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怖いもの知らずのデザイナー×元アンダーカバーの生産管理 二人三脚の「カナコ サカイ」が次に目指すもの

怖いもの知らずのデザイナー×元アンダーカバーの生産管理 二人三脚の「カナコ サカイ」が次に目指すもの

 今、国内で今後の飛躍が期待されているブランドといえば「カナコ サカイ(KANAKO SAKAI)」が思い浮かぶだろう。デビューから2年ながら、初のフィジカルショー形式で2024年春夏コレクションを発表し、その知名度は更に拡大。ブランドのファンも徐々に増えてきた印象だ。昨年、パリにもショールームを構える「Seiya Nakamura 2.24」にジョインしたことから、海外展開への意欲的な姿勢も伺える。

 テキスタイルにこだわりを持っている「カナコ サカイ」を支えるのは、「日本的美意識」を単なる「伝統技術」と解釈するのではなく、「偶発性と曖昧さを愛する日本人の精神性」と捉え、それらを慈しみながらクリエイションを押し進めるデザイナー サカイカナコと、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」で生産管理として経験を積んだ石川シュウの2人だ。二人三脚で、ブランドを成長させてきた2人の掛け合いから見えてきたのは、日本のファッション業界を背負う覚悟を決め始めた、滲み出る使命感だった。

■カナコ サカイ
 クリーンなカッティングと、独特で多彩な表情を持つ素材選びと色遣いの組み合わせ、そして伝統技術に新たな解釈を加え現代的に再構築したアイテムをもとに、Spring Summer 2022よりブランドを始動。日本が世界に誇る文化とものづくりの技術を、ブランドのクリエイションに乗せて世界に発信していくことをミッションに掲げる。デザイナーのサカイカナコは2017年にParsons美術大学を卒業。NYや国内のデザイナーブランドで経験を積み、2021年に独立。

まずは、メディアに情報が出ていない石川さんの簡単なプロフィールを教えてください。

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石川︎︎シュウ(以下、石川):文化服装学院を中退して、20歳の時にアパレル会社に就職し、 数社を経てその後「アンダーカバー」に5年程勤務しました。アンダーカバーでは生産管理以外にも企画に携わることもあり、学びがとても多かったです。

サカイカナコ(以下、サカイ):当時から生産管理になりたかったの?

石川:20歳で就職した時に、最初にやらせてもらえたのが生産管理の仕事だったから、というのが正直なところかな。キャリアのスタート地点が生産管理で、それの積み重ねでここまできたという感覚の方が近いです。なので、コレクションの初期段階ではサカイのアイディアに対し「こういうこともやろう」「じゃあ、あそこに相談してみよう」「あれを探してみよう」といった企画の段階から参加します。デザイナーという肩書ではないけど、2人で「カナコ サカイ」を作っているなという実感はあります。

カナコサカイは、デビューから二人三脚で運営をしています。一緒に仕事をし始めた時の印象は覚えていますか?

石川:好きなものが明確でとても話しやすかったです。それがいまのクリエイションにも繋がっていますよね。

サカイ:工場の方にとても好かれているんだな、と。生産管理という職業上、コストカットなど話しづらいことも言わなきゃいけないはずなのに、どこまでも優しい。ブランド側の人間というより、どちらかというと、工場側の人間なんじゃないかと思う時もある(笑)。

石川:あまりにも工場側に寄り添いすぎて、サカイからはよく怒られます。「それって、クリエイションとして果たして良いの?」と(笑)。ただ、デザイナーと職人が直接話すと、デザイナーの「こうしたい」がどうしても強く出過ぎてしまうと思うんです。僕たちの目的は、形にすることなので「製品化するために、どうやってうまく伝えるか」が、僕の仕事だと考えています。ブランドとしてやりたいことはもちろん大事なんですけど、それを作ってくれる人が大前提であるという気持ちは忘れたくない。

石川さんは前職での経験は、どのように「カナコ サカイ」に活かされていますか?

石川:ストックがいっぱいあることでしょうか。例えば、今シーズンのアイテムで言えば、刺繍が入ったロングブーツは、「この人に相談すれば実現できそうだ」とすぐに思いつけたんですよね。

 アンダーカバーという会社は、本当に様々なことを任せてもらえる環境でした。だから、全部自分で考えて、行動に移さないといけなかったし、それがとても良い経験になった。生産管理としてのクリエイションというものが存在するんだ、と知れたのは大きな経験になりましたね。

サカイさんは国内の四年制大学を卒業してからデザイナーに。過去のインタビューでは「なんとなくデザイナーという仕事が自分に向いていると思った」ときっかけを語られていましたが、どのような点が向いていると?

サカイ:デザイナーほど複合的な仕事もないな、と思えたからなのかなと最近は考えています。ファッションデザイナーには創造性や美的感覚のセンスがもちろん求められますが、それだけじゃない。時代を読む力だったり、周りを巻き込む力、コミュニケーション能力も重要な要素。ファッションデザイナーに必要な要素の組み合わせが自分にはあるはずだから、自分はファッションデザイナーとして戦えるはず、と。

実際にデザイナーになってみてどうでしたか?

サカイ:当たらずも遠からず、かな(笑)。圧倒的なセンスがないと世界では通用しないし、だからといってセンス一辺倒なわけでもないですから。

サカイさんは、海外と国内、どちらでも服飾の勉強をされています。教育の違いを感じましたか?

サカイ:日本では夜間の服飾専門学校にしか通っていないので全てがそうではないかもしれないけど、印象としては、技術を集中的に学ぶのが日本の服飾学校のイメージです。私は、パターンや計算が苦手なんですけど、デザイン画も綺麗に描かなくてはいけないし、縫製も完璧を求められる。そこに、ユニークで奇想天外なアイデアが追加されるとなお良い、というのが日本の服飾学校の印象。一方、ニューヨークのパーソンズ美術大学は真逆で、 技術とかはもう置き去り。

石川:そんなに違うんだ。

サカイ:びっくりしましたよ。一応日本の学校に通っていたし「1mmもズラしてはいけない」という心持ちで制作をしていたんだけど、周りの子たちは、定規も使わず、フリーハンドでパターンを引くんですよ(笑)。それでも自分の世界観や「なんで自分がこれを作っているのか」がみんな明確で。「自分自身をもっと明確に見ないと、クールじゃないよね」という雰囲気が常にあり、授業もそんな感じでした。

Rakuten Fashion Week TOKYO 2024 S/Sでの初めてのフィジカルショーを終えました。囲み取材で「ショーをやる気はなかった」とコメントしていたのが印象的でした。それでも「やる」と決めたのはなぜですか?

サカイ「タナカ(TANAKA)」「オールモストブラック(ALMOSTBLACK)」など友人デザイナーたちがフィジカルショーをやっているのを見て「いいなあ」と思ったんですよね。

実際にフィジカルショーを終えてみてどうですか?

サカイ:様々なプロフェッショナルが大集合し、1つのもの作るのはとても楽しかったです。今まではルックブックのみで発表してきましたが、やはり写真だと質感が伝えづらかったり、展示会ではフルラインナップでコレクションを見せることができるけど、実際に店頭に並ぶのは一部分だけだったりするので、今までは「カナコサカイはどのような世界観を持ったブランドなのか」がなかなか伝わりづらかったかな、と。それに比べフィジカルショーは、服だけでなく音楽や演出、モデルなど、ブランドの世界観を全部ひっくるめてみてもらえるので、良い機会でした。

石川:ハンガーにかかっている服ではなく、着て歩いているというのもフィジカルショーならではの魅力ですよね。ブランドの認知度も確実に上がりました。

カナコ サカイはファブリックにこだわっている分、生産管理としての仕事は大変なものがあるのではないでしょうか。

石川:オリジナルで作っている生地が多いので、意外と納品のスケジュールは組みやすいんです。既存の生地を購入する場合、サンプルを作る時は在庫があっても、量産する際に生地がなくなってしまったというのはよくある話で。そういう意味では、オリジナルファブリックを生地屋さんとしっかり話して作り、スケジュールを組むので生産管理としては楽ではあります。逆に、オリジナルファブリックはこだわりが反映されやすい分、当然コストもかかります。例えば「ウール100%生地」や「レース生地」をオリジナルで作るとなると、かなりコストがかかる。

製作の段階で、生産管理としてこれは大変だったアイテムはありますか?

石川:2024年春夏コレクションでいえば、螺鈿の生地ですかね。「僕たちが大変だった」というと語弊があるんですが、作るのは半端じゃないくらい大変でした。

左)一枚の布を縦に細かく裁断して一本の糸に見立てた螺鈿糸 右)螺鈿糸を用いたコート

サカイ:これをお願いした「民谷螺鈿」さんは、京都丹後にある機屋さんです。元々は、丹後の海の煌めきを織物にしたいという思いから「螺鈿織」を生み出したそうです。螺鈿織とは、研磨した貝殻を和紙やフィルムに貼りつけ、1mm以下の糸状に裁断し、それを緯糸(よこいと)として織り込んだものです。ショーの最後に登場した市松模様の螺鈿コートは民谷螺鈿さんに織ってもらっています。普段は糸だけの提供はしていない螺鈿の緯糸を、織物にせずそのままネックピースに使用させていただきました。

石川:螺鈿織は全ての作業に手作業が含まれていて、螺鈿の生地を糸のように細く切るのも本当に大変みたいなんです。

硬さと薄さが特徴的な螺鈿の生地は、螺鈿が割れないような特殊な技術を使って作られている。

テキスタイルにこだわる一方で、クオリティとコストの関係性は切っても切り離せません。

石川:コストを下げようとしてクオリティが落ちたら本末転倒だけど、だからと言って誰も手を出せないような価格のアイテムばかりを量産しても、それはブランドとして成り立たなくなってしまいます。コスト面に関しては、オリジナル生地をたくさん注文すればコストは抑えられるので、サカイにはデザインの段階から「この生地を使いたいなら、これを用いたアイテムを〇〇型は作って欲しい」となどの話し合いをします。コストも気にしなければならないけど、デザイナーとして表現したいことや、やりたいことが第一にあるのは当たり前のことですよね。それがなければ、ブランドがブランドとしてある意義も薄まってしまうと思いますし。

カナコ サカイは「日本的美意識」をコンセプトにしています。具体的にはどのようなことを示しているんですか?

サカイ:最初のきっかけは、パーソンズ美術大学の授業で「自分がブランドをやるとしたら」をテーマに、好きなものを集めて、なぜそれが好きかプレゼンしてくださいという授業があったんです。私は、プレゼン資料の中に、欠けた茶碗や左右非対称のものを入れていたら、先生に「インパーフェクション(不完全さ)だね」と言われてすごく腑に落ちたんです。「含み」や「間(ま)」があるものだったり、直接的じゃないものに心地よさを感じていたのかという気づきがありました。それって、とても日本人的感覚だと思うんです。日本語も曖昧さを愛する言語ですし、自分が想像できる余地があるものが好きなんだな、と。

 これは余談なんですけど、私の次にプレゼンをした子がインド生まれの子でタージマハルについて発表したんです。私が「インパーフェクション」とか言ってる隣で、彼女は「左右対象でなければ、それは美とは呼べない。美とはパーフェクションだ!」と話していて。ガーンとなりましたよ(笑)。生まれた土地が違ったり、アイデンティティや文化が異なっているだけで「美とは何か?」という問いの答えも変わるんですよね。そういう経験を踏まえて「日本的美意識」と言うようになりました。

具体的には「インパーフェクション」はどのようにデザインに反映されていますか?

サカイ:それこそ「染め」の技法はよく使います。逆に、完全にコントロールすることができる「プリント」はあまり好きじゃなくて。染めは、全部が一定の柄になることはないんですよね。プリントの方が安定しているし、安いし、生産的にはいいんですけど、手仕事の不安定さでしか生まれてこない美しさもあると思うんです。「自分たちがコントロールしちゃうと、完璧以上が生まれることはない」とでも言えばいいのかな。let it beじゃないですけど「思っていたよりも良いものが仕上がった」というのがたまらないんです。

JFW NEXT BRAND AWARDのグランプリを受賞し、来年の3月にもう一度東京でフィジカルショーを開催予定です。その後の展望について教えてください。

サカイ:やはり海外展開ですね。そのために、ブランドのマーケティング戦略やセールスをSeiya Nakamura 2.24にお願いしています。世界を見ながら、日本もできるのはSeiya Nakamura 2.24だけなのかな、と思って私たちからラブコールを送りました。

海外挑戦をするにあたって、ブランドの強みや自分自身の強みはどこにあると考えていますか?

サカイ:やりすぎなくらい駆け抜けてしまうところかな。ほかの人だったら躊躇したり、頭を使ったら“絶対にやらないだろう”みたいなことを平気でやってしまう。

石川:駆け抜けエピソードで一番象徴的なのは、カナコ サカイには「幻の2021年秋冬コレクション」が存在することなんじゃないかな。実は、ファーストシーズンより前に作ったお蔵入りのコレクションが1つあるんですよ(笑)。

サカイ:ブランドを立ち上げる時も、向こう見ずで。2021年秋冬コレクションのサンプルを、自分の貯金を全部使って作ったんですよね。でも、売り方もわからないし、プレスもセールスも知らない。結果的に、タイミングを完全に逃して、そのままお蔵入りしました(笑)。でも、2021年秋冬コレクションを作ってよかったと思っています。お蔵入りしたコレクションがあったから、それをセールスの人たちにサンプルとして見てもらって、デビューシーズンにあたる2022年春夏の展示会に来てもらうことにも繋がりました。

ブランドとして、世の中に何をもたらすことができると考えていますか?

サカイ:日本発のブランドして、海外挑戦する時に考えるのは「洋服はヨーロッパのもので、モードとしてのファッションの中では、日本人は完全にアウトサイダーだ」ということなんですよね。でも、海外で生まれ育った私の友人たちは「日本人のデザイナーは最高」と言ってくれる人がとても多い。それは、先人たちがものすごいことを成し遂げてきたからだと思うんです。日本のファッション業界の地位が、アウトサイダーであるにも関わらず国際的に評価を得ているのは、最初に切り開いてくれた人がいるから、ということを忘れたくない。前置きが長くなったけど、今一番考えていることは「先人たちが築いてくれた跡をどのように繋げていくか」。自分たちに出来るかはわからないけど、作ってくれた土台をどうやって自分たちの代で繋げてていくのかという使命感はあります。

 日本のファッションマーケットは成熟していると思うし、国内で面白いこともいっぱいできる。だから、みんな「まずは日本で」という思考になるんだと思うんです。でも私は、そのワンクッションが勿体無い気もしている。せっかく世界中に「日本のファッション」を知っている人がいるなら、新しい何かがすぐにでも出来たらいいな、と思っています。

海外で生活をしていたからこそ、海外挑戦の思いが強いのでしょうか?

サカイ:私にとって海外は、今まで信じていた価値観が一瞬で覆すような人間との出会いがある場所なんです。そういう刺激は、ブランドにとって絶対に大事だと思う。ブランドのデザイナーである以上は、リードしていかなきゃいけない存在なのに、いつまでも古い価値観で何かをしていても仕方がないですし。シンプルに新しい人と出会って、新しい価値観を吸収していって、それがブランドにも反映されたらいいな、と。日本独特の「閉鎖的でミステリアスなクリエイション」の良さもあると思うんですけど、私はそういうパーソナリティを持っていません。そういう想いもあって、まずは海外展開で「カナコ サカイ」というブランドを知ってもらいたいな、と思っています。

最後に、どう言うブランドになっていきたいかを教えてください。

サカイ:広い意味で、続いていくブランドにしたい。ブランドとしての継続年数はもちろんなんですけど、何かしらの形で、カナコ サカイのDNAが、未来永劫続いて欲しいなと思っています。極論、100年後の人類が服を着ているかもわからないですからね。

石川:僕たち、すごくカッコつけたことを言っているけど、明日の事もままならない状況だからね(笑)。

サカイ:現実との話のギャップがやばすぎる。未来のために、目前の「明日どうしよう」の話をこの後にしよう(笑)。

(聞き手:古堅明日香)

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