Image by: KAISA Vintage
近年、更なる盛り上がりを見せるヴィンテージ市場。そんな中でも特に目立っているアイテムの一つが「エルメス(HERMÈS)」のジュエリーです。そこで今回は、フランス在住で約20年にわたってエルメスジュエリーを集めている世界トップクラスのコレクター「KAISA Vintage」に数多あるエルメスジュエリーの中から押さえておくべき7モデルをオススメ順に紹介してもらいました。
20年前は想像がつかないエルメス人気
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エルメスジュエリーを約20年くらい見てきましたが、昔では想像がつかない状況です。特に人気が高まったのはここ5年くらいでしょうか。ユーズド市場での相場が2年で約5倍になったモデルもあるほど注目されています。
今回は私がオススメする7モデルをピックアップし、基本情報やデザインの特徴などについて話していきます。年代については、世には出ていない特別な資料がありまして、そちらを元に解説しています。
KAISA Vintageのオススメ1位:ALEA
まずは現在もジュエリー部門のクリエイティブディレクターを務めるピエール・アルディ(Pierre Hardy)氏が2006年頃に監修した「アレア(ALEA)」。アレアの面白さは、シェーヌダンクル、サランボ、ブックルセリエといった人気のモデルのコマが一つずつ付いること。名前の由来はフランス語でランダムを意味する「Aléatoire」です。遊び心に溢れていて、個人的には2000年以降に出たジュエリーで一番ファッション性のあるモデルだと思っています。シェーヌダンクル、サランボ、ブックルセリエなどそれぞれの要素が感じられるのでお得感もあります。
アレアは今後更に注目されるだろうと思っています。というのも去年までフランスの店舗ではある程度のお付き合いがある人だと注文することができたんですが、今年なんと廃盤になってしまいました。ちなみに店舗によっては「5年くらい見ていない」という正規店もあったくらい元々レアなモデルなんです。
ボリューム感があり、アレアのPMサイズのコマが次で紹介するシェーヌダンクルのTGMくらいです。GMサイズや、Big Bijouxシリーズのジェアンサイズもあるので、無骨なモデルを求めている方にもマッチすると思います。ちなみに幻と言われている滅多に見つからないTPMサイズもあります。
※一般的なジュエリーやバッグのサイズ表記はPM : プチ・モデル(Petit Modele)、MM : モワヤン・モデル(Moyen Modele)、GM : グラン・モデル(Grand Modele)の3種。
KAISA Vintageのオススメ2位:Chaine dAncre
「シェーヌダンクル(Chaine dAncre)」は1938年に発売されたモデルです。1927年にエルメスの初のジュエリーとして「フィレ・ドゥ・セル」が誕生しましたが、フィレ・ドゥ・セルはレザーのストラップにシルバーの小さな銜をあしらったブレスレットで、シェーヌダンクルが全てシルバーで作られた初めてのジュエリーになります。
発案したのはロベール・デュマ(Robert Dumas)氏。シェーヌダンクルの紹介で"社長"のデュマ氏が製作した、と紹介されているのをよく見かけますが、デュマ氏が代表になったのは1951年。ですので、一応当時は就任前です。デュマ氏は潮干狩りが好きで、よくノルマンディー地方の港を訪れては貝殻などを集めてネックレスを作り、家族にプレゼントしていたそうです。そういった趣味を持ちながら港を歩いていた際にアンカーチェーンを見て、モチーフにしてブレスレットを作ったら面白いのではないかと考え、フランス語で「錨の鎖」を意味するシェーヌダンクルが生まれました。留め具は丸とT字バーのマントルですが、マントルをアクセサリーとして初めて使ったのがシェーヌダンクルと言われています。
皆さんご存知の通り、シェーヌダンクルはエルメスのジュエリーの中で最も認知度が高く、一番人気があります。現在のディレクター アルディ氏が新しいジュエリーを作る際も、シェーヌダンクルパンクなどシェーヌダンクルを元にデザインしたモデルも多く、エルメスの基礎になっているジュエリーといっても過言ではありません。
エルメジュジュエリーの基礎になっているというポイントや、初のシルバージュエリーといった歴史が人気の理由ですが、細い繊細なイメージの大きさから、太く強堅さを感じるものまで展開の幅広さも人気を後押ししています。現行で展開しているので、正規店で買うことができるのも嬉しいポイント。ちなみに昔のモデルはコマが少し角張った形になっていて、マニアの方に親しまれています。
KAISA Vintageのオススメ3位:Acrobat
インスタグラムでよく質問されるのが、この「アクロバット(Acrobat)」です。誕生年は凄くよく覚えています。というのも当時、フランスの顧客を集めて新作発表会があったんですが、そちらに私も参加したからです。2006年の秋冬コレクションの一つとして発表されたんですが、クリスマス前の11月くらいのイベントだったため、フランス人マダムたちがクリスマスプレゼントにとたくさん注文していたのが印象に残っています。
アクロバットはそれまでのモデルと違って、一つ一つコマが外れるのが特徴です。簡単にコマが外せて日によってサイズを変えられるので、パートナーと一緒に使うことができるのも魅力的です。
丸みのある一見女性的なデザインなんですが、男性的な強堅さもある、この絶妙なバランス感は唯一無二です。巷で見るのはGMとMMで、日本ではMMの人気が高いですが、個人的に大きいGMが好みです。MMは存在感がありながら、着けていても邪魔になりにくいちょうど良いサイズ感なので支持されているんでしょうね。GMは大きいジュエリーに慣れていないと重さが気になるかもしれません。
余談ですが、2007年頃にフランスの顧客向けに、スペシャルバージョンのアクロバットが作られました。イエローゴールドのものをはじめ、少し霞がかったローズゴールド、翡翠のコマが混ざっているものなどがラインナップされました。一番驚いたのは、全てのコマにダイヤモンドが付いているもの。特注品なのでユーズド市場などには出てこず、見かけることすらほとんどありませんが。
アクロバットは結構前に廃盤になったんですが、フランスの顧客であれば特別注文ができました。しかし去年注文してみると数年前より価格が2倍くらいになっていて驚きました。ゴールドのアクロバットを注文しようものなら、高級外車が買えるくらいです。どこまで高騰するのか、正直予想もつきません(笑)。
KAISA Vintageのオススメ4位:Torsade
「トルサード(Torsade)」が登場したのは1953年頃。一番の魅力は造りの複雑さ。一つ一つのピースが螺旋状に組み合わさっていて、それぞれが単体で動くんです。1953年からこういった技術があったということには感動すら覚えます。
今回ピックアップした理由の一つは、今年エルメスが再び作り始めたからです。1950年代から比較的継続的に作られていたんですが、一旦ディスコンになり、しばらく生産されていませんでした。それが今年からまた作られ始めたことで注目を集めています。
ただ、作られ始めたといっても正規店ですぐに買えるものではありません。「雑誌などで紹介された→欲しい→なかなか店舗では買えない」といった流れからユーズド市場を探す方が多く、去年の始めは25万円くらいで取り引きされていたのが、今は40万円程度まで高騰しています。
シェーヌダンクルをもう持っていたり、メジャーなモデルを避けたいといった方がトルサードを好んでいる印象があります。私が所有しているもので、一部を革で製作したシルバーと革のトルサードがあります。革は劣化しても取り替えることができないので、手入れが大変で観賞用になっているんですが、こういった変わったモデルがたまに出てくるところも面白いポイントです。
トルサードも大きいジェアンサイズのBig Bijouxシリーズが好きです。デザイン性で上品さがありながら、大きいので迫力もある。上品かつ無骨さもあるといった素敵なモデルで気に入っています。
KAISA Vintageのオススメ5位:Graines des Champs
「グレンデシャン(Graines des Champs)」は1988年に発表されたモデルです。日本ではあまり知られておらず、数年前まではアクロバットに似ていることから「アクロバットTPM」という呼称で広まっていたようです。
フランスジュエリー界ではコマを作る手法にそれぞれ名称があります。グレンデシャンは、麦の形をしたコマを作るアヴワンという手法をアレンジし、丸みをつけたデザインに仕上がっています。デザインは、名前の通りで穀物の種をイメージしています。
たしかにグレンデシャンは素敵なモデルなんですが、正直理解ができないような高騰の仕方をしています。聞いた話によると300万円近くで取引されているとか。
日本人の男性でエルメスジュエリーが好きな方は時計も好きな方が多いんですよね。よく「時計と一緒につけられるデザイン性が高いブレスレットはないですか?」と聞かれますが、グレンデシャンは小ぶりなサイズ感からぴったり当てはまります。そういったポイントが人気の理由の一つだと思います。
KAISA Vintageのオススメ6位:Boucle Sellier
エルメスジュエリーの中でも高い認知度を誇る「ブックルセリエ(Boucle Sellier)」は1946年に誕生しました。当時のエルメスのジュエリーは、デュマ氏が好きだった海を連想させるモデルか、ブランドの起源でもある馬具を連想させるモデルのいずれかなんですが、ブックルセリエは馬具から着想を得たモデルです。名前の由来は、ブックルが留め具で、セリエが馬具関連を意味しています。おそらく馬の口に含ませるハミのチェーンと留め具を意識して作ったんだと思います。
シェーヌダンクルとブックルセリエは、一目でエルメスとわかる独創的なデザインで人気があります。また、シェーヌダンクル同様にサイズ展開も豊富です。ちなみに新品のブックルセリエはシェーヌダンクルの倍近くする高額モデルなんです。ですが、ユーズド市場ではまだあまり高騰していないので、お得なモデルだなと思っています。
KAISA Vintageのオススメ7位:Crescendo
「クレッシェンド(Crescendo)」は2000年頃に登場したモデルですが、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)氏がウィメンズのデザイナーを務めていた「マルジェラ期」だからという理由で好きな方が多いです。しかし、マルジェラ氏がデザインしたわけではないです。当時斬新なデザインのジュエリーが増えた理由をマルジェラ氏と結びつける方が多いですが、2001年にアルディ氏がジュエリー部門のクリエイティブディレクターに就任したことが一番の理由です。ネーミングの通り、大きいコマから小さいコマへと変わっていくデザインが特徴です。
現在は廃盤になっていますが、今年に入ってからさらに探している方が増えたので凄く高騰しています。ちなみに2010年くらいまでに作られた昔のクレッシェンドは、廃盤になる直前のモデルに比べてコマ同士の距離が近く、詰まって見えて格好良いと、初期のクレッシェンドがコレクターからは人気らしく。私は特にクレッシェンドが好みというわけではなかったので気にしていなかったのですが。
凄く可愛いんですが、大から小へと変わるデザインの影響で重力によって手首で少しずつ回ってしまうんです。着けているときにどうしても気になってしまうので私はあまり集めていません。
ただクレッシェンドのネックレスは凄く好きで、短いタイプと長いタイプがあるんですが、短いタイプは特に女性から人気ですね。「ずっと探しています」という方が多い印象です。流れるようなデザインで服に映えるのか、ファッション愛好家からの支持も高いです。
最後に...
昔は量産しなくても良かった時代ですので、職人さんが一つ一つ手作業で作っていました。なので、エルメスのヴィンテージジュエリーには職人さんの技術が凝縮されているんです。金属の縄や、シルバーの縄を手作業で一つ一つ編んでいきコマを作るというモデルもあるので、ジュエリーとしてだけでなくアート作品のような価値が見出せると思っています。流行に左右されることなく集められる面白さがエルメスのヴィンテージジュエリーの魅力だと思います。
公式インスタグラム:@Kaisa_fr/@kaisa_vintage
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