D2C(Direct to Consumer)ファッションブランドの成功事例として注目されてきた「フーフー(foufou)」。今年8月からはライフカルチャープラットフォーム「北欧、 暮らしの道具店」を展開するクラシコムのグループ会社となり、新たなスタートを切った。根強いファンを持つフーフーはなぜクラシコムと手を組んだのか。そして東証上場2年目を迎えたクラシコムが描き始めるグループカンパニー化の未来予想図とは。フーフーのデザイナー マール・コウサカとクラシコムの青木耕平代表の対談から紐解く。
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魅力ある“歌い手”は複製できない
―まずはお二人の出会いから教えてください。
foufou マール・コウサカ代表(以下、コウサカ):もともとは、僕の母がある日突然、北欧のおしゃれな雑貨を部屋に置くようになって、どこで買ったのか聞いたら「『北欧、暮らしの道具店』というお店がすごくいいんだ」と教えてくれて初めてサイトの存在を知りました。サイトを覗いてみたらコンテンツが面白くて、僕自身もすでにECの仕事をしていたので「なんだここは!」と衝撃を受けて(笑)。どんな人たちが運営しているのか気になり、当時閲覧できる記事は全部読んでいましたよ。初めてお見かけしたのは2018年に下北沢の本屋 B&B主催で青木さんたちが登壇したイベントでした。それで初めて直接お会いしたのは、2019年に僕が書籍「すこやかな服」を出版したときの記念対談。まさにこの場所でしたね。
―青木さんから見た、コウサカさんの印象は?
クラシコム 青木耕平代表(以下、青木):僕はコウサカさんを知る前にフーフーの洋服をSNSで見かけたのが最初でした。ぱっと見た印象では高価なイメージがあったのですが、調べたら意外と手に届きやすい価格だったというギャップが良い意味で気になって。そうしてコウサカさんのSNSアカウントにたどり着いて、フォロワーとのやり取りを見ていくと、独特のトーンやキャラクターに興味が湧きました。僕もコウサカさんが出ている記事は見たし、それこそ本も読んで。ご自身のブランド運営に関するアウトプットは単純に共感できたし、学びもありました。いつかちゃんとお話してみたいと思っていたら対談の機会をいただけて、ラッキー!みたいな(笑)。
その当時「D2C」という言葉が出始めた頃で、僕自身もD2Cのビジネスモデルに興味がありました。先人から学ぶものもいっぱいありますけど、僕らより一回りも下の世代の人たちがすごく面白いチャレンジをしているのを見ていたので、そういう人たちとは積極的にコミュニケーションしたいと思っていました。コウサカさんもD2Cの分野で注目されている一人と認識していました。その時は一緒にビジネスをするなんてことは考えていなかったんですけどね。
―グループカンパニーの構想は以前からあったのでしょうか。
青木:構想があったということはないですけど、一つの必然の形かなとは思っていて。継続的に業績を伸ばしていくために“伸びしろ”を持っておくことが望ましい、と。
―クラシコムは映画やアニメーション、音声など幅広いコンテンツをすべて内製で生み出しています。その中でfoufou買収というニュースには意外性を感じました。
青木:クラシコムは(青木氏の実妹であり、同社取締役で「北欧、暮らしの道具店」店長の)佐藤(友子氏)と一緒に作った会社ですが、佐藤はサービスのクリエイティブに関して魅力的かつ明確な世界観を持っていて、さらに彼女はプロダクト化したその先のコミュニケーションのところまでイメージすることができる。この状態はいくらお金があっても、計画的に獲得できるものでも、複製できるものでもないんです。サービス全体を一貫して構想できる人って意外といないんですよ。そこがクラシコムの強みでもあります。そういった人たちを僕たちがお手伝いしていきたいと考えた時に、グループ経営をしていくことは必然だという感覚がありますね。
よく言っているのは、佐藤が歌手だとしたら、僕らはマイクのような存在。5万人を収容できるドーム公演のためのマイクやスピーカーといった歌うための設備は用意できるけれど、歌い手を育てていくのはやはり難しいんですよね。そういう意味では、コウサカさんは僕が好きなアーティストだと思いお声がけしたかたちです。
―クラシコムの“ステージ”に立ちませんか、と誘われたコウサカさんはその時どんな気持ちでしたか?
コウサカ:青木さんとその話になった時、ちょうど僕も直営店舗ができたりとフーフーの先のことを考えている時期でした。この取り組みも簡単に決まる話では当然ないので「まずは自然ないい匂いのする方向に流れを任せてみよう」と思いました。取り組みが進んでいくにつれて良い未来を確信していきました。
クラシコムがフーフーと親和性のあるカルチャープラットフォームを作っているという点も大きな理由になりました。ファッションブランドがより良いきっかけを得る為にはカルチャーや時代ごとのプラットフォームとの親和性が必要だと思っています。クラシコムがつくっているプラットフォームはすごく価値のあるもので、これからもっと求心力を持っていくのではないかと感じています。それが僕やフーフーのお客さんと親和性があるものならば、そこから自然に生まれるセレンディピティがどんな風に楽しませてくれるのだろう、と期待しています。
「クリエイター兼経営者」に求められるもの
―今回は事業買収ではなく、コウサカさんが代表を務める新設分割した会社を取得する企業買収のスキームを選んでいます。
青木:フーフーの直営店舗を見に行った時、たまたまお客様がいらっしゃったのですが、小さなお店の中でファッションを通じて「自分らしさを大切にして、装うことを歓ぶ」ということにお客様が自然と興味を持ち、コウサカさんと交流する光景がすごく素敵だったんですよね。その時に、彼が会社を作ったらどんな会社になるんだろう、それを単純に見てみたいと思って、彼に経営者になってみないかと、その日のランチで話をしました。
コウサカ:その時はびっくりしましたよ。でもなんだろう、ブランドを始めて今年で8年目になるんですけど、最初はデザイナーになろうと思ってなったわけじゃなくて、「世界にこんな服屋があってもいいんじゃないか」を実現するための選択肢がデザイナーだったんですよね。経営をするということも同じことだと思えばやれなくはないのかなと。
僕は「この人はフーフーをどのように解釈して、どんなものをもたらしてくれるのか」という“サプライズ”をいつも期待をしていて。“サプライズ”をもらったのであれば、それを使ってフーフーは何ができるのか、また新しい視点で物事を考えられそうだし、何より楽しそうだなと感じたので、正直不安はあまりなかったですね。
【THE DRESS #21】de medical high neck dress
Image by: foufou
―ビジネスでコミュニケーションをするようになってからお互いの印象は変わりましたか?
コウサカ:僕はあまり変わっていないですね。でも一つあるのは、経営者としての青木さんの姿勢を垣間見る瞬間はやはりたくさんあって。青木さんとお会いする前からクラシコムの長所を真似して取り入れてきたので、これからは経営者として青木さんが纏っているものを学び取ろうと思っています。
青木:僕も印象が変わったなあというのはないんですけど、コウサカさんは思っている以上に経営者に向いているなと。経営していると、考えてもどうしようもないこと、それでも決めなくてはいけないこと、問題に介入して解決に導かなくてはいけないことなど、人間としてのキャパシティが求められる場面が多くあります。交渉が成立してもそこで終わりではないし、「これ本当にうまくいくのかな」というシーンはずっとあるんですよ。その時々にどう向き合えるかという姿勢ももちろん大事ですが、それを周りにどう表現するか、というのがトップマネジメントにはある程度必要な資質だと考えていて。コウサカさんはそれをナチュラルにできる時がある。そこに伸びしろがあるなと感じますね。
―数字に対するプレッシャーも大きくなりそうです。
青木:クリエイターを兼ねている経営者は売上へのプレッシャーを受けながら自分のクリエイションについて考えなくてはなりません。そこで必要となるのが「自分のクリエイションがみんなのクリエイションになっていくのを恐れないこと」なんですね。要するに、コントロールを一部手放さざるを得ないんですよ。それって怖いことですよね。特に美しいものを作る人は、ビジネス規模が大きくなることを恐れやすい。変化が伴いますから。気持ちはわかるし、ある意味で当然のことです。でもコウサカさんはビジネスとして成長していくことにあまり恐れを抱いていないし、ハプニングに対してもすごくウェルカムなタイプ。それは僕らにとってもやりやすいですよね。業績自体もオーガニックに伸びていますから、この状態なら売上のプレッシャーをかける必要は全然ないんですよ。
今ここで気にしなくてはいけないのは「事業規模をどう大きくするか」ではなくて、「事業規模が大きくなっても破綻しないオペレーションを組むこと」です。単に事業規模を拡大するよりも、成長に合わせた足回りを整えながら適切な成長スピードをコントロールすることの方がすごく難しいんですよ。この感覚を共有できるクリエイターってものすごく少ないんですよね。これができるかどうかが、クリエイターでかつ経営者になれるかどうかの大きな試金石の一つになると思っています。
コウサカ:たしかに、ブランドとしてこうありたいというイメージや姿は明確にあって、僕の仕事はそこにあるんだと改めて気付かされました。その軸がブレなければ、他のことは時代や状況に合わせて変えても良いと思っています。
青木:社会の中で一番貴重な資源は「動機」です。正直なところ、資金や技術などだいたいのことは解決できることの方が多いんですよ。だけど「やり続けたいと思える魅力的な動機」を持っている人はあまりいない。やり続けることができても、それが魅力的でないものだとしたら意味がないですし、逆に素敵だなという動機を持つ人はいてもそれをずっとやり続けたいという人は少ないです。フーフーの「健康的な消費のために」というコンセプトは素敵だと思うし、共感する人がたくさんいます。それに加えてコウサカさんはヴィジョンがブレていない。実現のために労を惜しまなければ、よっぽどのことがなければビジネスとしては成長できてしまうんです。
飛躍へ、新会社foufouの道標
―フーフーは「ヌッテ(nutte)」を展開するステイト・オブ・マインドからさまざまな支援を受けて成長しました。書籍の中でも「借りがたくさんある」といった記述がありましたね。
コウサカ:「借り」はすごいあります。ただ、それを返し終わるってことはないと思っていて。 少なくとも「借り」がある僕が「返し終わったなぁ」なんて思わないんです。そしてその一番の恩返しはブランドを続けていくことだろうと捉えています。ステイト・オブ・マインドでは「ブランドはデザイナーのものである」と定義付けされていて、ブランドの意思決定はデザイナーがするものだと考えてくださっています。今回の話も(ステイト・オブ・マインド社長の)伊藤(悠平)さんに最初にさせていただいた時も、一切否定することなく受け入れてくださいました。
―グループ会社化後、まず取り組まれることは?
コウサカ:今期は足回りを整理して、体調管理をしっかりしていける体制にしたいです。人材採用はもちろんですが、成長の先で困らないように準備を進めています。来期からは飛躍するしかないだろう、という展開に持っていけたらと思っています。
青木:僕が思っていることとしては、フーフーはもうある程度完成しているという感覚があるんですよね。ただ、成長をするための足回りが整っていない。事業規模が大きくなってスタッフの人たちが困ることなく全員で喜べるように、伸びる前にそこちゃんとケアしておく必要があって、これは我々としてもすごく気を付けているポイントです。
―グループにジョインしたことで生産体制も変化していますか?
コウサカ:基本的にはこれまで通りの体制ですね。
青木:フーフーは予約販売だけで大半の売り上げを上げていて、在庫販売している割合はわずかです。つまり「今ほしい」というニーズにはほとんど答えられていないので、商品に魅力を感じた人のうち「数ヶ月前から予約しても欲しい」というお客様しか実際の売り上げに繋げられていない。商品の供給体制を整えて予約中心から在庫販売中心に切り替えるだけで、需要は何倍にも増える可能性があります。目先は大きな変更は加えずとも普通のことをやっていくだけでも急速に伸びていける感覚があるので、焦って変える必要もないんですけどね。
コウサカ:そうですね。当面は小さなチャレンジはあるかもしれませんが、大きく変えていくことはしない方針です。今までのやり方を守りながら進めていきたいと考えています。
―「北欧、暮らしの道具店」のサイト内にフーフーの商品を置いたり、コラボ商品を展開するなどの計画はありますか?
青木:可能性としては全てあるんだと思いますが、売上を伸ばすためだけにやるということはないですね。提案することがあったとして、その時単純にお互いが面白いねとなればやることはあるでしょう。計画ベースでは今のところその予定はありませんが、コウサカさんとは密にコミュニケーションをとっているので、ある日、急に何かをやる可能性もあります(笑)。
―新会社foufouで、新規ブランドの展開は検討していますか?
コウサカ:やる予定はないですね。フーフーの中でワンピース以外にスカジャンやバッグなども作っていて、枠組みは広がっているんですよ。そう考えると、冠を変える必要はないかなと。
jacquard umbrella "olive"
Image by: foufou
the hand bag
Image by: foufou
続けていくことで喜劇になる
―一時期盛り上がりを見せていたD2Cブランドは淘汰が始まり、ブランド終了のニュースも聞くようになりました。コウサカさんの目にはどのように映っていますか?
コウサカ:以前、丸山敬太さんに「僕が若い頃は現金書留でお客さんから注文を受けていたんだよ。D2Cだよね」と言われたことがあります。本質は何も変わっていないのかもしれませんよね。また僕も青木さんと同じ考えで、どんな商品を作るにも、どんな取り組みをするにも、物事はすべて「動機」が大事だと思っています。動機なく始まったものは自然と無くなっていくだけなのかもしれません。
―国内アパレル市場は年々縮小傾向にあり、2022年は8兆円を割りました。クラシコムとしてはどのように見ていますか。
青木:受験勉強のエピソードとしてどこかで聞いた話によると、受験日まで最初に立てた目標通り勉強し続ける人は全体の半分しかいない。さらに、勉強の方法が正しい人はその半分くらいしかいないらしいと。つまり、正しいやり方でやり続けるだけで、まず上位25%に入れる可能性があるってことなんだなと。ビジネスでも同じことが言えます。どの時代も必ず装いを楽しむことに興味がある人は一定数いて、多少の変動はあっても、まだ小規模な僕らが気にしなきゃいけないほどではない。アパレル市場の規模に対してやるべきことをコツコツとやりきっていけば、たかだか数十億円程度の事業規模の僕たちにとっては成長し続けるのに十分すぎる規模の市場が今でも存在していると考えています。
―今後もアパレルブランドを取得する構想はあるのでしょうか。
青木:コウサカさんと一緒にやってみて再現性を確認できれば、トライすることはあると思います。だけど、こればかりは「出会い」や「縁」もあります。まずはフーフーとの取り組みからいろいろなことを学んでいきたいですね。
―クラシコムとしては上場から1年が経ちました。どのように総括していますか?
青木:上場したことは今のところ間違いではなかったなという感覚は持てています。ただ、「上場して何か変わりましたか」と聞かれることがよくありますが、あまり変わっていないんですよね。変わらなくて済むようにしているというのもありますが。
―上場2年目が始まりましたが、クラシコムをどんなグループにしていきたいか、改めて教えてください。
青木:僕たちとして、事業活動を通じて生み出し続けたいことは「希望」なんですよね。 新しいやり方を知ったり、コウサカさんのような人に出会ったり、働き方もそうですよね。僕たち自身も、見る人たちも希望が感じられるようなことをやっていけるのが事業の面白いところ。常に新しい選択肢という希望を発明したい。そしてそれに対して責任を取り続けたいという気持ちがあります。
―フーフーの将来的なヴィジョンは?
コウサカ:書籍にある「すこやかな服」というタイトル通り、「すこやかな服」を作り続けていけたらと思っています。「すこやかさ」ってなんだろうと考えると、「自律」がキーワードだと思います。フーフーに関わってくださる皆さん、お客様も含めて、それぞれが自律できているコミュニティであれば、すこやかさが担保されて、そこで生まれるものが誰かにとって自分を労わるものになる、そんな場所を作り続けていくことが僕の目標です。
初めて服が売れた時、「1着売れたら100着売れるんじゃないか」と感じたことを今でも鮮明に覚えているんです。ブランドを始めて8年目ですが、10年続いたら100年続く可能性がある。誰のためにやっているのか、それを考える必要はないんです。完全に誰かのためにやっていることも、完全に自分のためにやっていることもなく、常に2つは繋がり重なり合っています。僕はある意味、自分のためにものづくりをしている側面もあります。でもその作ったものが結果的に誰かを労り、関わる人たちにも喜んでもらえることが続けていけるならそんなに喜ばしい仕事は自分にとってないです。
青木:仮に躓くことがあったとしてもストーリーの一部だと思えば、それも面白瞬間になるじゃないですか。だから、続けていくことが大事だね。
コウサカ:続けていかないと絶望も絶望で終わっちゃいますからね。チャップリンじゃないですけど、悲劇も長期的に見たら喜劇になる。それは続けていかないと答えにならないんで、それだけは大事にしていますね。仮に躓くことがあったとしても、青木さんたちならちゃんと転びたい時は、ちゃんと転ばせてくれると思うので。「めっちゃ転びました!」って言える関係だとは思います。
青木:そんなに大きい後ろ盾じゃないですけどね(笑)。
(聞き手:伊藤真帆)
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