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【インタビュー】血が、汗が、涙が、デザインできるか——"コラボレーション"の生みの親 石岡瑛子が貫いた「集団での強い女性像」

石岡瑛子展

左)同展キュレーター 藪前知子  右)展示風景より 石岡瑛子 1983年  Image by Robert Mapplethorpe ©Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

IMAGE by: FASHIONSNAP

石岡瑛子展

左)同展キュレーター 藪前知子  右)展示風景より 石岡瑛子 1983年  Image by Robert Mapplethorpe ©Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

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【インタビュー】血が、汗が、涙が、デザインできるか——"コラボレーション"の生みの親 石岡瑛子が貫いた「集団での強い女性像」

石岡瑛子展

左)同展キュレーター 藪前知子  右)展示風景より 石岡瑛子 1983年  Image by Robert Mapplethorpe ©Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

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UPDATE

【2021年8月25日更新】アーカイヴ映像を、2022年3月31日までの期間限定で公開。

 ——血が、汗が、涙が、デザインできるか。そう強く問いかけるのは、東京都現代美術館で開催されている展覧会「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」。同展は、アートディレクターやデザイナーとして多岐に渡る分野で新しい時代を切り開き、世界を舞台に活躍した石岡瑛子(1939年〜2012年)の世界初となる大規模回顧展。初期の広告キャンペーンから、映画やオペラ、演劇、サーカス、ミュージック・ビデオ、オリンピックのプロジェクトに至るまで石岡の共同制作(コラボレーション)による仕事の数々が展示されている。コラボレーションという言葉は、90年代に流行した「裏原ブーム」から生み出されたという言説があるが、石岡瑛子展のキュレーターを担当した東京都現代美術館学芸員 藪前知子は「石岡さんが70年代に"コラボレーション"という言葉を使用していた」と指摘する。コロナ禍による延期を経て開催された、"コラボ"の生みの親 石岡瑛子展の見所やキュレーションへの想い、寄せられている感想などについて聞いた。

石岡瑛子
 1938年東京都生まれ。アートディレクター、デザイナー。東京藝術大学美術学部を卒業後、資生堂に入社。社会現象となったサマー・キャンペーンを手掛け、頭角を現す。独立後もパルコ、角川書店などの数々の歴史的な広告を担当。1980年代初頭に拠点をニューヨークに移し、映画、オペラ、サーカス、演劇、ミュージック・ビデオなど、多岐にわたる分野で活躍。マイルス・デイヴィス「TUTU」のジャケットデザインでグラミー賞受賞(1987)、映画「ドラキュラ」の衣装でアカデミー賞衣装デザイン賞受賞(1993)。2008年北京オリンピック開会式では衣装デザインを担当した。2012年逝去。

藪前知子
 東京都現代美術館学芸員。主な担当企画に「大竹伸朗 全景 1955-2006」「山口小夜子 未来を着る人」「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」など。札幌国際芸術祭(SIAF)2017ではキュレーション担当として参加した。

ーまずは藪前さんのお仕事から。藪前さんは「担当学芸員」ということですが、具体的なお仕事は?

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 1番は「この展覧会をどのような構成や演出で見せるか」というディレクションの部分だと思います。企画の立案から展示作品の確認、調査、会場構成、作品の貸し出し交渉など……ほとんど全てを統括しています。

ー展示のキャプションも藪前さんが?

 はい。現在はカタログの制作に入っていて、そこでの解説執筆や論考、編集も行っています。

ー展示されている、ジャンルを跨いだ作品数に驚きました。

 資生堂宣伝部時代の広告やCDジャケットのグラフィックデザインをはじめ、映画や舞台の衣装などを展示しています。ジャンルを横断していることもあり、権利関係における許諾には苦労しました。

ーコロナ禍の影響で会期も延期になりましたよね。

 会期だけではなく、海外がロックダウンになってしまったこともあり作品貸出にも影響がありました。特に、貸し出し交渉中に事実上経営破綻をしてしまったシルク・ドゥ・ソレイユの衣装は大変でした……。経営破綻に伴って連絡先も無くなってしまったので、色々なところにメールを送り続けてなんとかまだ動いている部署にアクセスできたんです。「95%が一時解雇」というニュースが流れた日、連絡をとっていた当時の担当者から「私もその1人なのでこのプロジェクトから離れます、GOOD LUCK!」とメールをもらいました(笑)。担当者が短期間に5人変わったのは初めての経験でした。

シルク・ドゥ・ソレイユのコンテンポラリー・サーカス「ヴァレカイ」の衣装デザインを手掛けた石岡

ーその苦労を考えると、今後同じような規模で「石岡瑛子」を振り返る展示は難しいかもしれないですね。

 そうですね。石岡さんの遺品の大半が、カルフォルニア大学ロサンゼルス校の図書館と映画芸術科学アカデミーのアーカイブに収蔵されているので、アメリカでの開催なら今後も可能かもしれません。

ー世界的に見ても、石岡瑛子の大規模個展というのは初になります。なぜ今、石岡瑛子だったのでしょうか。

 「やろう!」と思ったのは結構直感的だったんですよ。企画が立ち上がったのは5年くらい前です。多くの分野を手掛けた人なので、世代によって「映画 ドラキュラの衣装を作った人」「パルコの広告の人」と部分的に覚えている人はもちろんいましたが、総体的な仕事はほとんど知られていなかったんです。若い世代に至っては「名前すら聞いたことない」みたいな状態だったんですよね。

展示室内には映画「ドラキュラ」の衣装をはじめ、石岡のデッサンなどが展示されている

ー石岡さんのように様々なジャンルを跨いで仕事をしてきたアーティストの「総体」を辿ることはとても難しいようにも感じます。

 やはり作品を「形」で残した人ではないので難しいです。なので、観賞体験として「"結果"だけでは無く"プロセス"を見せよう」と思いました。というのも、石岡瑛子展の企画が立ち上がった5年前にちょうど私が、70年代のトップモデル 山口小夜子さんの展覧会を手掛けていたんです。山口さんは「着る」ということを表現した人。「着る」を表現した山口さんの作品もまた、最終的には「パフォーマンス」という「形」に残らない表現に行き着くんです。彫刻家や画家とは異なって「作品」として残りにくいので、美術館では取り上げにくいアーティストだったと思います。そんな山口さんの展覧会を通して、「"総体"として作品が残らないタイプの表現者を、美術館としてしっかり歴史に残していかないといけないな」と考えてはいたんですよね。

山口小夜子
 1949年生まれ。日本のファッションモデル。高田賢三や山本寛斎のショーで注目を集め、1972年のパリコレクションにアジア系モデルとして初めて起用される。日本人的な美を世界に広めた。1973年からは資生堂の専属も出てるとして同社のCMに出演し、日本での認知度が一層高まった。2007年に急性肺炎のため死去。

ー石岡さんや山口さんなど、ファッションと縁のあるアーティストの展示を数多く手掛けているんですね。

 石岡さんはファッションを「個性的に自分の生き方を持って、生きるための自由に選べる道具」と定義付けています。あるいは、「自分はファッションをやっているんじゃない。視覚言語を作っている」とも。「アートとファッションの融合」のような越境ではなく、「ファッション」を"人間の身体についての思考"として捉えたり、"文化的現象"として捉えたときに、「自然に越境していく表現」に興味があります。昨年担当した展覧会で紹介した「パグメント(PUGMENT)」もそういうところがあると思いますが。

藪前知子

ー美術館で開催されるファッションデザイナーの展示などは、まだまだ造形的な部分での紹介が多いですよね。

 そうですね。山口小夜子さんの表現は「美術」「芸術」といった造形表現の対極としてある、ネイルやアクセサリーを選んでつけるような「もっとささやかな”自己表現”」を考えるきっかけとなりました。クライアントワークの中で活動された石岡さんの表現もまた、新しい思考を開いてくれるものでした。

ー私自身今回の展示を見ていても、1人の女性が仕事を通して成した「自己表現」の集大成を時系列で追っているような感覚がありました。

 個人的には、これから先「表現とは何か」を考えていく上で「女性の表現」というのがすごく重要だなと感じているんです。今でこそ「MeToo運動」があったりと、同展もタイムリーな展示になっていますがそれも最近のことですよね。そんな風に「女性の表現」というものを考えている中で、様々なジャンルを横断しながら、映画や舞台など「誰かとの"共同制作"(コラボレーション)」という表現方法を自己表現の在り方として選んだ"石岡瑛子"という人物が、私の中でどんどん大きくなっていったんですよね。

展示室内に各所に石岡の言葉が壁に記されている。

ー共同制作(コラボレーション)された作品のキャプションでは、スタッフクレジットが必ず記載され、その中で石岡さんの名前だけ赤く表記されていました。

 彼女の作品は「共同制作の中での、1パート」ということが重要なので、全ての作品にスタッフクレジットを付けました。"コラボレーション"という言葉や考えが日本で流行るのは90年代以降なんですが、石岡さんは70年代の終わりから言っているんですよね。なので、「"コラボレーション"という言葉を日本で最初に使ったひとりは石岡さんだ」とも言われています。それくらい彼女の中で「共同制作(コラボレーション)」というのは興味があったこと。確固たる「個」を持ちつつ、コラボレーションによってどんどん自分を開いていくことに興味があった。鋭いナイフのように選択眼を磨いて、自分が選んだ道を信じたら納得するまでやる。そういう彼女の「ポジティブな信念」を展覧会を通してお伝えできたらと思っています。

ー 石岡さんの作品には「強い女性」というメッセージが見え隠れするものも多いです。

 石岡さんが当時抱いていた「日本の女性たちはちゃんと自分の人生を謳歌していない」という苛立ちが現れている作品も多々ありますよね。極端なコンセプトまで突き詰めるので、現在の目からみれば「ポリティカル・コレクトネスに抵触するのでは?」という表現もあります。例えば、パルコの広告では「女性・男性」「東洋と西洋」という二項対立の強調があります。ただ、「西洋は東洋を着こなせるか」というコピーのキャンペーンを手掛けていながらも彼女自身は「東洋も西洋もないし、男も女もない。二項対立をひっくり返すために、まずそれを提示するのだ」と考えていたんですよね。「この広告は東洋と西洋の差異に言及する最後の広告になるだろう」とも書いています。

石岡瑛子 ポスター「西洋は東洋を着こなせるか」(パルコ、1979年) アート・ディレクション

ー独立した女性という考え方は今でこそ当たり前ですが、当時だと異端だったと思います。

 完璧主義者ですので、やはり当時は反発もあったみたいですよ。本人からしたら周りにどう思われているか、とかは気にしていなかったんじゃないかと思うんです。「集団の中で個のクリエイティビティを最大限発揮した人」ということで、私たちも彼女から学ぶものがあるかなと思います。

石岡瑛子 1983年

Imaged by Robert Mapplethorpe ©Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

ー今回の展覧会は、全展示室が撮影NGです。藪前さんがSNSで「インスタ映え展示へ一石を投じたい」と投稿したところ、賛否両論がありました。

 「インスタ映え」自体は全然悪いことじゃないです。観賞体験や、美術館をどう使うかはその人の自由。作り手としては「まずは主体的に見て欲しい」という気持ちだけがあるので「写真を撮って自分の表現として発信する」ことはいいと思うんです。そんな中、インスタグラムで話題となったある展覧会で、観賞者が作家から何かを略奪しているかのような怖さを感じてしまったんです。「写真を撮ったらそれで終わり」という作品体験は、美術館が意図したものとはかけ離れているのではないだろうか、と。撮影という「物理的に何かを持ち帰ること」に貪欲になり過ぎて「主体的に見る」ということをしていないのでは?という疑問を投げかけたかったんです。今回、権利関係がすごく難しいということもあって、どっちにしろ「ここはOK、ここはダメ」とまだらな撮影許可になる予定でした。でも「そこで観賞者にストレスを与えるくらいなら思い切ってやめようという」結論に至り、撮影NGとしました。

ー会期が始まって数ヶ月経っていますが、写真撮影不可について何か意見は寄せられましたか?

 「撮らなくていいので展示に集中できる」「精神的に楽になった」といった反応をいただきます。SNSを見ていても、3時間から4時間かけて観賞していただいているようで、滞在時間も通常の展覧会より長いです。「自分の目で見なきゃ」という、作品と自分の間に流れる"その時にしかない瞬間"を体験していただいているのかなと思っています。ただ、今は「撮れることが当たり前」になっているからこそ、「撮影禁止は自分たちの権利を侵害している」と感じる人もいる、ということに今回初めて気付きました。時代はそっちに流れているんだな、と。

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