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#Fスナ映画部屋

真実の先を知る覚悟はあるか?2021年に完全"復活"した「マトリックス レザレクションズ」を世界最速レビュー&考察【#Fスナ映画部屋】

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 トレンドの最前線を行く者、映画の最新作も気になるはず──。今月公開が予定されている最新映画の中から、FASHIONSNAPが独自の視点でピックアップする映画連載企画「Fスナ映画部屋」。

 今回は、シリーズ開始から22年の時を経て"復活"した唯一無二のSF映画「マトリックス レザレクションズ」と、カツセマサヒコによる人気小説大望の映画化「明け方の若者たち」をセレクト。編集部員によるゆる〜い座談会付きで、今月絶対に見てほしい注目の映画を紹介します。

まだまだ公開中
あなたも"やられた!"と思うはず?ゲット・アウト制作陣が送るネタバレ厳禁映画「アンテベラム」を考察&解説【#Fスナ映画部屋】

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「マトリックス レザレクションズ」

Image by ©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
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気になるあらすじは?

 もし世界がまだ仮想世界「マトリックス」に支配されているとしたら?ネオ(キアヌ・リーブス)は、自分の生きている世界の違和感に気がつき始めていた。再び"白ウサギ"を追いかけ覚醒したネオは、マトリックスに囚われているトリニティーを救うため、以前よりもアップデートされた「マトリックス」との新たな戦いに身を投じていく。

■マトリックス レザレクションズ
公開日:2021年12月17日(金)
上映時間:148分
監督:ラナ・ウォシャウスキー
出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、プリヤンカ・チョープラー・ジョナス、ニール・パトリック・ハリス、ジェシカ・ヘンウィック、ジョナサン・グロフ、クリスティーナ・リッチ
公式サイト

一足先に「マトリックス レザレクションズ」を観た、同い年編集部員2人による ゆる〜い座談会

フルカティ

普段はアートやカルチャー関連のほか、東京のデザイナーズブランドなどを担当。マトリックス公開当初、鉄棒を「マトリックス避け」でくぐっていたら後頭部を強打し、3針縫ったのはいまや良い思い出です。

    マサミーヌ

    普段はビューティやコスメ関連の記事を担当(ビューティ専用アカウント是非チェックして下さい!InstagramTwitter)。マトリックスは高校時代に「マイ・ライベート・アイダホ」でキアヌ沼に落ちてから鑑賞。掘れば掘るほど良い人エピソードしか出てこないキアヌ沼においでやす。

      フルカティ:ついに「マトリックス」シリーズの最新作が公開!

      マサミーヌ:全世界に先駆けて日本で先行公開されるって、よっぽど日本のファンの熱量が熱いんだね。

      フルカティ:2019年夏に制作発表がされてからというもの、予告編動画やティザーサイトが公開される度に「#マトリックス考察」というハッシュタグがSNS上で賑わったりと、その期待値は折り紙付き。

      マサミーヌ:特設サイト「WhatIsTheMatrix.com」で公開された "インタラクティブトレーラー"がバズったことも記憶に新しいよね〜!

      WhatIsTheMatrix.comより。どちらかのカプセルをクリックすることで、アクセスした国や地域の時間帯に合わせた、リアルタイムな時刻とナレーションを含む“インタラクティブトレーラー”をチェックすることができる。
      WhatIsTheMatrix.comより。どちらかのカプセルをクリックすることで、アクセスした国や地域の時間帯に合わせた、リアルタイムな時刻とナレーションを含む“インタラクティブトレーラー”をチェックすることができる。

      フルカティ:本作の当初の公開日は2021年5月21日。キアヌ・リーブス主演のジョン・ウィックシリーズ最新作と同時公開される予定だったんだけど、パンデミックによって2022年4月に延期。しかしその直後、全米公開日が2021年12月22日に前倒しすることが発表された。

      マサミーヌ:公開日が前倒しになるってあんまり聞かないよね。

      フルカティ:ちなみに全米では、ストリーミングサービス「HBO Max」で1ヶ月間の同時公開が予定されているらしいよ。

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      フルカティ:想像以上に「続編」だったね!過去3部作を見返してから劇場に足を運ぶことを絶対におすすめしたい。

      マサミーヌ:今や配信サービスで過去3部作を全てみることができるから。

      フルカティ:旧作を見返していて思ったのは「映画配信サービスを利用して、自宅の液晶テレビで、ワイヤレスヘッドフォンを装着してみている状況」というのは、マトリックスが公開された1999年には想像がつかなかった未来だな、と思った。

      マトリックス(字幕版)
      フルカティ:「マトリックス」は製作費6300万ドルで全世界4億6000万ドル以上の収益をあげたらしいよ。

      マサミーヌ:当然今の状況の方が、22年前に見ていたよりも「マトリックス」で描かれている仮想世界に近いもんね。

      フルカティ:当時はVHSをブラウン管テレビで観ていたし、有線ヘッドフォンしか流通していなかったから。

      マサミーヌ:「コンピューター(機械)が作り出した仮想世界『マトリックス』の中で人間は生活をしている」という設定は、VRやNFT、仮想通貨などが身近になった今の方が想像をしやすいよね。

      フルカティ:「仮想現実ね。知ってる、知ってる」と観ることができて、22年前に観た時よりも大枠のストーリーが理解しやすかったのも面白かった(笑)。

      マサミーヌ:わかる。知っている現実に近い分、今見た方がはるかにノンフィクションのように感じれたというか。

      フルカティ:「有線接続一切なしで、自宅で映画を観ている私もまた、仮想世界の中で暮らしているのか?もしかして本当の肉体はここではないどこかにあるのか?」と錯覚してしまう怖さはあった(笑)。

      マサミーヌ:今の技術だったらマトリックスのような仮想現実を完璧に再現できることはできそうだしね。

      フルカティ:それにしてもシリーズ1作品目にあたる「マトリックス」は22年前の映画だけど、映像も含めて全く古さを感じない。

      マサミーヌ:元々は超低予算映画なのにね。

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      マサミーヌ:「マトリックス」「マトリックス リローデッド」「マトリックス レボリューションズ」の旧3部作は、ラナ&リリー・ウォシャウスキー姉妹が監督を務めているけど、新作は姉のラナ・ウォッシャウスキーのみがメガホンを取った。

      フルカティ:旧作が公開された時は、ラリー&アンディ・ウォシャウスキー兄弟だったんだけど、2人とも性別適合手術を受けたことで"姉妹”になったね。

      マサミーヌ:妹のリリー本人が、今作に参加しなかった理由を米テレビ批評家協会のバーチャルパネルで語ったと海外の複数メディア各紙が報じていて。「大作を立て続けに手掛け疲弊していたこと、トランスジェンダーを告白したことや両親の死という激動を乗り越えた後に、以前やったことのあるものに参加することに抵抗があった」とのこと。

       私はトランジションを終えて映画「クラウドアトラス」と「ジュピター」、そして「センス8(Netflixオリジナルドラマ)」シーズン1を立て続けに制作していたのでただひたすらに疲れ果てていました。(中略)そのため、この業界から離れる時間が必要でした。アーティストとしての自分を取り戻す必要があったので、学校に戻って絵を描いたりすることでそれらを叶えました。
      ーリリー・ウォッシャウスキー 
      I got out of my transition and was just completely exhausted because we had made ‘Cloud Atlas’ and ‘Jupiter Ascending,’ and the first season of ‘Sense8’ back-to-back-to-back. (中略)So I needed this time away from this industry. I needed to reconnect with myself as an artist and I did that by going back to school and painting and stuff.
       ラナが「マトリックス」の映画をもう1本作るというアイデアを思いついて、話し合いを始めたのは私たちの父と母が亡くなって5週間後くらいでした。「以前やったことのある事柄を逆戻して参加する」というのははっきり言って魅力的ではありませんでした。母や父を失った喪失感という人生の転換期を経験した後に「以前やったことの事柄に戻って、自分が歩いた古い道を歩く」というのは感情的に満たされなかったというか、むしろ昔の靴を履いて生きていくような気がしたのです。そんなことはしたくなかった。
      ーリリー・ウォッシャウスキー
      Lana had come up with this idea for another ‘Matrix’ movie, and we had this talk, and it was actually — we started talking about it in between our dad dying and our mom dying, which was like five weeks apart,” Lilly said. “And there was something about the idea of going backward and being a part of something that I had done before that was expressly unappealing. And, like, I didn’t want to have gone through my transition and gone through this massive upheaval in my life, the sense of loss from my mom and dad, to want to go back to something that I had done before, and sort of walk over old paths that I had walked in, felt emotionally unfulfilling, and really the opposite — like I was going to go back and live in these old shoes, in a way. And I didn’t want to do that.

      フルカティ:エンドロールにも「すべては愛から始まる」というコメントが、亡くなった両親に向けられて流れたね。

      マサミーヌ:そもそも、旧作3部作が完結した時にウォッシャウスキー姉妹は「続編を作ることはない」と断言していたようだし、「続編が作られた」という事実にまず感謝したいところ。

      フルカティ:ちなみにキャラクター創作は、ウォシャウスキー姉妹が揃って参加しているとのこと。

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      フルカティ:ネタバレにならない範囲でできる話として「メインストーリーが終わっても、しばらくは座席に座ったままエンドロールを見切って欲しい」ということは伝えておきたい!

      マサミーヌ:そうだね。約2時間半と本編自体も長いんだけど、どうにかお手洗いに行くのは我慢してもらって(笑)。

      フルカティ:エンドロールの話が出たからついでに話すと、エンドクレジットに「covid compliance」という項目があったのは興味深かった。

      マサミーヌ:たしかにあるシーンでスタントマンの全員がマスクを着けているカットがあった。演出かな?と思っていたんだけど、エンドクレジットに「covid compliance」って記載があるからには感染症対策だったんだろうね。

      フルカティ:2021年を生きている私たちは「みんながマスクを外せない理由」を知っているけど、例えば本作が20年後の2040年にも見られているとして、コロナウイルスによるパンデミックをリアルタイムで知らない人類がこの映画を見たら「なんでこの映画では出演者がマスクをしているんだろう?」と思いそうだな、と(笑)。そんな風に未来の人たちがこの映画を見ることを考えて不思議な気持ちになった。

      マサミーヌ:それこそ、マトリックスという仮想現実できるバグっぽいね(笑)。

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      フルカティ:前作に引き続き今作も、主人公ネオをキアヌ・リーブスが、ヒロインのトリニティーをキャリー=アン・モスが続投している、というのも旧作ファンにとっては嬉しい。

      マサミーヌ:モーフィアス役のローレンス・フィッシュバーンや、エージェント・スミス役のヒューゴ・ウィーヴィングは今作では残念ながら出演していないけど、「キャラクターの見た目が変わることについて」にも物語としての理由があったから違和感なく観進めることができたよ。

      Image by (C) 1999, 2003 Village Roadshow Films (BVI) Limited. (C) 1999, 2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
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      フルカティ:ネオやトリニティーはもちろん、「レザレクションズ(復活)」というくらいだから、懐かしのキャラや台詞もたくさん”復活”していることにも注目したいところ。

      マサミーヌ:本当にしつこいかもしれないけど、復活劇を楽しむためにも絶対に旧作3部作を見てから、劇場で新作を観て欲しい……。

      フルカティ:マトリックスというシリーズは、SF映画らしい「設定」「世界観」がとても重要な作品だからね。今作は特に、旧作3部作を見ていた方が楽しめる。まあ「世界観が重要」と言いながら、劇中ではあまり多くのことは語られないんだけど(笑)。

      アニマトリックス(字幕版)
      フルカティ:アニマトリックス まで見ておけば「復習」は完璧!

      フルカティ:今回、新たにエージェント・スミスを演じたジョナサン・グロフ(Jonathan Groff)は、デヴィッド・フィンチャーが制作総指揮と監督を務めるNetflixオリジナルドラマ「マインドハンター」で主人公ホールデン・フォードを演じたりと、私の中で今大注目の俳優。(早くシーズン3公開してほしい……。)

      フルカティ激推しの海外ドラマ。実在したシリアルキラーを題材にFBI行動科学課ができるまでを描く。

      フルカティ:ちなみに私がジョナサン・グロフを知ったきっかけは、海外ドラマの「グリー(glee)」。実はジョナサン・グロフはめちゃくちゃ歌がうまいのよ。「ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Rhapsody)」は一聴の価値あり。

      【これから旧作をはじめて見る人はネタバレ注意!】
      旧作3部作を解説&考察

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      フルカティ:旧作を見返していた時に気がついたことがあって。預言者としてふるまうエグザイル「オラクル」がいつも食べている、お気に入りのキャンディの色と、ネオがモーフィアスに初めて会った時に飲む薬の色が同じ色なんだよね。

      プログラム側でも中央の統制から外れたはぐれプログラム。

      マサミーヌ:たしかに……!どっちも赤色だわ。

      フルカティ:少し話を横道に逸すんだけど、オラクルは元々「仮想世界であるマトリックスが崩壊しないために人間の心理を研究していた直感的なプログラム」で、ネオのような救世主(The one)に、マトリックスをリロードする"選択"を今までに5回与えている。

      マサミーヌ:「マトリックスが崩壊しないために不確実性を取り入れた」とマトリックスを作ったアーキテクト(設計者)が、言ってたね。

      選択を与えることで99.9%の人間がマトリックスを受け入れるようになった
      ーマトリックス リローデッドより

      フルカティ:そうだね。「選択とは不確実である」というのはマトリックスシリーズを知る上で重要なテーマだったりする。

      マサミーヌ:「マトリックスというPCにもいつかはバグが起きるので、システムダウンしないように定期的にアップデートを掛けながら"リロード"している」というのも本作の世界観を理解する上では重要な設定だよね。

      フルカティ:リロードするかしないかは人間である救世主がいつも"選択"しているつもりなんだけど、実は機械によって全て仕組まれている。

      マサミーヌ:ネオも言うなれば仮想世界マトリックスのバグなんだよね。エージェント・スミスももちろんバグ。

      フルカティ:スミスはどちかというとコンピューター・ウイルスと言った方が近いかもね。

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      フルカティ:預言者オラクルは、ネオによる6回目のマトリックス更新をかける時に、ネオの選択肢に愛の要素を組み込むことで、マトリックスをリロードさせない賭けをしていたんだよね。

      マサミーヌ:結果的にネオは、マトリックスの安定的なアップデート&リロードを選ばなかった。

      フルカティ:トリニティーを救う扉を開けたね。愛を選び、ネオによる"びっくり蘇生手術"でトリニィーは一命を取りとめる。しかし、マトリックスはバグ(スミス)によるシステムダウンを起こす。

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      フルカティ:ここまで旧作の物語をおさらいしつつ、冒頭の赤いキャンディと赤いピルの話に戻すんだけど。オラクルはいつも、赤いキャンディをネオに食べさせようとするし、常にクッキーを焼き、これもネオに食べさせようとする。仮想世界であるマトリックスの世界では、食べ物も「プログラム(コード)」だから、「コードを摂取する」ということは「上書き」という役割もあるのかな、と。

      マサミーヌ:ここでのコードとは愛?

      フルカティ:どうだろうね。愛というよりかは、「恋」かなと思っている。ネオとオラクルが初めて会った時のセリフがヒントかも、と。

       ラテン語よ。意味は「己を知れ」。ひとつヒントをあげましょう。"救世主(The one)" であることは恋をするのと同じ。それは自分にしかわからない。心と身体、すべてが実感するのよ
      ー「マトリックス」より オラクル

      マサミーヌ:言われてみれば「マトリックス」で一度ネオは心肺停止状態になるけど、トリニティーからのキスで生き返るね。

      フルカティ:ディズニー映画のように「運命のキス的」という意味合いももちろんあると思うんだけど。本作においては、仮想世界マトリックスで何かを食べたり、キスしたりといった交流は、「プログラムの書き換え」「コードの上書き」という身体的な接触以上の意味合いがあるのかな、と。

      【もう観た!? Fスナ映画部屋アーカイブ】
      7月公開の絶対に見て欲しい気になる映画:「ライトハウス」
      8月公開の絶対に見て欲しい気になる映画:「Summer of 85」
      10月公開の絶対に見て欲しい気になる映画:「DUNE/デューン 砂の惑星」
      11月公開の絶対に見て欲しい気になる映画:「アンテベラム」

      【#Fスナ映画部屋特別編】
      ファッション業界のマルジェラファン代表、UA栗野とミキオサカベが映画「マルジェラが語る"マルタン・マルジェラ"」を考察

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      明け方の若者たち

      文責:フルカティ

       自分を見失うほど夢中になった「彼女」との恋愛、「こんなハズじゃなかった」と鬱々とする会社員生活。2010年代に青春時代を過ごした若者たちの姿を描いた本作は、フォロワー数14万人以上を有するカツセマサヒコによる長編小説デビュー作が原作。小説家としてデビューする前は「妄想ツイート」「エモツイート」と呼ばれる、空想から生み出される甘酸っぱい言葉の数々で人気を博していた。しかし「明け方の若者たち」で描かれるのは若者の恋愛模様や生活は、とても「エモい」という言葉で片付けられるようなモノではない。

       原作者であるカツセは、大学卒業後大手印刷会社の総務部で勤務し、その後、編集プロダクションに就職した経歴を持つ。本作で北村匠海が演じる主人公「僕」も、名門大学卒業後大手印刷会社に就職し、(不本意ながら)総務部に配属され勤務。「ウルトラマンタイガ」で主演を務めた井上祐貴演じる「僕」の親友で同期の「尚人」は、物語の終盤で編集プロダクションへの転職を決める。登場人物の半生とカツセの実体験が類似していることから半自叙伝と読み進めることもできるが、「自伝として書いていないという気持ちが強い」とインタビューなどを通して公言している。しかしながら、劇中で用いられている楽曲「キリンジ/エイリアンズ」や「きのこ帝国/東京」など、実在する固有名詞や劇中歌を通して、現在社会人3〜6年目を迎える “かつて若者だったものたち”に、1種のノスタルジーとフラッシュバックを起こす。そのリアルさは主演を務めた現在24歳の北村匠海が「自分の人生と重なりすぎて、演じるのではなく自然体でいました」と舞台挨拶でコメントするほど。しかし、映画の宣伝文句によく使われるような「共感」とも少し異なる印象を覚えるのが本作の興味深いところ。要因のひとつに、黒島結菜が演じる「彼女」の存在があるように思う。
       就職が決まった学生が集う"勝ち組飲み会"で「僕」と出会った「彼女」は『ごめん、携帯なくしちゃったみたいで。番号言うから、かけてくれない?』と僕の電話番号をごく自然に手に入れ、その後『私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?』というたった16文字のメッセージで「僕」を飲み会から連れ出す。これらの甘ったるい台詞は、非現実的なようにも感じるが、実際に生活をしていると彼女のようにスマートで、少しずる賢くて、自分の"武器"をわかっている人は意外といるのではないだろうか。彼女に対する印象は観賞者によって千差万別だろう。好意的に受け止める人も、否定的に受け止める人もいるはずだ。そして、物語後半の"ある人物"の"ある台詞"をきっかけに、いままでの甘ったるい台詞や言動を全て許してしまいたくなるような気持ちにはなる。

       本作では23歳から24歳頃のことを「人生のマジックアワー」と形容する。若く、体力があり、学生時代よりも少しだけお金がある。結婚もしていないから自由でいられる。当たり前のことではあるが、人は誰しも「若者」だった時があり、年齢に関係なくいつしか若者ではなくなる。
       「彼女」と「僕」が出会う"勝ち組飲み会"というイベント名や、「社会にイノベーションを起こしたい」「何者かになりたい」と語り合う「僕」と尚人の会話は、歯の浮くような"台詞"に感じるかもしれない。しかし見方を変えれば、「僕」や尚人の台詞を恥ずかしく感じてしまうのは、かつて若者だった観賞者がみんな大人になってしまったからなのかもしれない。そういった意味で、本作は今若者である人たちより、若者だった人たちの方が胸に迫るものがある。「理想と現実の狭間で揺れ動く、何者にもなれない時期」はきっと誰しも1度は通る道。本作を見て現在の自分が過去の自分を振り返り、どう懐古するかはそれぞれの自由だ。
       最後に、マカロニえんぴつによる同作の主題歌「ハッピーエンドへの期待は」の歌い出しで筆をおきたいと思う。

      残酷だったなぁ 人生は思っていたより
      ーマカロニえんぴつ/ハッピーエンドへの期待は

      ■明け方の若者たち
      公開日:2021年12月31日(金)
      上映時間:116分
      監督:松本花奈
      出演:北村匠海、黒島結菜、井上祐貴ほか
      公式サイト

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