左:ミリアン・サンス、右:大木葉平
Image by: FASHIONSNAP
大木葉平とミリアン・サンスが手掛ける「シュープ(SHOOP)」が、2023年6月に日本法人を立ち上げ、ブランド開始時から約8年間本拠地としていたスペインから東京に拠点を移した。8月31日には、2021年春夏コレクション以来、2年ぶり2度目となる東京でのフィジカルショーを開催。「Rakuten Fashion Week TOKYO 2024 S/S」で、2024年春夏の新作を発表する。
シュープは、デザイナーの身近にあるものやカルチャー、音楽などに着想しコンテンポラリーウェアとして表現。エレガンスやミステリアスさに少しの皮肉を込め、美しさを追求していくことを目指している。
服飾学校でファッション学んだミリアンと、15歳からスペインでグラッフィックデザインやアートを学び、音楽活動にも取り組む大木葉平は、お互いの得意分野を活かしながらも、共通する音楽やカルチャー観を起点に、共同でクリエイションを追求している。東京での新作発表の準備も整い、「手応えがある」と語る2人は、コロナ禍で何を感じ、東京に何を見出しているのか、クリエイションの原点から音楽活動、現在までを大木葉平に尋ねる。
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15歳の夏、親の一言で単身スペインに
ー大木さんは15歳からスペインを拠点にされていますが、きっかけは?
15歳の夏休みに、親から「スペインの語学学校に行ってこい」と言われたことがきっかけで行くことになりました。そしてスペインで暮らし始めて2ヶ月が経った時に、親から電話が来て「やっぱり君は日本にいるより海外にいた方がいい」とそのままスペインの学校に入学することになって。元々、面白いと思ったら何も気にせず実行してしまう子どもで、学校の壁に自分が好きなラップを書いたり、宿題のプリントで紙飛行機を100個ぐらい作って学校の屋上から飛ばしたり、先生のポロシャツに勝手に絵を描いたりしていました。中学の先生たちからも、「大木くんは日本の社会に合ってないから、海外行った方がいいよ」とか 「お前は社会なめてるから留年しろ」と言われていましたね(笑)。
ー実際、スペインの学校は合っていましたか?
最初に通った公立中学は、移民の子どもが多く、スペイン人、アラブ人、中国人、ラテンアメリカ人で派閥が分かれいて、どこかに所属しないといけない空気があったり、10歳の子が学校でマリファナを吸っていたり、あまり治安が良くない学校でした。僕も携帯を盗まれたことがあったり。スペインは義務教育にも留年があるので、こんな学校では絶対留年したくないと思って猛勉強して、美術専門の高校に進学しました。自由すぎるのはそれはそれであまり良くなかったですが、その分気も遣わなくてもいい所は良かったです。スペイン人はみんなおおらかで優しいので。僕はファッションの学校には通っていませんが、IED(Istituto Europeo di Design Madrid)というファッション大学で講師をしたこともあります。そこではかなりかなり自由なものづくりを教えていましたね。
ー「自由さ」はシュープのクリエイションにも通ずるものですね。
自由であることは大切にしています。決まったルーティンや思考に縛られず、日々好きなことをして楽しく過ごして、身の回りの些細な出来事や風景などから新しいアイデアを見つけることができるように心掛けています。
ー自由なスペインと比べると、日本は紋切り型のような慣習がありますよね。
久しぶりに東京に帰ってきたら、ロボットみたいな人たちが多くて驚きました。赤ちゃんを連れている人のことも平気で無視して席を譲らないとか、携帯を見て気が付かない振りをするとか、そういうところはちょっとやばいなと思っています。もっと人間味持とうよ、と。そうする方が生きやすいのかもしれませんが、考えることをやめたって感じの人が多いことを街を歩いていて感じてしまいましたね。もっとみんなで人生を楽しめばいいのに。
ーそれなのになぜ今、日本に拠点を移すことに?
2人とも日本が好きで、住みたかったという理由もあるのですが、大きな要因は物作りです。コロナ禍でスペインの工場がロックダウンになった時から、生産の何割かを日本に移したんですが、それを機に日本の工場のクオリティの高さを実感して、徐々に日本製を増やしているところで。割合が増えるなら、日本の職人さんと直接コミュニケーションを取った方がクオリティもデザインも良くなると思いますし、東京って多分今一番世界から見ても刺激があって、色んな国の人が来たいと思っている街だと思うんです。そういう意味でもいいタイミングかなと思いました。
ー今後の生産は日本のみで?
工場によって得意分野があると思うので、アイテム毎に分けていこうと考えています。Tシャツなどコットン系はポルトガルが得意で、それこそヨーロッパのラグジュアリーブランドなどもポルトガルの工場で作っています。日本は、シュープの代表的なアイテムでもあるテーラード系やデニム作りが特に丁寧。最近はシャツも日本で作っています。テーラード系は関東の工場で、やっぱりデニムは岡山。例えばデニムだと、オーダーデニムブランドの「ハルヒト(HARUHITO)」を手掛けている小西健太郎さんとプライベートで結構前に知り合って。小西さんも僕と同じようにDJをやっていて、その流れからデニムを作ってもらうようになりました。小西さんはまだ若い方なんですが、後継問題が深刻化している日本の産地の当事者として、生産環境の向上のために積極的に活動している方で、とてもリスペクトしています。
ー日本とスペインは気候も大きく違いますが、日々の暮らしの中で得るインスピレーションやアウトプットも変化しそうですか?
あると思います。スペインの空ってすごく青いので、ミリアンは「日本や東京って、グレーだよね」とよく言っています。以前何かのドキュメンタリー番組で、SONYがインドに進出した際、インドの強い色彩感覚に合わせてインド用のヴィヴィッドカラーの液晶を開発したことでテレビの売り上げを伸ばしたという話をしていたのですが、同様に僕たちも色彩感覚には影響があるだろうと考えています。気候に関しても、日本に来て今すごく暑いので、「こんなに暑かったら、こんな服は着ていられない!」とか、そういった肌で感じる感覚が影響しそうです(笑)。
ー最近身の回りで気になっているものは?
ミリアンはセミの声が気になるらしいです。うるさいから(笑)。スペインってセミが居ないんですよ。あとは、ハチ公バスの窓から見える景色と、代々木八幡とかかな。
ー改めて、日常の些細な出来事を大切にされていますね。生活音も全く違いそうです。
そうですね。日本人って外では全然喋らないし、静かじゃないですか。スペインでは、街を歩いていると話し声がたくさん聞こえます。本当に東京とマドリードって真反対かもしれません。気候やグレイッシュな風景とか空の青さだけじゃなく、スペイン人はファッションに関しても情熱的なので、女性はボディラインの出る服だったり、露出が多かったりします。
ー東京をベースにどんなクリエイションが生まれそうですか?
東京が面白いのは、やっぱりいろんな層の人がいて、いろんなファッションをしている人がいるところだと思うんですが、全体的に見たら、洗練されているのが東京なのかなと思っています。アウトプットに関しては、無意識的なので正直まだわからないですね。
服と音楽でつくる、見たことがないもの
ークリエイション全体を通じて大事にしていることは?
自分たちが面白い、美しいと思ったことを実現していくことです。服が溢れ過ぎている今、自分たちの服を作ることに意味を持たせるために、トレンドを追っただけの容易な使い捨ての服を作らないことを意識しています。自分達の服を着た方々に、何かしらの感動を与えたいです。
ーシュープといえばデニムやテーラード系のイメージです。
そうですね。一生残るようなシグネチャーアイテムを常に作りたいと心掛けていて、シーズンごとに新しいディテールやシルエットを考えたり、コンセプトを強く打ち出したグラフィック作りを意識しています。ナイロンのプルオーバーやウエストバッグなどは定番として展開していて、人気も高いです。
ーかっこいいと思うファッションやプロダクトの条件は?
デザイン性とクオリティが担保されているもの。プロダクトとしてのクオリティの高さを前提に、「なんでこんなデザインにしたんだろう」という気持ちにさせてくれるような、見たことがないものをかっこいいと思うことが多いです。
ー音楽活動もされていますが、東京での活動の予定は?
東京には音楽をやっている友人も多いので、また、本格的にできたらなと思っています。服と音楽、お互いに良い影響になるよう両立していきたいです。それこそNigo(ニゴー)さんにように、自身のブランドを持ちながら、ミュージシャン、DJ、音楽プロデューサーとしての顔も持つようなスタイルで、服作りをビジネスの軸に、音楽では自分の好きなことをやっていけたらなと。
ー普段はどんな音楽を聴いているんですか?
結構いろんなジャンルを聴きます。ジャズからブラックミュージック、クラブミュージック。あと最近は、1960年代の日本の歌謡曲も聴いたりしています。
ーショーでも音楽にこだわっているイメージです。
いつもショーのために作ってもらっている音楽は、僕たちの友人のSeiho(セイホー)くんなどにお願いしています。2021年秋冬コレクションでは、僕がラフマニノフの曲にディストーションやフィルターをかけて排他的な音楽にしました。2021年春夏コレクションを東コレで発表した時も、Seihoくんに音楽を作ってもらったんですが、その時は 「パンデミック後の新しい世界」をイメージして、ゴリゴリのレイヴとかテクノ系の音楽が、最後は綺麗な楽園のような音楽になるように、ショー全体と音楽を連動させています。Seihoくんが音楽を作ってくれたことをSNSに載せると、ブランドのファンの方たちからも反応がありましたね。
アーカイヴになる服を作りたい
ー尊敬しているデザイナーは?
ラフ・シモンズ(Raf Simons)や山本耀司さんとか、自分を持って突き詰めて成功した方たちを尊敬しています。
ー自分たちのクリエイションに結構影響与えたものは?
ブラックミュージックですかね。具体的なアーティストは、多すぎて選べないです。でも、みんな共通して変な人生の人たちばかりです(笑)。ただ、ちょっと変な人生を生きていないと良いものは生まれないのかな、と思います。ビル・エヴァンス(Bill Evans)というジャズピアニストは、写真を見ると黒縁眼鏡にオールバックで一見インテリ系のピアニストなんですが、中身は酷い女誑しだったり、戦争へ行かされたのを苦に薬物中毒になってたりで、色々ととんでもない人生なんですが、音楽はすごく綺麗でピュアなんですよね。
ー破天荒でありながらエレガントなアウトプットを好むスタイルがどこか通じていそうです。
確かに、ゲットーみたいな文化を洗練する作業は好きですね。
ーコロナを経て世界的にもファッションの在り方を見直す動きがありますが、「なぜ服を作るのか」の考えに変化はありましたか?
最近特に「サステナブル」とよく言われていますが、元々自分たちは「長くアーカイヴとして残っていくような服作りをしていきたい」と思っていたので、スタンスに変化はありません。僕たちのように、大量生産でない服作りをする立場なら、本当にブランドを好いてくれる人が長く着続けてくれるような服を作らなきゃいけないなと思っています。
ー「アーカイヴ」として残る服はどんな服だと思いますか??
何かしらの付加価値があり、人の記憶に残っていく服だと思います。付加価値というのは、ショーで使用した特別なアイテムであるとか、ブランド力やブランドの歴史、その服のデザイン自体、良い品質など様々な形があると思いますが。
ーご自身がずっと大切に着ているアイテムはありますか?
スペインに初めて行った時に親に買ってもらったレザージャケットを未だに着ています。無駄なものを買わず、自分が本当に好きなものを買うのがいいなと。
ー今後、東京を拠点にやってみたいことは?
よりブランドのファンを増やして、ゆくゆくは自分達の店舗を構えたい。あとは、折角東京に住むので、 東京や日本のクリエティブな人たちと一緒に色々やっていきたいなと思っています。コミュニティに入りつつ、自分たちでもクリエイティブなコミュニティが作れたらいいなと。例えば、音楽でのコラボレーションとか、一緒に家具を作ってもいいですし。物作りとかライフスタイル全体に対して興味があるので、文化というか、カルチャー全体を作れる一員になれたらいいなといつも思っています。
◾️SHOOP:公式サイト
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