H&Mジャパンの新社長(北東アジア リージョナルマネージャー)に着任したアネタ・ポクシンスカ(Aneta Pokucinska)。35歳での同職への就任は、H&Mでは最年少での起用となる。ポーランド出身の彼女は、大学在学中のアルバイトから数えてH&Mでの在職は16年にのぼる。日本と韓国を含む北東アジアリージョナルマネージャーに抜擢された若きリーダーに話を聞いた。
ポーランド出身、35歳、2児の母
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FASHIOSNAP(以下、F):H&Mでのキャリアは母国ポーランドの大学在学中にスタートしたとのこと。いわゆる"生え抜き"ですね。
アネタ・ポクシンスカ(以下、アネタ):16年前ですが、昨日のことのように覚えています。セールスアドバイザーとしてアルバイトで入社し、当時はこの会社でこんなに長く働くなんて思いもしませんでした。
ポーランドはハンガリーやチェコ、ルーマニアといった東欧諸国やバルト三国、フィンランドなどのエリアを統括していたので、それらの国を行き来するなかでたくさんの人に接し、色々なことを学びました。とても刺激的でやりがいを感じ、ワルシャワでエリアマネージャーに就いた後、出産を経て、2019年の秋からスウェーデンの本社で働くチャンスを得ました。そして幸運なことに現在のポジションのオファーを受け、3月に来日しました。8歳と4歳の2人の息子がいるのですが、母親の状況をなんとなく理解して、全く異なる環境を楽しんでくれているみたいです。8歳の息子はすでに日本語で100まで数えられるので、私も負けていられません(笑)。
F:日本赴任前のスウェーデン本社では何を担当していたのですか?
アネタ:マーチャンダイジングのグローバル責任者として、H&M ブランドのオムニ&リージョナライズ変革に取り組んできました。全社的にチャネル間でのシームレスなカスタマー体験を提供するためにオペレーションを変えていくこと、そしてそれをどうローカルに応用するか、という2つに注力しました。2020年春にCOVID-19で状況が一変し、チーム間の連携が難しい時期もありましたが、オムニチャネルの重要性、特にデジタルへのシフトはコロナ禍で一気に高まり、私たちの変革を加速してくれた面も大いにあります。
若きホープが日本を選んだ理由
F:そしてH&Mジャパンの社長に就任。経緯は?
アネタ:日本に来ることは、私の希望でもありました。再びカスタマーに寄り添う仕事がしたいという気持ちが強く、本社で練ってきた変革のアイデアを、実際にローカルマーケットで「実行する」という部分に携わりたかったのです。日本や韓国に行ってみたいという考えは以前からあって、今回ベストなタイミングで会社と私の双方の合意のもと人事が決まりました。
F:より慣れている欧州のマーケットなどのオプションがある中で、なぜ日本を選んだのでしょうか?
アネタ:新しいチャレンジが好きな私にとって、また自分のキャリアにおいても、全く異なるカルチャーでより多くのことを吸収したいという気持ちが強くありました。10年後、20年後だったら決断できなかったかもしれませんが、今このタイミングでチャンスを掴もうと思ったんです。そして何よりも、私のこれまで培ってきたマーチャンダイジングの知識や経験が、日本マーケットの成長に役立てることができると思ったからです。ちなみに食べ物も大きな理由の一つ。私も子どもたちも日本食が大好きなんです(笑)。
F:日本のマーケットをどのように見ていますか?
アネタ:欧州と異なり、特殊なマーケットであることは来日してからも身をもって体感しています。ファッションに関して言えば、ローカルブランドの数が驚くほど多いですね。ヨーロッパでは大体ブランドの並びが同じですが、日本は都市ごとに異なるブランドが出店しています。
よく店舗を覗いてカスタマーがどんな商品を購入しているのかを見たり、SNSでローカルインフルエンサーがどんなファッションをしているのかリサーチしていますが、日本のカスタマーは私たちが提供するファッションを上手に取り入れて楽しんでくれているように感じます。日本人はファッション感度が高く、コラボレーションなどのグローバルプロジェクトに多くの関心が集まったり、NiziUやITZYといったアイドルグループを起用したローカルキャンペーンが話題になったりと、ファッションニュースに敏感ですよね。
F.日本のマーケットの課題や、自身に求められていることとは?
アネタ:リージョナルマネージャーとして求められることはマーケットのニーズを踏まえて方向性を定義することです。1月に着任し、チームとの話し合いを通じて、自分たちの立ち位置や強化すべきことが浮かび上がってきました。例えば、もっとカスタマーニーズの高い商品比重を大きくしたり、日本にないラインナップを揃えるなど、H&Mが日本市場で成長できる余地はまだまだあると思っています。
「H&M 新宿」は旗艦店としての役割を継続
F:同じ大手アパレルSPAとしてカテゴライズされることの多いユニクロの存在をどう分析していますか?
アネタ:もちろん日本でのユニクロの存在は大きく、常にお互いを注視している相手と言えるでしょう。オペレーションモデルに関しては類似する点もありますが、H&Mの「ファッションとクオリティを最良の価格でかつサステナブルな方法で提供すること」というビジネス理念が、他社と差別化できる私たちの競争力であり、カスタマーが享受してくれている点だと思います。この理念をビジネスの軸として継続することで、業界を超え社会全体に良いインパクトを与えることができると思っています。
F:先月、ユニクロの新宿東口エリアの「ビックロ」が閉店し、ファーストリテーリング傘下の「プラステ(PLST)」跡地にユニクロ新宿三丁目店が再度オープンすることを発表しました。H&M 新宿に程近い立地ですが、どのような影響があると思いますか?
アネタ:ユニクロ出店の情報は耳にしていますが、H&M 新宿はこれからも旗艦店の一つとしての役割を維持していきます。新宿に店舗がオープンしてだいぶ経ちますが(2009年オープン)、これまで提供してきたカスタマーサービスを継続し、培ってきたノウハウや知識を活かしてこれからも営業していきます。
グローバル指針であるサステナビリティをローカルな方法で
F:H&Mは業界の中でも早い段階でサステナブルの指針を表明し、実行してきました。欧州と比べ、日本はサステナビリティへの理解や捉え方に遅れがあるようにも見えますが、H&Mの取り組みを日本の消費者にどうコミュニケーションしていきますか?
アネタ:日本のメディアの取材を受ける中でもサステナビリティについての質問をたくさん受けます。グローバルで社会の関心が高いトピックですが、欧州でもサステナビリティへの意識は国によって異なるように、日本も似たような状況なのかと推測します。
H&Mの衣類は80%がサステナブル素材、もしくはリサイクル素材で作られています。例えば20年前にサステナブルな服を買おうと思っても難しかったことが、今や当たり前のようにH&Mの店舗で買うことができます。私たちは、サステナブルがライフスタイルの一部であること、それがH&Mでショッピングすることで実現できることを日本のカスタマーに伝えていきたいです。
そしてサステナビリティは国や地域によって解釈が様々ですが、品質や耐久性のある服もサステナブルファッションと捉えることもできますよね。日本のカスタマーのクオリティへの関心は高いので、服を通して私たちのメッセージを伝えていくことも重要だと考えています。
F:2013年にスタートした店舗での古着回収は、H&Mのサステナブルな取り組みの一つとして一般にも浸透しているように感じます。
アネタ:H&M独自の取り組みですが、新たに今月、提携先の回収業者を海外から国内企業に変更しました。これにより輸送時の環境負荷や物流リスクを軽減することが可能になると同時に、古着回収における情報の透明性も高まります。国内業社への切り替えは古着回収プロジェクトにおいて大きな変化です。
そのほか、今年2月にオープンした池袋店ではファッションロスの削減のために開発された日本発の「パネコ(PANECO®)」(注:H&Mで発生した不良品をアップサイクルした循環型繊維リサイクルボード)製の什器を採用した店舗となっており、これもローカルのサステナブルな取り組みの一つです。
F:COVID-19はH&Mのビジネスにどう影響しましたか?
アネタ:購入チャネルに変化がありました。例えば1年前はフィジカルな店舗ではなく、ECで買い物をするカスタマーが増えました。全体的な話をすると、実店舗での売上は未だECの売上より多いですが、コロナが落ち着いてきた今、店舗の役割も変わってきたと感じています。もちろんオンラインは引き続き注力していく購買チャネルですが、人々が街に戻り、店舗は"商品を選んで決済する場所"から、"ブランドとの繋がりを持てる場所"として、コロナ禍前とは違う意味合いを持つようになってきたとも言えます。依然として状況は流動的なので、世の中の動きはもちろん、消費者行動を注視し、色々なシナリオを想定しておかないといけません。
F:最後に、着任期間で成し遂げたいプロジェクトや注力したい分野などを教えてください。
アネタ:まず一番に、私たちH&Mがどういったブランドなのかをカスタマーにコミュニケーションし、さらにカスタマーファーストのローカリゼーションを推し進めていくことです。そして、47都道府県うち未進出の2県への店舗出店やプレゼンスが弱い地域への注力、デジタル強化などを通して成長を拡大させることです。
また、私たちのサステナビリティの活動をカスタマーのみならず社会に向けて発信していくことに加え、H&Mジャパンでは女性管理職の割合が63%を占めていることもあり、(日本全体では11%)、私たちのビジネスを通じて日本が抱える課題に企業として取り組み、貢献していくこともミッションだと思っています。
(聞き手:今井祐衣)
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