると思うので、やれることはまだある。問題は、我々がその価値をしっかり発掘できるのか、その価値をさらに高められるようなキュレーションができるかだと思っています。
一方で従来の百貨店という形態にこだわらず、新しいカテゴリーにも手を広げて売り場の充実化を図っていきたいと考えています。最近では大丸須磨店に市立の図書館を誘致しました。百貨店として戦っていける部分は引き続き取り組んでいきますが、新しい分野にも手を伸ばし、我々がキュレーションして売り場を展開していきます。
―大丸松坂屋百貨店が目指す百貨店の姿とは?
ロンドンの「セルフリッジ(SELFRIDGES)」のように、老舗でも変化をいとわず色々なチャレンジをしていきたいですね。これは僕が大丸心斎橋店で店長を務めた時から思ってきたことです。そのときも「海外から『大阪にすごい店がある』と注目される店を作ろう」を合言葉にしていました。セルフリッジのように、と言いましたが、ベンチマークにすると上回ることはできませんので、さらにその上をいけるようなビジネスを打ち出していきたいですね。
(聞き手:伊藤真帆)
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